10月26・27日、TealiumはFIT2023 (金融国際情報技術展)においてブースを出展。同時にFITセミナーとして常陽銀行でのCDP導入事例が発表された。株式会社常陽銀行 ダイレクト営業部 市川友英 氏の講演から、金融業界での顧客データ活用例を追ってみたい。
多くの企業でCDPの活用が進む理由
コロナ禍はグローバル社会に大きな変化をもたらした。外出の自粛が求められる中でデジタルマーケティングはより重要性を増し、新型コロナウイルス感染症が5類に移行した以後もその流れは加速を続けている。顧客データ基盤 (Customer Data Platform、以下CDP) のパイオニアであるTealiumのマーケティング シニアマーケティングディレクターである安部 知雄氏は、マーケティングには現在、3つのトレンドがあると分析している。
一つ目は、デジタル領域における機会損失の低減だ。顧客のニーズに合わないオファーやアプローチは、顧客の離脱を招いてしまうため、無用な広告の出稿はなんとしても抑えたいところだ。
二つ目は、サードパーティクッキーへの対応である。Googleは2024年にサードパーティクッキーのサポートを段階的に廃止すると発表している。これにより、インターネット上の顧客行動を追跡することは今後難しくなる。
そして三つ目が、顧客体験向上とプライバシー保護の両立だ。「企業各社は、顧客データを活用することで顧客にとって有益なサービスを提供したいという思いを抱えつつも、個人情報は最大限に尊重しなくてはならないというジレンマを抱えています」と安部氏は説明する。
人々が「何かをしたい」と思い、目の前にあるデバイスで検索したり、購入したりする瞬間を、Googleは「マイクロモーメント」と提唱している。この瞬間を捉えないと、顧客は2度と戻ってこない。このマイクロモーメントを逃さぬために、企業にはいま顧客情報の一元管理と、顧客理解の解像度を上げることが求められている。
こうした状況を打破するため、いま多くの企業で顧客データの活用が進められている。茨城県水戸市に本店を置く地方銀行、常陽銀行もまた、Tealium CDPを導入し、顧客データを有効活用することで、顧客体験向上を実現した企業のひとつだ。
常陽銀行はなぜTealium CDPを導入したのか?
2005年に常陽銀行に入行した市川氏は、めぶきフィナンシャルグループにおいて、教育ローンや自動車ローン、フリーローンなどの無担保ローンにおけるネット広告のプロモーションを担当している。またコールセンターの運営企画や、バス・電車に掲載する認知広告なども手がけている。
常陽銀行では現在、こういった無担保ローンのほぼ100%が、申し込みから契約までネットで完結しているという。一方で、データ利活用やマーケティングにおける課題も抱えていた。
ひとつ目は、経営基盤の構築、人材の育成、活躍促進など、各推進に利用しているデータ活用が限定的であること。ふたつ目は、顧客行動をとらえた配信タイミングが少ないこと。 3つ目は、チャネル全体をとらえたデータの利活用が困難なことだ。
「どこから手を付けたらいいのか、どのツールやシステムが良いのか、既存システムとの連携と棲み分けはどうするのか、新たなシステムを導入してどうやってコスト回収するのか…。こういった課題を実務担当者は抱えていました」(常陽銀行 市川氏)
こうして、システム連携による拡張性や自由度が高いシステムで、かつ早期に投資回収が見込める分野を探っていった結果、2021年6月にネット広告領域においてTealium CDPの先行導入が進められた。
Tealium CDPの導入で解決した3つのネット広告課題
Tealium CDPの導入においては、「Webページに設定したさまざまなタグを整理整頓すること」、そして「年々増加傾向にあるネット広告の無駄打ちを削減すること」を最大の目的としていた。市川氏は「さまざまな情報を格納し、事前に設定したセグメントに合致した人にプロモーションを行いたいというのが銀行の思い」と語った後、実務担当者だからこそ感じた3つの課題を挙げ、Tealium CDPの活用事例を紹介した。
まずはじめに「マーケティングタグの管理・整理」だ。ネット広告の効果測定やコンバージョンを計測するためには、Webページにさまざまなタグを設定しなくてはならない。だが常陽銀行ではすでにタグ数がかなりの数になっており、各マーケティングタグを整理して管理効率を向上させる必要があった。そこで市川氏は、利用中のタグをTealium CDPへ移行。タグの計測条件の制御や、タグから各種情報の収集が可能な形に書き換えることに成功した。大量にあったタグを1カ所に集約することで、計測用タグの動作制御などに活用できているという。
続いて、もっとも重要な「ネット広告の獲得効率向上」。ネット広告にはさまざまな配信手法があるが、基本的にクリックさせるたびに広告料がかかる。広告主目線ではやはり少ないクリック数で顧客の獲得に結びつけたいところだ。常陽銀行でも、必要最低限のクリック数で顧客を獲得することが求められていた。
そこで市川氏が取り組んだのが、Web広告におけるCPA(新規獲得単価)の最適化だ。例えば3つの媒体で流入回数を各5回に制限しても、顧客は媒体を横断して最大15回、接触の可能性がある。Tealium CDPのタグマネージャーを経由することで、これを媒体横断で顧客一人あたり5回に制限する形で管理できるようになった。常陽銀行では実際に、Tealium CDPを活用することで獲得単価が15.3%改善したという。Web広告の獲得単価を抑えることで、限られた広告予算内でより多くのお客様にPRできるようにもなった。
そして最後に「プライバシー規制への対応」だ。サードパーティクッキーの制限をはじめ、今後さらに進むであろうプライバシー規制に柔軟に対応できるシステムを構築することは今や必要不可欠であるといえる。しかしTealiumは、日本より厳しい欧州基準でCookie制限の対応を行っているため、今後日本で制限が進んだとしても、管理画面から速やかに実装できるという。Cookie制限に対して事前の対策ができているということが安心感につながっていると、市川氏は言う。
スモールスタートも可能な仕組み
Tealium CDPによって、ネット広告における課題解決を図ってきた常陽銀行だが、さらなる活用を目指し、今まさに各システムと連携した施策展開を拡大しているそうだ。
「現在はWeb広告の制御にTealium を使っていますが、これは本当に一部分に過ぎません。MAツールとうまく組み合わせて、自前のアプリでお客さまの行動に対して速やかにプッシュ通知やメール、SMSを配信したり、興味・関心がありそうな人に対して広告を強めたり…。Tealiumはこういった機能を全部持っています。これらも存分に活用できるよう、一生懸命構築している真っ最中です」(常陽銀行 市川氏)
最後に市川氏は、Tealium CDPのポイントを次の5つにまとめた。
1.スモールスタートが可能な仕組みを持っていること
2.スモールスタートができながらも、拡張性や自由度が高くシステム連携に強いこと
3.独立した会社であり、ベンダー中立性が高いこと
4.ユーザー単位の属性をリアルタイムに収集し、プロモーションに活かせること
5.外資系企業でありながらも、管理画面の操作性やサポート体制が良好なこと
「我々は、CDPの機能の一部である、Web広告の推進から使いたいという思いがあり、まずはタグベースのデータ収集から始めました。CDPと聞くと、『すごいシステムだからしっかり入れなくちゃ』と思うところがあるかもしれませんが、このようにスモールスタートが可能な点も強調していきたいです」(市川氏)
常陽銀行では今後、行内システムで顧客ごとにマーケティングIDを発行し、それをキーに顧客の行動データを捕捉する取り組みも視野に入れているという。これにより、より一人ひとりの顧客にマッチしたアプローチができるようになる見込みだ。
常陽銀行におけるTealiumを活用した顧客データ活用事例は、聴講した多くの金融業界関係者に大きな希望をもたらしたはずだ。
常陽銀行とTealiumが語りあうトークセッション
続いて、常陽銀行の市川氏とTealium Japan シニアアカウントエグゼクティブの石垣 謙 氏がステージに登壇。金融業界がCDPを導入する際の悩みや疑問に答えるトークセッションが開催された。
◆Q1:CDP、どうやって社内決裁を取ったらいいの?
CDPはさまざまな活用ができるだけに、逆に何がメリットなのかを示しにくいということもあるようだ。社内決済を通した際の社内プレゼンについて、市川氏は次のように述べた。「私は、領域を絞ってメリットを説明しました。具体的には、無担保ローンのWeb広告における費用削減にフォーカスを当てました。TealiumさんはGoogleやFacebookでグローバルな改善実績をお持ちなので、非常に説得力をもって伝えることができました」
◆Q2:運用体制に不安はありませんでしたか?
CDPを使うというと壮大なプロジェクトをイメージしがちだが、市川氏は無担保ローンのWeb広告に領域を絞ったおかげでスモールスタートできたことが功を奏したという。また、2021年6月というコロナ禍まっただ中であってもスムーズに運営にこぎ着けられた理由として、Tealiumのオンラインサポートを挙げた。
◆Q3: CDPを社内でどのように説明した?
CDPというソリューションの存在を知らない人もまだ少なくない。そのような中で市川氏は「CDPという単語を入れずに協議書を作った」という。さらにカタカナもなるべく使わないという徹底ぶりだ。広告費の削減について詳しいPowerPointの資料を添付するなど、伝わりやすさに徹底的にこだわった点はぜひ見習いたい。
◆Q4: サードパーティクッキーの制限にどう対策したらいいの?
市川氏は「サーバーサイドのAPIでうまく情報を渡してお客様の同意を取り、シグナルロスを減らしたいというのがひとつ。もうひとつはファーストパーティ、いわゆるオウンドメディアでPRをしかけること」と述べ、自前で顧客にアプローチできる仕組み作りの必要性について説いた。
◆Q5:同意管理にかかわるプライバシーへの考えは?
市川氏は「同意管理の重要性はますます高まると感じています」と語る。「制限が強化されても柔軟に対応できる同意の機能と、同意を得たデータの利活用をセットで考えていくべき」とアドバイスした。
最後に市川氏は、金融業界各社へのメッセージとして、次のように語った。
「CDP導入以前、常陽銀行のホームページは誰が訪問したのかわからない状態でした。しかし、実店舗と同じようにホームページも重要なチャネルの一つであることを忘れてはいけません。お客さまを大切に扱い、適切なプロモーションを仕掛けることで収益に繋がります。ほとんどの人がスマートフォンを使用しているこの時代だからこそ、適切なタイミングで、適切なお客さまにアプローチをする仕組みは間違いなく必要です」(常陽銀行 市川氏)
金融業界での導入実績が豊富なTealiumが与えたインパクト
グローバルな金融業界において多数の実績を積み上げてきたTearium。FIT2023の同社のブースには、顧客体験の向上を考える金融関係者がひっきりなしに立ち寄っていた。
中でも来場者の興味を引いたのは、リアルタイムCDPのデモ実演だ。デモでは、Tealiumの操作画面でターゲットなどを設定してから、アクションを起こしたユーザーに対してリアルタイムなアプローチがなされるまでの、一連の動作を実際に見ることができた。驚くべきは、そのスピード感だ。例えば、ユーザーのスマートフォンで特定のWebサイトにアクセスすると、わずか数秒でユーザーのLINEに通知を送ることができる。イメージしていたよりもずっと速いアプローチに、来場者からも驚きの声が聞こえた。
Tealium Japanのカントリーマネージャーを務める酒井英樹氏は、「現在、金融業界は金利が上昇している局面にあり、従来より比較的利益を出しやすい時代になってきています。一方で窓口は縮小を続けており、ほとんどの業務がデジタルへシフトしていっています。お客さまとデジタルでコミュニケーションする機会が増加し、より良い顧客体験の提供を模索している銀行さんは多いと思いますが、そういった分野においてTealiumのソリューションは非常にフィットすると感じています」と、その手応えについて語った。
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[PR]提供:Tealium Japan