2023年から2024年にかけて、ITの世界でもっとも話題となったのは生成AI活用の急激な活性化ついてだろう。Open AIの「ChatGPT」がバージョン4.0になったころから、この動きはより顕著となり、マイクロソフトをはじめとする大手IT企業がこぞって生成AIを自社サービスに組み込む動きを見せている。特にビジネス領域におけるPCに対し、圧倒的なシェアを持つWindowsと統合し、機能を融合させた「Copilot」は、すでに多くのユーザーに生成AIの恩恵を与えているはずだ。

ビジネスのAI活用が進むなか、マイクロソフトは企業にどのようなアドバイスをしてくれるのか、エバンジェリストとして全国で講演を続けている西脇氏に話を伺ったので紹介しよう。

  • 日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 エバンジェリスト西脇資哲氏

    日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 エバンジェリスト西脇資哲氏

AI活用の“現在

――社会では“生成AI”というワードがトレンドになっていますが、企業としても、ビジネスとしても、今後欠かせない存在になるでしょうか?

生成AIという言葉が広まったのは、明らかにOpen AIのChatGPTのおかげですよね。そのChatGPTが2023年に日本でトレンドとなり、現在では少なくともその名前なら全員知っているという状況になったのは間違いないでしょう。

今回のテーマでもある、“ビジネスにおけるAI活用”がどのようになっているかという話しですが、マイクロソフトの立場からみても大企業を中心として、Open AI並びにCopilotの導入、そしてその基盤となるEntra IDの導入はかなり進んでいると感じています。

今後は中堅中小企業にも広がっていくことはもちろん、大企業でも1部門でのみ使われていたものが全社へ普及していくフェーズに移行していくのだと思います。

――例えば実際に活用例としてはどのようなものがあるのでしょう?

マイクロソフトの場合、無料で利用できる「Copilot」という生成AIの機能に加えて、法人向けの「Copilot for Microsoft365」というサービスがあります。いわゆる、Excel、Word、PowerPoint、Teams、Outlook、他にもHomes、OneNote、Whiteboardといった、企業にとってなくてはならないサービスへ紐づいたCopilotが、それぞれのアプリケーションの中で利用できます。

ブラウザで使う「Copilot」は、文章を書きたいとか画像を生成したいというニーズがほとんどですが、ビジネス向けCopilotの使われ方はまったく違うと言えます。このケースではOffice製品を使ったほとんどの作業を効率化していくことが目的になります。

一番分かりやすいのは、ビジネスの定型文を生成するとか、PowerPointのスライドを作るという部分だと思いますが、私の感覚ではミーティングでの活用が一番進んでいると思いますね。

Teamsは現在、世界中でとても多くの人が利用するコラボレーションツールですが、そこで話し合われた内容から議事録を作ったり、要約文を作って発見を得たり、To Doを作成したりといった部分でCopilotのAIが大活躍しています。こういったコミュニケーションの部分に関しては特にCopilotと相性が良いように感じています。

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――やはり、生成AIは業務効率化に欠かせないように感じます。とはいえ、企業の中には様々な観点から、AI導入に踏み切れないという話も聞いています。

企業として導入を躊躇する、あるいは懸念しているといったケースはゼロではないですね。その理由として代表的なものに「セキュリティ」が挙げられます。生成AIに対して、社員が会社の機密情報や、会社の中にしかない個人情報を含む内容を投げかける可能性があり、本当に使っても大丈夫か、という懸念が残るのだと思います。

しかし結論からお伝えすると、その心配はまったく必要ありません。

これは強く申し上げたいのですが、マイクロソフトの生成AIは、お客様のデータを守り、保護し、AIがお客様のデータで学習することは絶対ないと表明しています。ですから、安心してお使いいただければと思います。

そもそも現在のビジネスにおけるIT環境というのは、機密情報や個人情報についても、クラウド経由のサービスを用いているケースがあるはずです。それらのサービスが安全なのですから、「生成AIだけを疑問視しなくても大丈夫」という結論になるのは当然でしょう。

またビジネスで使われるPCは Windows 11 によって守られています。PCはセキュアであり、クラウドサービスもセキュアです。だからこそ、生成AIもスムーズに使える、ということになります。

生成AIを最大限活用するための環境づくり

――Windows 11 はセキュアだというお話が出ましたが、生成AIを使う上で用意しなければならない環境はありますか?

まずは、ハードウェア自身が持っている機能の中に、企業用途でデータの暗号化ができるような仕組みや、ハードウェアレベルでPCのロックができるような仕組みがあるか、といった点が重要です。

加えて、OSが常に最新版であるなどしっかりとセキュリティが担保されている状態で、さらにサインインの管理ができているかも大切です。例えば、今だれがサインインしているのか証跡が取れている、誰がどういうサービスを使ったかがわかる、そのような仕組みが必要だと思います。

Windows 11の要件としてTPM2.0が必須となっているのも、こうした要件を満たすためであり、通常の企業であればユーザー管理にEntra IDを用いているので、先ほど述べた要件を十分に満たしているといえます。

――なるほど、その環境が整っているとして、Copilotのような生成AIをスムーズに扱うために必要なPCのスペックはどのくらい必要なのでしょうか。

今ほとんどの方が使っているAIは、クラウド上のサービスにアクセスして利用していると思います。

しかし、今後のAI活用は、クラウド上にあるものを使うのではなく、PCの中にAIプログラムを入れて動かすというニーズが高まっており、実際にその方向に向かっています。

そういったニーズの流れを、もちろん私たちも掴んでおり、マイクロソフトとしてそのためのPCスペックについて非常に細かく規定して、「Copilot+ PC」という新しいカテゴリーを作りました。

――「Copilot+ PC」について、具体的に定義みたいなものはあるのでしょうか? 簡単にご説明すると、これまでのPCは基本的にCPUとGPUという2つのプロセッサーで演算を行っていました。しかし、最新のPCではAIをより効率よく処理するための専用チップが搭載されています。それが最近話題になっている「NPU(Neural network Processing Unit)」です。

CPU、GPUに加えてNPUがあることで、AIを処理する際に発生する演算の一部をNPUに割り当てることができます。そうすることで、それぞれのプロセッサーが得意分野の処理を行い、負荷を分散することができる為、全体のパフォーマンス向上に繋がります。つまり、PCがAIをより高速に扱えるようになるわけです。この仕様を満たすことでCopilotなどの最新AIの快適な動作を担保したのが、私たちがいう「Copilot+ PC」となります。

――なるほど、世の中の流れからしても「Copilot+ PC」はニーズが高まっていきそうですね。

そうですね、クライアント側あるいはエッジ側でAIを動かそうというニーズは爆発的に増えているのではないかと個人的に考えています。この流れは、PCだけに留まらず、すでにスマートフォン、タブレットでも起きており、さらには家電にも当てはまっていくのではないでしょうか。

Copilot+ PCが当たり前となりAIがリードする時代

――確かに業界全体の期待感は日増しに強くなっているのを感じますね。例えばどんな形でAIによって生産性が高められていくのでしょうか。

「Copilot+ PC」によって、PC上にいつでもAIが呼び出せて、ユーザーが命令できるという時代は間違いなく来ていますね。私は毎日Copilotを使っていますが、これを呼び出すのにショートカットを作ったり、メニューから選択したりといったことはしていません。

「Copilot+ PC」のキーボードには必ず、Copilotを呼び出すためのショートカットキー、呼び方としては「Copilotキー」が採用されています。ですから、このキーを叩けばすぐにCopilotが応答してくれます。キーボードに新しい機能を持ったキーが増えたことは、PCの歴史の中でも快挙といえることだと思います。

――確かにすごいことですよね。AIを使いこなせる人にとって、それだけでスピード感や快適さが違うわけですね。西脇さんがCopilotを使っている中で、気に入っている作業などはありますか?

先ほども触れましたが、やはりコミュニケーション機能ですね。例えば「Windows スタジオ エフェクト」という機能では、カメラの中心に自分を持ってくる自動フレーミングが使えます。さらに会議中「Eye Contact」が動作することで、AIが自動的に目線をカメラに向けてくれるのです。これによってWeb会議のライブ感と品質が向上しますね。特に重要な顧客向けの商談や、多くの人を対象とするイベントなどをオンラインで行う場合には重要なポイントだと思います。

また、WEB会議時にバーチャル背景をみなさん利用していると思いますが、従来のPCだとCPUとGPUのリソースかなり消費してしまいます。ですが「Copilot+ PC」であれば、NPUが処理を負担するので非常に快適になります。

ほかにもWeb会議では、日本語以外の言語を使うケースも多いと思います。実際に私も他国語を使うことがありますが、それらの音声やテキストを「Copilot+ PC」でAI処理をしてライブキャプションを作るといったことも可能です。

このような方法で「Copilot+ PC」を使うと、格段に生産性が上がるという実感が湧くと思います。

――なるほど、実感が湧けば生成AIの活用もさらに広まりそうですね。今後はさらに多くの生成AIサービスが登場すると思いますが、マイクロソフトからはどのようなサービスが登場しますか?

そうですね。最近の面白いところでは、共同作業をおこなうアプリケーションで利用できるエージェント機能があります。5月にリリースされたばかりですが、「Team Copilot」を導入していただくと、例えばTeamsの会議の中でAIエージェントが自動的に「ミーティングの要件をそろそろまとめましょうか?」といった感じで進行を促すことや、「〇〇さんの発言がありませんが、いかがですか?」といったファシリテーションまでしてくれるようになります。

こうなってくると、AIが私たちの仕事を一部助けてくれるのではなく、あるシーンではAIがリードしてくれる時代が到来することになります。

――それは素晴らしい。例えばこれまで会議があって議事録を作るのは新人さんの役目でしたよね。

何時間もかけて議事録を作ってはいけません。議事録はもうすでに人間がやる作業じゃないと思っています。現時点でもAIが自動的に議事録を作ってくれますから、私たちがするべき仕事は、議事録を作るのではなく、「議事録を作ったAIに聞く」という作業です。議事録にあること以外のことも聞けますから、例えば、その判断は誰がしたのか、その判断理由はどんなものだったか、反対意見を言ったのは誰だったのか、といったことも教えてもらうことができます。

ビジネスにおけるAI活用の真価

――それは凄いですね!今までになかった業務効率化の可能性も出てきそうです。

そうですね。そういった意味ではハードウェアメーカーさんに協力していただき、 「Copilot+ PC」をもっと広く普及できると良いですね。

私たちのCopilotは、ここまでご紹介してきたような機能追加をみてもお分かりいただけるように日々強化されています。加えて、今一番期待がかかっているのは、自分たちの会社専用Copilotの提供なのです。

例えば製造業の方で、会社の中にたくさんの研究データを持っていて、PDFなどの資料も大量に存在しているというケースがあります。そこのサイトの情報を基に何か新しいビジネスのヒントを掴もうと思った場合、今まではシステムを新たに作らないといけませんでした。

しかし、CopilotがこのWebサイトの情報をすべて覚えていれば、ユーザーは「Copilot、よろしく!」といった手軽さで、3クリックぐらいで解答が得られるようになるのです。誰かがこれを実行するのを見れば、その会社の全員がCopilotを使いたくなりますよね(笑)?

――それは素晴らしい世界ですね!

実際にその世界観は作り出せるようになっています。ChatGPTもCopilotも現在はまだインターネット上の情報を使っていますが、いよいよAIがお客様の手元にある情報をもとにして活用できる時代がやってきているのです。

――ますます、今後に期待が膨らみますね。AI活用のこれからについて、西脇さんのお考えをお聞かせください。

私も大いに期待しています。しかし一方では、そんな世界が目の前に来ていても、おれはAIを使わない、自分の仕事には必要ない、使い方が分からないから関係ないといった人たちが一定数居るのも事実です。

会社としてAIを使って仕事をしてもらうためには、まずAIを使う時間を新たに増やさないという考え方が大事になってきます。簡単にいえば、いつもやっている業務にAIを使っていただければ良いわけです。

AIが、ただ便利というだけでは業務効率化や時短にはつながりません。逆にAIを使う時間分、作業時間が増えてしまうこともあるでしょう。これが一番もったいないし、反対意見が出てくる原因にもなります。

もっと単純に「今やっている仕事をAIにやさせたらどうなる?」という発想に変えてもらえればと思います。「Copilot+ PC」とCopilot、さらには「Copilot for Microsoft365」を使えば、どれだけ自分の仕事が楽になるか、という視点でAIに触れてほしいです。

もう一点、AIを日々のプロセスに組み込んでいくことも大切ですね。例えばお客様とのミーティングがある場合、そのお客様のことを調べたりすると思います。そこで相手の会社のホームページへいったり、Wikipediaで調べたりといった作業をCopilotに任せてみてください。自分で調べていたら数十分かかる作業が、Copilotなら数分もかからずに必要な情報だけを知らせてくれます。

ほかにも四半期に一度、決算報告がありますが、最初にまとめた報告書のPDFをCopilotに見せて、この報告で足りないところはあるか、株主から指摘されそうな部分はあるかと質問してください。これらの作業は、そもそも経営企画部門や会計部門の方々ががんばって課題を見つけることで対応していると思いますが、そのプロセスをAIに任せてしまうのです。

AIを使うことで仕事の時間を増やさないで、自分の時間を作るために使う。毎日、毎週、毎四半期に発生するプロセスの中でAIを使う。たったこれだけで、企業のAI活用は大きく広がるはずです。

――AIに特別なことをさせるのではなくて、自分のためにやってみるってことが大事なのですね。繰り返しになりますが、最後にAI時代に必要なビジネス環境についてお考えをお聞かせください。

時代にあったPCを選ぶということは、どの会社もやっていると思います。ですが、今の時代を見ると、やっぱりAIを使って仕事を効率化していくのは当たり前になっていくでしょう。そういった意味で、AIを実現できるような「Copilot+ PC」が、まずは必要になると思います。

また、セキュリティは万全にしなければいけないので、ハードウェアとソフトウェア双方にセキュリティ機能が備わっていることに加えて、クラウド上のサービスもセットでセキュリティが担保できるものを選んでいただきたいですね。

さらに企業にとって資産継承は大事なことだと思います。ここで触れている資産継承を簡単にいえば、やり方が同じということです。ファイル管理の手法が同じであるとか、キーボードの配置が同じであるとかそういう観点が大切なのです。

企業のIT活用は長い歴史を歩んできました。環境でいえば、Windows95の時代から、企業ではWindowsをずっと使い続けているのです。無理に環境を変えようとせず、トレンドや時代に合わせて資産を継承しながらセキュリティも高めていく。これからAIを使いこなすことになる企業にとって、刷新するもの、継承するものをそれぞれ大事にしてくことが求められているのだと思います。

――ありがとうございました!

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