楽器や音響を柱として世界にビジネスを展開するヤマハ。同社はミッションとビジョンの実現に向けて事業基盤をより強固なものとするため、情報システム部門主導でデータによる意思決定の推進に取り組んでいる。そのキーパーソンである情報システム部 DX戦略グループ 主幹の濱崎司氏が、10月9日に開催された「Domopalooza Japan 2024」において講演を行い、同社のデータ戦略と実践例を詳細に披露した。本記事ではこの講演とその後の取材から、ヤマハの具体的な取り組み内容に迫る。
なぜ、企業はデータに基づいたアクションができないのか
ヤマハは、ミッションで目指すものとして「世界中の人々のこころ豊かなくらし」を、企業理念として「感動を・ともに・創る」を掲げる。そのうえで、経営ビジョン「『なくてはならない、個性輝く企業』になる 〜ブランド力を一段高め、高収益な企業へ〜」の実現に向け、中期経営計画「Make Waves 2.0」では「成長力を高める」ことを取り組みの中心に据えている。この中で情シス部門が掲げている目標は、事業基盤のさらなる強化をDXで達成することだ。
DXの重点テーマは「新たな価値の創出」と「プロセス変革」の2つ。後者において、全社的に意思決定と行動を変革するためのデータ戦略を推進するのが情シス部門の、そして濱崎氏のミッションだ。
濱崎氏は、データ戦略に取り組むうえで多くの企業が直面する“あるある”の課題として、以下の4つを挙げた。
1.データを見ても意思決定・行動ができない
2.データはあるものの状況や課題を定義できない(データは揃ったはずなのに使えない)
3.そもそも意思決定・行動に必要なデータが揃わない
4.意思決定・行動に必要なデータが何であるかわからない
「なぜ我々はこうした課題に直面するのか。それは、データ起点でアプローチしているからです。そうではなく、意思決定と行動の変革を起点とし、そこからバックキャストして必要な取り組みを定義していくことが重要です」と濱崎氏は語る一方、もうひとつ乗り越えるべき壁があるとして下記に挙げる3つの違いを指摘する。
1.認識の違い
同じ状況を見ても、To Be(あるべき姿)とAs Is(現状)の両者のギャップをどう認識するかは人により異なる。
2.役職・職責の違い
誰が何に対して意思決定を行い、何に基づいてどう判断・行動するかは、当然ながら経営層、事業部長・部長、現場管理者、社員といった立場により異なる。
3.意識の違い
ビジネスは常に環境変化にさらされるので、その変化と対応に関する意識も異なる。
この3つの違いによらず、課題を正しく認識・設定していくための道しるべたるものがデータであると濱崎氏は言う。
社内における認識の違いを正すDomo活用の取り組み
個々人による認識の違いを解消するためには、データによる認識合わせが重要であると話す濱崎氏。具体的には「意思決定に必要なデータの定義・統合」「意思決定に至る思考プロセスのBI化」「意思決定の最適化」という3つの取り組みを進めてきたと語った。
濱崎氏は、意思決定は社内のデータだけでは行えず、社内データの妥当性を測るエビデンスとして社外のデータも必要だと話す。ましてや市場環境が激変する中、その変化を捉えるデータがより重要になっており、WebやSNSで得られるものも含めた“人起点”の情報を理解し活用することが必須だと強調した。
そのうえで、社員個々人で異なるデータを用いるのではなく、同じデータを見て意思決定を行うため、定性ではなく定量で分析できるデータを企業として整理し提供することが必要だと濱崎氏。そこでキーとなるのがBIだ。
そもそもヤマハでは2000年代を迎える前後から、思うように収益が上がらない事業全体の構造的課題を実感し、その解決のためBIツールを導入してきた。当初は部門最適の考え方から一部でBIツールの活用が始まったが、その後、全社KPIとして管理すべきデータ(すなわち、全社最適のためのデータ)、組織横断で共有して意思決定に用いるデータ(すなわち、課題最適のためのデータ)という2つの観点で棚卸しを行い、それぞれに適したBIツールを導入した。
このうち、全社最適の観点で採用したのが「Domo」だ。意思決定に必要なデータの定義・統合の取り組みでは、多様なデータを市場把握、競合把握、財務状況把握、非財務状況把握といった目的別に体系化し、理解しやすいように整理する必要があった。そこでモニタリングに長けたDomoを活かし、目的別のダッシュボードやアプリで整理。さらに、意思決定には下記のような思考の切り替えが必要になるが、その思考プロセスのBI化もDomoで行っているという。
1.ロジカルシンキング(論理的に物事をブレークダウンすること)
2.ラテラルシンキング(結果に至るプロセスを複数考えること)
3.クリティカルシンキング(前提条件、状況を疑うこと)
例えばDomoのダッシュボードでは、フィルターによる条件絞り込みとテーブル内の行クリック・プルダウンによるブレークダウンでロジカルシンキングを、そして得られたデータを比較することでラテラルシンキングをサポート。加えて、「Domo App Studio」で開発したローコードアプリによってロジカルシンキングとラテラルシンキングをタブで切り替えられるようにしているほか、ページナビゲーションと組み合わせることで前提条件を疑うクリティカルシンキングも可能になっている。
「視線を変えず思考を止めないBIを、Domoの中で実装できました。Domoはとにかく使いやすい。エンドユーザーのことを考えれば、BIツールは使いやすく、かつ見る人に優しくなければいけないと思います。Domoはその要素が満たされているのに加えて、全自動であることがポイント。さまざまなデータソースを自動でつなぎ、しかもいつでも最新のデータを閲覧できますし、それが売上に貢献したかどうか、因果関係も含めてロジカルに考えることができます。Domoによって、データをもとに状況を認識し、いま何を意思決定すべきかを判断する文化が当たり前のものになってきました」
もちろんこうした文化の浸透にあたっては、当初、BI活用で得られるメリットを説明するために見せるものがないことで苦労したという。「Domoでさまざまなデータを手軽に見て、比較したり考えたりできることに加えて、社内サイトでの情報発信にも力を入れるなど、とにかく先手先手で目に見えるものを作ることで地道に広げていった実感があります」と濱崎氏は振り返る。
ミッション・ビジョン実現に向け必要な定量化・言語化の道筋
前述のデータによる認識合わせの3つの取り組みにおいて最後にくるのが、BIはもちろんAIやBPA(ビジネス・プロセス・オートメーション)も駆使した意思決定の最適化だ。濱崎氏は、可視化して判断しやすくなるもの、統合して判断しやすくなるものについては、ぜひともBIにより可視化すべきだと力を込めた。一方で、膨大なデータ収集を伴ったり、複雑な加工を伴ったり、そもそも収集が目的ではなく要約した情報を求めるものに関しては、生成AIを使うべきだとする。ただし、単純に生成AIに投げても期待する結果が返ってこないケースが多いため、「優秀なプロンプトをDomoの中に埋め込んでいます」と対策を明かした。
具体的には、Domoで出した競合分析結果をより掘り下げたいといったとき、同社内のビジネスアナリストの知見を活かした生成AIプロンプトをDomoのタブに用意し、そこからダイレクトに要約を得られるようにしている。つまりBIとAIの掛け合わせだ。ビジネス環境が日々劇的に変わっていき、データの横断比較が難しい今のようなときこそ、こうした施策が意思決定の最適化を手助けしているというわけだ。そして、このヤマハの取り組みから分かるとおり、DomoはほかのBIツールとは異なる「BI+αのソリューション」を提供するものとなっている。
課題を正しく認識する取り組みとしては、認識の違いを解決するためのデータによる認識合わせ以外に、役職・職責の違いをなくすためのDX教育による視点合わせ、意識の違いを克服するための組織を超えた意識合わせという道筋があり、同社はそのすべてに取り組んでいる。濱崎氏は、この3つをそれぞれ単独ではなく連携しながら実践することで、意思決定と行動が持続可能な仕組みとして定着していくと語った。
「ヤマハのミッションやビジョンを実現していくには、“こころ豊かな”や“感動”とは何かをデータできちんと理解し、お客様に提供している価値も定量化・言語化して、次のアクションにつなげられるようにしなければなりません。私としてもその考え方から、これからも社内のデータアンバサダーとしてデータ活用推進に取り組んでいきます」
ヤマハと濱崎氏のデータに対する臨み方、そしてDomoを活かした実践が、多くの企業にとって参考になることだろう。
[PR]提供:ドーモ