現代社会の基盤を支える半導体技術。しかし、その製造過程における環境負荷が深刻な課題となっています。半導体産業におけるサステナブル開発は、もはや選択肢ではなく必須の取り組みといえるでしょう。特に、半導体製造の洗浄工程で発生する廃液の処理は、地球温暖化や化学物質汚染といった環境問題に直結する重要テーマの1つです。
この課題に対し、半導体製造装置のリーディングカンパニーであるSCREENグループは、環境負荷を大幅に低減できる可能性を秘めた、画期的な有機廃液削減技術(*)を開発しました。
(*)同技術は、この度、米国アリゾナ州で開催された半導体設備に関する国際学会「UltraFacility 2024」にて発表されました。
今回は、同技術の開発に携わるSCREENホールディングスとSCREENセミコンダクターソリューションズの3名に、技術の詳細や開発秘話、そしてサステナブル開発が半導体産業に与える影響について伺いました。
半導体デバイス構造の複雑化により、有機廃液の処理が大きな課題に
――みなさまの普段の業務内容と、今回の技術開発にあたってのミッションについてお聞かせください。
T. U. さん:
私の所属するSCREENホールディングスでは、半導体製造プロセスにおける新たな要素技術の研究開発を行っています。
今回は、半導体デバイスの微細化に伴い、パターン倒壊を防止するためにはどうしても使用量が増加してしまう有機溶剤イソプロピルアルコール(IPA)と同様、増加が避けられない有機排液に着目し、有機排液を削減するためにIPAと水の分離技術の開発に取り組みました。この技術の一部は確立できていますが、製品化に向けてはまだ多くの実験が必要な段階です。そのため現在は、実験計画の立案や文献の調査、実験結果に対する議論やフィードバックなどをチーム内で定期的に行っています。
S. I. さん:
私とM. I. さんは、SCREENホールディングスの事業会社として半導体製造装置の開発・製造・販売を担うSCREENセミコンダクターソリューションズに所属しています。
私はプロセスエンジニアとして、メーカーや機械設計部門が開発した装置に対して生産プロセスの最適化を行っています。また、5-10年先の量産を見据え、お客さまのニーズを把握し、それに応える形で新しい技術を開発して製品化に向けた取り組みを行うことも我々のミッションです。今回の技術開発では、T. U. さんのチームが開発した基礎技術を実際の製品に落とし込む役割を担っています。
M. I. さん:
私の専門は機械設計で、プロセスエンジニアたちがプロセスを評価できるような環境整備や設計を行うことが主な業務となっています。今回の技術開発でいえば、新技術を実際の装置に組み込む際の設計を担当します。環境性能と経済性を両立させた装置の設計が、私に課せられたミッションだと考えています。
――サステナブル開発は、今やCSR(企業の社会的責任)の観点からも取り組まねばならない問題として認識されています。半導体産業におけるサステナブル開発の現状について教えてください。
S. I. さん:
半導体製造における環境負荷低減への要求が、ここ数年で劇的に高まっています。特に注目されているのが、薬剤の使用量削減と廃液量の抑制です。薬剤の製造工程や廃液の処理工程では、多くのCO2が排出されるため、カーボンニュートラルという観点でも重要な課題となっています。
M. I. さん:
そこには、半導体デバイスの構造が複雑化しているという背景があります。最新のデバイスは、ウェーハ上に超微細な構造物が立ち並ぶ、非常に精巧な形状をしています。それによって洗浄工程の増加とともに洗浄の難易度は自ずと高くなってきています。また、ウェーハ上の構造物を保護するため、IPAをはじめとする揮発性有機溶剤の使用量も増加します。結果として、廃液、とりわけ有機廃液の処理が大きな課題となっているのです。
膜でIPAと水を分離。高精度なシミュレーションモデルも構築
――そうした課題に対し、SCREENグループではどのようなアプローチをとられたのでしょうか。
T. U. さん:
従来の蒸留設備では、エネルギー消費が大きく、また設備の規模も大きいため、装置から出る廃液を直接処理する技術として膜分離技術に着目しました。先ほど述べたように、IPAと水の混合液を高効率で分離・濃縮する技術の開発に取り組んでいます。
IPAは、洗浄工程において、ウェーハ表面に付着した水分を置換し、迅速に乾燥する役割を持っています。しかし、この過程では、大量のIPAと水の混合廃液が発生するため、廃液処理時の環境負荷とコスト増加の原因となっています。そこで今回の技術開発では、IPAと水を効率的に分離する技術の基礎研究と実用化に向けた検証を通じて、有機廃液の大幅な削減と環境負荷の低減を目指しました。
――その技術の詳細を教えていただけますか?
T. U. さん:
カギとなるのは、微細孔を有する膜(とても小さな穴がたくさん開いた膜)で分離する技術です。この微細孔を用いて分子ふるい効果で水分子とIPA分子を分離します。
私たちは装置メーカーとして、自社の装置から出る廃液量や、その濃度などの詳細な情報を正確に把握しているという強みがあります。そのため、より効率的に分離できる膜の選定や分離システムの設計が可能になりました。
また、技術開発においては、高精度なシミュレーションモデルの構築も重要な役割を果たします。当初は実験結果とシミュレーション結果に20%程度の誤差がありましたが、実験条件とシミュレーション条件の最適化や温度管理の精緻化など、細かな調整を重ねることで、現在では誤差を数%まで縮小することができています。このシミュレーションは製品仕様を検討するために使用し、開発期間の短縮に貢献します。
グループ一体となって革新的技術の製品化を目指す
——製品化に向けては、この後どのようなステップが必要になるのでしょうか。
M. I. さん:
製品化に向けては、現在の実験室レベルの成果を実際の製造ライン規模にスケールアップすることが課題です。
T. U. さん:
そのために、先ほど説明したシミュレーションモデルを活用し、大規模システムの挙動予測や最適設計に取り組んでいく必要があります。シミュレーションによって、実機におけるさまざまな条件下での試行錯誤を最小限に抑え、効率的な開発を進めることができると考えています。
S. I. さん:
この技術が実用化されれば、半導体製造における環境負荷の大幅な低減が見込めます。さらに将来的には、分離したIPAを再利用するクローズドシステムの実現も視野に入れています。これにより、資源の有効活用と環境負荷のさらなる低減が可能になるでしょう。
――こうしたSCREENグループの技術開発力の源泉はどこにあるとお考えですか?
T. U. さん:
日常的な協力体制と定期的な情報共有により、グループ全体で緊密に連携しながら開発を進めています。この体制が、革新的な技術開発の基盤となっています。
今回の技術開発プロジェクトは、ホールディングスとセミコンダクターソリューションズ間で1~2週間に1回の定例会を開き、進捗を共有し互いにフィードバックを行っています。また、実験でのトラブル対応にあたっては、電話やチャットを使って日々情報交換や助言し合っています。物理的な距離はありますが、相互に訪問して実験機を確認するなど、face to faceの技術交流も盛んです。
S. I. さん:
ホールディングスは基礎研究や新技術の開発に強みがあり、セミコンダクターソリューションズは実際の製品化や顧客ニーズの把握に長けています。この相乗効果も、技術開発の原動力となっていますね。
M. I. さん:
また、4年前からスタートしたグループ内ローテーション制度により、会社間の壁を取り払い、グループの一体感を醸成しています。スムーズな技術移管や製品化を実現するために、この制度は非常に有効だと感じています。
「人と技術をつなぎ、未来をひらく」ために、生活の豊かさと環境保全を両立させる
――サステナブル開発につながる技術の提供を通して社会に届けていきたい価値について、お聞かせください。
T. U. さん:
私たちは、事業を通じて社会課題に取り組む「ソリューションクリエーター」として、常に10年先を見据えた技術開発に取り組んでいます。半導体産業は急速に進化していますが、さらにその先を行く技術の種を見出し、半導体産業の未来を形づくる技術を提供し続けることが、私たちの使命だと考えています。
S. I. さん:
SCREENグループは、「人と技術をつなぎ、未来をひらく」という存在意義を掲げています。半導体デバイスの発展は、AIや自動運転など、私たちの生活を豊かにするさまざまな技術の基盤となるなかで、SCREENグループの開発する洗浄装置は必要不可欠です。一方で、何も対策しなければ環境に負荷がかかってしまうのも事実です。今回ご紹介したような技術開発をはじめ、環境負荷の低減にも同時に取り組むことで、持続可能な未来の創造に貢献していきたいと考えています。
M. I. さん:
機械設計担当としては、装置の価格や使用する電力量などをコントロールできる立場にあります。環境技術の追求はコスト増加につながりがちですが、そこに甘んじていては真に優れた製品は生み出せません。「環境にも良く、経済的にも優れている」という、いわば「二度おいしい」製品をつくることが私たちの目標です。このアプローチにより、お客さまやステークホルダーの皆さまに、SCREENグループの取り組みの素晴らしさを実感していただければと思っています。
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