今、世界のビジネスシーンはかつてないほどの“変化”に直面している。その大きな要因が、テクノロジーの進歩をはじめとし、社会環境の変化に後押しされた“カスタマージャーニーの変化”である。
「こうした変化を踏まえて、企業は顧客との“つながり方”を見直す必要があります」
そう話すのは、HubSpotの自社イベント「INBOUND 2023」に登壇した、同社CEOのヤミニ・ランガン氏だ。HubSpotは、マーケティングや営業、カスタマーサービスなどビジネスを幅広くサポートするCRM(顧客関係管理)プラットフォームを提供している。
同イベントでヤミニ氏は何を語ったのか。具体的に企業はどのように準備を整え、この大きな変化を乗り越えればいいのか。HubSpot Japan株式会社 マーケティングチームマネージャー 土井 早春 氏に、「INBOUND 2023」で語られた内容を解説してもらった。
世の中は“インフォメーションの時代”から“インテリジェンスの時代”へ移行している
もし将来、「いつ世の中が変わったか」という視点で過去を振り返ることがあるならば、2022年が一つの大きな転換期だったと語られるかもしれない。それほどまでに、昨年登場したChatGPTのインパクトは絶大だった。
ChatGPTはユーザーの入力した文章(プロンプトと呼ばれる)に対して、文章やイラストなどのコンテンツを創り出す「生成AI」だ。これまでのAIは、主にデータの整理や分類のために使用されることが多かったが、生成AIはコンテンツを文字通り“生成”することができ、さらに指示を自然言語で行える。そのため非エンジニアでも使いこなせる点が画期的だった。
ヤミニ氏は生成AIについて、「AIの新たな使い方により、私たちの業界では、他の業界で過去9年間に起こったことよりも多くの変化が過去9ヶ月間で起こった。知識労働や創造的な仕事に変革を起こす可能性を秘めている」と評価している。
その変革とは、「インフォメーション (情報)」の時代から「インテリジェンス (知性)」の時代への移行だ。具体的にどういうことなのか。
土井氏は、「留意したいのは、INBOUND 2023で語られた“変化”とはこの1年でいきなり起きたものでもなければ、生成AI“だけ”がもたらしたものでもないことです」と前置きした上で、次のように語る。
「米国では2000年代前半、日本では2000年代後半くらいに“情報の時代”が到来したと私は感じています。個々人がメールアドレスを保有したことで、企業がメルマガなどを一斉配信して顧客に直接情報を伝えられるようになったのです。しかし、そうして一対多のコミュニケーションが効率化されすぎた結果、顧客は大量に届くメルマガが煩わしいと思うようになり、読まなくなってしまいました」(土井氏)
そうした状況を変えうるのが生成AIだ。これまでは顧客一人ひとりに合わせてメルマガの文章を生成するのは難しく、同じ内容のメルマガを全員に向けて大量に送信するしかなかった。しかし生成AIを適切に活用すれば、よりパーソナルなコンテンツを生成できるため、顧客それぞれに合わせたアプローチが可能になる。
単なる情報ではなく、しっかりと顧客についての知識を踏まえた内容でつながる――これこそがすなわち“インテリジェンスの時代”というわけだ。
顧客との“つながり”の重要性と、生成AIが果たす役割
ヤミニ氏、そして土井氏の話から見えてきたのは、生成AIが企業と顧客との“つながり”を強めるということだ。そしてつながりに注力することでビジネスが成長するという。
なぜ“つながり”に注力することでビジネスが成長するのか。それは、冒頭で述べたように社会環境の変化によって、顧客のカスタマージャーニーが変化していることが深く関係している。
たとえば、顧客が商品やサービスを購入し、使用するまでのステップを考えてみよう。
企業と顧客の関係性は、顧客が商品・サービスのことを知る「認知」、他の商品と比較する「検討」、そして「購入」、最後に「使用」という4つのフェーズで表せる。
以前であれば、顧客は「認知」するのにインターネット検索を活用していたが、現在はSNS等が主な情報源となっている。また、「検討」する際も、クリックして画面をたどっていくのではなく、チャットボットなどを活用した対話により情報を得ている。
こうした変化からわかるのは、顧客は企業に対して受け身なリアクションではなく、より積極的なアクション――“つながり”を期待するようになっているということだ。
「企業と顧客の関係性には3段階あります。1段階目の関係性は、売り手と買い手がお互いを知っているだけ、というもの。さらに2段階目として、売り手と買い手がそれぞれのニーズを満たすためにコミュニケーションをとる関係性があります。これは“ニーズがあるから買う(売る)”ということで、多くのビジネスはこの2段階目で終わります。しかし、HubSpotがお伝えしたいのは、さらに先の3段階目のコミュニケーションの重要性です。お互いのニーズを満たすところからさらに一歩進み、その企業の思想やブランドのあり方に買い手が共感してファンになったり、売り手が買い手についてより理解して製品やサービスを提供したりする関係性です」(土井氏)
仮に製品・サービスそのものがコモディティ化(※1)したとしても、、顧客が企業やブランドのファンになってくれていれば、それは顧客が製品・サービスを選ぶ際の強力な推進力になる。企業は価格競争などに巻き込まれることなく、顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)※2最大化にも期待できるわけだ。
※1 コモディティ化:市場参入時は高付加価値を持っていた商品が、市場の活性化によって類似商品が出現し市場価値が低下したことで一般的な商品になること。
※2 LTV(Life Time Value:顧客生涯価値):顧客が自社と取引を開始してから終了するまでの期間にどれだけの利益をもたらしてくれるかを表す指標のこと。
このように、“つながり”は企業にとって大きな成長をもたらす要素となる。では、生成AIはどのように“つながり”を強化するのか。
“つながり”において生成AIがもっとも価値を生み出すのが、顧客との接点となる「セールス」「マーケティング」「顧客オペレーション」の3つの領域だ。
たとえば、セールスにおける営業メールや、マーケティングにおけるメルマガ作成に生成AIを活用すれば、顧客一人ひとりに合わせた内容のメールをすばやく簡単に生成できる。また、商談前に顧客に関するデータを収集し、その内容を要約したり、アンケート調査などの結果を分類して全体の概要をまとめたりといった作業も生成AIなら短時間で可能だ。顧客オペレーションでは、生成AIを活用したチャットボットやFAQの作成により、より充実した顧客対応が実現できる。
「これまで人の手で行っていたルーティン作業は、生成AIのもっとも得意とするところです」と土井氏は言う。
ルーティン作業にかけていた時間が生成AIによって削減できるなら、その分もっとクリエイティブな業務に時間を使えるようになる。その結果、顧客によりよい体験を提供でき、“つながり”を強化できるだろう。
生成AI活用の第一歩とは
生成AIを活用した“つながり”の創出について、企業はどこから始めればいいのだろうか。
ヤミニ氏が第一歩として推奨するのは、「ボットの活用」「コンテンツの更新」「営業成績の予測」などに生成AIを活用することだ。さらに、ボットによる顧客対応や質の高いコンテンツを生み出すことで、顧客に対して事前に能動的なサポートを行う「事前対応型のカスタマーサービス」も可能になるという。
もっとも、生成AIをビジネスの中で使う場合に注意すべきなのは、生成した内容にもっともらしい嘘が含まれるケースがあることだ。
そのため、現状では生成AIの生み出したコンテンツについては、「必ず人の目で確認すべき」と土井氏は指摘する。逆にいえば、この点さえ気をつければ生成AIは企業にとってビジネス成長の大きな可能性を秘めたツールとなるだろう。
HubSpotではすでに生成AIをサービス内に導入しており、「INBOUND 2023」では新たに3つの新機能が発表された。
まず、コンテンツの下書き作成や画像の制作、ブログ記事のアイデア出し、ウェブサイト構築、レポート作成といった作業を行う「AIアシスタント」、さらにAIによる売上予測など精度の高い分析や推奨事項を提供する予測AI機能群「AIインサイト」、そしてHubSpotのプロダクトを自然言語でコントロールできる「ChatSpot」である。ChatSpotを使えば、たとえば「HubSpotポータルに入っている製造業のお客様のうち、従業員規模500名以上のお客様をリストアップしてください」のようにテキストで指示を出してHubSpotを操作できるわけだ。
生成AIを活用して“人間味”のあるビジネスへ
業務効率化の文脈で語られることの多い生成AIだが、実際にはそれだけに留まらず、顧客とのよりよい“つながり”を実現できる可能性を秘めたツールである。これからの時代において企業がビジネスを成長させるには、生成AIの活用が欠かせないものになるだろう。
もっとも、生成AIに限らずAIを活用するには「何よりもデータの質と量が重要になる」(土井氏)ことは知っておきたい。また、生成AIというキャッチーなキーワードに引きずられて、AIを使うこと自体が目的にならぬよう注意しなければならない。AIはあくまでも手段であって、目的は顧客とのつながりの強化と、それによるビジネスの成長のはずだからだ。
AIという存在が一般的になってきたことで、逆に「人間味」が重要視される世の中になるだろうと土井氏は予測する。生成AIの活用により、いかに人間味にあふれたつながりを顧客と築けるか。それこそが今後ビジネスの鍵となるだろう。
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