自然豊かな里山や田園が広がる岡山県井原市。同市に本社を置くフェニテックセミコンダクター株式会社(以下、フェニテック)は、半導体製造前工程のファウンドリ企業として、各種ICやディスクリート製品の生産をはじめ国内外企業の幅広いニーズに対応している。近年、同社が特に力を入れているのが、グリーントランスフォーメーション(GX)の実現に向けて注目が高まる化合物半導体の開発・製造だ。なかでも、SiC(シリコンカーバイド)へのこだわりとその将来展望を中心に、同社代表取締役社長の石井 弘幸氏に話を聞いた。
石井 弘幸氏プロフィール
フェニテックセミコンダクター株式会社 代表取締役
1984年にシンコー電器(現フェニテックセミコンダクター)に入社。
技術畑を歩み、2017年より事業企画室長を経て、2020年に代表取締役社長に就任。
少量多品種生産で、多様な顧客ニーズに対応するフェニテック。車載分野への対応力も強み>
1968年、炭素皮膜固定抵抗器のメーカーとして創立したフェニテック。1976年に小信号スイッチングダイオードの生産をスタートして以来、半導体製造の前工程であるウェハプロセスに特化したファウンドリ企業としての道のりを歩んできた。
現在は、井原市内にある2つの工場と、2015年にヤマハから譲り受けた鹿児島工場の計3拠点で開発・製造を行う。井原市内の岡山第1工場は5インチ・6インチウェハ用ラインでの量産、岡山第2工場はGa2O3(酸化ガリウム)を中心とする化合物半導体の研究開発、鹿児島工場は6インチウェハ用ラインでの量産をそれぞれ担っており、エピタキシャル成長からダイシング工程までの国内一貫生産が可能となっている。
同社の強みの1つが、少量多品種の製品を効率的に生産できる点だ。「当社の生産ラインは5インチ・6インチウェハが中心であり、大手の8インチ以上の大量生産ラインと比べると小回りが利くため、多様なお客様ニーズに柔軟に対応できます」と石井氏は語る。
主要な顧客は、設計開発から製造、販売までを一貫して手掛けるIDM、親会社のトレックス・セミコンダクターを含め設計開発と販売に特化したファブレス企業、そしてフェニテックが設計開発と製造を担当し、顧客がパッケージ・販売を行うケースの3つに大別される。主力製品は、Siを材料とする電力制御用パワー半導体であるパワーMOSFET、IGBTなどや小信号・汎用半導体であるショットキーバリアダイオード(SBD)、ダイオード(Di)、トランジスタ(Tr)など、トレックス・セミコンダクターの主力である電源用CMOS ICだ。
フェニテックは製品品質を重視しており、自動車産業品質マネジメントシステムIATF16949やVDA6.3などを取得済み。これによる車載分野への対応力が、同社の武器となる。
「車載品には厳しい品質基準や認証取得が求められますが、当社では岡山県内企業で初めてQS9000認証を取得するなど、その点に関して業界でもいち早く取り組んできました。現在は車載向けの受注が伸びており、当社の強みが発揮できていると感じています」(石井氏)
化合物半導体ファウンドリとしての地位確立を目指して
フェニテックが戦略分野の1つとして注力しているのが、次世代パワー半導体と称されるSiCやGaN(窒化ガリウム)、酸化ガリウムといった化合物半導体だ。パワー半導体は電力変換の高効率化に不可欠なパワーデバイス用材料となる。なかでもSiCは従来のSiに比べ低損失、高耐圧、高温動作など優れた物性を持ち、システム全体の小型・軽量化、省エネ化につながる次世代のキーデバイス用材料として、自動車や再生可能エネルギー、産業機器分野で需要が拡大している。石井氏は、SiCパワーデバイスの市場動向について、次のように説明する。
「SiCパワーデバイスは、2023年には自動車・電装分野とエネルギー分野の需要増加により市場拡大が継続した。今後も電気自動車のトラクションインバーターやオンボードチャージャーなどへの採用など、大幅な需要増加が見込まれます。モビリティ市場で拡販が先行するなかで、デバイスの価格下落により民生機器分野、産業分野などでも今後採用が進んでいくでしょう」(石井氏)
SiCデバイスのファウンドリとしては、フェニテックが国内唯一の企業となる。同社は2009年から広島大学とともにSiCデバイス開発に取り組んでおり、現在はオリジナル製品としてすでにSiC-SBDをリリース。市況を鑑みて量産フェーズへの移行を進めていくとともに、SiC-MOSFETの開発にも取り組んでいる。SiCデバイスに関する広島大学との共同研究は現在も継続中であり、原子力発電所の廃炉作業や宇宙開発などでの利用を想定した耐放射線ICの研究なども行っている。
また、品質とコスト競争力を高めるための取り組みも進行中だ。産業技術総合研究所(産総研)との共同研究では、サイコックス社製の貼り合せSiC基板「SiCkrest(サイクレスト)」を利用することで、基板コストの低減、工程の簡略化、チップサイズシュリンクを実現している。石井氏は「SiC-SBDでは、実際に貼り合せSiCウェハを使うことでむしろ性能が良いものができるということが明らかになったため、製品化につながりました」と話す。
「SiCの需要が拡大するのは確実である一方、供給工場が不足することが課題となっています。当社ではSiCデバイスのファウンドリが必要となることを見込み、広島大学や産総研とともに自社製品を開発してきました。その製品やプロセスをお客様に知っていただくことで、今後ますます拡大する需要に応えられるよう準備を進めている段階です」(石井氏)
GXの実現に向けた省エネ化ニーズの高まりを受け、化合物半導体市場は今後ますます拡大するものと見られる。フェニテックは、SiC以外の化合物半導体に関しても研究開発を進め、Siだけでなく化合物半導体も含めたファウンドリ企業としてのポジションを確立させていきたい考えだ。GaNデバイスのファウンドリはすでに請け負っており、Ga2O3(酸化ガリウム)については、ノベルクリスタルテクノロジーとトレックス・セミコンダクターとの3社共同でSBDの製品化に向けた研究開発が進行中である。
信頼と革新をもとに、グリーンで持続可能な未来をつくる
フェニテックは、環境保全に向けて、次世代パワー半導体をはじめとする省エネデバイスの提供を通じて社会全体の温室効果ガス削減に貢献するだけでなく、半導体の製造プロセスそのもののグリーン化にも積極的に取り組んでいる。その一例として、生産ラインから発生するPFC等のガス排出量を2021年度比で5割以上削減する目標を掲げ、除害装置の導入を進めている。さらに、同社では別事業として太陽光発電システムの販売・設置を手掛けており、再生可能エネルギーの普及に取り組むことで、サスティナブルな経営を目指している。
また、2024年5月に企業ビジョンを刷新し、「ファウンドリ事業を通じすべてのステークホルダーから信頼されることにより持続的成長を目指します」と、ステークホルダーとの信頼関係を重視する姿勢を打ち出した。この狙いについて、石井氏は次のように説明する。
「30年以上にわたるファウンドリ事業の歴史のなかで培ってきた技術力と対応力で、多様性のある製品・プロセスを構築してきました。今後はその基盤を軸として、直接的に関わるステークホルダーと相互に信頼関係を築くパートナーとなることを目指します。それが結果として、当社における持続的成長につながるものと確信しています」(石井氏)
今後は、社内のDXやIoT化を進め、生産性向上および収益改善を図るほか、台湾や東南アジアなど新興地域も含めたグローバルサプライチェーンの強化を進めるための新規開拓も行っていく考えだ。
「当社は企業規模こそ大きくありませんが、小回りの利くファウンドリとして、お客様の多様な要望にスピード感を持って対応できる体制が整っています。パワー半導体を中心に幅広い用途の製品開発にもチャレンジして、皆様のお役に立てるよう尽力していきたいです」(石井氏)
国内一貫生産により、高品質で付加価値の高いファウンドリ事業を展開するフェニテック。エンジニアの採用にも積極的で、活躍する若手も多いという。国内半導体産業の礎を支えつつ、次の時代や世代への布石も着々と打つ同社の取り組みに今後も注目したい。
企業プロフィール
フェニテックセミコンダクター株式会社
〒715-8602 岡山県井原市木之子町6833番地
HP:
https://www.phenitec.co.jp
TEL:0866-62-4121
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