EC市場の拡大、そしてコロナ禍によって消費者の購買行動は変化した。オフラインとオンラインの垣根がなくなった今、どの販売チャネルでも顧客1人ひとりを知りつくした良質な顧客サービスの提供が求められている。そこで注目されているのが、新たな購買の形「ユニファイドコマース」だ。 5月24日に開催されたオンラインセミナー「TECH+ Business Conference 2023 ミライへ紡ぐ変革 Day8 EC再考」で、TIS デジタルマーケティングサービスユニット ユニファイドコマースサービス部 山本豪氏は、先進企業の事例を交えながらユニファイドコマースについて解説した。
TISが定義する「ユニファイドコマース」とは
コロナ禍前からECと店舗を行き来するような購買行動はすでになされていたが、テクノロジーの進化などもあり昨今その動きはさらに加速している。山本氏はこうした状況を「ECと店舗をよりシームレスにつなぐサービスや仕組みが必要になっていく。また、顧客接点も単純なECサイトや店舗だけでなく、VRコマースやIoTを活用した自動購買など、さまざまな変化が起こっていくと考えている」と分析。そして、「従来はECサイト自体をどう更改していくか考えていたが、それだけではビジネスの発展にはつながらない。店舗や新たな接点も含めた全体の顧客接点のなかで、どういうサービス提供や業務を行っていくべきか、そのなかでECはどうあるべきか考えることが必要」と説明する。 今回のセミナーのテーマとなった「EC再考」とは、ユニファイドコマースを目指す取り組みとも捉えられる。ユニファイドコマースとは、オムニチャネルやOMOといったマーケティング手法を発展させた考え方で、TISとしては「オンライン・オフラインにかかわらず、いつでもどこでもお買いものができ、お客さま一人ひとりの心をつかむ接客や商品によって心地よいお買いもの体験を提供すること」と定義している。 「顧客目線に立つと、自分が誰でどんな嗜好なのか実店舗とECサイトを通して把握してもらったうえで、その時々に最適な購買体験を得られる。事業者目線では、オンラインとオフラインをお客さまが相互に行き来し、店舗スタッフもそれに応じた動きができる。ユニファイドコマースとは、こうした世界を実現できる仕組みが整った状態のことをいう」(山本氏)
ユニファイドコマースを目指した顧客接点の再考事例
続いて山本氏は、ユニファイドコマースを目指して顧客接点を再考した先端事例について紹介した。
1. ワコールにおけるSTAFF START導入事例
大手下着メーカー ワコールは、2019年よりOMO施策推進の一環としてECの強化を進めており、現在でもユニファイドコマース実現に向けた施策に積極的に取り組む。施策の1つが、バニッシュ・スタンダードが提供する店舗スタッフDXツール「STAFF START(スタッフスタート)」を活用したECサイト上での商品紹介の取り組みだ。STAFF STARTは、ECサイト上で店舗スタッフが写真・コメント付きでコーディネートや商品の紹介を行えるツールで、サイトの来訪者が商品紹介をより身近に感じたり、実用のイメージが持てたりといったメリットがある。店舗スタッフにとっては自身の接客ノウハウや商品知識をより多くの顧客対応に活かすことができる。 ワコールがSTAFF STARTを導入した狙いは、オンライン接客を可能とすることで同社の強みであるビューティーアドバイザーの知見とECサイトの相乗効果を生み出すことであった。実際に、スタッフレビュー閲覧後に顧客が店舗に来店して試着購入に至っている、商品テキストに情緒的な内容が加わることで購入の後押しになっている、店舗スタッフがECサイトを第二の売り場と捉えるようになったことで部門を横断した施策に取り組める環境づくりができた、などの効果が出ているという。
2. AI骨格診断サービス「NIAiNO」による顧客体験向上
TISが提供するAI骨格診断サービス「NIAiNO」は、昨今のアパレル業界でトレンドとなっている骨格診断をスマートフォンで撮影した写真を用いてAIが行うもので、自宅や店舗で手軽に骨格診断を実施できるのが特徴だ。
たとえば店舗では、備え付けのスマートフォン端末で写真を撮影し診断を行い、その結果をもとに店舗スタッフが商品をレコメンドすることもできる。また、ECサイトでの活用も可能だ。オンラインショッピング中にNiAINOのサイトへ遷移し診断を行った結果を用いて、ECサイト上で商品をレコメンドしたり、同じ骨格を持つスタッフによるコーディネートを提案したりといったこともできる。 さらに、診断結果を個人と紐づけて管理すれば、ECサイト上で骨格診断した顧客が店舗へ来店した際、その情報を活かした接客を行ったり、店舗で診断した結果をもとにECサイト上の表示内容を変えたり、DM送付などその他チャネルでの施策につなげることも可能となる。
ユニファイドコマースを実現するシステムに求められること
ユニファイドコマースの実現には、ECと組織の枠を超えた業務設計、それを実装したシステムが必要になる。特に店舗とECをシームレスにつないだ体験を提供するには、システムおよびデータを適切につなぎ合わせていくことが重要であり、まずはそのための基盤整備について検討しなければならない。 この際、ECと店舗システムが分断しているためシームレスな顧客体験の足かせになっているという状況は多くの企業が抱える課題となる。また、必要なデータが分散しており1to1マーケティングに必要なデータを活用できていない、多くのシステムが複雑に絡まりあっているがゆえに何をするにも影響が大きくスピード感が出ないといった課題もよく聞かれる。 これらの課題を解決するための方法は、各事業者ごとに異なる。ECと店舗で分かれている個別システムをデータ連携でつなぐパターン、EC販売管理システムのバック機能に店舗の機能を融合させるパターン、店舗およびECの販売基盤を一元化するパターンなどがありえる。ただし、山本氏は「自社の顧客に提供するサービスの内容とROIを整理して方針を定めることが重要。どのようなシステム方式にせよ、ECサイトの再考だけでなく顧客接点の再考からはじめることが必要になる」と強調する。
TISが解決策の1つとして提唱しているのは、オンライン/オフラインで共通利用するデータを統合するという考え方だ。ここで重要となるのが、顧客データと在庫データであり、これらを統合できる基盤の構築をTISでは支援している。また、フロントエンドの変化にすばやく対応するためには、APIベースのヘッドレスな基盤が必要となる。そして、連携基盤としてフロントとバック機能をつなぐコントロール層を構築していくという流れになる。
「これは1つの解決策でしかなく、データとシステムをどうつなぐかは事業者による。自社にあったアプローチを検討する際には、さまざまなサービスや事業者のニーズを適用してきたSIerであるTISの知見が役に立つところだと思う」と山本氏。「システム導入や既存システムとの調整をSIerならではのプロジェクト管理と品質でサポートし、事業者のユニファイドコマースを支えていく」と語った。
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