三菱電機株式会社(以下、三菱電機)は、1873年に三菱商会が誕生したのち、1921年に三菱造船の電機製作所を母体として設立された日本を代表する総合電機メーカーである。エアコンや冷蔵庫といった一般家電でなじみが深いが、FA(Factory Automation)機器、発電機、人工衛星などの産業用電気機器でも国内トップレベルのシェアを誇る。

このうち、三菱電機の事業拡大を牽引する事業の1つに、FAシステム事業が挙げられる。FAシステム事業は、工場などでの生産工程の自動化を図るFA機器やその関連システムの開発・設計を軸に展開されており、顧客体験やサービス品質の向上のため、顧客データの活用が急務となっていた。三菱電機の長い歴史のなかで比較的新しい事業の1つであるFAシステム分野は、日本だけでなくグローバルでも事業を展開しており、海外の三菱電機グループ各社やその各拠点における地域サポート等をはじめとしたサービスを注力事業と捉えている。一方で、顧客側もグローバルでビジネスを展開しており、国や地域を横断した情報提供を求められる場面も増えてきていた。しかし、三菱電機内における国や地域の組織は縦割りになっており、それぞれの国や地域が保有する情報を共有して営業活動に活かすといった情報連携ができない状況が続いていたのだ。

(写真)村井文華氏

三菱電機株式会社
インダストリー・モビリティBA戦略室 戦略ユニット
FAシステムグローバルSCM・ITグループ 専任
村井 文華氏

「三菱電機本社や三菱電機グループ各社同士が情報共有するという文化の醸成とそれを可能にするシステムの構築が遅れていました。たとえば海外拠点の営業社員が自分の担当する顧客企業の三菱電機本社への商談や営業活動状況を調べたい場合や、顧客企業から『他国における自社三菱電機製品の導入状況を知りたい』と聞かれた場合に、すぐに回答を得られないのです。メールや電話で何度もやり取りをして、情報を集めていました。お客様となる企業はグローバル市場での事業拡大を目指し、積極的に海外進出しているなか、それを支える私たちの営業・サポート体制は、グローバル化に追いついておらず、仕組みの見直しが必要だと感じておりました」と、三菱電機 インダストリー・モビリティBA戦略室 戦略ユニット FAシステムグローバルSCM・ITグループ 専任の村井文華氏は当時を振り返る。

当時、三菱電機本社や三菱電機グループ各社の一部では顧客管理のためのCRMを導入していたが、社内の各部門やグループ各社のニーズに合わせて独自に構築・運用しており、グローバルに情報を共有することを前提としていなかった。そのため情報共有は二の次となっており、FAシステム事業の情報をまとめる統合情報基盤の必要性を強く感じていたという。加えて、重要なビジネスエリアである中国や韓国がそれぞれ独自のCRMを導入しようという動きがあり、このままでは情報のサイロ化がますます進んでしまうという懸念も生じていた。そこで、日本本社がしっかりと主導して、グローバルで活用できるクラウド型CRMをFAシステム事業に導入すべきだと決断し、プロジェクトを始動させたのである。

世界各地の顧客情報をCRMで可視化 顧客情報管理のグローバル化を目指す

三菱電機は2018年、グループ共通の情報基盤としてSalesforceを活用したグローバルCRMの導入プロジェクトを発足した。導入国は、日本をはじめとして、中国、韓国、台湾、インド、東南アジア等となっている。各国ごとの顧客情報を今回新たに構築するグローバルCRM システム上で管理・可視化、海外各社と日本本社間でリアルタイムに共有し、営業ノウハウの蓄積と共有を図る。そうして営業・サポート品質を向上し、営業活動を効率化しようという取り組みである。

同社は、セールスフォース・ジャパンや外部事業者の構築・運用支援サービスを活用しながら、グローバルCRMの構築を行い、情報連携のためのシステムの導入を進めていった。しかし、導入を進めていくなかであらたな課題が浮き彫りになった。上述したように、グループ各社はそれぞれ個別にCRMを運用したり、独自のニーズを持っていたりする。彼らの環境に新しい共通の情報基盤を導入し、定着させ、業務を改善しながらビジネスに活用してもらうにはどうすればよいかという課題だ。こうして、グローバルCRMプロジェクトは、システムの構築からシステムの定着・運用のフェーズへと進むこととなった。

千差万別の要望をどうまとめてグローバルCRMを定着させるか

よく知られているように、日本企業と海外企業の商習慣・文化は異なる点が多い。Salesforceはカスタマイズ性に富んでおり、自社の特性に合わせて柔軟に最適化できる点は魅力の1つである。しかし三菱電機では、日本国内のさまざまな部門や各国の拠点ごとに異なるニーズがあり、ガバナンスを効かせながら独自の要求に応えたうえで導入していくことは非常に困難な取り組みだった。また単に導入して終わりではなく、導入後にきちんと活用されるシステムとして定着することも重要であり、そういった意味でも細やかなニーズへ対応した導入が必要だった。

「国ごとに商習慣が異なり、さらに各拠点によって主力の製品が異なります。Salesforceの導入拠点が増えるにしたがって、その違いが顕著に表れ、システムへ落とし込むことが難しくなっていきました。また、拠点によってはITベンダーの現地拠点によるサポートを受けながらSalesforceの導入・開発を進める場合もあるため、本社側できちんと基準やガイドラインを設けて、全体を統制する必要もありました」と、三菱電機 プロセス・オペレーション改革本部 ITシステム推進室 営業システム二グループ専任の林田 興祐氏は述べる。

(写真)林田興祐氏

三菱電機株式会社
プロセス・オペレーション改革本部
ITシステム推進室 営業システム二グループ専任
林田 興祐氏

「Salesforceのようなクラウドのパッケージソフトに対して、導入して運営していくといった社内のノウハウや事例がほとんどなかったため、どのようにしてシステム運用をしていくべきか、どういった役割が必要か、といった疑問に対して参考にするものがなく、その点も課題となっておりました。もちろん、これまでも受発注など決められた業務に対してはクラウドシステムを活用していましたが、今回のように“新しい価値を生み出すためのシステムの活用”は初めての取り組みでしたので、どのように進めていくべきか悩んでいました」(村井氏)

三菱電機は、この課題をセールスフォース・ジャパンにも相談しており、解決するにはグローバルCRMの導入・展開・定着をシステム面から支援する専門の組織、すなわち「CoE(センター・オブ・エクセレンス)」が必要というアドバイスを受けていた。しかし、三菱電機にとってCoEを組織することは初めての試みであり、経験も知見もなく、自社のみでは推進することができなかった。そこで、セールスフォース・ジャパンからCoEに知見と実績があるパートナーとして、テラスカイを紹介された。

「テラスカイは、一般的なCoEの構築方法やガイドラインの策定方法だけでなく、三菱電機のビジネス状況や社内ルールを適切に理解したうえで、私たちに最適なCoEの在り方を提案してくれました。細かな設定や開発、システム/データ連携のアーキテクチャ検討、開発・運用支援、教育計画まで、幅広いサービスメニューが印象的でした。私たちも開発や運用のノウハウを社内に蓄積したいと考えていましたので、テラスカイのサポートを受けながら学ぶことができると判断しました」(村井氏)

こうして、CoE設立のためのプロジェクトが本格的に始動した。テラスカイは、2019年4月頃から三菱電機社内やCRM環境の事前調査を行い、CoEに参画。ガイドライン策定などのサービスを開始し、海外の三菱電機グループFA製品販売拠点への水平展開まで、細やかにサポートを行った。ガイドラインは、Salesforceのベストプラクティスを活用した開発ノウハウを提供すると共に、三菱電機の独自ポイントを採り入れ、策定したという。

「CoEでは、海外の三菱電機グループ各社が抱える事情をできるだけ汲み取ることを重要視しました。たとえば、日本ではチームで協力するという意識が強いのですが、海外では個人で活動する傾向があります。そのため、ある拠点では同じ部門やチームであっても個人の営業活動を共有したくないというニーズがありました。こうした要望へ応えつつ、三菱電機の日本本社がグローバル全体の顧客情報管理を行えるようにしました。その場合、拠点内での担当者同士の情報共有を行わない代わりに、三菱電機本社への情報提供は許容してもらうという形をとりました。もちろん、なかには個人情報など法律上全体に共有できない情報もありますが、顧客情報や商談情報、営業活動の情報については、デフォルトでオープンな状態にすることで、日本側できちんとグローバル全体の舵取りができる環境を目指しました。一方的な押しつけでは使ってもらえないことはわかっていたので、利用する側が極力ストレスなく使えるように意識し、グローバルCRMが定着することを優先して進めていきました」(村井氏)

「技術的な課題が生じることもありましたが、テラスカイは柔軟にサポートしてくれました。たとえば、展開中にSalesforceのメジャーアップデートが入ったタイミングでは、開発ベンダーの意見をふまえながら最善の適用方法を選択してくれました。Salesforceの知見が豊富で、新しい機能があればすぐに紹介し、活用方法を提案してくれます。技術的な信頼度が非常に高いと感じました」(林田氏)

グローバルビジネス成長のためにCRMの強化・活用を積極的に推進

こうしてグローバルCRMを三菱電機グループ各社へ少しずつ浸透させて、三菱電機側で世界中の情報を取りまとめられる環境が整った。Salesforceで情報が一元管理できるようになったことで、事業部門からは「検索すると多くの情報をすばやく取得できるようになった」と高く評価されている。海外展開についても、2023年9月には、中国 上海市の「三菱電機自動化(中国)有限公司」でのリリースを迎え、その後も順次調整を進め、他国でも活用を広げていく予定だ。

今回のグローバルCRMは、海外の三菱電機グループ各社を含めた三菱電機 FA事業全体の営業・サービスプラットフォームとして構築された。今はまだ情報共有基盤にすぎないが、いずれはプロセスを標準化してセールスノウハウの共有やビジネスの効率化に役立つことが期待されている。CRMの活用を通してこれまで以上に知見を蓄積し、“新たな価値”を顧客に提供していくための方法を探していく考えだ。そしてCoEに関しても、システム改修時に各ベンダーからあがってくる要望や意見にも耳を傾けながら、柔軟に改善・強化していくという。今後もグローバルでビジネスを展開し、各国・拠点の顧客ニーズに細やかに応えていくためには、CRMを横断的に統括・管理していくことが必要不可欠である。Salesforceをグローバルレベルで活用していくためにも、テラスカイにはさらなるサポートを期待したいとのことだ。

「私たちが目指すのは、世界のどこからでも同じ情報を同じ粒度で見られるようになり、密に連携してビジネスを推進する組織です。テラスカイの提案やアドバイスは的確かつシンプルで、三菱電機の組織やビジネスへ最適化したサービスを提供してくれました。三菱電機は、これから大きく変革していこうという段階にあります。引き続き、伴走して、さまざまなサポートを提供していただきたいと思います」(村井氏)

  • (写真)村井氏と林田氏

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