地球温暖化対策として二酸化炭素の排出を抑える脱炭素化の動きが世界の潮流になっている。その流れで、化石燃料による火力発電から太陽光発電などの再生可能エネルギーへの転換や、ガソリンエンジン車から電気自動車(EV)への転換が進んでいる。これに対する半導体技術の貢献としては、電力の使用効率を向上したり、電力の消費量を抑えたりするパワー半導体があり、電力変換器、充電システムなどに用いられている。

脱炭素化の流れが加速するなか、パワー半導体にはさらなる高効率化が求められており、パワー半導体のトップメーカーであるInfineonはこのたび新製品を投入する。同社のパワー半導体事業について、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の金 志炫 (Kim Jihyun)氏と大川雅貴氏に話を聞いた。

  • インフィニオンテクノロジーズジャパン株式会社 金 志炫 (Kim Jihyun)氏、大川雅貴氏

耐圧2000V品を市場投入

現在のパワー半導体の材料は、ロジックICやメモリーにも用いられているSi(シリコン)が主流だが、今後はより材料特性に優れたSiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)やGaN(ガリウムナイトライド、窒化ガリウム)がカバーする領域が広がると見られている。SiCはSiよりも電力損失が少なく、高温でも安定して動作し高い電圧をかけても壊れない特性を有する。

脱炭素化の流れで、EVのバッテリー管理システムやエネルギー貯蔵システムが大容量化したり、再生可能エネルギーでは太陽光発電や風力発電の発電量が増加したりしている。そのため、低損失で高効率なシステムが求められており、Siパワー半導体からの根本的な解決策として、SiCを用いたパワー半導体の需要が高まっている。

  • アプリケーションごとに求められる定格電力とスイッチング周波数に基づき潜在能力をフルに活用

Infineonは20年以上にわたってSiCパワー半導体を手掛けており、すでに「CoolSiCTM」としてSiCのMOSFETやディスクリートを市場投入している。これまでDC1000Vを対象に耐圧1200V品や耐圧1700V品の製品を展開していたが、現在、特に中国でDC1500Vの太陽光発電システムの需要が増えていることもあり、大容量化の要求が高まっている。

大容量化の流れは今後も進む見込みであり、Infineonは今回、耐圧2000VのSiCパワー半導体を市場投入する。MOSFETとダイオードを発表するが、ディスクリートの耐圧2000V品は同社が初めての製品化となる。

対象となるアプリケーションは太陽光発電を筆頭に大容量の再生可能エネルギーやEV充電システム、蓄電システムなど。また、EVのバッテリーに蓄えた電力を家庭用に活用するV2H(ビークルトゥホーム、Vehicle to Home)での活用も想定している。耐圧2000VのSiCパワー半導体を使うことで、システムの電圧を上げてDC1500Vに対応可能となるほか、デバイスを小型化できるため、システムのデザインの簡素化や、システム全体のコスト削減に貢献する。

今回の耐圧2000V品は、従来からInfineonが培ってきた技術を高耐圧に対応させたものだ。既存技術としては、接合に「.XT」技術を導入している。同技術は、拡散はんだ付けを行い、標準的なはんだ付けよりも、はんだ接合部を削減するものである。これにより、熱伝導率を15%改善し、熱特性が向上。また接続部の熱抵抗を25%削減したほか、接続部とケース間の熱インピーダンスを45%以上削減している。すでに耐圧1200V品に導入されており、今回の耐圧2000V品でも採用され、熱特性を大幅に向上させている。熱特性を向上させることで、ユーザーは熱に対して余裕を持った設計が可能となる。

なお、耐圧2000V品のパッケージは、TO247で既存の製品と同じシリーズになるが、沿面距離や空間距離を稼ぐ工夫をして、高耐圧に対応している。ラインナップはMOSFETが12mΩ、24mΩ、50mΩ、75mΩ、100mΩ、ダイオードが80A、50A、40A、25A、15Aのそれぞれ5品種となっている。

  • 2000V CoolSiC MOSFETとダイオード:新しい電圧クラス、新しいパッケージ

また、モジュールは62mmパッケージとEasyPACKパッケージに対応する。62mmパッケージはEV充電器や蓄電システム、サーキットブレーカーなど、EasyPACKはDC1500Vの太陽光発電のインバーターなどに用いられている。なおEasyPACKは顧客の要望に応じてデバイスの構成やレイアウトをカスタマイズ対応しており、62mmパッケージでは評価ボードも提供している。

積極的な投資で需要増に対応

SiC需要の高まりを見越して、Infineonはパワー半導体の設備投資を積極的に進めている。現在SiCの普及の1番の課題はいかに必要とされるウェハーを十分に供給できるかであり、そのための体制を整えている。すでに2021年に稼働を開始しているが、オーストリアのフィラッハ工場に16億ユーロ(約2000億円)を投資。Siパワー半導体を300mmウェハーで生産するほか、IGBT、SiCのMOSFETの製造をおこなう。また、50億ユーロ(約7000億円)を投じてドイツのドレスデンに新工場の建設を決定し、2026年に稼働を開始する予定だ。

さらに20億ユーロ(2600億円)を投じてマレーシアのクリムに工場を建設しているが、第1期は今年8月に稼働を開始した。クリム工場はさらに第2期の投資を計画しており、投資額は50億ユーロ(約7000億円)で、第1期と合わせて総額70億ユーロ(約1兆円)となる。なお、そのうち約10億ユーロは顧客から前払いがあり、約10億ユーロ分のデザインウインを見込んでいる。

現在、SiCパワー半導体は150mmウェハーが主流だが、これらの投資により大口径化を進める。クリムでは世界最大の200mmウェハーのSiCパワー半導体工場を実現することになる。

Infineonとしては、今後の10年で売り上げを10億ユーロから70億ユーロに引き上げる目標を掲げており、これらの生産能力増強で需要増に対応できる体制を整えている。

  • 大幅な生産能力拡大により10年間でSiCの市場シェア30%を目指す

また、SiCウェハーの供給量の確保も進めている。日本のレゾナック・ホールディングス、米国のコヒレント、ウルフスピードに加え、中国のSICC、TanKeBlueと新たに供給契約を結んでいる。Infineonが要求する品質を満たすメーカーであることを前提に供給先を分散させてバランスを取っている。また、優れた品質を実現する低価格サプライヤーからも供給し価格競争に追従する。さらに200mmウェハーへの大口径化のロードマップも定めている。これらにより、成長計画に必要なウェハーを十分確保している。

コスト削減技術でSiC普及を促進

現状でSiCウェハーはSiウェハーより高価であるため、SiCパワー半導体の需要増大に対応するためにはさらなるコスト削減が求められる。そこでInfineonは、次世代製品向けに「Cold Split」技術を準備している。同技術は18年に買収したオーストリアSiltectraの技術である。

従来のSiCパワー半導体は、SiCウェハーを切り出す前の単結晶材料であるSiCブールからウェハーを削り出してデバイスを形成しており、原材料の75%が廃棄されていた。これに対し、Cold Split技術は、デバイスを形成したウェハーを水平方向に分割し、デバイスを形成されていないウェハーにも再度デバイスを形成する技術で、ウェハーから取れるチップ数を2倍以上にする。これにより、原材料の損失を削減し、デバイスの製造コストも削減できる。同技術は現在クリム工場で試作段階にあり、2025年に量産ラインに導入される見込みだ。

  • インフィニオンのコールドスプリット技術はSiC製造時の原料ロスを大幅に削減

こうした取り組みを通じて、InfineonはSiCの需要増に対応し、SiCパワー半導体の普及を促進させることで脱炭素化の加速に貢献していく。

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