米国企業の日本法人が1987年に独立し、1999年に元親会社を友好的TOBで傘下にするという、珍しい生い立ちを持つ株式会社フェローテックホールディングス。半導体等装置関連や電子デバイスを中心とした開発・製造を手掛ける同社は、中国に大規模な生産拠点を築き、日米中3か国に柱を持つグローバル企業だ。世界的な半導体需要が高まる一方で地政学的リスクが顕在化した今、同社はどのような成長戦略、人材戦略を立てるのだろうか。同社の代表取締役社長、グループCEOである賀 賢漢 氏に聞いた。
地政学的リスクと中国・東南アジアでの戦略
―貴社の事業や製品についてお聞かせください。
主力事業には電子デバイス事業、半導体等装置関連事業の2つがあります。電子デバイス事業では、温調機能を持つ半導体冷熱素子サーモモジュールや、その製造技術を利用したパワー半導体放熱用絶縁基板などの開発製造を行っています。サーモモジュールの用途は幅広く、小型冷蔵庫やエアコンといった家電から医療機器、データセンター(光通信分野)にも採用されています。昨今、リモートワークや生成AIの普及に伴いデータセンターの冷却は大きな課題となっており、需要は増加しています。こうした分野でトップクラスのシェアを維持できているという点は、当社の大きな強みですね。
また半導体等装置関連事業では、半導体製造装置用治具・消耗材として多用されるセラミックス・石英、当社のコア技術である磁性流体を利用した真空シール、その他半導体や太陽電池の製造に不可欠な石英ルツボなどを製造しています。
―米中貿易摩擦やウクライナでの戦争をはじめとする地政学的リスクが、半導体製造にも大きな影響を与えています。こうした状況下で、貴社のグローバル戦略に変化はありますか?
これまでは当社では、製造コストを低減し、企業の競争優位性を維持・拡大するため、中国子会社での生産能力拡大に注力してきました。しかし地政学的リスクを回避するために、世界各国の顧客が半導体の地産地消を求めるようになったことで、当社としても生産体制の見直しが不可欠となっています。そこで、これまで世界規模に拡げていたサプライチェーンのブロック化を念頭に置いた戦略を立てています。
―具体的にはどのような戦略なのでしょう。まず中国での今後の戦略はどうなりますか?
半導体メーカーが名を連ねる中国、韓国、台湾が、当社にとっての3大市場であることに変化はありません。中国内の生産拠点での生産能力の増大も引き続き取り組んでいます。しかし、米国が2022年10月から半導体製造装置などの対中輸出規制を強化したことで、CPU(中央演算処理装置)などのロジック半導体、およびDRAMやNANDフラッシュなどのメモリ半導体の製造プロセスのうち、先端技術に近い部分を中国内で行うことが困難になっています。
そのため中国内では、規制の対象外となるレガシー半導体や、パワー半導体(EVや太陽電池など環境対策による市場成長が著しい分野)のプロジェクトを活性化させ、今年はパワー半導体絶縁基板、および太陽電池向け石英ルツボでの大幅増収を目指しています。
―東南アジアでの戦略はどうなりますか?
このエリアでも顧客に望まれているのは地産地消です。当社はマレーシア北部ケダ州のクリムに大規模な半導体関連製品・サービスの生産拠点を新設するほか、ジョホール州でも、パワー半導体絶縁基板の生産拠点を新設する予定です。いずれも2024年中には本格的な量産を開始し、東南アジアに生産拠点を有する米系の有力な半導体製造装置メーカー、欧米や日本の半導体メーカーなどの需要に対応します。
日本回帰の背景と、その具体策
―地産地消の体制を構築し、半導体を中長期で安定確保する狙いから、日本政府は熊本にTSMC(台湾積体電路製造)を誘致しましたが、貴社が2022年初頭に打ち出した「日本回帰」の方針もこれに合わせたものなのでしょうか。
日本でも国内サプライヤーからの部材調達を望む企業が増えており、シリコンアイランド九州での半導体関連メーカーの投資は増大しています。この国内需要のボリュームと成長の持続性を鑑み、これまで以上に積極的に日本国内で投資を行い、日系企業として日本の半導体産業への貢献度を高めることが、当グループ全体の企業価値向上に繋がると判断し、社内外に対して「日本回帰」の方針を示したのです。
―日本回帰のための具体策をお聞かせください。
大きく3つあります。まず半導体製造装置向け部材のセラミックスの増産です。そのために、石川県白山市に第2工場を竣工させ(2022年11月)、隣接する川北町には第3工場を建てています(2024年竣工予定)。
次にシリコンアイランド九州の中心となる熊本県大津町に、半導体製造装置向け部材である石英、および装置部品洗浄の新拠点を竣工させます(2024年中)。
そしてM&A戦略によって有望な日系企業各社と一体となり、日本国内、およびグローバル市場での事業成長を加速させます。2022年7月には東洋刃物(工業用刃物)、大泉製作所(サーミスタ・温度センサー)を連結子会社として迎えました。さらに2023年4月には主要子会社のフェローテックマテリアルテクノロジーズ(半導体部材)を通じて、半導体製造装置やFPD製造装置メーカー向けの真空装置の受託製造を行っているコスモ・サイエンスを連結子会社化しました。
これら以外にも半導体製造装置向け部材であるCVD-SiC(独自製法によるシリコン製品)の増産を進めるため、岡山県玉野市の既存工場に追加投資を実施しています。
国内での人材確保に向けた採用・教育・待遇の見直し
―国内における開発力向上のため、人材確保(雇用)、および従業員の教育にも力を入れていると伺っています。その内容について教えてください。
中途採用はもちろんですが、これまで必ずしも力を入れていたとは言えない新卒採用を恒例化させました。入社後のトレーニングは、既存社員も含めた職域別の社内トレーニング(一般社員・課長クラス・部長クラス)、e-ラーニング、外部講師を招いての研修など、様々な方法で強化していきます。社内の誰しもが勉強できる雰囲気をつくり、向上心が持てる環境をつくりたいのです。
大学との連携も積極的に行っています。われわれから研究テーマを提示して、基礎研究・要素技術の開発を行ってもらうのです。現在は、中国での取り組みがメインではありますが、有望なものは当社が支援して実用化にまで持っていきますし、卒業生をそのまま当社に迎えることも視野に入れています。国内でもこのような取り組みを強化していきたいと思います。
中途・新卒採用の強化、社員教育の充実、大学連携などの取り組みを通じて、より多くの仲間をお迎えしたいと考えています。現在は50名ほどの国内開発者を、3年後には100人規模にすることを目指しています。
―待遇面でも他社との差別化を図ろうとされていると伺っています。
一般的に日本企業の初任給はまだまだ安いような気がします。当社では新卒入社でも月20万円台の半ばや、場合によってはもっと出してもいいと考えています。「会社に貢献してくれた分は還元する」ということです。
貢献に値する仕事をしようとすれば、そこにはチャレンジが必要になってきますが、多くの大手企業には、1%でもリスクがあればチャレンジを認めない風潮があります。それでは悪い結果は出ないでしょうけれど、その代わりいい結果も出せません。「これはやってはいけない」「あれもダメ」と言っていたら、従業員のやる気はなくなってしまうでしょう。当社はリスクよりもスピードを優先させ、チャレンジで良い結果が出せたらきちんと還元するという姿勢を大切にしています。もちろん賞与は業績にもよるところはありますが、業績が良い年は、8か月分の賞与をお支払いしています。
また現在は役職者以上を中心に適用しているストックオプション制度を、将来的には一般社員にまで拡大することも検討しています。
―貴社への入社に関心を持つ方々にメッセージをお願いします。
当社は皆さんが能力を発揮できる環境、チャレンジできるステージを整えています。そのステージは国内だけでなく、地産地消のニーズに応えて世界各国に立ち上げている拠点にまで拡がっています。グローバルに活躍したい方にもぴったりだと言えるでしょう。
今、当社には皆さんの若い力が必要です。会社全体が若返ることで元気になり、これからの成長につながるからです。能力や貢献度に応じて20代後半で部長になったり、30代でグループ企業の社長になったりする人が出てきてもいいと、私は考えています。真面目に、そして積極的に仕事に取り組める方、チャレンジ精神をお持ちの方は、ぜひ一度、当社の門を叩いてみていただきたいと思います。
―ありがとうございました。
◎もっと知りたい◎
[PR]提供:フェローテックホールディングス