NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)では、企業各社が生成AIを活用してデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、業務変革、さらにはビジネス価値最大化を実現するためのソリューションを提供している。生成AIはいま急速な進化の過程にある。だからこそ生成AIをめぐる情報は鮮度が重要であり、NTT Comはそれを分かりやすく伝え、顧客がDX実現において最適な判断を行えるようにサポートしている。本記事では、NTT Comの生成AIエバンジェリストとして活動する岩瀬義昌氏に、NTT Comの生成AIにまつわる取り組みと、生成AI活用に向けて取り組む企業へのメッセージを聞いた。

NTTコミュニケーションズ株式会社 エバンジェリスト 岩瀬 義昌 氏

2009年東日本電信電話入社。2015年NTTコミュニケーションズに転籍し、ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを重ねる。2020年からヒューマンリソース部に所属しリモート中心の働き方推進に従事。2023年からはイノベーションセンターでアジャイル開発の全社支援を手掛ける。現在は生成AI関連のプロジェクトを担当。趣味はさまざまな技術者と対談するPodcastの発信。1983年生まれ、千葉県出身。東京大学大学院 学際情報学府修了。

変化の速い世界の最新情報を分かりやすく伝える使命

岩瀬氏は、エバンジェリストとして生成AI、アジャイル開発、組織開発を得意分野にしている。特に力を入れている分野が、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を中心とした生成AIだ。

生成AIは文章や画像、映像、音楽などを作り出すテクノロジーだが、中でも注目されているのがLLMを使った生成AIである。LLMとは、大量のテキストデータを使って学習させた言語モデルで、これをもとにAIが言語を理解したり、文章を生成したりといったことが可能になる。生成AIの先駆けとして話題を呼んだOpenAIの『ChatGPT』や、Googleの『Bard(現 Gemini)』といった生成AIも各社が開発したLLMをベースに動いており、NTTグループでは独自のLLM『tsuzumi(つづみ)』を開発・運用している。

NTT Comもさまざまな生成AIを活用し、法人顧客に向けて「CX(Customer Experience:顧客体験価値)」「EX(Employee Experience:従業員体験価値)」「CRX(Cyber Resilience Transformation:事業継続性)」という3つの分野でソリューションを推し進めている。

CXでは、対話型AIやデジタルヒューマンにLLMを搭載し、双方向のコミュニケーションを可能にします。例えばコールセンターでは、お客さまとの通話内容の要約、将来的には顧客属性を加味してパーソナライズドされた回答などに生成AIを利用します。

EXでは、お客さまの要件に合わせて業務改善を図ります。例えば、生成AIで各部署への問い合わせを集約し、従業員の負担を減らす取り組みができるでしょう。

3つ目のCRXはNTT Comの造語ですが、人手不足の課題を解決します。生成AIで高度な知識や技術を持つ人材を再現し、経験年数の浅い社員でも業務をこなせるようにすることで、省人化・省力化を実現できます」(岩瀬氏)

IT業界において、生成AIの登場はインターネット、モバイル、クラウドに並ぶ大きな変化といえる。それも、1週間単位で新しい技術が生まれるような、変化のスピードがきわめて速い分野だ。岩瀬氏は「それだけに面白くもあり、やり甲斐を感じています」と話す。

登場からまだ間もなく、しかも変化が激しいだけに、生成AIをめぐる状況の理解は一筋縄にいかない場合があり、それだけに情報のキャッチアップは重要だ。岩瀬氏はエバンジェリストとしてもともと噛み砕いた説明を得意としており、開発者向けのイベント「Developers Summit 2021」でもベストスピーカー賞を受賞。生成AIの最先端事情や難解な事例をフラットな視点から分かりやすく伝え、顧客がDX実現に向けて最適な判断を行う手助けをしている。

ビジネスにおけるAI活用の可能性を追い求める

生成AIに関連する取り組みの中で、岩瀬氏がいまとりわけ力を入れているプロジェクトが「NTT ComのR&D分野におけるLLMの研究開発」だ。同プロジェクトでの直近の業務は大きく分けて2つだ。1つはさまざまな生成AIの評価、そしてもう1つは生成AIのファインニューニングである。

「NTT ComのソリューションにLLMを組み込む際、OpenAI、Google、NTTといったさまざまな企業のLLMの中から、どれがお客さまに最も適しているのかを見極める必要があります。そのために各社の生成AIを分析し、どのようなユースケースに適しているのかを評価するのが1つ目の業務です。2つ目のファインニューニングは、既存のLLMに特定分野の情報を追加学習させることで、個別の業界やタスクに最適化する業務のことです。つまり既存の生成AIをお客さまごとにカスタマイズする作業で、その方法論などを研究しています」(岩瀬氏)

岩瀬氏は、生成AIと直接関わらないアジャイル開発や組織開発の分野でもいくつかのプロジェクトに携わってきた。アジャイル開発の分野では「アジャイル開発の考え方を伝える研修提供や、各チームの個別相談に乗る全社支援」、組織開発では「リモートワーク・ハンドブックおよびオンボーディング・ハンドブックの作成」が代表的だ。直接関わらないとは書いたものの、将来的には生成AIとそれぞれを組み合わせたプロジェクトも当然考えられる。

「例えば、アジャイル開発の技術面ではコード作成やレビューでの活用が期待されますし、組織開発では、表面に表れない従業員の本音を引き出す質問作成・ファシリーテーションなどを生成AIが担えるのではないかと期待しています」(岩瀬氏)

“お客さまとともに”の視点でNTT Comが描く未来

「NTT Comのユニークさは、革新力・変化力にあると思っています」と岩瀬氏。同社にはボトムアップで物事を動かすカルチャーが根付いており、現場の意見や活動をもとにルールが変わったり、プロジェクトが生まれたりすることがよくあるという。これは、進化のスピードが速い生成AIを推進する企業としてふさわしい土壌といえるだろう。

岩瀬氏は「NTT Comが生成AIで生産性や競争力を上げるには、まず社内で徹底的に使いこなせるようになる必要があり、現在はその取り組みを進めているところです」と話した上で、生成AI活用をめぐる今後の展望を示した。

「人間は仕事でそのポテンシャルの50%程度しか使えていないと思っています。しかし生成AIを活用すれば、今まで単純に手が足りないためできなかったことができるようになり、一人ひとりのポテンシャルを高めることが可能になるでしょう。例えば、生成AIでプログラミング作業を削減し、その分エンジニアはより価値につながるプロダクト開発に時間を割く。接客などコミュニケーションの分野では、生成AIを搭載したデジタルヒューマンがメールの返信や対話を担い、人はより関係性を強化するような対面営業活動を行う。こういった時代の実現は近いと予想しています」(岩瀬氏)

ただし、生成AIはそれ自体が目的なのではなく、「一つのHowに過ぎないことを忘れてはいけません」と岩瀬氏はクギをさす。あくまで手段であり、真に求めるべきこと、すなわち目的は「課題を解決すること」にほかならない。

岩瀬氏は「有名な『ドリルの穴理論』でいえば、生成AIはドリルです。現在は言葉が一人歩きして期待も大きく、多くの企業においてドリルで開ける穴を探すこと自体が目的となっています」と現状を指摘。そのうえで「NTT Comとしては、生成AIを使いたいというお客さまに対し、まずは“誰の”“何の課題を解決するのか”を一緒になって明らかにする必要があります。そして、解決手段の一つとして、独自のデータや業界情報を踏まえ、生成AIを適切に提供していくのがあるべき姿です」と語る。

岩瀬氏が言うように、NTT Comは「穴」すなわち各企業それぞれの解決すべき課題に合った提案を行い、適材適所で生成AIを活用することで、これまで以上に社会課題に応えていくことを目指している。

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