こんにちは。技術革新統括本部 Cloud & Infrastructure技術部です。 アメリカのラスベガスで、現地時間の12/2から12/6にAmazon Web Services (AWS)のイベント「AWS re:Invent 2024」が開催されました。13回目となる当イベントに私たちも現地で参加してきましたので、今回から数回にわたり、各セッションやイベントの模様をレポートします。
初回となる本稿では、イベント全体の概要と2024年6月に新しくAWSのCEOに就任したMatt Garman氏による基調講演についてお伝えします。
AWS re:Invent 2024について
re:InventはAWSが開催する最大級のカンファレンスです。基調講演をはじめ、講義形式で機能説明や事例紹介がおこなわれる「ブレイクアウトセッション」、ハンズオン形式で学ぶ「ワークショップ」、聴講者との質疑応答がメインの「チョークトーク」など幅広い種類のセッションが行われます。これらのセッションのために、ラスベガスのメイン通りにある多くのホテルが使用され、まるで街を貸し切って開催しているかのような大規模なイベントです。参加者も非常に多く、現地参加者は6万人以上、そのうち日本からの参加者は2000人を超え、年々参加者が増えています。
基調講演について
基調講演では、CEOをはじめとするAWSのトップが登壇し、新サービスやAWSの裏側を紹介します。Matt Garman氏によるCEOとして初めての基調講演は、特に注目されていました。
Matt氏の基調講演では以下4点が強調されました。
これらは特に新しい情報ではなく、これまでもAWSが発信していたメッセージです。今回の基調講演で改めてこの内容が強調されたことは、たとえCEOが変わってもAWSの目指す姿はこれまでと変わらないことを示したものと私は受け取りました。 一方で変化した部分もあります。これまでAWSのビルディングブロックには「コンピューティング」、「ストレージ」、「データベース」などがありましたが、Matt氏はこれに「推論」を新たに加えると宣言しました。基調講演の流れも、既存ビルディングブロックがどのように強化されるか、新たなビルディングブロックは何ができるのかを紹介するストーリーでした。
3時間近くにわたったMatt氏の基調講演では、多くの新サービスが発表されました。ここからは、その中でも筆者が特に注目したトピックについてご紹介します。
データベースの新たな選択肢 Aurora DSQL
もともとAWSでは、リレーショナルデータベースのAmazon Relational Database Service (RDS)やNoSQLのAmazon DynamoDBなど多くのデータベースサービスが提供されています。これらの特化したサービスを、ユーザは自身の目的に合わせて選択することができます。 今回のre:Inventで、さらに多くのニーズに応えるために、二種類の新サービスが発表されました。高い可用性を実現した分散型SQLデータベースである「Amazon Aurora DSQL」とリージョン間の強い一貫性を確保したNoSQL分散データベース「Amazon DynamoDB global tables」です。
一般的には、分散DBにおいて強い一貫性を実現するためにはレイテンシは犠牲にしないといけないなど、各種要件はトレードオフの関係にあります。相反する二つの要件に対しては「Aを取るかBを取るか」を選択しなければなりません。それに対してMatt氏は「AWSはAかつBを取るのだ」と強調し、その結果の一つが今回発表された新しいデータベースサービスです。 これらはまだプレビュー段階であり、実際には様々な制約事項も存在します。使いどころを見極め、お客様に最適な形で提供できるようにしていきます。
生成AIサービスの強化は訓練から活用へ
今回も、生成AI (Generative AI)は大きなトピックの一つでした。 学習や推論に特化した専用チップの開発など、もちろんモデル開発に関する発表もありました。しかし、発表の多くは生成AIをどのように活用し、ビジネス成果を得るかに焦点を当てたものでした。
例えば、プレビュー開始が発表された「Amazon Bedrock Model Distillation」は、大規模なモデルをその名の通り”蒸留”し、特定のタスクに対しては元のものと遜色ない性能を出せる小規模なモデルに変換するためのサービスです。現時点では、各社が大規模なモデルの性能を競っている側面もありますが、実際にユーザが利用する上では生成速度やコストなどの面から、できるだけ小規模なモデルのほうが取り回しやすくなります。まさに新しいビルディングブロックである「推論」に焦点を当てたサービス発表の一つです。
また、Amazon QやAmazon Q Developerにおいても、ユニットテストの生成やマイグレーションの支援など、生産性を向上させるためのサービスが数多く発表されました。
そして、何よりも注目したいのがBedrockの前からAWSの機械学習のサービスとして存在していた「Amazon SageMaker」の進化です。AIの活用をはじめとしたデータ活用を効果的に進めるためには、データの準備・加工・蓄積・分析が重要です。しかし、これらを実現するサービスはそれぞれ異なり、ユースケースによって組み合わせも異なるため、実現には大きな課題がありました。この課題を解決するサービスとして「Amazon SageMaker Unified Studio」が発表されました。さまざまなユースケースに統一されたプラットフォームで対応でき、データ活用を促進することができます。
NTT DATAでも、本サービスをAI・データの民主化を推進するクラウド型ビッグデータ分析基盤のサービス「Trusted Data Foundation®」の一部として、サービス発表直後となる2024年12月4日から早速サービス提供を開始しています。
https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/120400/
さまざまなゲストの登場
基調講演の中では、さまざまなゲストが登場しました。中でもApple社のMachine Learning and AIのSr. DirectorであるBenoit Dupin氏の登場には驚かされました。Benoit氏が過去にはAmazonで検索エンジンであるA9をリードしていたとはいえ、Apple社が他の企業のイベントに登場するのは珍しいことです。 Benoit氏は、Apple社が開発のために多くのAWSサービスを活用していることを紹介しました。特に、Apple社から今年発表されたAIサービスに「Apple Intelligence」がありますが、このAIサービスのモデルトレーニングに、今回の基調講演で発表された訓練用チップであるTrainium2を使っていたことが明らかにされました。このような大規模モデルの訓練にAWSのサービスが活用されていたことは心強く感じます。
また、AWSの元CEOであり、Amazon.comの現PresidentかつCEOであるAndy Jassy氏も登場し、在庫管理やCX(顧客体験)の強化などAmazonのあらゆるシーンで生成AIを活用していることを紹介しました。 さらに、Andy氏はAmazon製の基盤モデルである「Amazon Nova」を発表しました。Novaについては今後の連載でも紹介する予定です。Andy氏も説明の前置きとして言っていましたが、生成AIの基盤モデルは非常に種類が多く、実現したいこと、重視するものに応じたモデル選びが重要です。価値が届けられるようにモデルや活用方法の見極めていきたいと思います。
おわりに
初回となる本稿では、re:Inventの概要とMatt氏の基調講演の中から特に注目したポイントについて紹介しました。次回以降も、NTT DATAのエンジニアが参加したセッションについて報告します。お楽しみに。
著者紹介
眞野将徳 MANO Masanori
NTTデータグループ 技術革新統括本部 Cloud & Infrastructure技術部
アプリケーション開発、コンテナ技術の研究開発を経て、現在はNTTデータ全体のクラウドビジネス拡大のため、クラウド基盤の標準化およびユースケース拡大を推進。
2023年よりJapan AWS Top EngineerおよびJapan AWS All Certifications Engineers、2024年よりAWS Ambassadorに選出。
[PR]提供:NTTデータ