製造業における制御装置や医療機器、測定機器といったさまざまな製品に組み込むPCとして用いられるのは、FAPC(Factory Automation PC)や産業用PC(Industrial PC)と呼ばれる製品が一般的だろう。しかし、そういったいわゆる組込みPCというのは、OSにEmbedded OSと呼ばれる専用OSを用いており、業務に利用する通常のofficeソフトなどが使用できない場合が多い。そこでやむを得ず一般のPCを組込み用PCとして導入する企業も数多く存在するそうだ。

そこで本記事では、2023年にマイクロソフトより正式にリリースが発表された、Embedded OS専用のアップデートを必要とせず長期安定稼働を実現するofficeソフト、“Embedded Office”と、FAPCや産業用PCに取って代わるロングライフPCについて、産業向け製品の調達・販売から導入・運用・保守までトータルでソリューション提供を行う菱洋エレクトロ株式会社の担当者に話を聞いた。

Embedded OSとは

組み込みOSとも呼ばれ、医療機器や家電製品などの特定の用途が決まっている製品に対して、その機能を果たすために個別で組み込まれるOSのこと。ある機能に特化して組み込まれているため、特定の動作に対しての質の高さや安定性を確保できる特徴がある。さらに必要な機能だけに絞り特化しているため、コスト削減も実現できる。

Embedded Officeとは

組み込み用PCでの使用を前提にライセンス設計されたMicrosoft Office。利用するメリットとしては、供給期間が決まっており、その間は更新が行われず仕様が固定されるため、アップデートによって他のシステムが影響を受けることを避けられるうえ、定期的なアクティベーションの必要性がないことも挙げられる。製品開発は数年単位となることが当たり前であり、日本の組み込み市場では固定仕様のままシステムを使い続けたいというニーズが強い。Embedded Officeでは一般ユーザーが使うMicrosoft 365と異なり、新機能の追加や更新が行われないため、製品ライフサイクルを安定して描きやすくなる点もメリットだ。

ロングライフPCとEmbedded OS/ Embedded Officeへの熱視線

「FAPCは、組み込みに使用する場合の導入や運用保守に要するコストが高く、企業で採用されるケースが減少しています。また、生産するメーカー側としても信頼性の高い製品として設計・開発を行うには手間がかかることから、FAPC事業の撤退が進んでいます。そのような現状のなかで、いま注目度を高めているのが、5年から10年という中長期の利用を視野に部材供給と保守サポートの体制を整えたロングライフPCです」(田畑氏)

組み込みPCのトレンドについてこう説明するのは、菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 ソリューション第4ビジネスユニット 営業第1グループの田畑俊平氏だ。

  • 菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 ソリューション第4ビジネスユニット 営業第1グループ 田畑俊平氏

    菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 ソリューション第4ビジネスユニット 営業第1グループ 田畑俊平氏

そして、こうした組み込み用途のPCでは、一般消費者やビジネスユーザーが日頃触れるものとは異なる組み込み向けOSがインストールされており、WindowsにもWindows 10/11 IoT EnterpriseというEmbedded OS(組み込み用OS)が用意されている。長期稼働を前提とした装置・機器に組み込まれるOSは、長期間安定的かつ安全に稼働できることが最優先のため、アップデートが行われるとソフトの動作に問題が生じるケースもあることから、WindowsのEmbedded OSには定期的なアップデートを一切行わないLTSCというバージョンもラインナップされている。

それに加えて、いま新たに注目の対象となってきたのが、やはり組み込み用途専用で提供が始まったEmbedded版のMicrosoft Officeだ。同本部 ソリューション第6ビジネスユニット 機種担当リーダーの永野哲也氏が解説する。

「OSと同様、その上で使われるアプリケーションも、アップデートなしで同じシステムを長期間使い続けたいというニーズが存在します。OSについては、一般PC向けのWindowsを製品に組み込んでいたお客様がEmbedded OSの存在を知り、更新なしの変わらない状態で長く使い続けるために切り替え、といったケースが多いです。 一方で、組み込み向けのEmbedded Officeライセンスはそもそも存在しませんでした。一般のOfficeライセンスをEmbedded OSに組み込むお客様も一部いたのですが、やはりサポート等の面から安心して使える状況ではなかったのです。そこにマイクロソフトが2023年、EmbeddedのOfficeライセンスを初めてリリースしたことで、安心してEmbedded Windowsとセットで使えるようになり、実際に組み合わせて採用するお客さまがこの1年ほどで増えてきました」(永野氏)

  • 菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 ソリューション第6ビジネスユニット 機種担当リーダー 永野哲也氏

    菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 ソリューション第6ビジネスユニット 機種担当リーダー 永野哲也氏

Embedded Officeならではの固定仕様というメリットを享受

WindowsにせよOfficeにせよ、Embedded のライセンスは供給期間が固定で設定されている。そのため、顧客が自社製品に組み込むためのPCとして導入すれば、先々に不安を感じることなく、その製品のロードマップを描けるようになる。さらに運用上の利便性もあると永野氏は話す。

「PCでOfficeを使うにはライセンス認証やアクティベーションが必要になります。一般消費者向けOfficeの場合、初めて使うときだけでなく180日ごとのアクティベーションも求められるのですが、EmbeddedのOfficeは最初にライセンス認証を行うだけで、180日ごとのアクティベーションは不要な仕様になっています。例えば医療機関で利用されるメディカルデバイスにEmbeddedのOfficeを導入すると、アクティベーションのたびに業務が止まり、支障が出るといった事態も避けられるわけです」(永野氏)

実際に測定機器メーカーの顧客から、一般向けOfficeを組み込むと業務が妨げられる可能性があるうえ、アップデートがかかって必要な機能が使えなくなる不安もあることから、Embedded版で仕様を固定したいという声を聞くなど、ニーズの高まりを感じていると田畑氏も語る。

日本HPのロングライフPCと組み合わせたユースケースに注目

組み込みPCとして新たな主軸となってきたのが、冒頭で田畑氏が話した、5〜10年の製品ライフサイクルを有するロングライフPCだ。菱洋エレクトロは、ロングライフPCにEmbedded Windows/Officeを導入してのキッティングはもちろん、顧客企業が独自に開発した業務ソフトやPCメーカーが提供しない他社製ハードウェアの組み込み、安全稼働を実現するセキュリティ、さらには長期保守サービスまで、各メーカーの一次代理店として一括対応できるところが大きな強みとなっている。

「当社はマイクロソフトのライセンス製品を30年以上前から取り扱っており、マイクロソフトの一次代理店としては最古参の一社です。そこで培った知見と経験に加えて、社内にはEmbeddedライセンス専属のテクニカルサポート部隊も抱えています。現状でEmbeddedのWindowsとOfficeをしっかりと扱える一次代理店はそれほど多くはなく、その点も含めて当社の優位性と考えています」と永野氏。顧客側としても、PC、ソフトウェア、セキュリティ等のそれぞれを異なる企業に依頼すると管理の手間が増え、コストも高くなってしまうケースが多いため、一括対応へのニーズは高いと話す。

また菱洋エレクトロでは、Embedded Windows/Officeを組み込むロングライフPCとして、日本HPの製品を提案することが多いという。

「ロングライフPCを提供するメーカーはいくつもありますが、その多くはバリエーションが豊富とはいえません。その点、HPにはタワー型もあればモニター背後に付けられるコンパクトPCもあり、さらにはロングライフのタブレット端末も用意されているので、多様な業種のニーズにフィットします。HP製品は幅広い導入実績から信頼性も高く、部材供給や充実した保証の安心感もあるため、メーカーとしてロードマップを立てやすい面も評価されています」(田畑氏)

HP Engageシリーズ

  • HP Engage Flex Mini

  • HP Engage Flex Pro G2

  • HP Engage Go 10

  • HP Engage One Pro

EmbeddedのWindowsと日本HPのロングライフPCを組み合わせたユースケースとしては計測機器、医療機器、検査装置等が多く、POSレジやATM、複合機等でも使われているという。

「どの業界も製造する製品のライフサイクルが5年から10年ということが多く、ロングライフPCと定期アップデートのないEmbedded OSがマッチしています。この組み合わせにより、不安を感じず製品供給に取り組めるという話を聞きます」(田畑氏)

今後について田畑氏は「一次代理店としてメーカーとの付き合いが長いがゆえの信頼性と実績という強みを活かし、保守サービスなどアフターフォローも一層強化して、お客様の要望に応えていきたいと考えています」と話す。永野氏も「日本HPのロングライフPCとEmbeddedのWindows OS、そしてOfficeも組み合わせ、お客様のものづくりをより強力に支援していきたいです」と力強く語った。

  • ロゴ前集合写真

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