パーソナルデータを個人が特定できない形に処理することで、マーケティングや販売促進、新規サービス開発などさまざまな目的で利用できるようにする「匿名加工技術」。デジタルによるビジネス変革、すなわちDXに至る道筋としてデータ活用・分析のニーズが広がる中、この匿名加工技術への注目度は高まっている。前編では匿名加工技術そのものや匿名加工を行うソリューション「NSDDD\エヌエスディースリー」について紹介したが、実際に匿名加工したデータを自社内やグループ企業内、あるいは異業種間で利活用することで、これまでにない新たなビジネスが生まれる可能性もある。匿名加工技術は具体的にどのような活用が可能なのだろうか。後編では匿名加工技術を用いたユースケースを紹介していこう。
ユースケース1:電力会社の電力利用データを社内活用した事例
スマートメーターの普及が進み、一般家庭においても電力状況の見える化が実現している昨今。遠隔からでも、ネットワークを通じ各家庭の30分ごとの使用電力量をデータとして把握することが可能になっている。
電力会社A社は、匿名加工技術を用いた電力利用データを自社のサービス開発に活用している。A社は個人情報保護の観点から、匿名加工を施した電力利用データをサービス開発部門に提供。それを受けたサービス開発部門では、家族構成をはじめとする属性データが近しい世帯の使用電力量を分析し、その分析結果をもとに新たなサービスを創出した。一例を挙げると、顧客に合わせた料金プランの提案、電力の使用パターンを踏まえた具体的な節電アドバイスといったサービスだ。このユースケースは社内における匿名加工データ活用事例だが、同じ企業グループであっても、法人をまたいでデータを受け渡す場合、個人情報保護法の規定で匿名加工を施す必要がある。たとえば電力会社本体が持つデータをグループ内の販売会社で利用するケースだ。
また電力関係では、スマートメーターと家庭内の電気機器を連動させ、住宅の使用エネルギー可視化と電気の効率利用、家電機器等の自動制御を実現する「HEMS」(Home Energy Management Service)の導入も進んでいる。政府も2030年までの全世帯設置を目指しており(※1)、実際にHEMSが普及すれば電力会社から匿名加工データを外部に提供することも考えられるため、データ流通の可能性はさらに広がるに違いない。
ユースケース2:クレジットカード利用情報を事業者と加盟店が活用した事例
クレジットカード事業者のB社と加盟店C社は、クレジットカードの利用情報とPOSデータを組み合わせたデータで分析を行うことで、両社にメリットのある販売促進を実現している。
クレジットカード事業者が保有するカード利用明細データには、利用日や利用金額が記録されているものの、購入店舗や商品・サービスなどの具体的な情報は含まれていない。そのため、このデータのみでは十分なデータ活用はできないのが実情だ。その一方で加盟店側は、POSの導入で商品・サービスの売れ行きを把握しているものの、年収や職種など顧客の詳細な情報を持っていないことが多い。つまり、この2つのデータを組み合わせることで、顧客の属性を踏まえたより詳細な分析が可能になるわけだ。
まずB社がC社にクレジットカードの利用情報を提供することになるが、そのときに注意したいのが個人情報の保護だ。そのまま提供してしまうと、個人が識別される可能性があるため、B社はクレジットカード利用データに匿名加工を施している。C社は、B社から提供されたデータと自社で保有する購買履歴(購入場所・購入商品など)をかけ合わせ、BIツールで分析。その分析結果をもとにカード会員に対してキャンペーンを実施したという。キャンペーン対象者は、指定の店舗でキャンペーン対象商品をB社のクレジットカードで決済し購入すると、自動的にキャンペーンに応募され、抽選で景品が当たる仕組みになっている。B社は自社のクレジットカードを利用した決済が増え、C社は商品の販促活動に繋げることができ、両者にとってメリットのあるキャンペーンとなった。
ユースケース3:自動車保険データを自動車メーカーが活用した事例
自動車保険会社が保有するデータを活用することで、自動車事故および不良車両の削減が期待できる。自動車保険会社のD社は、自動車事故に関わるデータを匿名加工したうえで、自動車メーカーE社に提供している。
匿名加工されたデータの提供を受けたE社は、事故車両の車種や走行距離、「未舗装路」「交通量の多い交差点」「カーブの連続」といった走行場所の特徴をもとに、どの車両でどのような走行をしているときに事故が起きやすいかを分析。そのうえで、分析結果をもとに故障しにくいエンジンの開発や、事故を起こしやすい車両の改良・削減に活用している。
自動車メーカーと自動車保険会社という異業種間の匿名加工データ流通により、高レベルの安全性を実現する新たな車両開発はもちろん、自動車事故削減という社会課題の解決にもつながっていく事例だ。
ユースケース4:自治体の公共データを民間企業が活用する事例
2021年4月に施行した改正個人情報保護法により、2023年度から「行政機関等匿名加工情報の提案募集制度」が都道府県・政令指定都市において実際の運用が開始される(※2)。これは自治体が保有する個人情報データを事業に活用したいという民間企業や個人等からの提案を募集し、審査のうえ企業等に自治体から匿名加工データを提供するものだ。
たとえば、自治体が持っている医療系データを活用して製品・サービスを開発する、高齢者医療等のデータをAIで分析してエリアに特化したサービスを提供する、児童に関するデータを抽出して地域の子ども見守りなどの保育や教育に関する新サービスを展開する、といった事例が今後想定される。
「匿名加工技術」が今後のデータ流通時代を支えていく
匿名加工技術を利用することで、社内・グループ企業内はもちろん、業界や官民の垣根も超えた横断的なデータ活用が広がっていく。
2019年1月の世界経済フォーラムおよび同年6月のG20大阪サミットにおいて、安倍元内閣総理大臣が提唱したコンセプト「DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通) (※3)」からもある通り、国が声を上げてデータ流通社会の実現を目指している。また、「行政機関等匿名加工情報の提案募集制度」が始まったことからもわかるように、民間が官公庁・自治体の公共データを活用できるよう、民間の事業者を巻き込んだデータ流通の具体的な仕組み整備も始まっている。こうした社会的後押しがあるなか、個人情報保護の観点から、匿名加工技術はそういった仕組みの前提条件として必須のものとなるだろう。
ここまで見てきた多種多様なユースケースを実現するにも、データの匿名加工を行うツールは必要だ。2022年施行の改正個人情報保護法、次世代医療基盤法といった各種法令や、国のさまざまなガイドライン等に準拠した多彩な加工手法を提供するのが、日鉄ソリューションズが提供する匿名加工データ流通ソリューション「NSDDD\エヌエスディースリー」だ。
日鉄ソリューションズは、このNSDDDというソリューションによって官民問わず幅広い事業者のデータ活用を支援し、一プレイヤーとしてデータ流通時代を盛り上げていきたいと考えている。このデータ流通時代を支えるNSDDDとはどのようなソリューションなのかはぜひ前編で詳細をご確認いただきたい。
※1参考:「グリーン政策大綱」(内閣官房国家戦略室)
※2参考:「⾏政機関等匿名加⼯情報制度の概要」(個人情報保護委員会)
※3参考:「DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)」(デジタル庁)
NS Solutions、NS(ロゴ)、NSDDD\エヌエスディースリーは、日鉄ソリューションズ株式会社の登録商標です。
[PR]提供:日鉄ソリューションズ