2024年4月1日、学校法人立命館(以下、立命館)大阪いばらきキャンパス(以下、OIC)に、立命館と日本マイクロソフトの拠点「Microsoft Base Ritsumeikan」が誕生した。マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」などの製品・サービスを活用し、DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現やスタートアップ人材の育成に寄与するBase=発信基地である「Microsoft Base」が教育機関に設置されるのは全国初の試み。世界でも例がないという。
今回、この前例のない取り組みを取材するため、キーマンたちを直撃。立命館常務理事の山下範久氏、総合企画室副室長の三宅雅人氏、マイクロソフトの阪口福太郎氏、立上・運用をサポートするカコムス株式会社 執行役員の小原圭雄氏に話を伺った。
新棟のキーフレーズは「TRY FIELD」。学生の挑戦をさらに後押し
2018年、立命館は、2030年に向けた中期計画「学園ビジョンR2030-挑戦をもっと自由に-」においてソーシャルコネクティッド・キャンパス構想を掲げた。本構想における立命館の役割を「社会共創価値の創造」「イノベーション・創発性人材の輩出」と定め、実現を目指した先駆けの取り組みがOIC新展開であり、そのフィールドが今年春に竣工を迎えたばかりの新棟だ。キーフレーズはデジタルで加速する挑戦の渦「TRY FIELD」。社会課題に挑む創発性人材の育成を目指し、OICは新しいフェーズに突入した。
「そもそも立命館は90年代から産学連携に熱心に取り組み、学生が社会課題の解決に向けて実装まで完結できるプラットフォームを構築してきました。このような挑戦をさらに後押しするには、課題に対する感性を育み、解決するためのスキル・知識を主体的に習得できる環境を整えなければなりません。そういった視点で作り込まれている新棟は、産学連携を次のステージに引き上げ、創発性人材の育成を加速させるものと確信しています」(山下氏)
ちなみに「TRY FIELD」には4つの柱がある。「デジタルとクリエイティブの融合により進化するTRY FIELD」「タブーなき挑戦を通じてスタートアップを生み出すTRY FIELD」「異次元のつながりが新たな価値を創出するTRY FIELD」「創造性を拡張するリアル&バーチャルのTRY FIELD」だ。新棟は、これらの具現化を目指す恰好の場となる。この春に移転してきた映像学部・研究科と情報理工学部・研究科の学生も新たに加わり地域や企業・自治体の人々と交流できる仕掛けが随所に施されている。
全国初!教育機関のキャンパス内に「Microsoft Base」を設置
「Microsoft Base Ritsumeikan」は、そんな新棟に設置された。コロナ禍を経て、リアルの重要性を再認識したと山下氏はいう。
「もちろんバーチャル空間のメリットは大きいですが、他方で身体性をもって学ぶ場も必要です。『Microsoft Base Ritsumeikan』は、その象徴的な施設と認識しています」(山下氏)
設置の決め手となったのは、Microsoft Azureなどの最新技術を活用しながらDXを進め、創発性人材の中でスタートアップ人材育成にも力点をおいていた中、マイクロソフトのミッションに共鳴したことだった。「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」。創発性人材の裾野拡大という両者の目標が一致した。
「社会課題に果敢に挑戦する学生の育成は当社にとっても目指すところですので、『Microsoft Base』を設置していただけたことに感謝しています」(阪口氏)
なお、前述した通り、「Microsoft Base」が教育機関に設置されるのは過去に例がない。立命館は自らが「挑戦をもっと自由に」を率先して体現した格好だが、阪口氏も「ただでさえ個性的な施設に、初めて教育の要素が加わる。シナジーが楽しみだった」と明かした。しかしながら、その新規性とユニークさゆえ、開設に至るまでの困難を予想するのは想像に難くない。そこで白羽の矢が立ったのが、カコムスだ。
「カコムスさまは、コロナ禍における小中学校の遠隔授業の整備をはじめ、特に文教分野で豊富な実績を持たれています。当社製品に関する知見は言うまでもなく、メタバースや生成AIといった最近のトピックについてもノウハウは十分。『創発性人材を育成する』という理念にも共感いただけたため、パートナーとしてお願いすることにしました」(阪口氏)
大阪に本社を置くカコムスは「Microsoftソリューション」を提供するシステム開発企業だ。2023年には、マイクロソフトが教育分野における優れた成果と専門知識を提供した証として表彰を行う「Spotlight Education Partner」に選出されている。
文教分野における優位性で、プロジェクトを巧みにリードしたカコムス
立命館、日本マイクロソフト、カコムスがスクラムを組み、プロジェクトが始動。「Microsoft Base Ritsumeikan」でどういう価値を生み出すのか、ディスカッションは約1年半もの長期に及んだと小原氏は振り返る。
「プロジェクトが始まった当初は、『Microsoft Base Ritsumeikan』の方向性や役割についてのディスカッションが主体でした。意見を集約するのは大変でしたが、昨年11月に教職員さま向けに説明会を実施し、大きな方向性をまずは形式知化できました」(小原氏)
「Microsoft Base Ritsumeikan」は立命館が専有するのではなく、OICの特色である社会共創を活かし、地域に開かれたベースとして展開していく。関係者は自ずと多岐にわたり、カコムスは“ハブ”となって邁進していく。
「立命館さまが望まれているイメージを具現化しようと、カコムスさまとは頻繁に打ち合わせを行いました。『Microsoft Base Ritsumeikan』には、当社が得意とするソフトウェアに加えて、人と人とが集まるためのハード面の工夫も求められます。カコムスさまからは、重大なご提案をいくつかいただきました。また、当社製品に関して深く把握されているので、それらをどう応用・カスタマイズするのがベストなのか、本質的な実のある議論に時間をかけられたのがよかったです」(阪口氏)
さらに、三宅氏はカコムスの文教分野における優位性を強調した。
「大学の特殊な事情をご理解いただけていないと、スムーズな進行はかなわなかったのではないかと考えています。新たな学びを創造するため、『学びとは何か』といったところから始まり、どのように落とし込むか議論を重ねましたが、カコムスさまにはうまくリードしていただけました」(三宅氏)
中期計画「学園ビジョンR2030-挑戦をもっと自由に-」の先にあるのは、教育と研究が融合した「次世代研究大学」だ。「近い将来、ソーシャルインパクトを与えられる大学になるには、教育と研究をこれまで以上に融合させ社会との共創を通じて価値を生み出していく必要がある。その成果を実社会へ還元し、また更なる課題に取り組む。そういった循環を本学がハブとなり担う必要がある」と山下氏は力を込める。壮大な構想を共有できたことが、プロジェクト成功の鍵を握ったのは間違いないだろう。
多様な出会いを創造し、社会課題を解決する人材や事業を輩出するエンジンに
こうして誕生した「Microsoft Base Ritsumeikan」だが、現時点ではようやくスタート地点に立ったばかりだ。
「具体的には、新たな学びを創造する場所として、教育と研究の両方に活用していきます。講義やワークショップを開催して教育につなげたり、理系・文系ともに最先端のテクノロジーを研究に取り入れてもらえるよう働きかける予定です」(三宅氏)
そして、まさに「Base」としての価値を高めていきたいと山下氏は展望を語ってくれた。
「『Microsoft Base Ritsumeikan』は、OICという地域に開かれたキャンパスにあり、多様な出会いを創造することができます。研究者、学生、教職員、企業・自治体・地域の皆さまが混ざり合う磁場にできれば、社会課題を解決する人材や事業を輩出するエンジンになると期待しています」(山下氏)
このビジョンが現実になれば、ステークホルダーは増える一方。だからこそ、日本マイクロソフトとカコムスとの連携は今後も欠かせないと山下・三宅両氏は断言する。
「さまざまなステークホルダーが有機的に結ばれるには、ITツールが不可欠。ソフトウェアの側面から貢献したい」と阪口氏がコメントすれば、小原氏も「『Microsoft Base Ritsumeikan』=『社会共創の場』との認識を早期に根づかせられるよう、サポートしていきたい」と力強く応えた。
山下氏は、教育機関である大学を「綺麗事が通用する場所」と言い表す。綺麗事へのコミットメントなしに社会課題の解決は難しいと指摘するが、それは営利企業なら利益の追求が問われるからに他ならない。しかし、大学なら人材育成の名の下に研究を行える。多様な出会いを創造し、産学連携を推進する「Microsoft Base Ritsumeikan」。まだ見ぬイノベーションの勃興を目にする日はそう遠くないはずだ。
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