「人と、地球の、明日のために。」という経営理念を掲げ、社会問題の解決に向けた事業を展開する東芝グループ。そのなかでデジタル領域を担い、先進技術を用いた価値の創出を目指しているのが、東芝デジタルソリューションズだ。同社が持つ、世界トップレベルのデジタル技術を創出できる“技術力”と、それを企業や社会に貢献するソリューションとして展開できる“実装力”の源はどこにあるのか。新たにプラットフォーム・ソフトウェアプロダクト技師長に就任した谷川 均 氏に、同社が見据えるビジョンと最新の取り組みについて話を伺った。

  • (写真)谷川氏

“技術力”と“実装力”の両輪で「成長の種」をつくり新たな価値を創出する東芝グループ

―技師長として東芝デジタルソリューションズのデジタル技術開発、および先進技術を用いた商品・事業の開発を統括されている谷川さんのご経歴についてお聞かせください。

最初の20年あまりはソフトウェア開発に従事していました。その後はパートナー企業のICT商材や自社のストレージ製品などの商品企画を数年担当し、さらに技術営業としてお客様と接するパートナー事業に3年ほど携わりました。そこから商品企画に戻り、商品企画部長、新規事業開発部長を務めた後、東芝デジタルソリューションズのプラットフォーム・ソフトウェアプロダクト技師長に就任したという経歴です。

―世界トップレベルの技術を開発し、先進的な事業を展開されている東芝グループですが、どのようなアプローチでイノベーションを創出されているのでしょうか。

東芝グループは製造業、いわゆるものづくりの企業として長年にわたってビジネスを展開しているほか、エネルギーや社会インフラなど、さまざまな産業領域に携わっています。経営理念である「人と、地球の、明日のために。」に基づき、これまで培ってきた経験と知識を活かして“成長の種”を作り出すことをミッションとする研究所があります。ただ、研究所が種を作っただけではビジネスにはなりません。お客様のニーズを捉えつつビジネスを推進する事業部門(分社会社)に属する研究開発部門(ワークスラボ)や設計開発部門が、商品化へ向けて成長の種を企業や社会の課題を解決できるソリューションへと磨き上げます。研究所が持つ先進技術を生み出す“技術力”とワークスラボや設計開発部門の商品に仕立てる“実装力”、この両輪があること、そして研究所と事業部門とが密接に連携していることで、世界に誇る最新技術とイノベーションが生み出せているのではないかと考えています。

  • (写真)谷川氏

    東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部
    プラットフォーム・ソフトウェアプロダクト技師長
    谷川 均 氏

―そうした東芝グループにおいて、東芝デジタルソリューションズが担っているのはどのような役割ですか。

東芝デジタルソリューションズは、東芝グループのデジタル領域を担当している会社になります。事業内容としては大きく2つあり、1つはIoTやAIなどのデジタル技術を活かしたICTソリューションを、製造・小売・物流・金融・メディア・電力・社会インフラ・官公庁といった幅広い業界に届ける事業です。またもう1つは、製造業であり、電力や水処理、交通など社会の重要なインフラに携わる東芝グループが展開するビジネスのプラットフォームを、デジタル面で支える事業です。これらの事業を軸に、デジタル技術を用いた新たな価値の創出、および社会課題の解決を目指しています。

DEからDX、QXへと進化させ、新たな市場の開拓・価値の創出を目指す

―東芝グループでは、データを軸としたデジタル活用の取り組みとしてDE(Digital Evolution)/DX(Digital Transformation)/QX(Quantum Transformation)という3つのビジョンを掲げられていますね。

DE、DX、QXとは、デジタルエコノミーの発展に伴い大きく変化しつつある事業環境のなかで、東芝グループが新たな価値を持続的に創造していくためのフェーズです。既存の事業でデジタルデータを効果的に活用していこうという世の中の流れを汲んで、業務プロセスのデジタル化によって業務の効率化・高度化を図る「DE」からスタートし、そこで生み出されるデジタルデータから新たな価値を生み出す、あるいはビジネス自体を変えていく「DX」へと進めることで、変革を推進していきます。「QX」は、これから量子技術が社会や産業に大きな変化をもたらすと考え、将来を見据えた取り組みです。既存のコンピュータとは一線を画すレベルの可能性を秘めた“量子技術”を用いたデジタル変革となります。

  • (図版)デジタルエコノミーの発展と将来の事業展開構想

    5/15 東芝 中期経営計画 社外発表資料をもとにマイナビが作成

―そのなかで、谷川さんが担うのはどのようなミッションですか。

世界は今、産業構造が大きく変わる、新たな時代への転換期を迎えています。従来どおりのシステムインテグレーション事業も活況ではありますが、やはり世の中全体がデジタル化により大きく変わろうとしていることは肌で感じており、前述したDEやDX、その先にあるQXの取り組みの重要性は高まっていくと考えています。

その意味で、今後は既存のビジネスプロセスの変革だけでなく、新規事業の方向性を模索していく必要があります。昨今では先進のデジタル技術によって、今までできなかったことができるようになり、まったく新しい市場が生まれる可能性が高まっています。量子技術やブロックチェーン技術などは、まだ技術的に熟していません。ビジネスとして市場が花開くのもこれからです。特に量子関連技術は、どのように活用できるのかをグローバルで模索している最中ですし、世界全体が一丸となって新しい市場を作り出しているような状況といえます。先進技術の研究開発を進めている東芝グループとしても、市場が生まれていく過程を座視するのではなく、ユースケースの創出から市場の立ち上げまでをリードしていきたいと考えています。

―そこで、先ほどお話しいただいた研究所と事業部門の密接な連携、すなわち“技術力”と“実装力”が活きてくるわけですね。

そうですね。新しいアイディアや技術は研究所から生み出されますが、それをどこに当てはめていくのか、すなわち新しい市場の可能性を見出すためには、事業部門の経験が必要になります。どれだけよい“種”を作っても、実際に使える場所がなければ効果は少なく、研究所と事業部門の連携を重視した東芝グループのアプローチは非常に有効です。特に、量子関連の技術に関してはうまく連携できていると感じており、技師長として引き続き注視していきたいと考えています。

量子技術も先取り、ビジネス・社会の課題解決に貢献する5つのソリューション

―将来的な取り組みとして捉えているQXも含めて、東芝デジタルソリューションズでは先進的な技術・ソリューションを多く生み出されていますね。

先ほど話したDE/DX/QXのなかで当社の先進性が見えるのは、DX/QXにおける技術やソリューションになります。そのなかから、いくつかの特徴的な取り組みについて紹介していきたいと思います。


我々が定義するDEによって生み出されるデジタルデータは、これまでとは比較できないほど大規模なものとなります。特にIoTが導入された工場などの“現場”では、膨大な時系列データをリアルタイムに処理する必要があり、大容量のデータをより高速に取り扱うことができるデータベースが求められます。こうした要件を満たす、オープンなデータベースとして開発したのが「GridDB」です。ペタバイト級の製造データの活用に貢献した実績があり、クラウドサービスでの提供、さらにはOSS化とコミュニティ活動により進化を続けています。


デジタルデータは溜め込むだけではなく、さまざまな形で活用することで価値を発揮します。そしてデータというものは、複数の企業や組織をまたいで共有・活用することで有効性が増していくと考えています。ところがデジタルデータには、共有が容易というメリットがある反面、コピーしやすい、あるいは改ざんしやすいといった負の要素があるため、正確性の担保が不可欠です。当社では、その解として「DNCWARE Blockchain+」というエンタープライズ向けのブロックチェーンを開発しました。複数の企業や製品・サービスをつなぎ合わせるブロックチェーンに、データのオープン性・トレーサビリティや非改ざん性といったエンタープライズ向けの要件を付加したソリューションで、エコシステム型のビジネス構築を支援します。自治体や相続、物流など、適用事例も増えてきています。


将来を見据えたQXを実現するための技術として、「量子暗号通信(Quantum Key Distribution: QKD)」があります。量子コンピュータの実用化はまだこれからの話ですが、仮に実用化された世界を考えると、現在使われている暗号化技術が破られるリスクが見えてきます。いま私たちがPCやモバイル端末を用いて日常的に行っているデータのやり取りは、その裏で動く暗号化技術により安全性が担保されています。量子コンピュータが実用化されると、これまでの暗号化データは短時間で解読され、第三者に悪用されてしまう危険性が高まります。そうした事態を招く前に、量子コンピュータでも破られない通信の仕組みを用意しておく必要があると考えて開発したのがQKDです。来るべき量子コンピュータ時代を見据えて、東芝の研究所が開発し、世界で実証を進めています。


東芝が量子コンピュータを研究していくなかで生み出した技術を、現在のコンピュータ上で使えるようにしたのが「SQBM+(Simulated Quantum-inspired Bifurcation Machine+)」という疑似量子計算機ソリューションです。現在のコンピュータでは膨大な時間がかかる「組合せ最適化問題」を、量子関連技術の応用により短時間で解くことができるようになります。先ほど話した「今までできなかったことができるようになる」具体例の1つであり、創薬や金融などさまざまな業界で効果的な活用方法が模索されている注目の技術です。


ここまではDX/QXの観点から、4つの技術・ソリューションを紹介してきました。実は東芝グループには、ベンチャースピリッツを忘れずにいたいという思いがあり、独自性の高い技術も開発しています。そこで最後に紹介するのが、新しい音響体験を提供する「Soundimension」です。仮想音像と音場制御の2つのソリューションにより、一般的な据え置き型のスピーカーで音の方向性や聞こえる場所を細かく制御することが可能です。例えば、オンライン会議で発言者ごとに声の出る位置を変えたり、ATMや券売機などで利用者以外に音声アナウンスが聞こえないように音が聞こえる場所を制御したりと、さまざまな使い方が考えられます。現在は、顧客やパートナーと効果的な活用シーンを模索しているところです。

“技術力”と“実装力”に磨きをかけ、人々に安心を届ける

―先進のデジタル技術が次々と生まれ、社会やビジネス、生活が大きく変化している状況のなか、東芝デジタルソリューションズはどのような未来を見据えているのでしょうか。

改めて強調しますが、世の中はいま、デジタルの方向に大きく舵を切っています。こうした変化に対応するためには、私たちもよりスピード感を持って取り組んでいく必要があると考えています。

そうしたなかで東芝グループは、早く始めて、早く試して、ダメならばすぐに止める、もしくは方向性を転換できる体制作りを目指しています。これまでのように、じっくりと計画を立てて、予算を確保し、人を集めてといったプロセスだけでは変化の波には対応できません。そこでグループが一丸となって進める「みんなのDX」など、新しいアイディアが生まれる風土を醸成するための取り組みを進めています。すでに、200を超える成長の種を発掘しています。

また、独自の技術やビジネスアイディアをお持ちのスタートアップ・ベンチャー企業との連携を促進する「東芝オープンイノベーションプログラム」を2020年から実施し、パートナーの発掘、そして協業による新たな価値の創出にも取り組んでいます。実際に、創薬に携わるスタートアップ企業と協業し、先ほど紹介したSQBM+を使って創薬の世界に新しい可能性を広げているプロジェクトが進行しています。

こうした東芝グループとしての新たな取り組みに積極的に参加し、当社の強みである“実装力”をパートナーとの共創でも活かす活動などを、今後も加速させていきたいと考えています。

―こうした展望を踏まえ、谷川さんとしては、今後どのような価値を社会に届けていきたいとお考えでしょうか。

これまでのICTは、人が生産的な作業に注力する時間を作り出すことが大きな目的でした。人口減少に歯止めがかからず、ワークライフバランスの実現が求められている現状を鑑みると、こうした効率化・自動化の流れを、さらに突き詰めていく必要があると考えます。

その一方で、今後のICTが担うもう1つの重要な役割と捉えているのが、“人々に安心を届ける”ことです。例えば、何も意識せずにデジタルデータをやり取りしている裏で、データの漏えい・改ざんを防ぎ、正確性を担保する技術が動いている、すなわちデータ活用における不安を払拭することが、ICTに与えられたミッションであると思っています。量子暗号通信やブロックチェーンの技術を活かせるシーンですね。

冒頭で話した30年以上にわたる経歴のなかに、技術営業としてお客様と直接接していた3年間があります。そこで「東芝と一緒にやれてよかった」という声をいただけたことが、特に大きな経験として心に残っています。「人と、地球の、明日のために。」という経営理念に基づいた取り組みが、社会や人々に評価されていることを実感できた瞬間でした。今後も、最新技術を用いた商材を提供するだけではなく、東芝ブランドの信頼感をさらに高めながら、人々に安心を届けていきたいと考えています。

  • (写真)谷川氏

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