働き方改革やDX推進を背景に、企業の働き方は多様化してきました。そして、労務業務においても多様化が進んできています。その結果、給与計算や勤怠管理といった既存業務の傍ら、時代の潮流に合わせた新たな業務をこなさなければならない労務担当者の負担は増す一方です。そこで注目されているのがバックオフィスへのクラウド導入。
クラウドサービスにより業務を効率化することで、労務担当者の負担の軽減につながることが期待できます。さらに、クラウド導入のメリットはそれだけではありません。効率化により生まれたリソースを活用することで、労務担当者のキャリア形成や会社の組織風土の醸成などが可能になるのです。
今回は、マネーフォワード クラウドのHRソリューションのラインナップを始めとし、人事労務関連のクラウドサービス導入支援を行うTECO Designの杉野さんに、現在の労務が抱える課題とその解決策、そしてクラウドサービスを活用することで生まれる新たな時代の労務の価値についてお話いただきました。
1982年生まれ。岡山県笠岡市出身。広島大学大学院を卒業後、医療系ITベンチャー企業を経て社会保険労務士事務所に入社。給与計算業務や顧問先担当企業のIPO、M&Aを経験した後、グループ内でコンサルティング会社を設立し、顧客のバックオフィスへのITソリューション導入を支援する。2019年にTECO Designを設立。勤怠/給与関連のクラウドサービスの導入サポートを主事業として行っている。
社労士事務所で感じたバックオフィスIT導入支援の必要性
──まず、TECO Designの事業について教えてください。
TECO Designは、人事労務関連SaaSの導入支援・設定代行を事業として行っています。特に中小企業はIT人材が不足していたり、情報収集する時間がなかったりといった課題をお持ちの方が多いため、独力でのテクノロジー導入はそう簡単ではありません。
TECO Designは人事・労務分野における業務設計およびIT導入のノウハウを持っており、バックオフィスへのIT導入を支援しております。また、IT導入において必要となる従業員への説明会や管理者研修、動画マニュアルの提供など、トータルでサービスをご提供しています。
──IT導入に興味はあるけれどなかなか踏み出せなかった企業にとって、TECO Designは強い味方といえますね。そもそも杉野さんはなぜTECO Designを設立して人事労務のIT導入支援を行おうと考えたのでしょうか。
TECO Design設立の背景には自分自身の経験があります。もともと私は社会保険労務士事務所に10年間勤務していたのですが、そこで強く感じたのがバックオフィスへのIT導入の必要性です。当時のバックオフィス業務は紙などを使ったアナログなやり方がまだまだ多く、効率がいいとは言えない状態でした。
そんな折、当時の所長の方針で中小企業における労務管理のIT導入を支援するグループ会社をつくることになり、私がその会社の責任者になりました。事業をスタートしてみるとすぐにたくさんのお問い合わせやご依頼をいただき、このビジネスに大きなニーズがあることを実感しました。ただ、そのせいで当時は忙しくなりすぎてむちゃくちゃな働き方になっていましたね。朝9時までに送らないといけない資料を夜中の2時から作る、みたいな(笑)。
そこまでやっても、自分だけの力ではせいぜい10件や15件くらいのお客様しか一度に抱えられませんでした。そこで、これはきちんと組織にするべきだろうと考え始めました。また当時は広島にいたのですが、東京をはじめ全国からも「お願いします」「次はいつこちらに来られますか」といったお問い合わせをいただくようになっていました。
これだけ困っている方々が全国にいて、幸い自分にはその課題を解決できる経験とチャンスがある。それならやるしかないだろうと思い、TECO Designを設立し独立したのです。
労務の業務は標準化されず“秘伝のタレ”状態になっている!?
──多くの企業の労務管理におけるIT導入を支援されている杉野さんから見て、労務担当者の課題はどんなものがあるでしょうか。
ITやクラウドが導入できていない場合、業務が非効率になってしまうことはまず課題といえます。さらに労務担当者個人における大きな課題は、周りに相談する人がいなかったり、キャリアのロールモデルがいなかったりすることです。たとえば営業なら同期入社のメンバーがそれなりの人数いたり、エンジニアなら勉強会などで他社の人とつながる機会があったりするでしょう。
しかし、労務担当者は社内の人数もそう多くはないですし、会社の機密情報を扱うことが多いため、社外の労務担当者とも交流しにくい現状があります。そもそも交流会を開催しても、そこに集まるのはビジネスのことも労務のことも深く理解しているような“スーパー労務担当者”なんですね。しかし、そういう方は一握りです。僕たちが支援したいのは、むしろそういった集まりに参加しにくさを感じているようなごく普通の労務担当者なんです。
そもそも労務担当者は他の仕事と比べてもスキルに差が出やすい職種といえます。なぜかというと、業務内容が会社によってまったく異なったまま月日が経過し、業界での標準化が進まず、1社でのスキルがポータブルになりにくいからです。いわば“秘伝のタレ”なんですよ。
労働基準法などの法律を土台に、会社独自のルールを継ぎ足ししながらどんどんローカル化してしまっているケースが多いです。ですから1つの会社で長く経験を積んで仕事を最適化しても、それはその会社でしか通用しません。転職するとまたゼロから仕事のやり方を覚えないといけなかったりします。これでは労務担当者はキャリアを描きにくいですよね。
──たしかに同じバックオフィスでも経理や人事と比べて、労務の業務内容はイメージしにくいです。
ふわっとしたイメージですよね。おそらく多くの社員さんは自社の労務担当者のことを何となく“ただの事務屋さん”くらいで認識しているのではないでしょうか。だけど実際には労務担当者は会社にとって重要なポジションを担っていることが多いんです。
というのも、先ほど申し上げたように会社には法律の上に築かれた独自のローカルルールがあり、それを握っているのが労務担当者だからです。ローカルルールはいわばその会社の「カルチャー」です。たとえば当社では社員の行動指針を定めていますが、それは法律的には別になくてもいいものです。でも、何か判断に迷ったときに「TECO Designとして何を大切にしているか」という拠り所があった方が社員は動きやすくなるんです。
そういった“企業風土”みたいなものがあると、法律だけではコントロールしきれない会社の細部までカバーすることができます。労務担当者が重要なポジションになると申し上げたのは、この企業風土を構築し、定着させる役割として最適だからです。
労務はこれからの時代の「花形業務」になる
──これまでの労務の業務イメージから、一段視座が上がったような感覚ですね。
そうですね。そういう意味で私は労務という仕事はこれから「花形業務」になると考えています。それを予測して他職種から労務業務に参入しようとする動きはすでに出てきています。
これまでビジネスサイドでばりばりやってきた人が労務を体系的に学び、スキルの習得を始めています。そういった高い意識を持った労務担当者もいれば、一般的なイメージ通り“事務屋さん”として同じ仕事を繰り返している労務担当者もいるわけです。このままでは従来の労務担当者の仕事は、AIよりも先に新世代の労務担当者に奪われてしまうかもしれません。
──同じ労務担当者でもスキルの違いで大きな差が生まれようとしているのですね。従来の労務担当者から新たな労務担当者へとステップアップするにはどうすればいいのでしょうか。
まずは、ITや、マネーフォワードをはじめとするITベンダー各社が提供するクラウドサービスの導入により、労務の業務を効率化するべきでしょう。そうやってつくった時間を活用して、労務担当者としてありたい姿を目指すのです。
たとえば企業のカルチャーや風土を構築する役割を担ったり、あるいは人事のスキルを身に付けて労務と人事の両方を担える人材を目指したり、労務の知識をさらに深めることで単なる事務屋さんではなく会社の人から「あの人にお願いしたい」と思われるようなスーパー労務担当者を目指したりと、道はさまざまです。いずれにしても一日中アナログな業務に向き合って過ごす労務のスタイルとは決別する必要があります。
それは経営者側も同じです。実は労務にITを導入しない理由として「今困っていないから」ということが多いんです。今いる人でまわっているから、と。しかしよく聞いてみると「ITを導入して8時間かかっていた仕事が30分で終わるようになったら、労務に残りの7時間半何をさせたらいいかわからない」と経営者は思っていたりします。
そんな意識のままだと、従来の労務担当者の仕事は新世代の労務やAIに取って代わられます。だからこそ経営者は「労務をどうしていくのか」をまず考えてからITやクラウドを導入することが大事です。ITの導入で従来の作業コストが9割削減できるなら、そのリソースを使って労務を次のステップへ進める必要があります。
──ただ労務担当者が改革を望んでも、経営者側が動いてくれないこともあります。特にバックオフィスへの投資は売上や利益に直結しないことも多いですよね。
そこは、経営層として気になるポイントに結びつけた数字や効果を、労務が提示するしかないと思いますね。単に「業務が効率化します」では「今まわっているから投資は不要」と判断されるかもしれません。しかし、たとえば残業時間や有給消化率って、人を採用するとしたらすごく重要な要素なんですよ。採用は経営者にとっても重要な事柄なので、IT導入によって、残業時間を削減したり有給消化率を上げたりして採用に好影響が出ることを示せば、経営者もバックオフィスへの投資を検討するのではないでしょうか。
──TECO Designの今後の展望について教えてください。
大きく3つの事業を展開していきたいと考えています。1つはYouTubeでの情報発信やSaaSのショールーム運営、社労士検索プラットフォームといったメディア事業です。たとえばYoutubeでは、マネーフォワード クラウド勤怠を始めとし、人事労務関連のさまざまなSaaSの操作方法レクチャーやレビュー、人事労務領域の情報発信などをしてします。もう1つは社労士法人を設立して行うコンサルティング事業、そして最後にBPO事業です。労務担当者を育てるくらいのつもりで、お客様の業務フローにも口を出すスタンスでやっていきます。
──それでは、最後に労務担当者に向けてメッセージをお願いします。
労務はこれから花形業務になっていくと思います。会社の文化やルールを握っている重要なポジションであり、重要な役割を担える立場なのです。単に事務をやっているだけと思わず、誇りを持って労務という仕事に取り組んでいただきたいですね。
マネーフォワード クラウドのHRソリューションの詳細はこちら
関連リンク
TECO Design株式会社
https://teco-design.jp/TECO Design YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@-TECODesignChannel人事労務関連SaaSを体験できる「クラウドステーション」
https://cloud-station.jp/デジタルに強い社労士に出会えるプラットフォーム「社労士ステーション」
https://sr-station.com/[PR]提供:マネーフォワード