3Dプリンター技術の進化とともに、製造業をはじめさまざまな業界においてその応用の可能性が広がっている。自動車産業での適用事例も増えてきており、現在では試作用途にとどまらず、最終製品や量産での採用例も出てきている。今回は製造業界、とりわけ自動車産業における3Dプリンター活用のトレンドや課題について考えていきたい。
欧米を中心に3Dプリンター活用の先進的な取り組みが進む
製造業界では試作目的で3Dプリンターを利用するケースが多く、コストや品質などの観点から量産での活用は難しいと考えられてきた。しかし、近年では、最終製品や量産用途で3Dプリンターを導入する事例も増えてきている。特に欧米の自動車業界においては、3Dプリンターに特化した研究開発センターを立ち上げるなど、積極的な投資が拡大し、先進的な取り組みが進む。たとえば、米フォードではHPとともに、3Dプリンターで製造した使用済み部品や粉末を自動車部品へ再利用するという発展的な取り組みを行っている。
国内でも、生産終了となった車の補修部品を3Dプリンターで再生産し商品化したという事例がある。こうした小規模量産における3Dプリンターの利用には、新規の金型投資を抑え、金型の保管費用負担も低減できるなどのメリットがある。
「Multi Jet Fusion」で高品質かつ高生産性を実現し、最終製品・量産に対応
試作にとどまらない、よりレベルの高い用途に対して大きな強みを持つのがHPの提供する「HP Jet Fusion 3Dプリンター」だ。特長は、Multi Jet Fusion(以下、MJF)というHP独自の3D造形技術を採用している点にある。MJFでは、粉末樹脂の造形材料にエージェントとよばれる液体を噴射し、ハロゲンランプで熱を加えて樹脂を融合するというプロセスで造形していく。
この工法を用いると、サポートが不要になるため設計の制約が少なくなるほか、垂直方向と平面方向での異方性が少ない。さらに、造形時に材料の溶融を促すフュージングエージェントと寸法や形状精度を出すために塗布する ディテイリングエージェントを使い分けることで造形部分とそうでない部分との境界が明確になり、高い寸法精度で目的の形状を得ることができる。
そして、何よりのメリットはその高い生産性だ。従来の「点」で行う3Dプリンターの工法と比較した際に 、MJFは材料に対しランプを「面」で照射し造形していくため、造形部分の面積や個数に依存せず、単位時間あたりの出来高に大きな差が生まれる。レイヤーの造形は、プリントヘッドが端から端へ移動する10秒前後のあいだに完了する。
また、後工程の手間も少ない。MJFでは、粉末と造形物が混ざった樹脂ブロックを手ですぐ取り出すことはせず、バキュームホースで粉を吸引したうえで、造形物を取り出す。このことから、空気中や床への粉の飛散も可能な限り防ぐことができる。また一部の3Dプリンター工法に見られる サポートを取り除く手間も、MJFでは不要となる。
柔軟性・弾力性と強さを兼ね備えた材料として注目される「TPU」
MJFでは、さまざまな材料に対応しており、昨今注目されているTPU(熱可塑性ポリウレタン:Thermoplastic Polyurethane)という材料を扱うことも可能となっている。
TPUは、ゴムのような弾力性・柔軟性を兼ね備えた材料で、高い耐衝撃性・耐摩耗性が特長だ。オイルやグリースなどの油に対しても耐性がある。これらの特性から、靴やサンダルなどのソールや、医療機器などさまざまな領域で幅広く活用が進む。もちろん自動車産業においても多様な事例がある。ここではHP Jet Fusion 5200シリーズの3DプリンターでTPUを用いて造形された製品事例を4つ紹介したい。
TPU活用事例
1. スポイラー部品
まずは、米GMのスポイラー部品だ。金型が完成するまでの部品をTPUで制作したことで、納期の遅延なく設計変更に対応することが可能となった。また、Vapor Fuseという表面加工の後処理を行うことにより、気密性、耐候性等を高めることにも成功している。
2. コイルスプリング用プロテクター
2つめは、米フォードのコイルスプリング用プロテクターの事例だ。従来は別の樹脂を利用していたが、これをTPUに置き換え形状を見直すことにより、接着剤による固定が不要となった。また、スリーブの一部に穴形状を適用することで撥水性を高め、軽量化にも成功。既存工法と比較してコスト減を実現した。
3. 内装アクセサリーパーツ
3つめの事例は、仏プジョーの内装アクセサリーパーツ。 Peugeot 308用のアクセサリとして、カップホルダー、カードホルダー、スマートフォン収納ケースを制作した。衝撃吸収性があり、柔軟なメッシュ状構造に最適な材料としてTPUが採用された形だ。実施に Peugeot の公式サイトでも販売されている。
4. 自動車フロント用シート
最後は、海外の自動車メーカーで採用されている自動車フロント用シートでの事例だ。従来利用していたモールドウレタンからTPUへ置き換え、枝状に分かれた格子が周期的に並んだラティス構造を採用することで、クッション性と軽量化を両立させた。モールドウレタンと異なり肉抜き構造となっているため、通気性の良さも特長だ。これによりクッション内部への音響スピーカーの埋め込みが可能になるだけでなく、ベンチレーションシステム使用時の通気性も高まる。従来のモールドウレタンよりも軽くなることから、作業者の負担を減らせるというメリットもある。
海外自動車メーカーで適用された4つの事例を紹介したが、TPUはその特性からあらゆる場面での活用が進んでおり、日本においても、従来の材料では実現できなかった柔軟性、耐久性、衝撃吸収性を求め、TPUの利用を検討する企業が増えている。
一歩先の3Dプリンター活用を
試作で求められるレベルに比べ、量産や最終製品で要求されるレベルは格段に高まる。3Dプリンターでこのハードルを超えるには、強度や品質、生産性を確保しなければならない。MJFを採用したHP Jet Fusion 3Dプリンターであれば、こうした課題にも対応していくことが可能となる。実際に、自動車業界においては、今回ご紹介したとおり、試作だけでなく、最終製品や小規模量産、アフターマーケットなどでの3Dプリンターの活用が進む。技術の進歩により、さらに一歩先の3Dプリンター活用を考えるべきときが来ているといえる。
[PR]提供:日本HP