Denodo Technologiesは2024年7月3日(水)、ホテルニューオータニにて技術カンファレンス「Denodo DataFest Japan 2024 AIと論理ファーストアプローチを活用した最新データマネジメント」を開催した。本稿では、注目のセッションについてダイジェストでレポートする。
生成AI時代のデータ管理の将来 / 論理データ管理の革新
まずDenodoからは、創業者兼CEOであるアンヘル・ヴィーニャ氏とCTOで製品開発のトップであるアルベルト・パン氏が来日。アンヘル氏は、オープニング・キーノートとして、今年創業25周年となるDenodoの今後の取り組みやデータ管理の将来像について語った。同氏は、Denodoのかかげるデータ仮想化技術を活用した論理ファーストアプローチによるデータ管理手法(論理データ管理)が、これからの生成AI時代にますます重要な鍵となることを説明。そのビジョンを体現するDenodo Platformおよびその最新バージョンであるDenodo Platform 9.0の生成AIアプリケーションなどとの連携を含む新機能や、今後のマイルストーンについて、プロダクト・キーノートとしてアルベルト氏が話を展開した。
未来を創る生成AI戦略:自動化の自動化
シナモンAI 家田佳明氏の講演では、生成AIの進化が業務プロセスに与える影響と、企業がAIを効果的に活用するための戦略について論じられた。
家田氏はまず、2023年3月のGPT-4登場以降、生成AIが急速に注目され、日常生活に浸透してきたが、企業におけるAI導入に残る課題として、特に、非英語圏特有の問題として、文書の解析精度が低いことを指摘した。
AIの導入が、期待ほど効率化をもたらしていない理由に、家田氏は「ロングテール業務の壁」を指摘。大企業では日常的な業務が細分化され、自動化が難しいこと、また、日本企業がAI投資の目的をコストダウンとしている点も課題だという。
こうした背景からAIの本質的な価値を「Augmented Intelligence(拡張された知能)」と捉え、「AI活用の本質は、人間ができることを拡張するという発想を持つこと。単なる人工知能と考えるとコストダウンの発想になってしまう」とし、人間の認知能力の限界を補い、思考の効率を高めるツールとしてAIを活用すべきだと主張した。
AI導入の成功には、従来のROI分析中心のアプローチではなく、従業員体験(Employee Experience:EX)起点のアプローチが重要だと家田氏はいう。使いやすさや有用性を実感できる環境を整えることが、AI導入の鍵となる。
また、ドキュメント解析技術を活用したRAG(Retrieval-Augmented Generation)システム「Super RAG」の開発について紹介された。複雑な文書や図表を解析し、LLMに投入できるようにすることで、企業の持つ多様なデータを活用可能にする技術だ。これを利用した将来的なビジョンとして、家田氏は生成AIをインターフェイスとした特化型エージェント群の構築を提案した。
「たとえば、マルチモーダルなバーチャルアシスタントに相談することで、社内の照会対応や社内データ検索に特化したエージェントがさまざまな問題を解決していけるようになる」(家田氏)
最後に家田氏は、AIの活用においては人間との強化学習ループが重要だと強調した。AIの出力を人間が検証し、足りない情報を補完していくプロセスを通じて、システムの精度と有用性を高めていく必要があるということだ。
鉄道事業のデジタル変革~JR西日本グループ長期ビジョンの実現に向けたデジタル技術による挑戦~
西日本旅客鉄道(JR西日本)は、グループのデジタル戦略を掲げ、顧客体験と従業員体験の向上、および鉄道システムの再設計を目指している。同社 真嵜弘行氏は講演で、「今までどおりの鉄道を営むことは継続困難。変革の波のなかで何ができるかという視点で長期ビジョンを掲げている」と述べ、イノベーションによる新たな価値創造の重要性を強調した。
同社は2018年に20年後の理想像からバックキャストした技術ビジョンを策定し、その実現に向けた取り組みを進めている。技術ビジョンの一環として、大阪梅北エリアでは未来技術の展示を行っている。たとえば、ふすまのようにホームドアが動くフルスクリーンホームドア、顔認証によるタッチレス乗車、AIによる案内業務などの革新的な技術が紹介されている。また、連節バスの自動運転実験など、車両技術も進化しているという。
同社によるデジタル変革の核心は、散在していた各部署のシステムを統合し、データ連携を容易にすることにある。この目標を達成するため、JR西日本は3つの主要なデータ基盤として、鉄道運行系システム、設備・業務システム、顧客会員データ基盤の整備を進める。真嵜氏は「データを利用したい側としてはバラバラにもらっては困る。まとめてもらったほうが利用しやすい」と指摘し、統合的なデータ基盤の必要性を説明した。
特に注目すべきは、リアルタイムデータを扱う鉄道運行系システムだ。Denodoのデータ仮想化技術を活用し、IPD(Information Providing Database)基盤を構築。これにより、列車の遅延情報や走行履歴をリアルタイムで管理・表示することが可能になった。
さらに、生成AIの活用も進んでいる。「Copilot for 駅員」は、AIアシスタントを用いて駅員の顧客対応を支援する。「MIRAIアプリ」は駅の機械設備の修理対応を効率化。「AI あるリスク提案くん」は電気部門による作業前のリスク低減に貢献している。
鉄道業務の根本的な変革を目指すJR西日本のデジタル変革。部門横断的なイノベーション推進体制を整備し、各職場でのモデル作成と水平展開を進めている。また、システムコンサル窓口を設置し、社内のデジタル化ニーズに柔軟に対応する体制を整えている。真嵜氏は最後に「鉄道の仕組みをどんどん変えていきたい」と意欲を示し、継続的な変革への決意を表明した。
データ民主化、市民開発へ向けた論理アプローチ~ガバナンスやセキュリティの課題を超えて
東京エレクトロンの服部秀郎氏は、Denodoの導入経験とデータ民主化への取り組みについて講演を行った。
服部氏は、2022年4月の入社以来、データマネジメントとデータ基盤構築に携わってきた。同社は2023年7月にDenodoの本格運用を開始。現在では5,735のデータソースが仮想化され、約280のユーザーが月間91万回以上のクエリを発行するまでに成長している。「まだ道半ば、5合目といったところ」と服部氏は現状を評価する。
Denodoの特徴として服部氏は、データの物理的な移動なしにデータを仮想化することで、ユーザーが自らデータを加工・利用できるセルフサービス環境を提供できる点を挙げた。また、プッシュダウンクエリという仕組みにより、必要最小限のデータのみを取得・処理することで、組織内のデータ総量の削減とセキュリティ維持を両立できる点についても話を展開した。
導入にあたっては、服部氏は「取り組みとしては失敗したとしても、Denodoを理解することは大事」というスタンスで、効果を急がず、まずはユーザーにDenodoの使用感を体験してもらうことに注力したという。教育プログラムでは、ITやDX関連の技術者ではない従業員も含めた幅広い層を対象に、基本操作からメタデータ整備、データセキュリティ、データ利用倫理まで幅広くカバーしている。
一方で、厳格なセキュリティ意識がDenodo導入の障壁となる場面もあった。服部氏は「Need To Knowの原則をもとに、『データが必要となる根拠を説明せよ』と言われてしまい許可が下りない。しかし、実際にはやってみないとわからないケースが多く、そうした対応ではデータのアクセス権がある人に横流ししてもらったり、改善を諦めてしまったりすることにつながる。結果として、セキュリティが薄れる状況になりえる」と説明する。こうした課題に対しては、リスクベースアプローチが大切だという。
「実際にはアクセスを許可してもリスクのないデータが多い。データは、アクセスしたタイミングではなく、コピーやダウンロードをした瞬間にリスクが高まる。Denodoを活用してそうした操作をなくすことで、セキュリティにつながるという説明を社内向けに行った」(服部氏)
最後に服部氏は、Denodoの有用性を認めつつも、データ仮想化だけでなく他のデータ基盤をはじめさまざまな手段と組み合わせて使用していること、200人を超えるユーザーに対応する運用設計の難しさ、そしてデータ仮想化を真に理解したチームの重要性を強調。「データを扱うリテラシー、データセキュリティのリテラシーをはじめ、本当の意味でのリテラシーが高いコミュニティを育んでいくことが大切」と締めくくった。
Denodo DataFest Japan 2024が示す日本企業の変革への道筋
AIおよびデータ活用が急速に進むなか、日本企業が世界に後れを取らないために、より積極的かつ戦略的なアプローチが求められている。イベント会場では、パートナー企業による展示ブースも設けられており、Denodoのエコシステムを支える多様な技術やサービスが紹介されていた。本イベントは、AIとデータ活用の最新トレンドを学ぶだけでなく、実践的な知見を得られる場として機能し、日本企業のデジタル変革を加速させる重要な触媒となったといえる。今後、本イベントを通じて得られた知見が広く共有され、各企業の事業変革や新たな価値創造につながり、ひいては日本全体のデジタル競争力向上に寄与することを期待したい。
[PR]提供:Denodo Technologies