株式会社ウォーターフロントは、累計販売本数2億本を超える傘ブランド「Waterfront®︎」を展開する企業だ。同社では、Clarisパートナー・株式会社Freeandopenと綿密なコミュニケーションを図りながら、Claris FileMakerで開発したシステムを導入している。その狙いは、主に書類で行われていたSCM部および営業部の業務を、デジタル化によって効率化することだ。
膨大な紙の扱いと営業の可視化が大きな課題に
ウォーターフロントの創業は1986年。過酷な環境でも壊れにくい「富山サンダー®」や2024年度グッドデザイン賞を受賞した超薄型傘「ポケフラット®︎ 2.0」など、さまざまなオリジナル商品を生み出してきた。創業者・林秀信氏の“秀(シュー)”から名付けた「シューズセレクション」の社名で事業を行っていたが、2025年1月1日付で同社の商品ブランド名である現社名に変更。事業の中心はBtoBでの傘の企画・製造・卸売だが、コンシューマ向け店舗やECも展開しており、最近はDtoC事業にも力を入れている。
同社では近年、ペーパーレス化とデータの可視化・蓄積、さらにはそのデータを有効活用し、経営判断や現場の意思決定に役立てるためのDXを推進している。この流れを牽引しているのが、Freeandopenとの協働による、商品管理および営業系システムの開発だ。
Freeandopenはローコードツール「Claris FileMaker」を提供するClarisの認定パートナー企業だ。FileMakerのローコードながら高度なシステムを開発できる特徴を活かして、自社システムを内製開発する企業も多いが、同社が選択したのはFreeandopenと伴走しながらの委託開発だった。
実は同社は、創業当初から長らくデジタル化が進んでいなかったという。商品の企画、物流、生産管理の3チームを束ねるSCM部の大島 裕貴氏は、生産に関わる仕様書・発注書等の管理、とくに課題を感じていたと明かす。
「商品の生産に関わる仕様書や発注書は紙でやり取りし、受注もFAXあるいは電話で受けたものを手書きしている状態でした。書類はあいうえお順でファイリングしていたのですが、当社は商品点数が膨大で、東京・自由が丘の直営店一店舗だけでもSKU(在庫管理上の最小単位)が2,000ほどあります。当然ですがそれぞれに対応する仕様書・発注書が存在するため、一つの商品の特性を調べるのにかなりの時間を要していました。また、書類の紛失や手書きの文字が読めないといった理由で情報が不足する事態も頻繁に発生していたのです」(ウォーターフロント・大島氏)
一方、営業部門でも課題が浮上していた。営業部 法人営業グループでチームリーダーを務める姿 友仁氏が話す。
「日々の営業活動をメールで報告したり、各営業担当が個々にExcelやWordで管理したりしていたため、グループやチーム全体で営業データが共有できず、各担当の訪問先もデータ化されていませんでした。『ここに営業をかければ売上の数字をもっと伸ばせる』『まだ見えていない需要がある』といった状況も見えず、各担当の経験値や感覚値でアプローチしていたのが実態でした」(ウォーターフロント・姿氏)
Freeandopen との協働によるシステム開発がスタート
SCM部、営業部の両部門の課題解決に向け、Freeandopenとの協働によるシステム開発のプロジェクトが動き出したのは2020年のこと。なぜ、このプロジェクトでFileMakerが選ばれたのだろうか。大島氏は「何よりスピード感を優先し、アジャイルに開発できるソリューションを探していたこと。システムを導入した際のオペレーションが固まっていない中、柔軟性を持たせたかったこと。この2点が大きな理由でした」と説明する。
当時、同社では倉庫の移転計画も進められていた。この移転がFileMakerによる開発にもつながっていったと、今回のプロジェクトで開発チームのフロント役を務めたFreeandopen ディレクターの志田 隆信氏が振り返る。
「移転で最大のネックになったのが、品番体系が統一されていなかったことです。そのため、新倉庫のWMS(倉庫管理システム)と連携させようとなった際、品番体系の整理と商品マスターの整備から始める必要がありました。それらを行いつつ、2020年内に決まっていた移転に間に合わせようと、アジャイル開発にフィットするソリューションとして、当社からFileMakerを提案しました」(Freeandopen・志田氏)
今回、委託開発となった理由として、志田氏は「簡単な情報管理なら、それこそノーコードツールを使った内製開発で十分かもしれません。ウォーターフロント様は大枠は決まっていたものの、商品マスターの運用フローが定まっていないなど、細かな要件の洗い出しが必要だったため、アジャイル開発を得意とする当社に任せていただいたほうが、よりスピーディーに良いシステムを開発できると考えました」と語る。
商品管理システムの開発は2020年10月にスタート。まずは品番体系の整理から着手し、商品マスターのデジタル化やWMSとの連携について両社で週1回の打ち合わせを繰り返しながら、2カ月ほどでプロトタイプを作り上げた。それを現場のスタッフに使ってもらいながら、検索や自動採番などの機能を開発していったという。
綿密なコミュニケーションで各業務に応じた機能を実装
Freeandopenのエンジニアとしてシステム開発を主導した児島 佑樹氏は、スタート地点の品番体系整理で既存品番を新たに紐付けし直す作業、またロット管理の部分でとくに苦労したと話す。
「各商品は単品として品番を持っているうえ、さまざまなカラーリングを組み合わせたアソートも単品と同様の商品として扱うという、特殊な管理方法が導入されていました。振り返ると、その仕組みを理解し、同じテーブル上でデータ管理できるシステムを短期間で作っていくのが、プロジェクト全体で最も苦労したところです。これは FileMaker でなければできなかったと思います」(Freeandopen・児島氏)
このフェーズで力を発揮したのが、両社間のコミュニケーションだと志田氏は回顧する。
「毎週の打ち合わせはもちろん、エンジニアがシューズセレクション(当時)様に常駐して作業に取り組むなど、社員同様の形でコミュニケーションを密にすることを心がけました」(Freeandopen・志田氏)
そして出来上がったFileMakerのシステムには、「TSUMUGI(つむぎ)」という名が付けられた。「当社がこれまで歩んできた中で身につけた知見を紡ぎ、未来につなげていきたいとの思いを込めて名付けました」と大島氏。商品の採番から仕様書の登録、発注書発行まで一貫して行えるシステムとして、TSUMUGIは2021年春に始動した。志田氏は「名前で呼ぶと現場の人もより愛着を持って使ってくれるようになるので、お客様にはシステムに名前を付けてくださいという話をよくしています」と明かす。
一方、営業系システムとしては、上述のように営業活動の見える化が最大のテーマとなっていた。「一人ひとりの行動が売上にどうつながっているのか見えず、分析する手段もなかったので、まずはスタッフの行動をデータとして蓄積したいというのが最大の要望でした」と姿氏。この要望に対してFreeandopenは、社内のPCからはもちろん、出先のモバイル端末からでも営業活動をClaris FileMaker Goで簡単に登録でき、その内容をSlackを通じて連携するシステムを開発。2021年夏に稼働させた。
「営業活動でシステムを活用するフローはまったく固まっていないということで、TSUMUGIの改善や改修、機能追加を柔軟に行う形で、要望が出てくるたびに対応していきました。FileMakerは項目追加やレイアウト修正が簡単に行えるので、要望を即座に反映できる点でアジャイル開発との親和性がとても高いと感じます」(Freeandopen・児島氏)
"社員"感覚のパートナーとの伴走が成果を生む
両システムの稼働後も、現場が実際に使っていく中で生まれた要望を柔軟に反映し、改修を繰り返していった。Freeandopen側からも、同じウォーターフロントの“社員”であるという感覚で、開発時に感じたアイデアを積極的に提案していったという。 FileMakerのシステム導入により、商品管理のさまざまな業務で大幅な効率化を実感していると大島氏。
「例えばアソートの構成を確認するとき、従来は紙のファイルを取り出してチェックして……と時間も手間もかかっていたのですが、それが画面上で簡単に確認できるようになりました。日常的な作業なので、仮に30名で1日30分短縮できると考えると、年に約120時間は短縮できることになります。それ以外でも多くの業務が目に見えて効率化しているので、年1000時間の短縮といっても大げさではないかもしれません」(ウォーターフロント・大島氏)
営業活動においても「従来はメールで行っていた営業報告がFileMaker と連携したSlackに集約されるようになり、スピーディーに対応できるようになりましたし、個々の営業活動や取引先ごとのデータも見えるようになりました。それらのすべてが売上アップにつなげられるので、当社の営業スタイルを変えたという成果はとても大きいと感じています」と姿氏は評価する。
2023年11月には基幹システムが変更され、その連携も実現している。
「商品管理系データはTSUMUGIに残しているので、そのデータを新基幹システムに連携させ、基幹システム側で売上や棚卸・在庫等のデータを組み合わせながら運用しています」(ウォーターフロント・大島氏)
「新基幹システムでは売上実績等のデータをTSUMUGIに入出力できるようになり、その部分でのデータ見える化も進みました」(ウォーターフロント・姿氏)
機能追加や改善はほぼ完了し、現在のところFileMakerのシステムに対して課題に感じることはとくにないと、大島氏、姿氏は口を揃える。今後について同社では、BIなどデジタルツールの有効活用や、売上をより効果的に分析するためのデータ連携、AI導入などを進めていきたいと考えている。「今回、Freeandopenと協力してFileMakerを導入し、社内のデータを整理できたことが、DX推進の強固なベースになりました」と大島氏。対して志田氏はこう応える。
「委託元には、SEを1人採用した感覚で当社を使ってくださいと話しています。当社は小売業の実務経験者がシステム開発を行うことが多く、商品マスターの整備をはじめ、内製化ではまかないきれない知見をお出しすることができます。Claris社とも連携しながら、ご提案も含めて伴走していくのが当社の姿勢です」(Freeandopen・志田氏)
今後も両社のチャレンジが進む中で、FileMakerの存在感は一層高まっていくことだろう。
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