今やあらゆる企業がデータの重要性を認識し、データ収集も行っている。にもかかわらず、そのデータを現実の経営課題解決に活かせている企業は多くないだろう。こうした現状の中、ではどう取り組めばいいのか、具体的なソリューションはあるのか、デジタルツインをベースにデータドリブンを超えた“ファクトドリブンマネジメント”を打ち出す日本電気(以下、NEC)のプラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門 Digital Twin Business Hub 主席プロフェッショナル 中村公弘氏と、マイナビ TECH+推進統括部 統括部長の星原康一が対談した。

  • 日本電気株式会社 プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門 Digital Twin Business Hub 主席プロフェッショナル 中村公弘氏と株式会社マイナビ TECH+推進統括部 統括部長 星原康一の対談写真

    左から、日本電気株式会社 プラットフォーム・テクノロジーサービス事業部門 Digital Twin Business Hub 主席プロフェッショナル
    中村公弘氏、株式会社マイナビ TECH+推進統括部 統括部長 星原康一

スポーツ界に学ぶデータ利活用の最先端

マイナビ 星原(以下、星原): 人手不足や生産性向上が深刻な課題となっている製造業・物流業では、データ利活用の取り組みもスタートしていますが、なかなか効果が出ていないようです。背景にはどういった問題があるのでしょうか。

NEC 中村氏(以下、中村氏): AI、IoTといったデジタルテクノロジーが社会や産業、企業のあり方を変えつつあり、そこに対する期待感も高まっています。ところが実際にデジタルのパワーを利活用しきれているのかといえば、期待と現実の間にはまだ相当なギャップが存在します。

星原: 具体的にどのようなギャップですか?

中村氏: いったん企業経営から離れてスポーツの世界を見てみますと、映像やセンサーを活用して、アスリートの動きやボールの速度・方向を常に分析する取り組みが進んでいます。

星原: メジャーリーグを見ていると、細かなデータがよく画面に表示されますね。

中村氏: はい。メジャーリーグでは、高精細カメラで記録した映像をAIで分析してボールの回転や球種を自動判定したり、タブレットで過去のプレーをチェックしたり、トレーニングの際も自分のコンディションや運動量をリアルタイムに確認したり…といった、映像やセンサーのデータをうまく活用してプレーの質を高める取り組みが進んでいます。 ポイントは「パフォーマンスをより高めて、試合に勝つ、昨日の自分を超える」といった目的をしっかり持ってデータを採り、“改善”に活用している点です。

星原: 言葉は悪いですが、ただ闇雲にデータを採ってもダメだということですね。

中村氏: 目的に応じて必要なデータは変わります。時間や環境による変化、いつもとの違いをデータで捉えて、リアルタイムにフィードバックする。このプロセスを繰り返すことで、さらに上を目指すトレーニングを実施したり、最高の状態でプレーできる状況を作り出したりできるわけです。さらにチームスポーツであれば、全選手のデータを捉えることでチーム全体のパフォーマンスを最大化できます。

企業では“目的に応じた”データ取得ができていない

星原: 一見遠い世界のようですが、スポーツ界の取り組みから企業経営に活かせる気づきが得られるのですね。

中村氏の写真

中村氏: そうなんです。ところがいろいろな企業に聞くと、IoTで機械のデータはたくさん集めているが、ぜんぜん活用できていないという話をよく聞きます。現場のひとやものの動き、あるいは周辺のできごとや環境といったことがまだデータ化されていないのです。いくらAIという高性能エンジンがあっても、エンジンを動かす燃料となるデータが十分でなければ、エンジンの性能は発揮できないわけです。 当社はこの考えに基づき、現場で起きていることを正しくとらえ、課題を解決して変革を起こす基盤となるデジタルツインを考えています。

星原: NECが考える「NEC Digital Twin」の全体像を教えていただけますか。

中村氏: これまでデータ化されて来なかった、現場のひとやものの動き、周辺環境などを映像で捉え、映像AIで解析することで、現場で起きていること、いつ・どこで・誰が・何を・どうしたという現場の動きや流れを、言い換えれば「現場のファクト」を高精細に捉えてデジタル空間に再現する。それが当社のデジタルツインの考え方であり、現場のファクトを企業の経営・マネジメントに供給することが私たちの役割だと考えています。

星原: これまではセンサーで動きを検知するのが精一杯でしたが、今はAIの活用で映像から多様なデータを抽出し、動きを識別・分類することや、行動の意味を特定することが可能になってきたということですね。

中村氏: はい。技術革新が劇的に進み、映像処理に必要な処理コスト、ストレージコストもこれまでとは比較にならないほど安くなってきたので、当社が得意とする映像AI技術とデータ統合技術を存分に活用できる環境が整ってきました。

星原: メジャーリーグの例のように、企業経営やマネジメントに活かしていくという観点ではいかがですか?

中村氏: メジャーリーグに限らず、オリンピックやパラリンピックを見ても、もはや映像での判定システム(VAR:Video Assistant Referee)は常態化しました。 映像技術をうまく使うことで、現場のファクトに基づく経営、すなわち「ファクトドリブンマネジメント」のソリューションを提供できるようになってきました。 これからの企業経営を支える基盤となるデジタルツイン、ファクトドリブンなマネジメントを支えるデジタルツインを「新たな経営の基盤(プラットフォーム)」として造っていける環境が整ってきたと考えてよいと思います。

  • 図版、NECの考えるデジダルツイン

NEC Digital Twinが実現するデジタル空間上の現場

星原: デジタルツインを実際の現場でどう活用していくのか、教えてください。

中村氏: 例えば工場で作業している映像から、骨格や手の位置・動き、作業台の上の部品、さらには部品を持ってきた、工具を使った、機械を動かしたといった行動を自動的に識別して、「作業着手」「作業中」「作業完了」「待ち」などの作業内容を自動判定します。こうして「個」の動きを捉え、機械の動作データとも関連付けて分析することで、標準作業との差やベテランと新人の作業時間の違い、メンテナンス中なのかチョコ停(チョコッと停止している状態)なのかがわかります。また、生産計画や実績との相関関係を見ることで、計画通りに物を作れたか、品質はどうだったか、トラブルの原因は何だったかなども見えるようになり、現場作業の改善につなげられます。

星原: それはまさしくアスリートが、複数データを統合してパフォーマンス向上に活かしていくのと同じですね。

中村氏: その通りです。それに加えて、スポーツの世界で個人の能力アップにとどまらずチーム力向上にも活かしているように、現場の「全体」を捉え、工程の最適化や生産性向上に役立てることができます。具体的には現場の全容を複数のカメラで捉え、作業者の状況を自動識別してマップ上に表現します。このように、映像で捉えた人や機械、周辺の動きを分析し、時間軸・空間軸を合わせてデジタル空間上にプロットしていくことで、現場を忠実かつ高精細に再現するのがNEC Digital Twinのコンセプトです。そしてこのデジタルツインこそが、企業にとって新しいデジタル空間上の現場になると考えています。

星原の写真

星原: 現場をデジタル空間に再現できれば、例えば国内外の工場や倉庫の状況を一元的に把握できますね。

中村氏: はい。その通りです。さらに「全体」をデータ化できれば、3つ目のステージとして「流れ」の最適化が可能になります。現場の作業を一つ一つのプロセスとしてとらえ、そのプロセスの同士のつながりを全体で俯瞰して把握することができるようになり、個々のプロセスの待ちや滞留に加え、プロセス間のボトルネックも把握できるようになり、プロセス全体を通したリードタイムも把握できるようになります。 待ちやムダ、ムリ、ボトルネックに狙いをつけて改善していくことで全体の「流れ」がスムーズになり、生産性向上を実現できるようになります。

星原: サボっているように見える人がいても実は部品の待ち時間であったり、あるいは作業していてもその動きがボトルネックになっていたり、という現場のファクトをつかめますね。

実用化に向けたソリューション活用が始まっている

中村氏: これまでのデジタルツインは、言うなれば現実世界を模擬するためのシミュレータでした。対して当社のデジタルツインは、現実世界で起きていることをデジタル空間に写し取ったデータ空間であり、NECが長年培ってきた、映像認識技術の強みを活かしたのがNEC Digital Twinだといえます。 NEC Digital Twinは、オープンな仕組みとして開発しましたので、さまざまな見える化のアプリやツール、分析ツール、最適化、AI、シミュレータなどと組み合わせて使うことができるようになっています。

星原: すでに実用化されているのでしょうか。

中村氏: 「NEC リソース最適化ソリューション」として、工場の製造現場や物流企業の倉庫で実証実験がはじまっています。物流倉庫では現場全体を複数のカメラで捉えて、曜日別や時間帯別の作業負荷変動を見て、最適な人員配置に活用しようというユースケースが出ています。製造現場でも、製造プロセス全体をとらえて、待ちやムダを減らす、「流れ」の最適化を目指すといったユースケースが出て来ています。

星原: データは、まずは蓄積しなければ次のアクションにつながらない。そう考えると、それこそ先行者利益といいますか、データの的確な収集を早く始めなければどんどん後に置いていかれますね。

中村氏: 早く動き始めた企業ではデータ活用が進展しています。他社の成果を見てからではなく、自社の将来を担うデジタル基盤と位置づけて、今すぐ動き出すほうが良いことは間違いありません。日本全体で生産性を高め、日本の製造現場や物流現場はやはり世界一だと評価されるように、NECとして精一杯サポートしていきたいと思います。

  • 図版、NEC  Digital Twin
  • 中村氏の写真

「NEC リソース最適化ソリューション」による現場の映像分析を50万円からお試しできるプログラムが用意されている。今回の記事で興味を持ったなら、ぜひトライしてみてはいかがだろうか。

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