2024年11月28日~29日に熊本県の崇城大学にて「エネルギーエレクトロニクスセミナー in SOJO ~モビリティ×半導体×パワエレ×グリーンAIの最前線~」が開催された。同セミナーは、スイッチング電源研究の先駆けである原田耕介氏(九州大学名誉教授/崇城大学名誉教授)が熊本工業大学(現崇城大学)に着任し、エネルギーエレクトロニクス研究所が開設されたことを契機に1995年より毎年開催されており、多くの電源研究者に注目されている。本年も150名ほどの参加者が集まり盛況だった。
米国の電源モジュールメーカー Vicorのシニアアプリケーションエンジニアである月元誠士氏が同セミナーに登壇。独自の給電アーキテクチャや自動車向け電源ソリューションを解説した講演の模様をレポートする。
GPU普及に伴い浮上する課題
昨今の生成AI(人工知能)の拡大で、膨大なコンピューティング能力が要求されており、コンピューティングの電力消費が増えることが問題になっている。
AIのキーデバイスはGPU(画像処理回路)だが、GPUの大手である、NVIDIAの主力製品「H100」の消費電力は700Wで、米国の家庭1軒の年間消費電力に相当する。このGPUが2023年から2024年の間に約350万個出荷されており、合計の消費電力は、ジョージアやリトアニアなど小国の年間消費電力量に匹敵する。電源メーカーはこうした消費電力増大の対策にあたって課題があるという。
課題1.電力損失と変換効率
GPUが消費する電力に対して、その約30%相当の損失が、GPUに給電する電圧レギュレータ(以下、VR)と、VRからGPUまでの配電によって生ずると言われており、これが大きな課題となっている。また、GPUやCPUなどのプロセッサが必要とする電流が年々増大していく一方で、電圧は低下しており、プロセッサに給電するVRの変換効率が上げにくくなっている。
課題2.基板上のコンバータのレイアウト
低電圧・大電流を供給するためには、マルチフェーズのコンバータを多く配置する必要がある。配電ロスを低減するためエネルギー効率を考えると、プロセッサとVRの距離を近く配置することが望ましいが、基板上のスペースの制約で難しくなっているという。
そうしたなかVicorが提供するのは、GPUに給電する部分のソリューションだ。
電源の小型化と高効率化を実現するVicorのFPA技術
こうした課題の解決に役立つのが、Vicor独自のDC/DCコンバータのアーキテクチャであるFactorized Power Architecture(以下、FPA)技術だ。
従来の一般的なDC/DCコンバータは、電圧を調整・制御するレギュレーションの機能と、電圧を変換するトランスと絶縁の機能を1つのコンバータで実現している。そのため、スイッチングの高周波化と電力損失の低減がトレードオフになっており、小型化と高効率化が難しくなっている。FPA技術では、レギュレーションの機能とトランス・絶縁の機能を別々のコンバータに分けることで、このトレードオフを解消している。
ポイント1:2つのコンバータPRMとVTMに分け、機能を最適化
コンバータPRMは、レギュレーションの機能に特化した非絶縁型の昇降圧タイプのDC/DCコンバータで、入出力電圧差が小さく変換効率が高いDuty範囲に絞って運転する。また、ゼロ電圧スイッチング(以下、ZVS)により、損失を抑えながらスイッチング周波数を上げている。
VTMは、変圧機能(変圧比固定)に特化した高効率コンバータで、独自の変換回路方式を使い、ゼロ電流スイッチング(ZCS)とZVSにより、スイッチング損失を抑えている。
FPAでは、それぞれの機能のコンバータの高周波スイッチングを実現するとともに効率を落とさずに小型化している。現在、Vicorではハイパフォーマンスコンピューティング向けにPRMとVTMのモジュールをラインナップしている。ユーザーごとにカスタマイズした製品もあるが、たとえば、PRMは37×18mmのサイズで出力1000Wのモジュールがある。また、VTMは42×8mmのサイズで325Aに対応する。
ポイント2:大電流配電距離を短くして、エネルギー効率を向上
FPAはコンバータをプロセッサの近くに配置するレイアウトの課題も解決する。FPAでは、プロセッサの近くにトランスのモジュールを配置でき、配線をできるだけ短くすることで、損失を減らしてエネルギー効率を向上させる。プロセッサの隣にコンバータを配置する手法は「ラテラル・パワーデリバリー(水平方向の給電)」と称している。
また、大電流配電の損失をさらに低減するために、プロセッサを実装したプリント基板の裏面にコンバータを配置する「バーティカル・パワーデリバリー」の手法もある。これは大電流配電の距離がプリント基板の厚さだけになるため、損失をさらに低減できるほか、基板上のスペースの問題も解決する。加えて、一部をプロセッサの隣に、一部をプリント基板裏面に配置する「ラテラル・バーティカル・パワーデリバリー」の手法もある。
それぞれの手法を比較すると、コンバータからプロセッサまでの配線抵抗は、ラテラルが120μOhms、ラテラル・バーティカルが50μOhms、バーティカルは10μOhmsとなっており、1000A給電時の損失は、ラテラルが120W、ラテラル・バーティカルが50W、バーティカルは10Wとなっている。バーティカルの場合はラテラルに比べて、配電抵抗と配電の損失を10分の1に低減できる。
自動車向けに48V化を推進
自動車の低電圧系の配線電圧は1900年頃に6V、60年後の1960年頃に12Vに上がった。さらに60年後の2020年頃も12Vだったが、近年では電流が増大している。そこで電流を小さくするため、電圧を48Vに上げるトレンドがある。電圧が48Vに上がると、電流は12V時の4分の1で済むため、配線を細くして自動車の車体を軽量化したり、配線の材料コスト低下などのメリットがある。さらにアクチュエーターがハイパワー化し性能が上がるほか、エネルギー効率も向上する。
2018年に自動車市場に参入し、2024年10月に最初の自動車用電源モジュールを発表したVicorは、48V向けのソリューションを進めている。
10月に発表した製品は、「BCM6135」、「PRM3735」、「DCM3735」の3つ。3製品とも2.5kWないし2.0kWに対応するが、小型化を実現しており、バッテリーやゾーンECUへの内蔵が容易となっている。
BCM6135は絶縁型の双方向変換可能なDC/DCコンバータで、FPAにおけるトランスタイプのモジュールとなっている。61×35×7.4mmのサイズで出力2.5kWをとることができる。電圧変換比が16:1と8:1の2種類があり、具体的な用途として、前者はEV(電気自動車)の800Vのバッテリーから48Vに、後者は400Vのバッテリーから48Vにそれぞれ降圧して給電する。
ただし、降圧した48Vの電圧は安定していないため、安定化させるためにレギュレータタイプのモジュールが必要となる。そこで、PRM3735を組み合わせる。PRM3735は非絶縁型の昇降圧コンバータで、37×35×7.4mmのサイズで出力2.5kWが可能だ。
また、DCM3735は非絶縁型の降圧コンバータで、37×35×5.2mmのサイズで出力2kWを実現。PRM3735と同様に入力電圧は48Vだが、出力電圧12Vに変換する。現行の車種では48V負荷がないものも多く、12V負荷となっている場合はDCM3735で対応する。
具体的な電源構成は、BCM6135で800Vの電圧を48Vに落とし、さらにDCM3735で12Vに変換する。デバイス1個当たりの出力は2kWであるため、4kWの出力が必要な場合は2つの組み合わせをパラレルに合計4個のデバイスを使うことで、4kWのDC/DCコンバータを実現できる。
今回Vicorでは、この組み合わせのプロトタイプ基板を作成した。BCM6135とDCM3735を2個ずつ搭載した4kWのDC/DCコンバータで、800Vの電圧を12Vに変換する。重さは1.4kgで体積は1.1リットル、他社の3.5kWのコンバータと比較して、2分の1の大きさで、電力密度は2~3倍となっている。
Vicorでは、2025年後半に発表する製品として、「NBM9280」を用意している。
400Vと800Vの間の双方向の電力変換が可能な非絶縁型コンバータで、最大出力は37.5kWとなっている。具体的には、800Vバッテリーを搭載するEVを、400V系の急速充電器で充電するにあたり、400Vから800Vの電圧に昇圧する目的で使用する。また、双方向の電圧変換が可能なため、800VバッテリーのEVで、既存の400V系のEVで使用していた電動コンプレッサを動かすために800Vから400Vに降圧する用途にも使用できる。
Vicorでは今後も、小型・高効率・高密度の電源モジュール技術の強みを活かして、ハイパフォーマンスコンピューティングや自動車の課題に対応していく。
Vicor Corporationについて
Vicorは、高性能なモジュール型電源コンポーネントの設計、製造、販売を行う米国(本社:マサチューセッツ州アンドーバー)の電源専業メーカーです。HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、オートモーティブ、通信ネットワーク、産業機器、ロボティクス、鉄道、航空防衛アプリケーションなどへ向けて、広く事業を展開しています。
日本法人のVicor株式会社(Vicor KK)は2017年に設立され、電源コンポーネントの販売・技術サポートを行っています。詳しくは、www.vicorpower.com/ja-jpをご参照ください。
Vicor、BCM®は、Vicor Corporationの登録商標です。
DCM™ は、Vicor Corporationの商標です。
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