2022年11月にChatGPTがリリースされて以来、世界中で注目を集めている生成AI。その影響はビジネスにも及び、多くの企業で生成AIの活用が進められているが、活用の度合いに差が生じているという。先進企業では自社サービスに取り込んだり、社内の業務基盤として作り込んだりするなどの取り組みが進められる一方で、チャットボットとしての利用にとどまっている企業も多い。生成AIの最大効果を引き出すには、どのようなアプローチが有効なのだろうか。
そうしたなかでクラウドエースでは、Google Cloudをベースとした生成AIサービス・ソリューションを手掛け、生成AIプロダクト「GennAI Buddy」の開発も2024年のリリースに向けて進めている。同社で取締役 CTOを務める高野 遼氏に生成AIが持つ機能的な課題やその解消法、GennAI Buddyの魅力について話を伺った。
企業間で生じる生成AI活用の格差
ChatGPTの台頭から早一年。生成AIの普及は目覚ましく、その存在はもはやブームではなく着実に我々の生活に定着してきている。ビジネスにおいても同様にさまざまなシーンで利用が進んでいるものの、いまだ生成AIの導入に踏み切れない企業や、生成AIを導入したものの限定的な利用になってしまっているなど、本質的な活用に至っていない企業も多い。
一方で、生成AIによって驚くほどの業務効率化を実現していたり、新たなサービスを生み出している企業もあり、活用できている企業とそうでない企業とのあいだには大きな隔たりがあるのが現状だ。このような状況になっている要因について、高野氏は次のように説明する。
「大きな違いはシステム内製組織を抱えているなど、機動力がある組織であるかどうかだと考えます。そうした体制がある企業は、自社で手を動かして着々と活用範疇を広げていきます。また、導入においてはトップダウンのコミットが重要であり、生成AIに対する経営メンバーの意識が強いのも特徴です」(高野氏)
生成AIのビジネス利用を阻む、LLMの5つの課題とは
企業が生成AIの本質的な活用までに至らない要因として、生成AIの基盤となるLLM(大規模言語モデル:Large Language Models)の課題がある。
まずLLMとは、入力された文章の文脈に沿って次にくる確率の高い単語で文章の続きを生成できるTransformerと呼ばれる仕組みをベースにしている。テキスト生成、要約、翻訳、質問応答など、多様なタスクを行えることから注目を集めており、なかでも対話型で手軽に利用できるChatGPTは、日常業務など個人レベルで使っているという人も多いのではないだろうか。
「LLMサービスはプライバシーやセキュリティ上で懸念があります。出力のために個人データや機密データが必要になったり、生成されたデータが新たな学習データとして再利用されたりする場合があるため、活用が制限されてしまうといったケースもあるでしょう。企業が生成AIを活用するうえでは、データ送信先の企業で機密情報が適切に取り扱われているかどうか必ず確認しておかなければなりません」(高野氏)
そのほかにもLLMの機能上の制約があり、生成AI活用のハードルになりえるという。高野氏は、大きく分けて以下の5つをLLMの機能上の制約としてあげる。
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情報の鮮度
原理上、LLMは学習時に取り込んだデータセットにある情報しか知り得ない。LLMはリアルタイムで常に新しいデータを反映しているわけではないため、最新の情報に基づいた精度の高い回答ができない場合がある。 - クローズドな情報へのアクセス
LLM単体では、社内データなどのクローズドな情報にアクセスすることができない。たとえば、プロジェクトの進捗情報を確認したり、日報を要約したりしたい場合に、社内システムを横断した回答を得ることが難しい。 - 推論の性能
現在のLLMの性能では十分な推論処理が実行できず、ときに誤った情報や不正確な出力を生成することがある。 -
モダリティ(入力データ形式)の限界
LLMは基本的にはテキストのみで学習されているため、他の形式の入力情報を理解することができない。したがって、人間のようにテキスト以外のさまざまな情報から複合的な判断を下すことが難しい。 -
責任の所在
LLMが誤った結論を出力し、万が一事故につながった場合、誰がどのように責任をとるべきかはまだ議論の途中であるため、利用者は自らが責任を取る前提でLLMを使う必要がある。
LLMの課題を一挙に解決する自律型AI「GennAI Buddy」
こうした制約はあるものの、生成AIの強みがビジネスに与える恩恵は非常に大きく、現状では弱点を加味したうえで工夫を凝らしながら利用できるかがポイントとなる。
たとえば、クローズドな社内データや最新情報を取り扱いたい場合に有効となるのが、RAG(検索拡張生成: Retrieval Augmented Generation)である。RAGは、関連情報の検索とテキスト生成を組み合わせてLLMを拡張するための技術で、ユーザーからの質問と関連性の高い外部情報を検索し、それを付加してLLMに入力することで回答の正確性を高めることができる。
しかしながら、推論の性能もRAGによってある程度は解決するものの、より複雑なタスクを実行しようとするとやはり限界がある。そこで、クラウドエースでは、こうしたLLMの課題を一挙に解決するというコンセプトで、自律型AIとなる「GennAI Buddy」の開発を進めている。
「自律」とは、自分で物事を決めて何をするかを判断するという言葉である。その反語である「他律」は、行動原理やルールを外から与えられることを意味する。これまでのソフトウェアやプログラムは、手順を明確かつ事細かく指定する必要があり、完全に他律的な動作を行っていた。一方、自律型AI「GennAI Buddy」では、ゴールを与えるとそれに必要なタスクを自ら考えて完遂することができるという。
「人間であれば、『ご飯を買ってきて』と伝えるだけで、その人の好みやそのときの状況など、あらゆる事柄を考慮して適切なものを買ってくることができます。これは、前提となる情報を利用しながら推論を行い、行動しているということにほかなりません。GennAI Buddyで実現したいのはまさにこれで、事前にアクセス権限や社内データなどを与えておくだけで自身で判断できるようになることです。具体的には、WBSシステムや勤怠データ、日報などへのアクセス権限を与えておくことで、プロジェクトの進捗に応じてやるべき作業が通知されるという仕組みを構築できます。また、ときには人間に聞きながら推論して必要なタスクをこなせるような自律型AIにしていきたいという思いで開発をしています」(高野氏)
高野氏によると、企業が生成AIを活用する目的は、業務効率化と事業そのものの変革との2つに分けられるというが、GennAI Buddyがまずターゲットとしているのは前者だ。さらに、GennAI Buddyは、推論を行えるというLLMの特徴を利用することで人間に相当する振る舞いが可能になるのではという仮説のもと、開発が進んでいる。
「人間は自身の仕事の結果に対して『あれをやっておけばよかった』などと振り返りながら次の行動に反映していくことができますが、GennAI Buddyでもそれができるようにしていきたいです。また、キャラクターとしても愛らしいものにすることで、日常的なパートナーとして人間と共存できるAIを目指しています」(高野氏)
生成AI開発におけるGoogle Cloud、そしてクラウドエースの強み
GennAI Buddyのリリースはこれからだが、クラウドエースでは、今すぐに生成AIを導入したい企業に対してLLMインテグレーション・開発支援も手掛けている。ITシステムや業務とLLMとの統合支援、伴走型のシステム開発など、さまざまなメニューを用意しており、Google Cloudをベースとしている。高野氏は、生成AI開発にGoogle Cloudが適している理由として次の3つをあげる。
- Googleは次世代言語モデル「PaLM2」に加え「Gemini」の開発に取り組むなど自社でモデル開発を実施
- クラウドプラットフォームとして、RAGを利用する際に必要なベクトルデータベースなどのプロダクトを提供
- プロダクトに統合済みの生成AIとして、Google Workspace向けの生成AI「Duet AI for Google Workspace」を提供
※詳しくは、クラウドエースが提供する無料のダウンロード資料「Google Cloud だからできる ビジネスと生成 AI のシームレスな統合ガイドブック」にて解説
これらにより、ワンストップで生成AIの活用に関する悩みに対応できるのがGoogle Cloudの特徴である。クラウドエースは、Google Cloudのプレミアパートナーとして、国内トップクラスのGoogle Cloud導入・運用サポート実績を誇る。同社のLLMインテグレーションの強みについて高野氏は次のように語る。
「生成AIの活用において、要素技術1つで物事が解決するシーンはほとんどなく、データガバナンス、UI、インフラ、コストなど、システムに関するさまざまな問題を解く必要があります。クラウドエースはそれらに対応できるケイパビリティがあり、生成AIに関するシステムについてもスピーディに対応することができます」(高野氏)
業務効率化から事業創出まで、多くの企業が生成AIの活用に向け企画を練って動き出しているのが現状だ。一般ユーザーから企業へと生成AIのインパクトが広がるなか、今後はさらなる盛り上がりを見せていくと予想される。クラウドエースとしてもこの流れを後押しすべく、プロダクト開発チームとインテグレーションのチームを再構築するなど、企業からの期待に応えられる体制づくりを進めていく考えだ。
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