NOK株式会社は「Essential Core Manufacturing ― 社会に不可欠な中心領域を担うモノづくり」を掲げ、独自の技術を強みに幅広い分野へ製品と技術を提供し、グローバルに事業を展開している。本稿では、同社が行った事業成長を目論むITインフラ基盤のアマゾンウェブサービス(以下、AWS)移行を対象に、TCSとTISのパートナーシップに焦点を当て、両社の強みがNOKのクラウドシフトに対し、それぞれどのような支援を行ったのか――担当者の声をもとに明らかにしたい。
ITインフラ基盤の共通化を目指し、クラウド移行に着手したNOK
1941年に創業し、自動車をはじめとするモビリティ、スマートフォンに代表される電子機器、産業用ロボット、ヘルスケア機器など、あらゆる産業分野に技術・製品を提供してきたNOK。国内・海外に90以上のグループ会社を有し、グローバルで“モノづくり”を展開している同社では、ITシステムが事業所ごとに構築・運用されており、基盤が共通化されていないことが、事業成長を目論むうえでも課題となっていた。これを踏まえ、データセンター上で運用していたシステムのクラウド移行を決定。そして、過去に利用した経験があり、機能・サービスが豊富であるということからAWSを採用し、移行プロジェクトをスタートさせた。
AWSへの移行を進めるにあたり、同社が支援パートナーとして選定したのは、既存システムの構築・運用を支援してきたTCSだった。
NOKグループ全体のITインフラに関する方針策定や環境整備を担い、今回の取り組みにおいてもプロジェクトリーダーとしてAWS活用を牽引するNOK 山口 拓己氏は、TCSを選んだ理由について次のように説明する。
「以前より、データセンターの運用も含めて当社のシステム周りを継続的に支援していただいており、TCSさんには全面的な信頼を寄せておりました。AWS移行にあたっても弊社のシステムを知り尽くしたTCSさんの知見が必要と考え、パートナーとして支援をお願いしました」(NOK 山口氏)
マネージドサービスカンパニーとして、ITインフラからセキュリティ・基幹システムなどのソリューションで顧客の持続的成長を支援し続けてきたTCSだが、当時はAWSの導入実績はなかったという。NOKのデータセンターの運用監視を担当し、今回のAWS移行プロジェクトにも中心メンバーとして参画しているTCS 安東 義彦氏は、当時からさまざまな領域で協業していたTISとの協業でプロジェクトを進めていったと当時を振り返る。
「昨今、AWSを社内の標準プラットフォームとして採用する企業は増加傾向にあり、当社にも標準化に向けてのコンサルティングや運用アウトソーシングなどの相談が増えてきているのが現状です。ただ、今回のプロジェクトが始まった当時、当社はAWSに関する知見が豊富ではなく、AWSに関して多様な導入実績を持つTISさんに相談することにしました。AWS利用の勉強会を開催していただき、NOKさんも含めた3社でプロジェクトを推進していく形になりました」(TCS 安東氏)
日本におけるITのリーディングカンパニーとして、さまざまな業種で企業の成長戦略を支えるITサービスを提供してきたTISは、AWSプレミアティア サービスパートナーとして以前よりAWSの導入・運用支援に注力してきた。TIS IT基盤営業部 チーフの河野 大翼氏は、「データセンターのビジネスを中心に協業体制を構築していたTCSさんとは、以前よりAWS活用においても協業していきたいと考えていました」と語り、本プロジェクトに参画できたことを喜ぶ。
密接なコミュニケーションがスピーディなAWS移行を実現
こうしてNOK、TCS、TISの3社協業が実現し、NOKのクラウド化プロジェクトは本格的に始動した。AWSに関する卓越した技術力を持つエンジニアのみが認定されるAWS Ambassadorsの1人で、TISインテックグループのAWSビジネスを牽引するCCoEのリーダーを務めるTIS 横井 公紀氏が参画し、TCSと共同でテクニカルサポート窓口が組成された。
3社は月に1回のペースで定例会議を実施。NOKが提示したテーマに対して、TCS、TISがナレッジを提供するという、単なるエンドユーザーとシステムベンダー、サポート窓口の関係性を超えた密接なコミュニケーションを軸にAWS移行が進められた。 このスキームが生まれる以前から、TISはAWSのテクニカルサポート窓口(マネージドサポートサービス : MSP)を提供し、AWS利用についての問い合わせに対応するという役割で支援していたが、NOKがAWS利用を拡大し、高度な使い方を模索するようになったことで、受け身のコミュニケーションであるサポート窓口だけでは十分な技術支援が行えないという課題を感じたという。
「より効果的なAWS活用の知見を提供できる“アドバイザリーサービス”へと発展させました。月1回の定例会の場で非常にフランクかつ親密な関係を築けていたこともあり、単なるQAの確認会で終わらせるだけでなく、当社からフレッシュな情報をお伝えする場があれば、AWSを更に効果的にお使いいただけるきっかけになると考えたためです」(TIS 横井氏)
対面によるアドバイザリー型のサービスに移行したことで、事前に確認した課題に対してTISからさまざまなプラクティスを紹介し、参加者間でQAや議論を深める場が生まれたという。TISが紹介するプラクティスは、インターネットで調べれば出てくる一般的な情報だけではなく、実際にTISの顧客が直面した課題に横井氏らが向かい合ってきた経験に基づくものであった。インターネットに広がっている情報には、成功談であるベストプラクティスが多い傾向があるが、TISのアドバイザリーサービスは、失敗談である "バッドプラクティス" や、メリットと引き換えに失う可能性がある "デメリット" についても包み隠さず伝えるのが特徴だ。良いことだけではなく、AWSが立場上説明することが難しいトピックもパートナーとしての知見をありのままに伝えることで、これまでは話しにくかったマイナスな話もフランクに話し合える場を作り上げることができたそうだ。このアドバイザリーサービスを介した情報交換によって、NOKのAWS利用への解像度が高まり、意思決定のスピードが速まっていったという。
時を同じくして、NOKではオンプレミス(データセンター)からAWSへのリフト(移行)を進めており、仮想サーバのクラウドサービスであるAmazon EC2の活用が進んでいた。「アドバイザリーサービス」型の支援に切り替わったことをきっかけに、コンテナ管理サービスであるAmazon ECSや、サーバレスを実現するAWS Lambdaなどのサービスの導入も増えていった。さらに、将来のデータ分析と活用も見通し、これに関連するサービスの活用も進められた。「TCSさん、TISさんに支援していただきながら、Amazon GlueやAmazon Athena、Amazon QuickSightといったサービスの活用も進めています」とNOK 山口氏は語る。
AWS移行を支援したTCS 安東氏は「スタート時には経験がなかったため、各機能の検証に苦労しました。ネットで調べたり、TISさんに問い合わせたりと、手探りの状態で進めていきました」と当時の苦労を振り返り、そこで蓄積された知見が、運用支援フェーズに入った現在に活かされていると話す。
運用品質の向上に取り組み、先端技術の活用も視野に
こうしてTCS、TISのサポートもあり、NOKにおけるAWS移行はスムーズに進んだが、海外を含め90以上のグループ会社すべてがAWSを活用できるようにするには、ある程度の時間を要するとNOK 山口氏は現状を分析する。
「ハイペースでAWSの導入は進んでいますが、それを維持・運用するためのルールが十分に整備されていないのが現状です。2024年度中にNOKとしてのAWS利用ガイドラインを整備し、その運用ルールを適用していくことを想定しています。これが実現すれば、海外のグループ会社も含めてAWSの利用がさらに拡大すると考えています」(NOK 山口氏)
AWSにリフトしたシステムについては、データセンター時代と同様、TCSが運用面でのサポートを担当。定例会も継続して実施しており、現在ではAWSを含めた4社で、AWSの最新技術・サービスの効果的な活用方法について議論が交わされているという。 すでにAWS導入の効果は現れており、事業所ごとの個別最適化ではなく、NOKグループすべてのシステムを一元的に運用管理できる全体最適化に向けた環境設計が進んでいるという。NOK 山口氏は「全体最適化が進めばDRなどの対策も取りやすくなるほか、不要なコストの削減にもつながります。実際、AWS Cost Explorerを導入してコストの可視化を実現しており、利用者がコストを意識しながらシステムを運用できるようになってきています」と手応えを口にする。
このように、3社協業によりAWSの効果的な利用を実践するNOKのAWS移行プロジェクト。TIS 横井氏は、今後も最新技術やサービスが次々と生み出されるクラウドのスピード感に対応し、ITインフラ基盤の構築・運用支援だけでなく、ビジネスパートナーとしての支援を続けていきたいと意気込む。
「クラウドのようにアップデートの早い技術を活用するには、顧客の要件に合わせて提案する従来のSIerとしての振る舞いに加えて、ITの参謀としての動きが求められると考えています。今回のプロジェクトでは、定例会を通じてNOKさんの “やりたいこと” をリアルタイムに支援できていると感じており、今後も参謀的な役割を意識して、TCSさんとともに最新技術・サービスの提案と運用支援をしていきたいと考えています」(TIS 横井氏)
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