はじめに
こんにちは。NTTデータグループ クラウド技術部です。 パブリッククラウド最大手AWSの世界最大イベント「AWS re:Invent 2023」が2023年11月27日から12月1日の5日間にわたりアメリカ・ラスベガスで開催されました。今回で12回目となる同イベントの様子と主なセッション内容を、現地参加した当社グループメンバーが連載でレポートします。
第一回はイベントの全体像とKeynote(基調講演)の内容について紹介します。
AWS re:Inventとは
AWS re:Inventとは、AWSが開催する年次のカンファレンスです。本稿でご紹介するKeynoteは、新サービスの発表があり、毎年多くの注目を集めています。また、re:Inventは学習型のイベントと謳われており、講義型のブレイクアウトセッションをはじめ、ハンズオン形式で学ぶワークショップやブートキャンプ、技術力を競うGameDayなど、2023年はその数なんと2,000以上のコンテンツが用意されていました。
世界中から50,000人以上(日本からも1,700人以上)が現地参加するほど、非常に注目度の高いイベントです。期間中はラスベガスのメイン通りにある6つのホテルが本イベントのために確保されていました。筆者は初めて参加しましたが、イベントの規模と熱量に驚きの連続でした。
5つのKeynote
re:Inventでは多くのセッションがありますが、特に注目を集めるものがKeynoteです。KeynoteではCEOをはじめとするAWSの顔が新サービス・アップデート情報の紹介やAWSの考えを紹介します。AWS re:Invent 2023では5つのKeynoteがありました。
- Peter DeSantis 氏(SVP of AWS Utility Computing)による、特にコンピューティングについて語られた講演。サーバーレスがキーワードとなっていました。
- Adam Selipsky氏(CEO of AWS)による、AWS全体にわたる新サービスが発表された講演。その多くの時間がGenerative AI(生成AI)とデータ活用に関する内容でした。
- Swami Sivasubramanian 氏(VP of AWS Data and AI)による、データやAIに関する講演。Adam氏の講演内容から一段深掘りされた印象を受けました。
- Werner Vogels氏(VP and CTO of Amazon.com)による、アプリケーション開発者向けの講演。コストを考慮したアーキテクチャ設計の重要性が説かれました。
- Ruba Borno 氏(VP of AWS Worldwide Channels and Alliances)による、パートナー向けの講演。戦略的パートナーシップや業界や地域でのサクセスストーリーが語られました。
Keynoteの講演者は2022年と同様でしたが、前年と大きく異なったのは、いずれの講演もGenerative AI(生成AI)が外せないキーワードになっていたことです。
本稿では、最も注目を集めるAdam CEOのKeynoteを振り返り、Generative AIを中心に筆者が特に印象に残った内容をご紹介します。Keynoteはオンデマンド配信もされていますので、興味を持たれた方はぜひそちらもご覧ください。
(ちなみに、Keynoteは非常に大きな会場で開催されますが、会場に入れない方もいるほど注目を集めていました。筆者自身、開始時間の1時間前から並び、幸運にも無事に現地での聴講を果たしました。DJやバンドによるライブパフォーマンスもあり、会場全体は早朝から期待と興奮で溢れていました。)
Adam CEOが語るAWSの最新情報
Adam CEOのKeynoteはイベント2日目、現地時間の11月28日 8:00-10:30に開催されました。
講演の最初にはインフラストラクチャー関連の発表がありました。
その中でも、AWSの代表的なストレージサービスであるAmazon S3から、Standardクラスよりも読み取りが最大10倍速いExpress One Zoneの発表があり注目を集めました。このサービスは「One Zone」という名前からもわかる通り、単一のアベイラビリティゾーンを利用している代わりに性能が良く、AWSではこのサービスが、AI/MLのトレーニングや、リアルタイム処理など、レイテンシが大きな影響を及ぼすアプリケーションのユースケースにおいて有効であると述べています。さらに、AWS Graviton 4やAWS Trainium 2など、プロセッサやチップのアップデートもありました。
このようにインフラストラクチャーから語り始めるところから、AWSはインフラの会社であるというメッセージと受け取りました。
次に、Generative AIについての発表です。2時間超の講演のうち、実に1時間半ほどがGenerative AIに関する内容でした。個別のサービスの紹介の前に、AWSのGenerative AIは3層から構成されるというメッセージが打ち出されました。
- 上段:基盤モデルを活用したアプリケーションのレイヤ
- 中段:基盤モデルを利用・構築するためのツール・ミドルウェアレイヤ
- 下段:基盤モデルの学習や推論を行うための基盤レイヤ
下段: 基盤モデルの学習や推論を行うための基盤レイヤ
講演では、下段(基盤レイヤ)から順に説明がありました。NVIDIA社のCEO Jensen Huang氏も登場し、両社のパートナーシップとAWS社のGPUへの熱心な投資の姿勢について語られました。Jensen Huang氏は翌週に来日し、岸田総理との面会があったことはご存じの方も多いかもしれません。サービス情報としては、AI/MLワークロードに最適なチップであるAWS Trainium の第2世代が2024年に登場するという発表がありました。第1世代より4倍速く、数兆パラメータの基盤モデルに向いているということです。
中段: 基盤モデルを利用・構築するためのツール・ミドルウェアレイヤ
次に、ツール・ミドルウェアレイヤの発表がありました。このレイヤはAmazon Bedrockが担います。Bedrock自体は今年9月から一般提供が開始されており、すでに世界中で10,000社以上が利用しているとのことでした。Bedrockでは多様な基盤モデルを簡単に扱うことができますが、”すべてのユースケースに対応する完璧なモデルはないこと”と”Generative AIを取り巻く環境変化が激しいこと”から、モデルの選択肢があることが重要と強調していることが印象的でした。
続いてBedrockの追加機能が数多く発表されました。
基盤モデルのFine Tuningが可能になりました。これまでもAmazon TitanモデルはFine Tuningが可能でしたが、その他のモデルも一般公開が開始されました(一部は近日中に開始予定)。
※Fine Tuning:各社が提供するモデルをそのまま使うのではなく、小規模なラベル付きのデータセットを用いて、特定タスクに特化させることRetrieval Augmented Generation (RAG) with Knowledge Basesの一般公開が開始されました。RAGは今日のGenerative AIアプリケーションには欠かせない技術であり、これまでは開発者が独自に構築することが必要でしたが、このサービスで簡単にRAGシステムが構築できるようになりました。
※RAG: LLMと外部データベースに蓄積された情報源を紐付ける技術Agents for Amazon Bedrockによって、RAGを含む複数ステップからなる複雑なタスクを実行可能になりました。AWS Lambdaを通じて任意のAPIにアクセスさせることで、多様なタスクをこなすことができます。これも一般提供が開始されました。
Responsible AIを実現するGuardrails for Amazon Bedrockのプレビューが開始されました。Bedrock上のLLMが好ましくない発言をしないようにNGトピックや個人情報の制御ができるようになります。例えば、銀行業でのGenerative AIアシスタントに、投資アドバイスの提供を控えるよう制御ができると説明されていました。
筆者にとって興味深かったのは、Generative AIをビジネス利用する際にポイントとなる、カスタマイズ性と信頼性の観点について多くの機能追加があったことです。AWSのサービスは単にモデルをホストし提供するだけでなく、ユーザがGenerativeAIを多様なビジネスに応用する場面でも強力にサポートしていると感じました。これらの新機能が実際のビジネスシーンで真に有用かどうか、筆者もこれからさらに検証を進めていくつもりです。
上段: 基盤モデルを活用したアプリケーションのレイヤ
Generative AI最後のトピックは、Generative AIを活用したアプリケーションのレイヤです。会場の盛り上がりはこのトピックが最高潮だったかもしれません。様々な業務で活用可能なAIアシスタント Amazon Qの発表です。Amazon Qは同日にプレビューが開始されました。
Amazon Qと一口に言っても、実際は細分化されており、大枠としてはIT開発者向けとビジネスユーザ向けに大別されます。
IT開発者向けの一つに、AWSのエキスパートとしてのアシスタント機能が発表されました。過去17年間のAWSの知識に基づいて学習されたAmazon Qは、AWS上のサービス・ベストプラクティスを熟知し、IT開発者をサポート・代行します。このようなAIアシスタントは他のクラウドサービスプロバイダにはない、全く新しいものだと主張されていました。開発者体験が劇的に変わり、生産性が向上することが予見されます。
また、Amazon Q Code Transformationと呼ばれるコード変換サービスでは、Amazon社内のJavaのアップデートプロジェクトにおいて、1,000個のアプリケーションのアップデートが2日で完了したという驚くべき結果が出たそうです。
ビジネスユーザ向けには、企業独自のデータベースやSaaSシステムと連携することで、Amazon Qに質問を行い、その結果からアクションまで可能となります。また、Amazon Q in Quicksightでは、自然言語を用いてBI分析を行い、分析結果のストーリーテリングまで実現します。
Amazon Qのアプリケーションは、コンタクトセンタ向けのAmazon Q in Connectなど他にもありますので、興味のある方は是非調べてみてください。
Generative AI関連の話題の後は、昨年のAdam氏のKeynoteの主要トピックであったzero-ETLやAmazon DataZoneに関するアップデートのほか、Project Kuiperと呼ばれる野心的な衛星通信サービスの展望に関する発表がありました。
おわりに
AWS re:Invent 2023レポートの第一回目では、AWS CEO Adam氏のKeynoteをご紹介しました。今年も本稿では説明しきれないほど多くのアップデートと新サービスの発表がありました。特にGenerative AIについてはその発展だけではなく、全てのAWSサービスで自然に使用される未来が今回のイベントから予感されました。今後のアップデートにも注目が必要です。
最後に、筆者にとって最も印象的なメッセージを紹介して終わります。
ビジネスを正しくデータとして表現し、整備して活用することが競争力の源泉となり、それはGenerative AI時代でも引き続き重要であるというメッセージを受け取りました。
次回からはNTTデータグループのエンジニアが参加したセッションについて報告します。お楽しみにお待ちください。
著者紹介
坂元哲平 SAKAMOTO Teppei
NTTデータグループ データ&インテリジェンス技術部
AI・データサイエンス領域の研究開発・推進に従事。公共系、金融系等の顧客業務へのAI導入にも携わる。
著書に「XAI(説明可能なAI) そのとき人工知能はどう考えたのか?」(リックテレコム・共著)。
[PR]提供:NTTデータ