コロナ禍を境にPCに求められる役割は一変したといえるだろう。PCの機能の多くがスマートフォンに取って代わられると予想されていた時代から、ビデオ会議の普及によりPCはコミュニケーションデバイスへと変化。さらにAIの登場により現在も進化を続けている。そこで第3回目となる本連載では、AI活用を前提とした次世代のPCである「AI PC」と、そのなかから出てきた今後のビジネスPCのスタンダードとなり得る「Copilot+ PC」が、ビジネスの世界にもたらす効果について確認していく。
参加者
株式会社日本HP マーケティング本部 コマーシャルマーケティング部長
日笠 修 氏
株式会社ゲート 代表取締役
国井 美佐 氏
MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長
赤井 誠 氏
本連載について
【日本HP×MKTインターナショナル 赤井誠氏】これからのビジネスにおける「Windows 11」と「Copilot(生成AI)」の真価とは
Windows 10のサポート終了が発表されてから3年が経ち、いよいよ終了日である2025年10月14日が迫って来た。そこで本連載では、アナウンサーとしても活躍する株式会社ゲート代表の国井美佐氏を進行役としてお呼びし、法人向けPCを中心に全国各地でセミナー研修を行っている赤井誠氏をゲストに迎え、市場を牽引するITベンダーの日本HPとの対談を実施。Windows 10を使用し続けるリスクとWindows 11移行のメリットという2つの側面を起点に、PCのリプレイス、およびこれからのビジネスにおける「Copilot(生成AI)活用」と「Copilot+ PC」について、3回にわたって話を交わしていく。
【Windows 10がサポート終了したらどうなるの?】Windows 11移行のメリットから紐解くビジネスPC買い替えの絶好のタイミングとは
生成AI導入における最初の1歩はWindows 11への移行――対談で明かされたCopilot活用のポイントとは
「AI PC」ってどんなPC?
国井氏:
続いてきた連載もいよいよ最終回ですね! 第3回となる今回は、第2回の最後に出てきた「Copilot+ PC」をテーマにお話しを伺っていきたいと思います。まず、いま目の前にもあるこのCopilot+ PCというのは、どのようなPCなのでしょうか?
日笠氏:
そうですね、まず現在のWindows PCには、「AI PC」という大きなグループがあります。そのなかでマイクロソフトが定義しているAI PCの1つのジャンルが「Copilot+ PC」というわけです。
国井氏:
なるほど! ではCopilot+ PCというのは、AI PCの中の一種ということですね。ちなみにAI PCというのはどういったPCなのでしょうか。
日笠氏:
AI PCとは、簡単に言うと、AI処理に特化した「NPU(Neural Processing Unit)」を搭載していることが特徴のひとつです。CPUやGPUといったPCの性能に直結する重要なパーツに、新しくNPUというのが加わった形です。AI処理においては、大きく“学習”と“推論”という2つの処理がありますが、NPUはこのうちの“推論”を得意とするプロセッサーになります。
赤井氏:
補足すると“学習”に関してはGPUが得意としており、高性能なグラフィックボードを複数枚使って実行されるケースが多いです。そこで得られた学習結果をもとに推論を行う際に、NPUが効果を発揮するわけです。
国井氏:
推論というのは、AIからの回答、提案など、いわゆる“アウトプット”の部分でしょうか。
赤井氏:
そうですね。たとえば人の顔を認識するというのも推論です。国井さんであることを認識するプロセスは、たくさんの人の顔を学習したうえで、推論で国井さんの特徴を特定して認識するという手順で実行されます。スマートフォンなどの顔認証も、こういった形で処理されています。NPUはこの推論処理を低消費電力かつ低発熱で実行できるプロセッサーになっています。
日笠氏:
NPUを搭載した法人向けのAI PCは、2024年3月頃からリリースされ始めました。実は近年のPCでは、日常的に使っている業務アプリケーションでも、AIの推論処理がよく使われています。
国井氏:
ではNPUが無いと、そういったAIが利用されているアプリケーションが使用できないということでしょうか?
日笠氏:
そういうわけではありません。実はNPUを搭載せずとも、AIの推論処理実行は可能です。
しかし、CPUやGPUの負荷が増えてしまうことで、複数のアプリケーションを立ち上げると固まったり、動作が重くなったりといった状態に陥るケースが増加しています。
たとえばモバイルノートPCでビデオ会議ツールを立ち上げて、オンラインミーティングを開始した瞬間にPCが重くなって、他のアプリケーションが立ち上がらずに苦労した経験をお持ちではないでしょうか。これは背景ぼかしなどにビデオ会議ツールがAIを活用しており、その処理をCPUで行っているためです。AI PCならばこうした処理をNPUに任せられるため、CPUの負荷が減り余裕ができます。結果的に、同時にその他のアプリケーションを立ち上げたりしても軽快に動作するようになるわけです。
国井氏:
なるほど! さまざまなアプリケーションでAI活用が当たり前になってきた時代に合わせて生まれたのがAI PCというわけですね。
AI活用の時代を見据え、
AI処理に特化したプロセッサー「NPU」を搭載したAI PCの魅力とは
日笠氏:
たとえばNPUを搭載したAI PCのみが利用できる「Windows スタジオ エフェクト」では、背景ぼかしなどの「背景効果」や、カメラを見ているように目線を調整する「アイコンタクト」、被写体(人物)の動きに合わせて自動で追随したりズームしたりと映像を調整してくれる「自動フレーム化」といった機能を利用できます。背景ぼかしや自動フレームはこれまでのPCでも使用されたことがあるかと思いますが、「Windows スタジオ エフェクト」だとかなりスムーズですし、より詳細に設定できます。ぜひ実際に試してみてください。
国井氏:
すごいですね! 目線を外してもビデオ会議の相手にはカメラを見ているように映るんですね。もしかして、寝ててもバレないですか…?(笑)
日笠氏:
さすがにそれはどうでしょうか。(笑)
ですが、実際のWEB会議ではカメラではなく画面に映っている資料や相手の顔を見ていることが多いので、別のところ、例えば少し下、を見ているように見えるじゃないですか。「アイコンタクト」を使えばカメラ目線を維持してくれるので、お互いに「話を聞いてもらえている」と感じられるような、より自然なコミュニケーションが期待できます。
国井氏:
さすがに寝てしまうのはダメだと思いますが、実際にこの機能は営業のアポイントの際や打ち合わせの際など、さまざまな場面で効果を発揮できそうですね!
日笠氏:
それともう1つ、AI PCの特徴としては、PC本体にAI処理に特化したチップであるNPUを内蔵しているため、インターネットにつないでいない状態、オフラインでのAI処理が実行可能であることもあげられます。
赤井氏:
オフライン、いわゆるローカル環境でAIツールを動かせるメリットは“どこでも使える”ということです。移動中でインターネットにつながらない場合でもAIを使った作業が行えるのは、AIのビジネス活用が普及している現状を考えると非常に心強いでしょう。ネットワーク上のリソースを共有するわけではないので、AIが自分のためだけに100%動いてくれて、いつでもどこでも効率的な業務が行えるようになります。
国井氏:
まさに相棒、個人秘書としてAIを活用できるわけですね!
日笠氏:
ここまでの話をまとめますと、通常、インターネットに接続されていない状態で生成AIを動作させると、CPUやGPUに高い負荷がかかり、消費電力も増加するためにバッテリーの消耗が早くなります。ですが、NPUが搭載されたAI PCであれば、生成AIの推論処理をNPUが低消費電力かつリアルタイムに処理できるので、ローカル環境だけで生成AIを現実的に活用する可能性が広がります。こうしたローカルで動作する生成AIアプリケーションはソフトウェアベンダー各社がまさに鋭意作成中の状況で、今後増えていくことが期待されています。
そうなると、たとえばもし半年後に「同じ作業を今までの半分の時間で完了できる」とか「よりセキュリティを強化できる」というようなNPUをフル活用する重要なアプリが登場した場合に、NPU非搭載のPCなので使えないといった事態も起こり得るわけですね。近い将来を見据えるとAI PCの選択は必然といえるのではないでしょうか。
Windows 11に専用のAI機能が用意されているCopilot+ PCは、ハイレベルなAI PC
国井氏:
AI PCがどういったPCなのか、よく理解できました! そのなかで、Copilot+ PCについて改めてお話しいただけますか。
日笠氏:
先述しましたが、Copilot+ PCは特別な機能を搭載したWindows PCの1つと考えていただければと思います。プロセッサーの処理速度を示す「TOPS」という単位があるのですが、Copilot+ PCの要件のひとつとして、搭載されたNPUが40TOPS以上であることが求められています。
簡単に言うと、Copilot+ PCではそれだけ高い処理能力を持ったNPUを活用したCopilot+ PC専用のAI機能を使用できます。たとえば「ライブ キャプション」機能は、ビデオ通話や音声通話の音声をリアルタイムで翻訳することが可能です。
赤井氏:
「ライブ キャプション」は現時点(2024年12月)で、日本語を含む44カ国の言語をリアルタイムに英語へ翻訳できます。多言語が入り混じったビデオ会議でも、その場で英語字幕が生成されるので、海外の方とのやり取りが多いビジネスパーソンにとっては非常に役立つ機能といえますね。今は英語への翻訳にしか対応していませんが、いずれ多言語から日本語への翻訳もできるようになると期待しています。
日笠氏:
他にも、Copilot+ PC専用の機能のひとつ「コクリエイター」は、Windows標準の「ペイント」アプリで使える機能であり、手書きやテキストのプロンプトで指示すると、リアルタイムで画像の生成ができます。
赤井氏:
たとえば“林の中で遊ぶ犬”の画像を作りたい場合、適当に林と犬の絵を描くだけで、非常にクオリティの高い画像が生成されます。おもしろいですよ。
国井氏:
これは便利ですね、絵が苦手な私でも素敵なイラストが描けるようになるということですか!
赤井氏:
そうですね、絵が苦手な方には最適かもしれません。
アウトプットも水彩画調や油絵調など選べるんです。
国井氏:
ビジネス用途でも、バナー作成する際の案出しや、デザイナーさんへ依頼する際のラフ作成としても使えそうですね。PC標準の機能で、誰もが感覚的に画像を作成できるのは、活用の幅がすごく広いように感じます。
日笠氏:
Copilot+ PCを導入するだけで、画像生成ツールが、しかもローカル環境上で使えるわけですから、これだけでも導入を検討する価値があると感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
高いセキュリティ性とエッジAIの活用を前提とした
ビジネスPC時代の到来
赤井氏:
前回話に出てきた法人向けMicrosoft 365 Copilotは、現在はインターネット環境への接続が必須ですが、日笠さんもおっしゃっていたように、今後、オフライン型の生成AIアプリケーションが続々と登場してくることが予想されており、ローカル環境で生成AIをビジネス活用する時代がすぐ近くまできています。
日笠氏:
インターネットへの接続が必要な「クラウドAI」と、ローカル環境で使用できる「エッジAI」、どちらにもメリット・デメリットはあります。クラウド型は膨大で複雑なデータ処理にも対応できますが、どうしても使う環境によって、遅延が起きたりコストがかさんだりする可能性が否めず、また外部のクラウドに情報をアップロードすることに抵抗を感じる方もいらっしゃるでしょう。「クラウドAI」とローカル環境でリアルタイムかつセキュアに使える「エッジAI」それぞれの得意なところを組み合わせる「ハイブリッドAI」の活用が今後進んでいくと予想されますが、「エッジAI」を省電力かつ軽快に使用できるのがCopilot+ PCです。
赤井氏:
セキュリティに関して補足すると、Copilot+ PCは、ビジネスの安全性を担保するためのPCとしてマイクロソフトが定義する「Secured-Core PC」の要件を満たしており、「Microsoft Pluton」というセキュリティプロセッサーが組み込まれています。これは一般的なセキュリティ製品やOSでは検出が難しいハードウェアレイヤーのセキュリティインシデントを保護するためのチップで、より強固なセキュリティ対策を実現します。
国井氏:
Copilot+ PCならセキュリティも万全というわけですね。
日笠氏:
そうですね。クラウドAIでもCopilotはセキュアに活用、エッジAIならばより安全に生成AIを使えますので、ビジネスでの活用を考えるならば極めて魅力的な選択肢となるはずです。さらにCopilot+ PC専用の生成AI機能は現在も追加予定のものがたくさんあり、今後もどんどん増えてくることが予想されています。
国井氏:
それはうれしい話ですが、そうなると機能が出揃うまでCopilot+ PCの購入を控える企業も出てくるのではないでしょうか。
赤井氏:
Copilot+ PCの生成AI機能はCopilot+ PC 仕様を満たすWindows 11搭載のPCに組み込まれ、すでに使用できる状況です。だから今導入しても問題はないでしょう。
国井氏:
まさに買い時は今! ということですね。
日笠氏:
そのとおりです。これまで多くのWindows PCに採用されてきたインテル、AMDのCPUを搭載したCopilot+ PCも登場してそのラインナップが拡充される2025年は、間違いなくAI PCが広まっていく年になるはずで、AI PCのなかでもトップクラスの機能を有するCopilot+ PCはかなり普及していくでしょう。
赤井氏:
数年内に出荷される法人向けPCの多くが、AI PC、Copilot+ PCになると個人的に考えています。特に、最新の高性能CPUと40TOPS以上のNPUを搭載するCopilot+ PCが普及すれば、ローカルでのAI活用を前提とした業務が当たり前の時代が到来するはずです。
「Copilot+ PC」がビジネスPCのスタンダードに
国井氏:
ここまで話を伺ってきて、高度なAI機能を省電力かつセキュアに実行できるCopilot+ PCの登場は、PC業界全体にとっても大きなトピックであるように感じました。
日笠氏:
そうですね。この業界に長い間携われてきた方は「ここにきて、パソコン(PC)がこんなにおもしろくなるとは」と話されていました。それくらい、PCはある意味で完成していて、今後はスマホに取って代わられるようなことも言われていたわけです。それがコロナ禍を機にコミュニケーションデバイスとしての役割を担い、生成AIブームでさらなる変化を遂げようとしています。
国井氏:
PCの役割そのものが変わっていく、ということですね。
日笠氏:
こうした流れを踏まえると、現在はPC自体の定義を考え直していく時期なのではないかと感じています。AIによって今までできなかったことができるようになり、「PCを何のために使うのか、そのために必要なスペックはどの程度か」といった根本的な部分のアップデートが必要となりました。そのなかでCopilot+ PCは1つの指針となるはずです。今後AIを活用したビジネスアプリケーションが増えていくことは確実であり、将来を見据えれば、Copilot+ PCを選択肢から外す理由はありません。
赤井氏:
Copilot+ PCは、利便性を損なうことなく世界最高レベルのセキュリティ機能が適用される、ある意味で究極のビジネスPCといえます。2025年はCopilot+ PCがビジネスのスタンダードとなる時代の幕開けかもしれないですね。
国井氏:
PCの常識が変わる、PCの世界観が変わる、そんな1年が始まるわけですね。
日笠氏:
それくらいダイナミックな変化が訪れると思っています。日本HPでも2025年1月からCopilot+ PCのラインナップを拡充していく予定で、将来的には第1回でお話した「HP eSIM Connect」対応モデルの投入も検討しています。日本HPの法人向けPCはもともとセキュリティ機能が充実しており、ハードウェアレベルでセキュリティ対策が施されています。もちろんCopilot+ PCにも実装されており、ユーザーが意識することなく、より安全にAIを活用した業務を行えるようになっています。クラウドAIとエッジAIのどちらも便利に使いこなせる製品になっていますので、ぜひチェックして、導入を検討していただきたいですね。
国井氏:
なるほど、2025年がとても楽しみです。
お二人とも、全3回にわたり貴重なお話しをいただき、本当にありがとうございました!
[PR]提供:日本HP