AIは、ビジネスの未来を根本から変える革命なのか。それとも一時的な狂乱に過ぎないのか。

現時点でその答えを見出すのは難しい。しかし、AIの進化が止まらない今、私たちが問うべきは「AIの現在地」ではなく、「AIをどう活用してビジネスや自分自身を成長させるか」である。AIはすでに私たちの生活やビジネスのあらゆる場面に浸透しつつあり、その影響力は計り知れない。では、AIがもたらす変革の波にどう対応し、未来を切り拓くために何を準備すればよいのだろうか。

CRM(顧客関係管理)搭載のカスタマープラットフォームを提供するHubSpotは、2024年9月18日に毎年行う自社イベント「INBOUND 2024」を開催。CEOのヤミニ・ランガン氏が登壇し、AIがビジネスにもたらす影響と未来への展望について語った。本記事では、同イベントで語られた内容をもとに、HubSpot Japan株式会社の丸山 裕太 氏と水落 絵理香氏が、AIと人間の協働がもたらす新たなビジネスの可能性について解説していく。

  • 「INBOUND 2024」会場風景

検索エンジンやSNSからのトラフィックはかつてないほど減少傾向に

2023年はAI一色ともいえる一年だった。そこから2024年にかけて、AIへの温度感は変化の兆しを見せている。AIに関するニュース記事の見出しも多様化している印象だ。しかし、 刺激的な文言に踊らされていると本質を見失うことになる。AIはもはやその存在を意識せずに生活に浸透しており、ビジネスにも影響を及ぼしているからだ。

「前提として考えなければならないのは、『私たちはAIを使って何ができるか』と『私たちはAIの爆発的な普及によって何をしなければならなくなったのか』です。前者は明るい話題で、いろいろな話が出てくるでしょう。問題は後者です。というのも、AIによってビジネスの成長の方程式は崩壊しつつあるからです」(丸山氏)

HubSpot Japan株式会社
PR/Brand マーケティングマネージャー 丸山 裕太 氏

“崩壊”とは穏やかではない。たとえばマーケティング領域に目を向けてみよう。これまで多くのウェブサイト運営企業は、検索からのユーザー流入を重視してきた。検索結果の上位に自社サイトを表示させるために、さまざまな対策を講じてユーザーの流入を図り、そこから購買につなげるのだ 。しかし、この検索流入が大幅に落ち込んでいるという。とある調査によると、2026年までにオーガニック検索によるウェブサイトトラフィックは約26%も減少すると予想されており、これは企業の集客戦略に大きな影響を与える可能性がある。

「たとえば 、AI検索の登場は1つの大きな変化です。ユーザーが検索した際に、知りたい回答が検索結果画面に直接表示される機能が登場しています。これにより、ユーザーはわざわざ検索結果のリンクをクリックして企業サイト等を訪れることなく、欲しい回答を得られるようになったのです」(丸山氏)

また、AIを活用した全く新しい検索サービスも見逃せない。たとえば 知りたい内容を打ち込むと、ネット上の情報をまとめてAIがチャット形式で回答するサービスが注目を集めている。前述した検索結果同様、企業のWebサイトを経由せずにユーザーが情報を得られるわけだ。

さらに、AIによる影響ではないが、SNSにおけるマーケティングにも変化が起きている。これまでSNSマーケティングといえばSNSプラットフォームに自社サイトのリンクをつけて投稿し、誘導を図るのが一般的だった。しかし、最近では各SNSがユーザーの流出を問題視しており、リンク付きの投稿の表示を抑制する傾向にあるという。その結果、とある調査によると、リンク付き投稿はそうでない投稿と比べ、LinkedInで6倍、X(旧Twitter)で1.4倍のリーチの減少、Instagramでもインプレッションが50%減少するというのだ。

こうした変化に対応するには、どうすればいいのだろうか。

「これまでの手法をどんどん新しくしていく必要があります。AIを活用することはもちろん、AIを使うユーザーに合わせて企業側も行動を変えていく必要があるのです」(丸山氏)

古い手法を捨て去り、時代とユーザーに合った新たなルールのもとでビジネスを成長させる――そのためのひとつの“解”となるのが、INBOUND 2024でヤミニ氏が 触れた「AIエージェント」である。

  • 「INBOUND 2024」に登壇したHubSpot のCEO ヤミニ・ランガン(Yamini Rangan)氏

AIエージェントが業務を変える新たなパートナーに!?

AIエージェントとは何か。HubSpotでは「複数のステップを必要とする目標を達成するために、AIとツールを使用するソフトウェア」と定義している。

HubSpot Japan株式会社
シニアマーケティングマネージャー/日本語ブログ編集長 水落 絵理香 氏

ポイントは、「AIとツールを使用する」という部分だ。AIエージェント自体がAIというツールであるが、そのAIエージェントもまた人に代わってAIとツールを使用し、タスクを横断して文脈を踏まえた行動をとるのである。もはや「人のように動くAIエージェント」だが、では人間とAIエージェントはどのように役割を分けるべきだろうか。

AIにできることと人間にしかできないことを分けて考えることが重要です。たとえばAIは初期段階のアイディアを人よりもはるかに短時間かつ大量に生成できます。こうした作業はAIに任せたほうが効率的でしょう。一方で、たとえばユーザーの感情を理解したり、既存のコンテンツを人の心に響く素晴らしいものに仕上げたりすることは人間にしかできません。AIが80点で出してくれるからこそ、人間がそれを100点、120点にすることに時間が割ける。このように、それぞれの得意領域に応じた役割分担をしていくことが重要です」(丸山氏)

この考え方はすでにHubSpotでも取り入れられていると水落氏は言う。

「HubSpotではAIとCRMをかけあわせて、お客様一人ひとりに寄り添ったコンテンツを作成する機能があります。もっとも、AIは膨大なデータをもとに『おそらくこのお客様にはこんな情報がフィットするだろう』という推測まではできますが、その先にあるお客様の感情までは読み取れません。そのため、お客様にコンテンツが響くかどうかの判断は最終的に人間が行う必要があります。AIと人間が協力することで、コンテンツ制作の量も質も担保できる。これがマーケターとしての理想的なコンテンツ制作ではないでしょうか」(水落氏)

AIと人間の協働はコンテンツ制作だけにとどまらない。マーケターがよく直面するのは、施策における不確定要素の多さだ。「この施策は本当に顧客のためになっているのか」「会社の業績に貢献できるのか」「施策を実行してみたが、果たしてうまくいっているのかどうか」などを判断しながら進めるのは容易ではない。多くのマーケターが頭を悩ますリードスコアリングにもこれはあてはまる。「リードがとったこのアクションは、これぐらいのスコアで良いのだろうか」と確信が持てないまま設計を進めざるを得ないケースも多いだろう。HubSpotでは、MA(マーケティングオートメーション)機能のひとつとして、このリードスコアリングにAIを活用している。CRMの顧客情報をもとにAIが適切な重み付けを行い、リードに対するアプローチの優先順位を提案するものだ。これまで感覚に頼る部分があったリードスコアリングが、確証のある形でできるようになるのだ。

AI活用というと、人間が行っていた単純作業を肩代わりするイメージがあるかもしれないが、実際には「AIの力を借りることで、これまで到達できなかった高みを目指せる」と言ったほうが正しい。

ヤミニ氏によると、「現在、企業はAIを物事の促進(アクセラレーション)のために使っているが、今後は物事の革新(トランスフォーメーション)のために使うようになっていく」という。

ツールは高度化しているが、企業はそもそもの活用に課題を感じている

しかし、AIなど高度なツールを導入しても、企業はその活用に苦労しているのが実情だ。

「ツールを導入したにもかかわらず、価値を享受できない企業は少なくありません。というのもAIツールはどんどん複雑化しているからです。できることは増えているはずなのに、使いこなせないのです」(丸山氏)

この課題を解決するために、HubSpotは以下の基本的な3要素が必要だと提唱している。

使いやすいこと: ツールが直感的に操作できること
すぐに成果を得られること: 導入後、迅速に結果が得られること
ツールとデータがまとまっていること: 複数のツールを統合し、データを一元管理できること

一見、当たり前のことのように思えるが、実際企業はこれとはかけ離れた現実に直面している。

「私たちの行った調査では、約80%のマーケティング・営業・カスタマーサクセスのリーダー職が『導入済みの社内ツールから価値を得られていない』と回答しています。また、企業は顧客対応を管理するために、平均15種類の個別ツールを切り替えながら作業しており、10社中7社の企業が『社内に散らばるデータの扱いに苦労しながら業務を進めている』と回答しているのです(※)」(丸山氏)

※出典: 米HubSpot, Inc.が日本を含む世界10カ国で実施した独自調査(2024年)

HubSpotはこういった現実を踏まえ、「使いやすさ(Easy)・即効性(Fast)・オールインワン(Unified)」をキーワードにプロダクトを開発、提供しているという。たとえば、今回のINBOUND 2024で発表された「Breeze(ブリーズ)」(HubSpotのプラットフォーム全体に搭載されたAI機能群)は、まさにこの3要素を念頭に開発されている。

INBOUND 2024で発表されたBreezeは3種類。「Breeze Copilot」はHubSpotのプラットフォーム上でいつでもどこでも使用できるAIアシスタント機能だ。CRM上のデータを参照するので、パーソナライズされた形で、かつチャット形式で気軽に業務の支援を受けることができる。

「Breeze Agents」はタスクを自動実行するAIエージェント機能だ。たとえば、マーケター向けのコンテンツエージェントはブログ記事やランディングページ、ポッドキャストから導入事例までさまざまなフォーマットのコンテンツを瞬時に作成できる。

これらの機能は、AIを誰もが簡単に、すぐに成果が出る形で使えるよう設計されている。

AIを有効活用するのに使いやすさは欠かせないが、データの側面も重要だ。AIから最適な提案を受けるためには、自社のビジネスや顧客についてできる限りAIに理解してもらう必要がある。

「Breeze Intelligence」はインターネット上に散在するあらゆる顧客に関するデータをCRM上に集約してくれる機能だ。顧客に対するEメールをAIに生成してもらうとしても、顧客のプロフィール情報から直近の購買意欲まで包括的なデータが揃っていると、生成されるEメールの質も違ったものになる。Breezeに限らず、今後さまざまなツール上でAIを活用できるようになっていくが、AIがより良いアウトプットを出すためにデータが集約されていることの重要性はますます高まっていくだろう。

「たとえば一般的なAIツールに指示を出しても、その回答は世の中の平均的な情報を集約したものになりがちです。大規模言語モデル(LLM)の業務利用が難しい理由はここにあります。その点、BreezeはCRM上のデータを活用できるので、自社のビジネスや顧客に即したアウトプットを得ることができ、業務利用における成果を得やすいといえます」(丸山氏)

これまでHubSpotは主要機能を、買収を通じてではなく時間をかけながらも自社での開発で拡張してきた。だからこそ、HubSpot内のツールによってAIが使えたり使えなかったりということがなく、横断的にAIが力を発揮できるのだ。データとツールによる断絶がない点は、AI活用という意味でもHubSpotの大きな強みといえる。

「企業のお話をうかがうと、データの分散による断絶や顧客情報の分散による連携不足、サイロ化といった課題は多く出てきます。そこでMAやCRM、SFA(営業支援システム)を導入しても、運用のハードルが高くて結局は現場で使ってもらえないということも少なくありません。そういった課題に対して、HubSpotは解決策を提示しています。『Easy, Fast, Unified』は今回打ち出したコンセプトではありますが、考え方自体はHubSpotがもともと目指してきた根本的な思想です」(水落氏)

「AIと人間のハイブリッドチーム」が当たり前になっていく

将来、AIエージェントと人間の協働が当たり前になることで、世界はどのように変わっていくのだろうか。

AIと人間のハイブリッドチームは、業務そのものを変えていくでしょう」と丸山氏は述べる。

「仕事は細かくて広範なタスクの集合です。たとえばブログを書く場合、キーワードをリサーチし、月間の流入数を確認し、そこからキーワードを選定し、ライティングに移るといった流れで行われます。AIと人間のハイブリッドチームでは、各タスクに特化したAIエージェントを駆使して最高のアウトプットを出すことを目指します。たとえば、キーワードリサーチに特化したエージェントが、トピックに関連するキーワードを洗い出し、流入数や獲得の難易度を瞬時にまとめ、ライティングに特化したAIエージェントがブログのドラフトを瞬時に作成。人間はその後、最高のブログ記事にするため調整をする。このように、複数のAIエージェントと人間の協働で仕事が進んでいくようになるでしょう。 また、業務を最適化するために、専用のAIエージェントを自分自身でつくるという動きも出てくると考えています」(丸山氏)

HubSpotが描く将来を示唆するのが、同社が公開するサービス「agent.ai」だ。これは、AIエージェントのプロフェッショナル・ネットワークといえる。一見イメージがつかないかもしれないが、人材採用に置き換えるとわかりやすいと丸山氏は言う。

「これまで、専門性の伴う業務を行うにはその専門家に業務を依頼したり、雇用したりする必要がありました。簡単な契約書のレビューでも、忙しい弁護士や法務部の手が空くのを待つ必要があったわけです。そうしたタスクを行うために専門のAIを“雇用”できるのがagent.ai というサービスなのです」(丸山氏)

やりたいことや、やらなければならないタスクがあったとき、必ず人を雇う前提に立ち、人材不足や生産性に悩むのではなく、分野によってはAIエージェントを雇って活用する――そんな時代が来るのもそう遠くはなさそうだ。

とはいえ、AIエージェントの力を最大限発揮するにはデータが欠かせない。水落氏によると、日本はまだCRMの活用が進んでおらず、顧客対面業務においてAIと人間のハイブリッドチームをつくる準備が整っているとは言い難いのが実情だという。社会とビジネスの変化に対応するためにも、早急にデータ活用の体制構築が必要であろう。

AIと人間のハイブリッドチームが当たり前になる未来は近づいている。これまでの業務プロセスを見直しAIとの共存を図ることで、従来実現できなかったレベルで質の高い顧客体験を提供できるようになる可能性がある。そうなれば、結果として企業は新たな成長の可能性を手に入れることができるだろう。AIと人間との協力で、ビジネスの新たな地平を共に探求していくことが、これからの時代における重要なテーマとなるだろう。

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[PR]提供:HubSpot Japan