企業の生成AI活用が本格化するなか、秘匿性の高い機密情報や技術情報を安全に扱う方法に注目が集まっている。2024年10月18日に開催された「生成AIで秘匿性の高い機密情報や技術情報を安全に扱う方法とは?」と題したオンラインセミナーでは、日立ソリューションズとAllganize Japanの2社による講演が行われた。SaaS環境やプライベート環境でのセキュアな生成AI活用事例が紹介され、セキュリティと利便性を両立させた生成AI活用の具体的な道筋が示された。
生成AIは、試行から本格活用のフェーズへ
最初のセッションでは、株式会社日立ソリューションズ クラウドソリューション本部 企画部 兼AIトランスフォーメーション推進本部 AX戦略部 担当部長(現:シニアAIビジネスストラテジスト) 北林 拓丈氏によって、生成AI市場の最新動向と同社の取り組みが紹介された。
国内企業における生成AI活用は、2023年度の試行フェーズを経て加速。そして2024年は本格活用のフェーズに入ったといえる。
生成AI活用の方向性として、北林氏は「攻め」と「守り」の二面性を挙げる。攻めの側面では業務効率化やサービスの高度化をめざし、守りの側面では著作権やプライバシー侵害、情報漏洩などのリスク対策が重要だという。
これらの取り組みは段階的に進められ、組織の一部での試行から始まり、全社活用とユースケース創出を経て、業務プロセス変革、そしてサービスの高度化へと発展していく。北林氏は「各フェーズの取り組みを推進するにあたってさまざまな課題があり、その課題への対処が必要になります」と話す。
続けて、北林氏はグローバルトレンドについて、北米最大級のAIカンファレンス「Ai4 2024」での知見を共有した。特に注目すべき点として、ユースケースに応じた適切なモデルを選択するマルチモデル対応の重要性が挙げられる。また、コスト効率を考慮した特定分野向けの小規模言語モデル(SLM)の活用が進んでいるという。さらに、責任あるAIの実現とリスク管理の観点から、AIのガバナンスに対する重要性が高まっていることを明らかにした。
日立ソリューションズは、2024年4月にAIトランスフォーメーション推進本部を設立。同社は、生成AIをはじめとしたAI技術を駆使するAIトランスフォーメーション(AX)を進めることにより、社会と顧客と自社のDXを加速させ、持続可能な社会の実現に向けたサステナビリティトランスフォーメーション(SX)に貢献することをめざしている。同本部の具体的な取り組みとして、ソリューションの高度化、社内業務の効率化、開発業務の効率化、そしてリスク管理・ガバナンスの4つの柱を掲げている。
実践的な活用事例も着実に成果を上げている。プロモーション業務では、従来1カ月以上かかっていたコラム作成の期間を1日程度にまで短縮することに成功した。その他、問い合わせ対応業務の効率化や、会議議事録作成の自動化、協創活動におけるアイデア発想支援など、幅広い領域で活用が進んでいるという。「今後は自社商材への生成AI適用プロジェクトも進めていきます」と北林氏は語り、継続的な取り組みの展開を示した。
同社の実践例は、生成AIの企業活用における具体的なロードマップを示すものとして注目すべき取り組みといえるだろう。
機密情報もフル活用。生成AIを「すぐに」「セキュアに」企業活用する術とは?
続いてのセッションでは、Allganize Japan株式会社 Solution Sales Senior Manager 池上 由樹氏が登壇。生成AIの実用的な企業活用についての解説が行われた。
生成AIの企業活用において、池上氏は2つの主要な課題を指摘する。
「1つ目は、ChatGPTをはじめ生成AIを利用できる環境を全社に展開しても、従業員からすると具体的な使い方がわからないという活用面における課題、そして2つ目は、セキュリティ面での懸念です」(池上氏)
これらの課題に対し、同社はオールインワン生成AI・LLMアプリプラットフォーム「Alli LLM App Market」を提供している。
同サービスについて、池上氏は「プロンプトを入力しなくても、選ぶだけで使える生成AI・LLMアプリケーションを100個以上用意している」と説明。さらに、ノーコードでのアプリケーション作成・カスタマイズ機能、自社データとの連携機能などを備えており、企業のニーズに応じた柔軟な活用が可能となっている。
特に注目すべき機能として、企業向けに特化したRAG(Retrieval-Augmented Generation)技術を使用した機能がある。
この機能では、質問に対する回答を社内文書の中から自動で生成する際に、同社独自のRAG技術により、質問に関連する文書内の該当箇所を自動でハイライト表示し、生成された回答の根拠を明確に示すことができる。「表や画像を含む複雑な文書でも、自動で適切な前処理を行い、高精度な回答生成を実現します」と池上氏は述べる。
Alli LLM App Marketは、企業のセキュリティポリシーに応じて下記の3つの提供形態を用意している。
1.SaaS型:クラウドベースで迅速な導入が可能
最も導入が容易な形態として、SaaS型のサービスを提供している。池上氏によると、「低コストで最短1日で利用可能」という即効性が最大の特徴だ。ドキュメントなどのデータは同社が管理する環境にアップロードされ、LLMは同社が契約しているLLMのAPIサービスを経由して利用する形となる。LLMをAPIで利用する場合は、顧客企業のデータがモデル学習に利用されることはない。また、顧客企業が独自に契約しているAzure OpenAI ServiceなどのLLMと接続することも可能だ。セキュリティポリシーによってはアップロード可能なファイルに制限が生じるという課題はあるものの、迅速な導入を重視する企業には最適な選択肢となる。
2.プライベートクラウド型:セキュアな環境での運用
「最近では、プライベートクラウドを使用するケースが増えています」と池上氏は言及する。この形態では、Alli LLM App Marketをプライベートクラウド上に実装し、顧客企業が契約しているLLMと接続する構成を採用している。完全なローカル環境ではないものの、プライベートクラウド上でのデータ管理が許容される企業にとって、バランスの取れた選択肢となる。
3.オンプレミス型:完全なローカル環境での展開
最も厳格なセキュリティを必要とする企業向けの選択肢として、完全なオンプレミス環境での導入も可能だ。「特に金融機関や官公庁、製造業などからの需要が高いです」と池上氏は説明する。この形態では、LLMを含むすべてのコンポーネントを顧客企業の環境内に実装する。GPTのような大規模モデルはサイズの問題でオンプレミスには置けないため、同社が提供する専用のオンプレミスLLMを使用する形となる。なお、顧客企業が契約する特定のLLMとの接続も可能だ。
具体例として、大手証券会社での導入事例が紹介された。およそ300種類の業務マニュアルに対する高度な検索機能の実現と、生成AI活用による業務自動化基盤の構築を約3カ月で実現したという。また、クラウドサービスの利用が制限される大手銀行での完全オンプレミス環境での導入例も示された。
「企業によって求められるセキュリティ水準はさまざまです。Alli LLM App Marketはそれぞれの要件に応じた提供形態で、生成AIの活用を短期間で実現可能です」(池上氏)
導入事例から見えてきた!全社で使える安全な生成AI環境の実現方法
最後のセッションでは、2017年からAIによる業務効率化の支援に携わってきたという株式会社日立ソリューションズ スマートワークソリューション本部 ビジネス創生部 エバンジェリスト 小林 大輔氏が登壇。Alli LLM App Marketを100社以上に提案した経験をもとに、安全かつ効果的な全社展開のポイントについて解説された。
まず小林氏は、企業の生成AI活用の実態について言及。帝国データバンク「生成AIの活用に関する日本企業の最新トレンド分析(2024年9月)」によると、生成AIを「活用している」企業は全体の17.3%にとどまり、約半数の企業が「活用しておらず活用予定もない」状況だ。しかし、小林氏は「実際に活用している企業の9割近くが効果を実感しています」という。
活用部門としては経営企画部門が最も多く、企業の中枢での利用が進んでいる。また、企業規模別では1,000人以上の大企業での活用が進む一方で、小規模な企業の方が効果をより実感している傾向が見られる。それは、現状では特定の個人による利用が中心となっており、全社的な展開には至っていない企業が多いためだという。
企業内での生成AI活用を広げるための課題として、小林氏は法規制対応と社内ルールの整備、使いやすさとノウハウの不足、そして情報漏洩などのセキュリティ懸念の3点を挙げる。
「安心して社内で利用できるルール整備を行ったうえで、Alli LLM App Marketを導入することで、利用しやすく、セキュアに生成AIを活用できます。また、自社のセキュリティポリシーに適合させた環境を実現することで秘匿性の高い業務情報も利用可能です」(小林氏)
小林氏は、効果的な全社展開方法の事例として、同社が支援を行った従業員5,000人規模のITサービス企業でのAlli LLM App Marketの導入事例について解説した。この企業では、多くの社員が生成AIに触れて、便利さを実感してもらうことで利用の拡大を図る方針を立て、全社展開を加速するために、部門でのトライアルを行わずに、まず全社公開を行ったことが特徴的だ。社内ポータルサイトを通じたAlli LLM App Marketへの容易なアクセス確保や、親しみやすい名称の採用により、心理的なハードルを下げることに成功したという。
セキュリティ面では、シングルサインオン認証の導入や、全社活用と特定業務用に環境を分離するなど、社内ポリシーに応じた柔軟な対応を実現。日立ソリューションズでは生成AI導入の豊富な実績とノウハウをもとに、SaaSから物理サーバー環境までさまざまな導入形態に対応可能だ。
「今後は生成AIを業務システムやプロセスに組み込み、業務全体を効率化していく流れが加速するでしょう」と小林氏は展望を語る。たとえば問い合わせ対応業務では、受付後の手間のかかる回答作成、進捗管理などを含めた一連のプロセスをデジタル化し、そこに生成AIを組み込むことで、より効率的な業務遂行が可能になるという。
日立ソリューションズでは、今後、こうした業務全体の効率化を実現するソリューションの提供を進めていく。
関連リンク
生成AI(Generative AI)とは?生成AIサービスをビジネスで活用する導入支援
https://www.hitachi-solutions.co.jp/products/pickup/generative-ai/
企業向け生成AI利用環境を提供する「Alli LLM App Market」
https://www.hitachi-solutions.co.jp/allganize/
日立ソリューションズが提供する業務全体の効率化を実現するソリューション
(活文 業務プロセスデジタル化ソリューション)
https://www.hitachi-solutions.co.jp/katsubun/bpds/
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