さかいりはグループ」の代表企業として、訪問看護、通所介護・居宅介護支援・児童発達支援・企業主導型保育園など、多彩な事業を展開する株式会社祥ファクトリ。同社は千葉県 14 拠点、東京都 3 拠点、神奈川県 2 拠点と、関東エリアを中心に多数の拠点を構え、子会社の株式会社リハプロでは、愛知県と大阪府の訪問看護ステーションを運営している。祥ファクトリではスタッフが働きやすい環境を実現するため、業務効率化を支援するさまざまなアプリを Claris FileMaker で開発しているという。その取り組みについて、経営、システム担当、現場統括のそれぞれの立場から話を伺った。

  • (左)株式会社祥ファクトリ 常務取締役 理学療法士 若松 昌哉氏 (右)株式会社祥ファクトリ システム担当 大谷 光利氏

地域の利用者の「もっと」を実現するために、多角的な看護・介護サービスを提供

祥ファクトリが訪問看護事業を始めたのは 2003 年。会長の阪井康友氏が茨城県立医療大学で講師をしていたとき、千葉県在住の子どもがリハビリのために茨城県内の付属病院に長時間かけて通院しているのを見たのがきっかけだったという。阪井氏は「彼らが地元でリハビリを含む訪問看護が受けられるようにしたい」という思いから、祥ファクトリを創業した。

その後、訪問看護を中心に千葉県内に拠点を次々設立し、さらには他都府県にも事業所を展開。現在、従業員は看護師・理学療法士・作業療法士など合わせて約 220 人で、利用者数は訪問看護だけで約 4,500 人、他事業も含めると 5,000 人を超える。近年は、看護・介護サービス利用者が暮らしやすい住環境の整備をリハビリ専門職の視点から提案する建築・不動産事業も手掛けるなど、地域の看護・介護を総合的に担う企業へと成長している。

祥ファクトリでは、「地域の利用者の『もっとこうありたい』にできる限り応えていきたい」との思いでサービスを提供していると、常務取締役の若松 昌哉氏は言う。加えて行動指針には、利用者や地域社会と並んで「社員とともに」という言葉を掲げ、「スタッフが働きやすく、働きがいも実感できる環境を提供していきたい。そのために、スタッフのニーズに応じて融通が利く労働環境の整備はもちろん、看護・介護の専門職としてスキルアップし、成長していける仕組みづくりにも積極的に取り組んでいます」と若松氏は語る。

  • 若松 昌哉氏

事業拡大で Excel を使った情報連携に限界が訪れる……

千葉県内から他都府県へと事業エリアが拡大した 2013 ~ 2014 年ごろ、看護・介護業界では法規制の側面もありなかなかペーパーレス化が進んでおらず、同社でも日報などを紙に書く慣例があった。紙に書かれた情報を Excel に転記しメールで送信することで、本社や事業所間の情報共有を行っていたという。ところが事業所数が一気に増加したことで、こうした情報の扱いに問題が生じたのである。

「従来の事業所数であれば、Excel を使った業務でもさほどの負荷は感じませんでした。事業所の数が急激に増え、そのうえ各事業所がそれぞれのフォーマットで独自にデータを集計していたため、円滑に情報共有できない状況が出てきました。口頭で情報伝達する機会も多く、伝える側と受け手側で情報のズレが発生したことにより、事態が思わぬ方向に進んでしまったこともありました」(若松氏)

愛知県と大阪府の事業所を統括する立場にある竹内 啓貴氏も「紙の個人日報からの転記作業でミスが生じることもありましたし、ミスに気づかず間違った数値を基にデータ分析をしてしまったこともありました」と当時を振り返る。

株式会社祥ファクトリ エリア統括責任者 竹内 啓貴氏

こういった状況を受け、業務管理と情報共有をシンプルかつ確実に行えないかとシステムの導入を検討し始める。社内システムの内製化を目指し、2015 年に導入されたのが、ローコード開発プラットフォーム Claris FileMaker だ。既存の訪問看護パッケージアプリケーションを導入したり、外部にシステム開発を委託するという選択肢もあるにもかかわらず、なぜ同社は内製化の道を選んだのだろうか。

診療報酬明細書(レセプト)作成においてはパッケージシステムを利用していたが、こうした専用システムは入力の手間やミスを減らすための機能がないなど、現場の細かなニーズに応えられない部分があったという。

「パッケージシステムをカスタマイズしようとすれば、時間と大きなコストがかかってしまいます。足りない機能を補強できるシステムを手軽に、コストをかけずに開発するには、やはりローコードツールを使った内製化が最良の手段だと考えました」と若松氏は内製化に踏み切った理由を力説する。

全社共通システムや各事業部専用システムなど、14 個のカスタム App を開発

FileMaker を活用して多種多様なカスタム App の開発を実際に手掛けたのは、システム担当の大谷 光利氏だ。他業界でシステム開発に携わっていた経験を持つ大谷氏が同社に入社したのは、まさに 2015 年のことだった。

最初に開発に取り組んだのは、通所介護(デイサービス)向けの業務管理アプリだった。そのころ、デイサービスの現場で使用していたレセプト管理システムが法改正により使えなくなるという事情があり、レセプト管理システムの新規導入と同時並行で、カスタム App の構築を進めたという。大谷氏は次のように当時を振り返る。

「レセプト管理システムの CSV データを取り込みながらFileMakerアプリを作成していきましたが、最初ということもあり手探りの部分もありました。システムの大枠が完成したら、あとは運用しながら現場スタッフの要望に応じて改善していきました。現場スタッフの目の前でちゃちゃっと修正したら、『そんなに簡単にできるんですか、魔法みたいですね』と驚かれたことが思い出として残っています」(大谷氏)

現在までに 14 個のカスタム App を開発し、それらは実際に各現場で稼働している。まずグループ共通のシステムとしては、勤怠管理(タイムカード)、出納帳、本部の債権管理、経費精算等の各種届け出やグループ内告知、ODBC 接続による Excel での資料作成用アプリなどがある。

  • 訪問看護業務システムの業務メニュー

そのほか各事業部向けとして、まず訪問看護事業では事業所長・責任者のマネジメント支援システム、医療事務システム、さらに勤務シフト表の作成や、スタッフのキャリアラダーのシステムまで多彩だ。マネジメント支援システムは他の事業部向けにも展開し、建築・不動産事業向けに販売・工事管理システムも開発した。事務系アプリについては、FileMaker WebDirect を活用し、Web ブラウザを介しどこからでもアクセスできるようにしている。また、iPad 向けに Claris FileMaker Go も導入し、事業所外での活動が多いスタッフの利用にも対応している。

  • iPadで入力が可能な建築・不動産事業向けの販売・工事管理システム

現場・経営・バックオフィス、全体で業務時間削減に成功! システムに凝らされた工夫とは

こうして開発された数々のアプリは現場スタッフの業務をどのように変えたのだろうか。竹内氏は次のように語る。

「紙で作成していた個人日報を PC に入力していたときは PC の台数が限られていたこともあり、スタッフは PC が空くまで待機するといったこともありました。今では FileMaker WebDirect によってスマートフォンで入力できるため、外出先や自宅での作業が可能になり、スタッフの作業時間は大幅に削減されました。加えて、マネジメント側はスタッフの入力を待って集計しなければならないため、そういった面でも時間短縮できたという実感は大きいですね」(竹内氏)

看護・介護という事業の性質上、どうしても現場に行かなければならない業務が多いので、場所を選ばずに事務作業を行えるようになったことは、スタッフの働き方に大きな影響を与えている。

  • スマートフォンでWebブラウザを介し、さまざまな事務作業を行える

また、事業所間のデータ連携という面では、勤怠に関する集計において FileMaker のカスタム App が活躍している。以前は紙で勤怠情報が本部に郵送され、担当者はその整理と確認に多くの時間を費やしていたが、現在は各事業所の責任者が確認・承認するだけでデータが集計されるので、大幅な時間短縮とストレス軽減の効果が見られているとのことだ。課題となっていたデータ分析に関しては、他事業所のリアルタイムのデータを集計して分析できるようになり、具体的な行動計画策定に役立っている。

マネジメント側でも、課題を抽出していく際のデータを整える工程を大幅に効率化できたという。以前は各事業所からデータが集まるまでに時間がかかり、集まった後も Excel での集計作業が必要だったところ、今は FileMaker カスタム App のボタン 1 つで集計され、規定フォーマットに整えられた状態の資料が完成する。

  • 各事業所の活動結果がボタンひとつで自動集計される

  • 集計情報はグラフとしても瞬時に出力可能

システムを作っても、現場で使ってもらえなければ意味がない。全グループで FileMaker によるカスタム App がここまで浸透した背景には、大谷氏の工夫もあった。最初に各事業部の現場で使うシステムを開発し、スタッフにある程度操作に慣れてもらった後、グループ共通のシステムを導入したという。

「フレームワークを共通化し、どのシステムも同じ感覚で操作できるようにしました。最後にタイムカードや出納帳、各種届け出のシステムを導入したときは、迷わず操作できたスタッフが多かったようです」(大谷氏)

  • 大谷 光利氏

こうした工夫に加え、それぞれの要望に応じた大谷氏による迅速なマイナーチェンジによって使い勝手がブラッシュアップされていった点も、スタッフの満足感につながっているのだろう。

パッケージシステムを導入するのではなくシステム内製化に踏み切り、成功を収めた祥ファクトリ。若松氏は内製化の効果について、「外部委託の開発では、ちょっとした修正でもそれなりの費用がかかってしまいます。その部分のコスト抑制効果はやはり大きいですね」と話す。

人手不足解消や災害対策につながる祥ファクトリの DX

さまざまな業界で人手不足が叫ばれるなか、看護・介護業界はとりわけ深刻な状況にある。現場ニーズに寄り添った内製化システムで効果的に事務的作業を圧縮できれば、人手不足に対応でき、またスタッフがより働きやすく、かつ働きがいを実感しながら仕事ができるようになる。

「たとえば子育てしながら働いているスタッフが、保育園から呼び出され急きょ帰らなければならない状況になったときには、帰宅後に事務作業を行うなど、時間の使い方の自由度が高まります。場所を選ばずに業務ができる環境を作ることで、柔軟な働き方を実現でき、人手不足にも対応していけると考えています」と、若松氏は語る。

さらには、いつ起こるかわからない災害時の備えとしても、こうしたシステムは有効に機能する。人命を支える看護・介護のサービスは、いかなる場合でもサービスを提供し続けなければならないが、災害時でもシステムを介して出社可能なスタッフや利用者のデータも迅速に把握できるのだ。

大谷氏は、FileMaker によるシステム開発はまだまだ道半ばであり、今後もさらに現場スタッフの負担を減らすシステムを引き続き開発していきたいと熱意を示す。祥ファクトリで FileMaker の活用が今後いっそう進めば、スタッフの働く場としての価値はもちろん、同社サービスを利用する地域の人々が享受できる価値も、より向上していくに違いない。

  • 祥ファクトリ従業員の皆さん

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