一般送配電事業者として2020年4月に事業を開始した「関西電力送配電」は、託送事業における、現地出向管理業務およびメーター検針業務の管理システムを、セールスフォース・ジャパンが提供するフィールドサービス支援ソリューション「Salesforce Field Service」で刷新した。SaaSをベースとした業務システムの導入は同社初の試みだったが、パートナーであるテラスカイの支援を受けながら開発を進め、スマートフォン対応や「自動ディスパッチ」といった機能を取り入れた新システムを構築。大幅な業務の効率化と事業コスト削減に成功している。
将来的な業務のあり方を視野にレガシーマイグレーションを検討
関西電力送配電は、電力事業者における「発電」「小売」「送配電」の分離を定めた電気事業法の改正に伴い、2020年4月に関西電力の完全子会社として事業を開始した一般送配電事業者である。送配電事業者は、直接の顧客となる小売事業者から託送(電気を、発電された場所から、利用される場所まで送ること)を受託し、各種の設備を通じて安定した電力の供給を実現すると共に、電力利用者のアフターサポート(設備機器の設置や故障時の修理、利用開始や停止に伴う手続き等)など、託送に関連する一連の業務を行う。
同社では、事業開始に先がけて、分社化以前から長く使われてきた、現地出向管理業務(電気利用者の元へ出向き、工事や修理、手続き等を行う業務。以下、「一般業務」)および電力メーターの検針業務(以下、「検針業務」)の管理システムについて、刷新の検討を進めていた。
「これまで、一般業務、検針業務には、ハンディターミナルをフロントエンドとする自社開発のシステムを長く利用してきましたが、保守期限が迫り、同じハンディターミナルを利用しての更新も難しくなっている状況でした。業務を効率的に進めていくうえでも、業務自体の刷新と合わせて、システムのレガシーマイグレーションを実施する必要がありました」
そう話すのは、関西電力送配電の情報技術部で、託送システム刷新グループのチーフマネージャーを務める南浦大輔氏だ。
同社の中では当初、経営陣、業務部門、そしてシステム部門内においても、過去の慣例にならい「今回もスクラッチでの開発を行うべきだ」という雰囲気が大勢を占めていたという。
「過去に、基幹システムへのパッケージ採用で苦労した経験があったことなどから、社内には、パッケージへの苦手意識が根強くあったように思います。業務についても、電力会社の業務は“特別なもの”という思いが強く、自分たちのやっている業務に合わせて、スクラッチ開発で独自にシステムを作るのが“普通”であり、パッケージに業務を合わせなければならないのは嫌だという意識が浸透していました」(南浦氏)
「スクラッチが当たり前」の慣習を破りSalesforce Field Serviceを採用
南浦氏は「多くの企業に支持され、使われてきたSaaSには、業務を革新するような技術や、ベストプラクティスが多く反映されているはず。既に、われわれのやりたいことが、高いレベルで実現できるパッケージがあるのに、あえてコストも時間もかかる自社開発にこだわる理由はない」と訴え、SaaS適用を推した。
今回のシステム刷新において、同社が特にこだわった機能のひとつに「ディスパッチ」がある。ディスパッチは、フィールドサービス業務において、さまざまな条件に基づき、適切な作業スタッフを各案件にアサインする業務を指す。一般に、ディスパッチを人手で行う場合は、多くの時間と担当者の経験が必要とされるが、近年のフィールドサービス向けパッケージには、この業務を自動で行う機能を実装したものがある。同社では、この機能を備えていることを必須要件として、クラウドパッケージの比較検討を行った。
同社情報技術部で業務改革プロジェクトのリーダーを務め、主に一般業務向けのSFS開発を主導した伊牟田雅彦氏は、SaaSでの業務システム刷新への思いをこのように話す。
「これまでアナログな要素が多かった一般業務をデジタルで改革する貴重な機会であること、この取り組みを実現することで配電営業所での一部の業務に大きな効率化が期待できることから、基幹業務のシステムにSaaSを適用するという取り組みに挑戦しました」(伊牟田氏)
最終的に比較検討を行ったのは3種類のパッケージだったが、同社ではテラスカイの提案により「Salesforce Field Service」を、新システムの基盤に採用することを決定した。
「Salesforce Field Service」は、Salesforce上で提供される、フィールドサービス業務の支援ソリューションである。基本機能としては、グラフィカルな管理コンソールを備えた自動ディスパッチ機能をはじめ、「作業報告書」の作成と管理機能、スマートフォンから、オフライン環境でも利用できる作業スタッフ用画面、電子マニュアルなどがある。これらに加えて、独自のビジネスロジックやルールの追加、画面変更、システム連携などの点で、高い柔軟性、拡張性を備える。
「いくつかの会社に、RFPを出して提案をお願いしましたが、テラスカイのプレゼンテーションは、われわれのニーズとSalesforce Field Serviceのフィット&ギャップ分析において、“ギャップ”が最も多いものでした。普通なら、採用にあたってマイナス要因になるところですが、テラスカイの提案は、それらのギャップを、どう埋めるかの対応策までを詳細に示したものでした。われわれとしても、非常に納得できる内容で、テラスカイと一緒に進めていこうと決断することができました」(伊牟田氏)
186万件/年の依頼に3000人で対応、超大規模な業務管理の効率化に挑む
同社では、一般業務と検針業務の双方について、おおよそ並行する形で、Salesforce Field Serviceによるシステム開発と、導入に向けた業務プロセスの調整を進めてきた。
「一般業務」は、電気工事などにおける現地訪問の手配、準備、現場作業、結果入力という一連の業務フローを持つ。同社管内では、年間約186万件の依頼が発生しており、約3000人のフィールドエンジニアで対応を行っている。それを管理するためのシステム構築と業務フローの改革が、プロジェクトの目的となった。
旧システムにおいて、顧客の依頼は1件ごとに帳票として管理されており、作業担当者は帳票を紙に印刷して内容や手順などを把握し、その日に訪問する現場の場所や訪問ルートなどを自分で準備していた。現場作業時の拠点への確認や相談などは電話で行い、作業を終えると、その場で報告を帳票やハンディターミナルに入力する。1日の作業が終わったら各拠点に戻り、報告内容を管理システムに入力して業務を終える。もし、予定外の訪問が必要になった場合には、拠点の管理担当者が現場の作業担当者に、都度、電話で対応可能かどうかなどの確認を行っていた。
Salesforce Field Serviceによる刷新後は、ハンディターミナルを廃止し、スマートフォンアプリが管理担当者、作業担当者、双方のフロントエンドとなっている。顧客の依頼を基に、Salesforce Field Serviceが自動で作業担当者を手配し、スマートフォンでその情報が管理者と共有される。訪問先の場所に合わせた訪問ルートもシステムによって組まれ、作業員のスマートフォンへ作業ルートや地図情報が連携される。現場での作業結果はアプリに入力することで、バックエンドへ反映される。追加訪問の確認や調整は、チャットツールで行えるようになった。作業担当者は拠点に戻る必要がなくなり、直行直帰も可能になっている。
同社では、テラスカイの支援を得ながら、段階的な導入を通じて、現場へのソフトランディングを目指した。
「従来のような“まず仕様を確定して、開発会社がシステムを作り、完成後に初めて現場が使う”という進め方ではなく、今回のプロジェクトでは、最初の3~4カ月で仮の“プロトタイプ”を作って、ユーザーに使ってもらい、そのフィードバックを反映しながら完成度を上げていくという手法をとりました。この過程で、システムだけでなく、業務プロセス側の品質も上げていくことができました。」(伊牟田氏)
同社では、まずは1カ所の拠点でプロトタイプベースの開発を進め、次の段階で、特に仕事の進め方に特徴のある3拠点を選び、同じスタイルでシステムの完成度を高めていった。
「営業拠点は約30カ所あるのですが、業務の進め方は拠点ごとに独自のもので、すべてが異なる状況でした。中でも特に独自色が強かった少数の拠点に先行導入し、そこでのフィードバックをもとに、システムとプロセス、双方の調整を進めました。システムに必要な機能やUIの実装だけでなく、業務の標準化も同時に行いながら、全拠点への導入を目指しました」(南浦氏)
一般業務におけるSalesforce Field Serviceによる新システムは、2022年8月に3拠点へ導入、2カ月後の同年10月に全拠点への導入を完了した。システムおよび業務プロセスの改善は、現在も続けられているが、現場では、作業担当者が業務時に携行する荷物の削減、帰社後の作業が不要になったことによる業務時間の削減、紙による帳票持ち出しが大幅に削減されたことによるセキュリティリスクの軽減など、複数のメリットが生まれているという。
スマートメーター導入で移行に待ったなし、検針業務を支える新システム
「検針業務」プロジェクトは、スマートメーターへの入れ替えと合わせて業務運用とシステムを大規模に刷新する取り組みとなった。
検針業務刷新プロジェクトを主導した、情報技術部の辻優介氏は「以前のシステムと業務プロセスは、約30年前に、管内にある約1300万台の電力メーターを目視で検針することを前提として構築されたものでした。業務環境の変化に合わせて、改善や修正を繰り返してきましたが、2023年4月には、全拠点における“スマートメーター”への入れ替えが完了する予定だったこともあり、抜本的な刷新の必要に迫られていました」と背景を説明する。
電力会社が電気を利用する地点に設置しているスマートメーターには、通信機能が搭載されており、各地点での電気の利用状況は公衆回線を通じて定期的に管理サーバへ送信される。しかし、メーター設置箇所のすべてで、無線の公衆回線と通信が可能なわけではない。電波状況が不安定だったり、周辺に基地局が存在しなかったりする地域では、設置場所の近くまで担当者が出向き、検針を行う必要がある。
「従来のシステムでは、地域ごとに、特定の道順で歩くことで仕事が完了できていたのですが、スマートメーターに切り替わることで、“出向く必要がある場所だけに行く”という形に変わると、何らかのナビゲーションが不可欠です。デジタル地図を使ったナビゲーションシステムを自社開発することは難しく、Salesforce Field Serviceには、自動ディスパッチと合わせて、その点を期待しました。新しい業務の運用方法も並行して練り上げながら、移行を進めていきました」(辻氏)
開発時に発生した問題のひとつはデータの「物量」だ。主に電力使用者からの依頼によって発生する一般業務と異なり、検針業務の対象件数は圧倒的に多い。1300万台のスマートメーターに対し、検針が必要な件数は、現時点で1日あたり約2万件におよぶという。 開発の過程で、この膨大な処理件数は、Salesforce側の仕様で制限されてしまうことがわかった。
「この点はプロジェクトの根幹に関わる問題でしたので、テラスカイに間に入ってもらいながら、セールスフォース本社に伝えて交渉し、制限緩和の対応をしてもらいました」(辻氏)
要である自動ディスパッチ機能については、チューニングを繰り返し適正化していった。
「どのような割り当て方が最適かは、対象地域が都市部型なのか、郡部型なのかなど、さまざまな要因で異なってきます。この点については、システム検証と合わせて、対象となる地域ごとに、件数やエリアの広さなどを変えながら、ベストな割り当て方法を検討しました。現在は、ディスパッチ業務のサポートとして、かなり使えるものになっており、引き続き改善を続けています」(辻氏)
新たな検針システムは、当初の予定どおり、2023年4月に運用が開始された。世界的な半導体不足などの影響で、作業で使用する通信モジュールなどのハードウェア調達が予定通りにいかず、操作に慣れるための並行稼動期間を十分確保できなかったことから、導入直後には現場に混乱があったものの、徐々に状況は改善しており、業務担当者からも良いフィードバックが出始めているという。
「新システムの導入で、検針担当者は拠点に出社する必要がなく、業務終了後は直帰も可能なため、業務効率は上がっています。また、自動ディスパッチが不適切だった場合の手動での担当替えや、何らかの理由で欠員が出た場合の調整なども、システム上で非常に簡単に行えるようになりました。さらに、個人や全体の進捗状況を集計、可視化して分かりやすく把握できるようになった点などは、管理者にも好評です。私自身も以前は運用の現場にいたのですが、その立場から見ても、業務は大きく改善されたと感じています」(辻氏)
SaaSの価値は古い評価軸では測れない、「やってみる」ことが成果への近道
関西電力送配電が導入した、Salesforce Field Serviceを基盤とした「一般業務」「検針業務」向けの新システムは、既にそれぞれの業務領域で、価値を生み出しつつある。現場の業務効率や作業品質の向上はもちろん、導入によって生じる事業コストの削減効果も大きく、概算で年数億円のメリットが見込まれる。
こうした効果を、さらに拡大すべきだと、両プロジェクトに関わった担当者たちは口をそろえる。
「私自身、当初はSaaSパッケージの活用に懐疑的でしたが、今では、チャレンジして良かったと心から思っています。従来のやり方を変える覚悟を持ち、新たな製品と、それを使ったシステムの作り方を学び、業務を変えていくという取り組みそのものに、今後につながる価値があると感じています」(伊牟田氏)
「パッケージを導入する際には、どうしても“パッケージに業務を合わせる”という考え方になりがちですが、そうではなく“業務の運用を刷新し、今よりも良いものにしていく”という意識を持つことが、成功のポイントだと思います。私は、もともと業務運用を手がけていて、システム開発について詳細な知識を持っていたわけではありませんが、自らの経験を通じてSaaSを活用して業務をより良くできることを実感できたことは大きな収穫でした」(辻氏)
南浦氏は、SaaSへの導入に抵抗がある企業に向け「見えていないメリットをきちんと把握して理解することが、導入効果を最大化するためのカギ」だとアドバイスする。
「SaaSの価値を評価する際に、スクラッチ開発時代の評価軸を適用するのは時代遅れだと思います。調達の仕方や、開発の方法論が変わる以上、評価の仕方も変える必要があります。スクラッチ開発は、自分たちが今やりたいこと“だけ”を作るやり方で、そこだけをミニマムに作れば、一見、コスト面で有利に見えることがあると思います。しかし、“やりたいこと”ができる機能を標準で備えたSaaSを導入することで、まだ気づいていないような付加価値も一緒についてきます。それはたとえば、導入時点では使用予定のない機能や、システム連携などの拡張性といったものですが、導入後に、そうした付加価値を最大限に活用する意識を持ち、計画を立てることで、導入から得られる成果を、さらに大きくしていくことが可能です。まずは“やってみなはれ”ですね」(南浦氏)
同社では、Salesforce Field Serviceをベースとした各業務システムの機能強化に加え、今後、他領域でのSalesforceサービスの活用も視野に入れている。こうした取り組みを通じて得られたナレッジについては、クラウド活用を検討する業界内外の企業とも、可能な限り共有していきたいと話す。
「システム開発の古い方法論しか知らなかったわれわれにとって、テラスカイの持っている知見は大変参考になるものでした。また、実際の開発の進め方も、最新のツールにマッチしたスマートなものだと感じました。今後のさらなるサポートに期待すると共に、得られたナレッジは、Salesforce Field Serviceの活用レベル向上だけでなく、今後の、さらに大きなチャレンジとなる、より基幹に近い託送システムの刷新に向けた取り組みの中でも、生かしていきたいと思っています」(南浦氏)
[PR]提供:テラスカイ