顧客体験の最適化を目的とした、CDP設計のプロセス
企業がデジタルマーケティングの高度化を図るうえで重要な役割を果たすCDP(カスタマーデータプラットフォーム)。自動車業界においても、CDPを活用したデータ活用のニーズが高まっている。ただ、CDPというと、まずどのようなツールを導入すればよいかという議論になりがちで、本質が見えにくくなる傾向がある。
そんななか、大嶋氏は「CDPはあくまで顧客データ基盤です。ツールを比較するのではなく、それを使って何を成すかが重要です」と指摘する。そのうえで「CDPは、顧客体験(CX)の最適化を目的として、統合された顧客データを使ってマーケティング活動を推進する一連のプロセスです」と強調した。
大嶋氏は、博報堂でデジタルマーケティングやデータマーケティングに関わるシステム導入と活用のプロジェクトを統括している。Tealiumをはじめとする各種CDPツールを活用しながら、MA(マーケティングオートメーション)ツールの活用や、DWH(データウェアハウス)、BI(ビジネスインテリジェンス)ツール構築なども担当している。大嶋氏は、CDPの構築プロセスについてこう説明する。
「CDPではまずWebサイトやアプリ、CRM、MAなどの業務システムからデータを取り込みます。そのデータをマッピングして、一人の顧客として名寄せをし、顧客プロフィールを作り、セグメントに落し込みます。そしてその結果を、施策実行のツールに渡していきます。この一連のプロセスの流れを具体的に考えていくことがCDPの構築であり運用です」(大嶋氏)
このCDPを中心に、その周辺のデータの取り組みや統合をどうするのか、ガバナンスをどうするか、運用をどうするかを含めて考えていくのがCDPプロジェクトというわけだ。また、CDPが顧客体験最適化のプロセスだとすると、CDPプロジェクトが取り扱う範囲も顧客のデータ管理にとどまらないことになる。
実際、大嶋氏は、マーケティング業務を構成する要素として、顧客とのタッチポイント、そこで行われる行動、その行動が生み出すデータ、管理するシステム、施策、PDCAなどがあるとし、CDPプロジェクトを推進するポイントをこう解説した。
「CDPが担うのは顧客像やインサイトを得ることです。ただ、CDPが担えない範囲も当然存在します。顧客とのタッチポイント、データやシステムはコールセンターなどの他部門や他部門のシステムが担っていますし、CDPから下流の施策やPDCAについても、営業など別の部門やシステムが担っています。マーケティングプロジェクトの全体像を観ても、戦略策定からスコープ策定・設計、推進、構築、運用といった業務があり、CDPもその中に位置づけて考える必要があります」(大嶋氏)
そこで重要になるのが全体のデザインだ。大嶋氏は「プロジェクト設計の段階から目指す姿を描き、関連するシステムや関連する組織を洗い出していきます。そうすることで、CDPが何をどこまで担うか、対象とするデータは何か、運用に必要な組織の役割は何かが明確になっていきます。重要なことは、様々な部門や各部門が管轄するシステムやデータを活用することになるため、誰が何をするかをあらかじめ設計しておくということです」と強調した。
CDPなどのシステム整備だけでなく、顧客を構造化するプロセスが重要
では、CDPを使ってどう顧客データを活用していくのか。一般に顧客データの活用と言うと「データがバラバラで整理が大変」「セグメント管理が複雑で運用がまわらない」「一回だけ分析して終わってしまう」といったよくある課題に遭遇しがちだ。これらは自動車業界のデジタルマーケティングでも多く見られる課題と言える。
こうした事態を防ぐために重要になるのが、Mix型と呼ばれる現代型のマーケティングプロセスだ。
「従来のフロー型のマーケティングプロセスは、まずビジネス目標があり、それを担う組織や業務があり、その次に顧客体験を考えるという構造でした。これに対しMix型は、ビジネス目標、組織・業務、顧客体験を三位一体でぐるぐる回しながら考えるアプローチです。ただ、システム構造はフロー型のままになっていることが多く、CDP活用を阻害する要因にもなっています」(大嶋氏)
フロー型のプロセスのままCDPを運用すると、取り組みが進むにつれてシステムに追加する項目が多くなり、複雑な条件分岐が発生したり、セグメント設定の見直しが都度発生したりするという。現場の担当者からCDPの設定を依頼されても、CDP運用チームが運用を回せなくなる事態に陥りやすい。そこで重要になるのが、顧客の構造化だ。
「顧客の構造化は、データ抽出と顧客分類、購買行動分析といった基礎的な分析からはじめます。そのうえで、KPI整理、顧客理解、施策整理といった戦略設計を行なって、全体方針の整理、詳細な顧客分析、施策の具体化を行っていきます」(大嶋氏)
自動車業界における顧客分類や購買行動分析については、高価な耐久消費材カテゴリ向けで使われることが多い「ジャーニー型」を用いるのがいいだろう。
「ジャーニー型は、ビジネス構造を整理し、顧客の入口からライフタイムのブランド体験を整理します。自動車でいうと、まず1台目の車はコンパクトカーを選び、収入が上がったらスポーツカーに乗り換え、家族ができたらファミリーカーに乗り換えて、子育てが落ち着いた頃には高級セダンに……といったイメージです。この流れをもとに顧客を区分して、分類し、カスタマージャーニーにつなげていきます」(大嶋氏)
自動車業界におけるマーケティングとCX施策推進のポイント
そのうえで大嶋氏は、自動車業界におけるマーケティングとCXについて、初回来訪から販売までの流れを示しながら、こう述べた。
「Webサイトへの初回来訪から回遊を経て、CTA(行動喚起)、MAツールによるナーチャリング(回遊)、販売会社や販売店への来店と販売……というのがシンプルな流れです。これら各フェーズにおいて顧客は、すでに車を所持しているオーナー、新規で購入への熱量が高いホット層、WARM層などとして捉えることができ、KPIに沿って、顧客の数を捉えていきます。当然のことながら、そのために必要なものはデータです。ログインやCTAを生み出すような仕掛けで、IDを取得していくのです。IDを取得するための仕掛けとしては、カタログ請求や来店予約、My Pageなどが活用されます。IDに基づいた来店データや購買データがあると、精度の高い予兆モデルを作りやすくなります。名寄せを行うことでナーチャリングでも顧客のプロファイル化やアクションもしやすくなります。さらにデータ分析やビジネスの評価もしやすくなります」(大嶋氏)
これらを担うシステムがWebサイトやDWH、CDP、MA、顧客データベース、SFA(セールスフォースオートメーション)となる。
「Webサイト側でコンテンツオプティマイズやWeb接客といったツールを使うこともありますし、AIで予兆モデルを作成したりもします。顧客のプロファイルやアクション、データの統合はCDPやMAで行い、顧客とコミュニケーションをとってエンゲージメントを深めていきます。顧客データベースやSFAのデータは、CDPやデータハブ、データレイクなどでつないでいきます。システムとして重要なのは、ディーラーを中心に顧客データを取得すること、アクションをどう促すかなど定義すること、ログインやCTAを生み出す仕掛けを作ることです。この3つにしっかり取り組み、評価していくことが、自動車業界では特に大切だと考えます」(大嶋氏)
そのうえで大嶋氏は、自動車業界において「ジャーニー型」の顧客定義を行っていくポイントをこう述べた。
「顧客体験の最適化のためには、アクションの手前に顧客構造の整理が必要です。そのためには、土台となるデータ基盤が重要です。データ基盤は、システムだけではなく、オペレーション整理や徹底、ガバナンスなども含みます。取り組みを現実的に推進するための、顧客IDの取得と、指針となるビジネスゴールの明確化が重要です」(大嶋氏)
現実にCXの施策を実行していくうえでは、顧客の把握やシステムの視点だけでは不十分だ。プロダクトやブランド、業務の棚卸し、ステークホルダー管理などの観点を踏まえ、全体の業務を設計し、PDCAを継続的に回していくことが求められる。
100年に一度の変革を迎えている自動車業界では、デジタルデータを活用した顧客理解やCX向上は喫緊のテーマだ。CDPの本質を踏まえた顧客体験の最適化を目指したい。
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[PR]提供:Tealium Japan