急成長している企業の人事労務担当者は、組織が急速に拡大しているがゆえの課題に悩まされているはず。本記事では、グループ全社で従業員数約2,000人(2023年5月末時点)を擁する株式会社マネーフォワードの人事労務部門であるPeople Forward本部 人事労務部 部長の兼松大樹氏に、急成長に伴い労務において生じた数々の課題を乗り越えた際のポイント、そして課題解決に力を発揮したノウハウなどを伺った。
マネーフォワードが目指す「Fairness」のバリューと、それに基づく人事労務部門のミッション
──まずはマネーフォワードの事業内容について教えてください。
マネーフォワードは、SaaSとフィンテックを掛け合わせた領域で多彩な金融系Webサービスを提供している会社で、2012年に設立されました。家計簿アプリからスタートし、現在は個人向けプロダクトとして家計簿・資産管理サービスの「マネーフォワードME」、法人向けには会計・給与・勤怠などのバックオフィスSaaS「マネーフォワード クラウド」を提供するほか、金融機関向けにフィンテックのプラットフォームも用意しています。
近年は新規事業開発に加えて、社内で「グループジョイン」と呼ぶM&Aも積極展開し、事業領域を広げるとともに会社自体も急成長している状況です。国内にとどまらずグローバルの拠点展開にも着手し、人材の多様化が進んでいます。
──People Forward本部 人事労務部という部門のミッション・役割はどのようなものでしょうか。
いわゆる人事労務部門で、最近は本部内で「予防労務」を重視しており、その取り組みを通じて人と組織の健全性を高めていこうとしています。そこには当然、従業員の健康に配慮する健康経営の要素もありますし、労働関連の法令遵守に力を入れるという視点も含まれます。
当社は社会に約束する行動指針であるVALUES(バリューズ)の中で「Fairness(フェアネス)」の考え方を大切にしており、人事労務部門においても社員に対し、フェアに誠実に向き合うことを追求しています。ルールデザインの見直しも行い、各制度でしっかり効果を出せるように努めているところです。
たとえばフレックスタイム制や裁量労働制などの働き方をルール化する際、その制度の内容をしっかり伝えていかないとうまく活用されません。それでは意味がないので、会社が成長してフェーズが変わっていく中で、実態に合っているかを常に見直し、制度の効果を高めていけるよう取り組んでいます。
また、People Forward本部にはカルチャーの浸透というミッションもあり、「働きがい」と「働きやすさ」を両立した職場づくりを目指して、人と組織双方の成長を牽引していこうと考えています。
──兼松さんの業務内容、そしてこれまでのキャリアについても教えていただけますか。
人事労務の根幹となる給与計算や保険手続き、人事管理と呼ばれる人事データのメンテナンスや人事関連規程の整備、そのほか安全衛生、BCP、さらにはストックオプションや譲渡制限付株式(RS)といった株式報酬に関する部分の管理も担っています。
もともとのキャリアは社会保険労務士事務所からスタートしました。その後、“従業員の顔が見える規模の会社”で働きたいとの考えから、100人程度の会社に転職したのですが、後に買収があり、より裁量権のある環境を求め、2019年にマネーフォワードに転職しました。当時は600人ほどの規模だったのですが、面接の際にスピード感と柔軟さを併せ持った会社だという印象を受け、転職を決意しました。
急成長したがゆえに生じた労務上のさまざまな悩みと「原則」「個別」の関係性
──兼松さんの入社後も従業員が一気に増えたマネーフォワードですが、急成長したことで労務上のさまざまな課題に直面したのではないかと思います。
そうですね。やはり会社が成長していくと、毎月多くの社員が入社してくるのに対し、限られた人数で業務負荷が高まってくるなど、労務部門の人員不足に起因する課題が当然ながら生まれます。
加えて、会社が大きくなっていくと、働き方も多様化します。たとえば当社より規模が大きな企業で働いたことがある方からは、今までの経験から新しい要望が増えるようになってきました。
また組織を細分化しないとマネジメントもしづらくなるため、マネージャー層が増えていきます。すると、法令遵守の観点から守ってほしい制度やルールに対する考え方にバラつきが生まれ、部署によって理解度や実態の運用で差が出てしまう、といった事態も起きてきます。
労務側としても、制度はできる限りシンプルにしておきたいとの思いがあり、原則論はどうしても必要なのですが、組織が多様化すると、どうしても最後は個別の事例に柔軟に合わせた判断をしていかなければ、着地点が見出せないケースが増えてきました。加えて、制度に対する情報提供もしなければ、各現場が混乱しますし、その都度こちらに相談がくると人員不足で手が回らなくなるという状況になりました。
ほかにも、数年経ってルールが変わると、当初のルールはしっかりキャッチアップできていたものの、その後アップデートされず過去の情報のままマネジメントしているというケースも発生する可能性があります。ルールの理解度にバラつきがあると、知らないうちに法律を違反していたという事態も起きかねないので、労務としてはやはり懸念材料でしたね。
──法令上守らなければいけない「原則論」と、現場に合わせた柔軟な対応をもつ「個別最適化」。この両者のバランスを保つのは、やはり難しいでしょうか。
新任のマネージャーに対して、情報を押し込みすぎるのはよくありません。そのため、基本的には原則論でシンプルにしていくことが重要で、着任時には守ってほしいルールについて最低限の情報を伝えていくことは必須だと思います。ただ、法令上守らなければならないものと、柔軟に運用可能な部分については、実はそれほどの違いはないと考えています。
法令の守り方も、細かく見ていけば決してワンパターンではありません。確かに、残業時間など明確な数字が明記されている場合、そこに例外はないのですが、残業を調整していくうえでの個々の働き方にはいくつもの選択肢があります。たとえば、休日出勤したときに事前にお休みする日を決める振替休日を原則としつつ、代休とどちらを取得するのかについても、しっかりと情報提供できていれば、従業員が柔軟に休めたり、残業時間を上手にコントロールできたりする場合もあります。
このように、実際に原則論の多くは、法令上というより社内上で何が原則なのかを決めて運用していくことの方が多いです。
そうした情報を個々の従業員に対し、事例も交えてうまく伝えられていれば、あとは現場で法令違反に至らない範囲で柔軟に調整してもらえるのではないでしょうか。
「働きやすさ」の実現に向けたマネーフォワード労務担当の取り組みとは
──そうした課題に対し、労務担当者が業務で留意すべきポイントはどういった点でしょうか。
急成長に伴って課題が生じたときは、業務の効率化はもちろんですが、会社の状況の変化に応じて制度やルールのアップデートに目を向けないと、会社として良い方向に進めませんし、多様な従業員が気持ちよく働ける環境もつくれません。
一律の原則を押し付けてしまうと公平でないという不満が出てくるので、そこは実態に合わせて制度に反映していくことが必要でしょう。
──ここまでの話を踏まえて、マネーフォワードの人事労務部門が急成長を乗り切るために取り組んだ、あるいは今取り組んでいる事例を教えてください。
多忙なマネージャーに、「勤怠システムでしっかりと部下の残業管理をしてください」とお願いするのは、自動でアラートするような機能がない限りかなり難しいと思っています。そこで入社時に「残業時間は従業員個々人できちんと管理しなければいけないもの」と伝え、一人ひとりが残業についてきちんと理解しコントロールしてもらいつつ、もしも超過しそうなら自分から上長に事前相談すること、という方針を出しました。急成長でバラつきが生じる中、それをなくす試みの一つの事例に挙げられると思います。
そのほかに細かい話ですが、出張時に自動車を使う場合、レンタカーとカーシェアの2つの形態があります。乗り捨てしたい場合はレンタカーを選択するなど、どういう場合にレンタカーを使い、どういう場合はカーシェアにするという一定のルールがないと、利用する従業員は困ってしまいます。また、カーシェアについては、渋滞を考慮し、返却時間には1~2時間余裕を持たせるなど、原則論も伝えることで、従業員自身が最適解を選択し仕事ができるよう、今後取り組んでいきます。
──一方で、これまで失敗事例もあったのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
たとえば物価が急速に上がってきた中で「この金額設定では足りない」という声を聞くと、世の中で起きていることに対して後手に回っている現状を痛感し、失敗したと感じます。そのため失敗と感じたときは、とにかく「すぐやる!」との思いで対応に臨んでいます。
会社の状況に応じて、柔軟にルールをアップデートしていくためのノウハウとは
──急成長している企業の経営層及び労務担当者に向けてアドバイスをいただけますか。
会社が一つの方向を向いて進んでいくには、やはり会社としての明確な方針が示されていることが大切です。その上で、会社が示したミッションやビジョンを実現するため、労務担当としてもその達成に向けて取るべきアプローチを考えていくことができます。
会社の方針や守るべき法令に則り、変えてはいけない根幹の部分はそのままに、状況に応じて制度やルールを柔軟にアップデートしていくことがやはり必要です。そしてアップデートに際しては、その制度やルールをなぜ、どのような基準で変えたのかを記録しておくことが大事です。
ルールを作った5年後に改定しようとなったとき、そもそもこのルールはどういったゴールを達成するために設定したのかがわからないと、経営層や従業員に対して説得力のあるストーリーで説明できません。とくに担当者が変わった場合、前回のルールを策定した背景がまったくわからない可能性もあるので、日々の業務で忙しい中でも記録を残しておくことをおすすめします。
──9月11日~9月15日に行われる、マネーフォワード主催イベント「コーポレートの0.5歩先の未来を考える一週間」の人事労務パート(※)にて、兼松さんがセッションを行うそうですが、その概要や見どころをお話しいただけないでしょうか。
(※)人事労務パートは9月15日に実施
当日は、『マネーフォワード労務部が語る、企業成長とともに労務部門が求められる「変化」とそのプロセス』をテーマにセッションを行います。
労務部門は「給与確定を早期化すべきか」「給与計算などの業務を内製化すべきか」のような、企業の成長とともに重要な判断のタイミングが何度も訪れます。
今までの経験でも給与計算にかかる時間が10営業日から5営業日になることや、2営業日に短縮した後、さらに1営業日へとどんどん短縮されていくことがありました。当社でも早期化に取り組んでおり、勤怠をどのように1営業日で締めているのかといった、実際の体験談や、給与計算についても当社のプロダクトも絡めてお話しできればと考えています。また、この記事でお話した制度やルールの事例についてもさらに詳しくご紹介したいと思っています。会社の急成長に伴う人事労務の課題に悩んでいる担当者、あるいは経営層の方にご覧いただければ幸いです。
──ありがとうございました。
関連リンク
「コーポレートの0.5歩先の未来を考える一週間」開催概要
●開催期間:2023年9月11日(月)〜9月15日(金)
●開始時間:全日程12:05〜
●参加費:無料
●場所:オンライン開催(Zoom)
●対象:企業のコーポレート業務に携わっている方
●主催:株式会社マネーフォワード
●申込締切:2023年9月14日(木)まで
「コーポレートの0.5歩先の未来を考える一週間」の詳細はこちら ※本記事に登場頂いた、兼松氏のセッションは9月15日(金)に開催となります
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