空調設備を中心に 90 年にわたって培ってきた技術力を生かし、総合的なシステム エンジニアリングを提供する高砂熱学工業株式会社。「環境ソリューション プロフェッショナル」を目指す同社では、機械学習を活用した「設備運用最適化システム」の開発がすすめられています。最適運用を行ううえで空調の「熱負荷予測」は重要な要素であり、その予測機能との連携を推進することが必要となります。
機械学習やクラウドにおけるテクノロジーの進化は、これまで空調設備における熱負荷予測の実用化を難航させていた課題を解消する手法として期待されています。「最適化されたコストと工数のもとで行える高度な分析」が決め手となって採用された Microsoft Azure Machine Learning は、分析における所用期間と工数を従来比で 10 分の 1 にまで圧縮し、同社が目指す空調設備における熱負荷予測の実用化を大きく推し進めました。近い将来にて実運用のフェーズへ移行することが計画されている空調設備の熱負荷予測にくわえ、空調設備のリアルタイム運転支援、機器保全サービスの実用化においても、Microsoft Azure Machine Learning による熱負荷予測機能との連携が検討されています。
プロファイル
1923 年 (大正 12 年) の創業後、高い技術力を生かした総合的なシステム エンジニアリングを提供し続ける、高砂熱学工業株式会社。同社は、空間作りのパイオニアとして、最高の品質提供と創意工夫による技術開発、そしてそれを可能とする人材育成に取り組むことで、今後もお客様へ提供するサービス価値を常に高めていきます。
導入の背景とねらい
新たなサービス価値を創出し得る空調設備の「熱負荷予測」について、機械学習とクラウド技術を採用した検証を検討
企画設計から施工、メンテナンスにいたるまで、空調設備を中心とした総合的なシステム エンジニアリングを提供する、高砂熱学工業株式会社 (以下、高砂熱学工業)。1923 年、空調設備工事を行う事業社として創業された同社は、これまで、世界貿易センターや新国立劇場、東京ドーム、羽田空港国際線旅客ターミナルなど、著名な物件の数々を手がけ、業界を牽引してきました。
「いいものがなければ自分で作る」という創業者の精神を、「積極的な技術開発」をもって実践する高砂熱学工業。同社では、より付加価値の高い AI、ICT 技術やサービスの開発、実用化を加速させるため、2015 年度発足した「グリーンエアサービスプロジェクト」にて実証を推進しています。
このプロジェクトのリーダー 高砂熱学工業株式会社 執行役員 倉田 昌典 氏は、高砂熱学工業の AI、ICT 関連の技術開発について、次のように語ります。
「現状に留まるのではなく、技術開発をつづけることで、お客様へ提供するサービス価値を常に高めていくことが当社の使命であり、サービスに不可欠な AI、ICT 関連技術については特に開発、実用化にスピードが求められ、当社ではエンジニアリング部門、研究部門、情報システム部門のメンバーを中心とした「グリーンエアサービスプロジェクト」を発足させ開発、実証を推進しています。たとえば、ビルや工場の空調設備では相当量のエネルギーが消費されていますが、それはランニング コストの高騰に直結します。製品提供とその安定運用だけでなく、運用コストにまで踏み込んで最適化できるソリューションが提供できれば、当社のサービス価値はもっと高めることができます。こういったことの実現へ向けて空調設備の『熱負荷予測』をキーワードのひとつと据えています」(倉田 氏)。
空調設備では、それを効率よく稼働させるために、蓄熱システムやエネルギー供給システムの制御がおこなわれています。稼動時に予想される熱負荷を正確に予測することができれば、エネルギーは無駄なく利用され、稼動コストの最適化が期待できます。倉田 氏がキーワードに挙げたこの空調設備の「熱負荷予測」について、高砂熱学工業では 1980 年代から、エキスパート システムやニューラル ネットワークをもって研究開発に取り組んできました。しかし、これまでは、特性が建物毎に異なるため、実用化、汎用化の水準にまでは至れなかったといいます。
高砂熱学工業株式会社 電気計装部 計装課長 片山 健一郎 氏は、これまでの実用化における課題について、次のように説明します。
「空調設備の熱負荷予測には、稼働環境をモニタリングするためのセンサー設置と、そこからのデータ収集が欠かせません。大規模な施設ですと、温度や電力など 1 万を超えるさまざまな項目について、膨大な量のデータを蓄積することになります。建物の空調システムは千差万別で、これら大量のデータから熱負荷予測を行なうために必要なデータを抽出・加工し、建物の特徴に合った熱負荷予測のソフトウェアを開発する必要があります。そのために、ソフトウェア開発に関しては建物ごとの一品物となり、開発工数に伴うコストの観点から導入へのハードルがありました。」 (片山 氏)。
さらに、データの分析を担当する高砂熱学工業株式会社 新技術開発部 部長 清水 昭浩 氏は、従来アプローチでの熱負荷予測システムにおいて、その精度や作業工数、コストの面でも課題があったとつづけます。
「建物から得られるデータは、その立地や気象、建築物としての構造などにより、それぞれ固有の特徴を持ちます。それらの特徴を踏まえてデータがどんな傾向を持っているのかを、特徴量と呼ばれる変数で設定するのですが、従来の分析手法は『人による判断』に頼る部分が多く、特徴量や分析アルゴリズムの調整にかかる工数の問題から、精度の向上がなかなか伴いませんでした。」 (清水 氏)。
実用化に多くの課題を有していた熱負荷予測技術ですが、それをキーワードに据えた背景には、機械学習やディープ ラーニング、クラウドといったテクノロジーの進化がありました。
「実用化には、『分析の多くを占める属人的要素』と『ハードルの高いインフラ整備』という 2つの課題がありましたが、機械学習やディープ ラーニングのテクノロジーを活用すれば、前者の多くは自動化でき、効率と精度の向上が期待できます。さらにクラウドを活用すれば、分析環境の構築やデータ収集における負荷とコストを下げることも可能です。現在のテクノロジーがあれば、熱負荷予測を実用化までもっていけると考え、プロジェクトにおけるテーマのひとつとして設定しました」 (倉田 氏)。
新たなサービス価値を創出するべく、高砂熱学工業では 2015 年 4 月より、機械学習とディープ ラーニング、クラウドを活用した空調設備の「熱負荷予測」へのアプローチを開始しました。
システム概要と導入の経緯、構築
Microsoft Azure Machine Learning であれば、最適化されたコストと工数のもとで高度な分析を行うことができ、より高い精度の予測の実現が見込めた
IT ベンダーが提供する、機械学習やディープ ラーニングのソリューションをもった検証へ向けて検討を開始した高砂熱学工業ですが、マイクロソフトが提供する Microsoft Azure Machine Learning には、検討当初から大きな期待を持っていたといいます。
「2015 年 6 月に、日本マイクロソフトさんから Azure Machine Learning の紹介を受けたのですが、概要を聞いた段階で『これは使える』と感じました。Azure Machine Learning 上で提供されるアルゴリズムや分析モデルには、同社が 1980 年代から培ってきた知見が凝縮されています。それを、高度な知識を有さなくても Excel や Word のように利用しやすいツール上で扱うことができますので、これまで問題となっていた属人的な要素の多くを自動化できると思ったのです」 (倉田 氏)。
「Azure Machine Learning は、特徴量や分析アルゴリズムの変更が容易に行えます。これまで経験や勘に頼らざるをえなかった部分についても、ディープ ラーニングのテクノロジーによって (特徴量などを) 自動的に設計できるのです。また、クラウド サービスですので、必要な分析だけを行うことができ、コストと工数の圧縮も行えます。物件ごとに最適化した形で熱負荷予測が実現できるのではないかと期待しました」 (片山 氏)。
同年 8 月からは、データ分析のプロフェッショナルであるソフトバンク・テクノロジー株式会社 (以下、ソフトバンク・テクノロジー) を交えて協議がすすめられ、10 月より正式に、Azure Machine Learning 上での検証プロジェクトが開始されました。
「プロジェクトの目的は、Azure Machine Learning を用いることで精度や効率がどのくらい向上できるのかを検証する点にありました。日本マイクロソフトさんより紹介いただいたソフトバンク・テクノロジーさんに、これまで当社で行ってきた空調設備における負荷予測の結果をデータとともに提供し、同水準の結果が導き出せるかと、そこまでの所要期間について評価をすることにしたのです」 (倉田 氏)。
「プロジェクト開始後は、週次のミーティングを重ねて要件を詰めていきました。はじめに 5 枚ほどの簡単な仕様書をお渡ししただけで、あとはディスカッションで内容を決めていきましたが、ソフトバンク・テクノロジーさんは当社事業の専門領域に関する理解が早く、とてもスムーズにプロジェクトをすすめることができました。また、『どのデータを使って相関を見つけるべきか』といった提案も多くいただけましたので、当社としては新たな知見が獲得でき、非常に助かりました」 (清水 氏)。
データ サイエンティストとして参画した、ソフトバンク・テクノロジー株式会社 技術統括 データソリューション本部 データサイエンス部 エキスパートデータアナリスト 白石 卓也氏は、つぎのように当時を振り返ります。「空調設備についてはそれほど知見をもっていなかったのですが、仕様書における説明が明瞭だったこともあり、そこのハードルはそれほど高くありませんでした。高砂熱学工業さんがこれまでに論文としてまとめられた知見の検証と、それらのチューニングによる精度向上を行うべく、1 時間単位で取得した 2 年分のデータ 13 項目について、Azure Machine Learning 上で分析をすすめました」 (白石 氏)。
11 月にて環境構築と初期設定が行われ開始された Azure Machine Learning 上での検証は、その後 2 週間という短期間で、熱負荷予測の結果が導き出され、2016 年 1 月にはソフトバンク・テクノロジーより、最終報告が提出されています。
導入製品とサービス
- Microsoft Azure Machine Learning
導入メリット
- クラウド サービスである Azure Machine Learning の採用により、分析における所用期間と工数を従来比で 10 分の 1 にまで圧縮でき、空調設備における熱負荷予測の実用化へ向けて大きく前進することができた
- 専門知識を有さなくとも、アルゴリズムや特徴量の追加、変更といった高度な分析を行うことができるようになった
- 基盤構築や作業の工数が大幅に削減され、低コストに分析を行える環境を構築することができた
導入の効果
分析における所用期間と工数は従来比で 10 分の 1 にまで圧縮され、熱負荷予測の実用化へ向けて大きく前進
2016 年 1 月に提出された最終報告では、過去に高砂熱学工業で行ってきたものと近い評価が導き出され、くわえて「熱負荷の平均値を特徴量にすることで、精度は高められる」「2 週間分の熱負荷平均を特徴量にする場合と比較し、前日の熱負荷を特徴量として用いるほうが、より高い精度を導き出せる」といった、精度向上へ向けたあらたな知見を得ることにも成功しています。
Azure Machine Learning 上での検証について、清水 氏はまず、短期間で精度の高い分析が実現できた点を評価します。
「今回はじめて Azure Machine Learning を利用したのですが、非常に良好な結果が得られたと感じています。精度向上へ向けた改良のヒントを導き出せた点も高く評価できますが、なにより驚いたのは、これらの最終報告までに要した期間です。システム構築を含めても約 1.5 か月と、きわめて短期間であり、従来と比較するとおよそ 10 分の 1 ほど、期間や工数を圧縮できています。これは、当社が目指す空調設備の『熱負荷予測の実用化』に大きく貢献し得るという実感を持つのに十分な結果でした」(清水 氏)。
くわえて、倉田氏は Azure Machine Learning の利点について、分析過程がオープンになっていることを挙げます。
「これまでさまざまなツールを用いてきましたが、データの流し込みから結果の出力までの分析過程がブラックボックス化されているツールが、実は世の中に多くあるのです。ブラックボックス化されている場合、精度向上に向けて何をどう調整すればよいのかが判断できません。空調設備における熱負荷予測のように、常に変動するデータを用い、PDCA サイクルをまわした分析を行う必要がある場合、Azure Machine Learning のように分析過程がオープンであることは必要不可欠だといえます」(倉田 氏)。
分析作業を主担当した白石 氏も、分析過程がオープンになっている点の有用性について、つぎのようにつづけます。
「当社のお客様でも Azure Machine Learning の実績が増えていますが、その理由は、『さまざまなモデルやアルゴリズムをすぐに試せること』にあると思います。ここがブラックボックス化されていると、高砂熱学工業さんが仰るとおり、何をどう調整すればいいのかがわかりにくくなります。分析者には、根拠をもって『このアルゴリズムが最適である』と提示することが求められますので、調整の結果をみて PDCA をまわせる Azure Machine Learning は、当社のような事業者にとっても適したツールだといえます」 (白石 氏)。
今後の展望
2016 年度では実際の物件での検証を計画。リアルタイム性をもった別プロジェクトでの採用も検討
Azure Machine Learning 上での検証は、熱負荷予測の実用化に向けた確かな手応えをもたらしました。高砂熱学工業では今回の検証プロジェクトにくわえ、同様の社内検証を、2016 年前半に計画しています。2016 年度内では実際の物件を扱った検証も計画されており、その後には実用化フェーズへの移行が控えています。
「当社ではエネルギー アウトソーシング事業として、熱源受託施設を運営しています。これは、当社が導入している省エネルギー設備をもって、お客様の建物に必要なエネルギーをお客様に代わって提供するソリューションであり、空調設備における熱負荷予測の恩恵が非常に大きい領域となります。Azure Machine Learning を使った熱負荷予測は、まずこの施設での実運用によって検証を重ねることで、他の物件への適用やサービス化の検討をすすめていきたいと考えています」(倉田 氏)。
「実用化に向けては、物件ごとに最適な改善提案が導き出せることは然ることながら、その分析作業をいかに効率化するかも重要になりますので、クラウド サービスである Azure の利点を積極的に活用し、精度と効率を実用レベルまで引き上げられるよう検証をすすめていきます」 (片山 氏)。
さらに高砂熱学工業では、同社の BEMS (Building Energy Management System) ソリューションとクラウド、人工知能のテクノロジーを組み合わせた、「GDoc」と呼ばれる独自のサービスの開発もすすめられています。これは、リアルタイムに設備の運転支援と機器保全を行うものになり、Azure Machine Learning との連携が検討されています。
「今後はリアルタイム性をもったサービスを予定しているため、適切なタイミングで、API などを用いたリアルタイム化を進める必要があるでしょう。Azure は IoT の機能を有していることもあり、リアルタイム分析にも対応が可能です。空調設備における熱負荷予測の検証でその精度には信頼をもっていますので、リアルタイム サービス化での Azure Machine Learning の採用についても、検討を進めていく予定です」 (清水 氏)。
「グリーンエアサービスプロジェクト」では、クラウド活用や分析基盤の整備を見据えた結果、従来の技術開発で主体となってきたエンジニアリング部門にくわえ情報システム部門も参画する体制が整えられています。ICT とエンジニアリングの融合がもたらす効果を、空調設備における熱負荷予測の検証で体感した高砂熱学工業。同社の AI、ICT 開発が今後どのようなサービス価値を生み出すのか、期待が高まります。
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「これまでさまざまなツールを用いてきましたが、データの流し込みから結果の出力までの分析過程がブラックボックス化されているツールが、実は世の中に多くあるのです。ブラックボックス化されている場合、精度向上に向けて何をどう調整すればよいのかが判断できません。空調設備における熱負荷予測のように、常に変動するデータを用い、PDCA サイクルをまわした分析を行う必要がある場合、Azure Machine Learning のように分析過程がオープンであることは必要不可欠だといえます」
高砂熱学工業株式会社
執行役員
倉田 昌典 氏
パートナー企業
- ソフトバンク・テクノロジー株式会社
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