あらゆる分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが推進され、ビジネスにおけるデジタル技術の活用が当たり前のものとなった現在、セールス・マーケティング戦略を見直す動きも加速している。こうした状況のなか、電話やメール・SNSなどデジタルツールを活用して非対面で営業活動を行うインサイドセールスの重要性が、エンタープライズ企業やSaaS事業を展開するスタートアップを中心に語られるようになってきた。

本稿では、インサイドセールスの立ち上げや改善・運用に関するノウハウをBPOやコンサルティングサービス「SALES BASE」を提供しているSALES ROBOTICS株式会社の執行役員 COO 冨田 貴徳 氏と、 受注しやすい顧客を可視化し、効率的に売上を最大化する営業 DX ソリューション「FORCAS」を展開する 株式会社ユーザベースの事業執行役員 CEOである田口 槙吾 氏による対談をレポート。インサイドセールスの本質や導入における課題、効果的に機能させるために押さえておきたいポイントについて紐解いていく。

  • 左から株式会社ユーザベース 田口氏、SALES ROBOTICS株式会社 冨田氏

    左から株式会社ユーザベース 田口氏、SALES ROBOTICS株式会社 冨田氏

【対談者 プロフィール】

SALES ROBOTICS株式会社
執行役員COO
冨田 貴徳氏
インサイドセールス事業の責任者として、マーケティングから運用部門、さらには事業開発領域のビジネスオペレーションを行う組織も含めて担当。SALES ROBOTICSでは、インサイドセールスの現場におけるリソースやノウハウの不足を解消するため、運用を請け負うBPOとしての事業に加え、インサイドセールスを立ち上げたい、ないしは、すでに立ち上げているがうまく運用できていないという企業に対して、伴走型のサポートコンサルティングを行うサービスを新たに展開。
株式会社ユーザベース 
FORCAS事業 執行役員CEO
田口 槙吾氏
6年ほど前にユーザベースに入り、創業事業となる「SPEEDA」という経済情報プラットフォームのセールスプレイヤーとして活動。その後、主に営業やマーケティングを支援する営業DXソリューションとなる「FORCAS」事業に立ち上げメンバーとして参画し、そのなかでセールスチーム、インサイドセールスチームを作ったり、マーケティング組織や全体を横断する組織を構築したりと、さまざまなプロジェクトに携わり、現在はFORCAS事業のCEOとして活動している。FORCAS事業では、“顧客との共創を広める”というビジョンを掲げたサービス「FORCAS」は、蓄積されたデータに基づいて組織で狙うべき顧客を可視化し分析可能にすることで、顧客視点のマーケティング・営業が行えるよう支援している。

インサイドセールスの盛り上がりは、果たして“本物”なのか

ーさまざまなシーンでインサイドセールスの重要性が語られるようになりましたが、インサイドセールスの“あるべき姿”と現状について、お二方の所感をお聞かせください。

田口氏:僕の感覚では、6~7年前、2016年くらいから都心部のITスタートアップ企業を中心にインサイドセールスという言葉が認知されるようになり、徐々にコールを外注しているエンタープライズ企業のオペレーションに取り込まれてきているのが現状と考えています。そのなかで、インサイドセールスの熱は収まってきているのか、さらに加速していくのかが見えてこない。インサイドセールスの最前線で活躍している冨田さんは、現在のインサイドセールスのマーケットをどう捉えていますか。

冨田氏:実はこのまま進むと、インサイドセールスのマーケットが成長しきれずに衰退していくのではないかという危機感を抱いています。盛り上がっているのは、都心部のエンタープライズ企業の一部とスタートアップのSaaS企業だけで、それ以外のミッドマーケットやSMBでは未導入企業も多く、地方ではインサイドセールスという言葉自体、知られていないのが現状です。都心部の中小企業では興味を持つ企業もありますが、IT人材不足もあり進め方がわからず、何が起こるのかも見えてこないため、検討にまで至らないケースが多い。こうしたファクトを集めていくと、インサイドセールスが一気に衰退するという事態が起こりうるのではないか、と感じているところです。

田口氏:非常に共感できる話です。インサイドセールスの“あるべき姿”という文脈で言えば、従来、セールス部門がマーケティング活動からクロージング、アフターサポートまでを担うという傾向があったところに、分業的なアプローチに注目が集まった。この流れに、デジタルマーケティング部門を立ち上げてマーケティングを強化していこうという動きが重なり、そもそものインサイドセールスの位置付けが混乱しているイメージがあります。僕らにも「インサイドセールスをうまくやりたい」という問い合わせがよくきますが、「そもそも何故インサイドセールスを作ったのか」という問いから始めないとズレが生じていく。冨田さんが話されたように、正解がないなかで「これだ」と定義してしまうのは非常に危険だと感じています。

冨田氏:そうですね。そのため現状では、我々のようなサービスベンダー、支援側がインサイドセールスの現場にどんどん入り込んで、立ち上げや失敗などの経験を積み、「この業界、この商材であれば、こういったインサイドセールスにするべき」という“型”を作れるようにするべきで、実際、サービスベンダーに求められているのはこの部分だと思っています。暗黙知が深いので、やり方がわからない状態になっています。

田口氏:インサイドセールスが多く導入されているITエンタープライズとSaaSスタートアップの領域でも、組織を作ってみたが成果が出ずに「不要」と結論付けたり、単なるコール組織になってしまい「外注でいいのでは?」という話になったりするケースが少なくありません。なぜインサイドセールスを立ち上げるのかをすり合わせしないまま、形から入って失敗している企業が多い印象です。

  • SALES ROBOTICS株式会社 執行役員COO 冨田 貴徳氏

    SALES ROBOTICS株式会社 執行役員COO 冨田 貴徳氏

冨田氏:新規顧客を開拓することだけがインサイドセールスの仕事ではありません。たとえばIT企業にはカスタマーサクセスという組織がありますが、製造業や商社といった企業のなかにはない。そこをインサイドセールスが担っても問題はないんです。形に囚われるのではなく、組織のどこに配置するとインパクトが出るのかを見極めることが重要だと思います。

田口氏:今の話に出てきましたが、最近ではIT企業だけでなく、専門商社のような業界にいらっしゃる企業でもインサイドセールスの組織を立ち上げようという動きを感じませんか?

冨田氏:はい、そうした流れは確かに感じます。FORCASが定義してる業界でいう「中間流通」のところ、なかでもIT商社や半導体商社で盛り上がりを見せています。これらの企業は業務プロセス上、販社が売上をあげているケースが多く、企業としては直販を伸ばしたい、または新規事業への取り組みなどで収益を上げていきたい。そこでインサイドセールスを立ち上げるケースが増えてきているのだと思います。

セールス・マーケティング・ITの経験とスキルを兼ね備えた人材が求められている

ーインサイドセールスを立ち上げたい企業が直面する課題と、すでに立ち上げているが期待した成果を得られていない企業が考慮すべきポイントについてお伺いします。

冨田氏:先ほど話に出た専門商社に当てはめてみると、「人材不足」が課題になっているケースが多いです。何の人材が足りないかというと、セールスやマーケティングを現場で回す人はそれほど不足していない。ところが膨大な商材を扱う商社では事業部が非常に多く、組織が縦割り化しています。マーケティングと各事業部で使っているツールもバラバラで運用されていることもあり、リード管理が十分にされておらず、顧客に対するアプローチ管理ができていないケースもあります。インサイドセールスを行うにはこうした部分を統合化していく必要があり、それを実現できる人材が圧倒的に不足しているのが現状です。これではリードを一元管理して見込み客を選定することができなくなります。

田口氏:確かに根拠に基づいた納得感のある選定でなければ、営業に拒絶されてしまいますよね。マーケティングの感覚とセールスの感覚を併せ持つ人材の確保が難しいということでしょうか。

冨田氏:そうですね。単にインサイドセールスの人材が足りないというよりは、IT人材が足りないという印象です。営業もマーケティングも経験があり、かつデータの利活用にも明るい人材は、どの会社も欲しいので、なかなか確保できないし、そもそも数が少ない。実際のところ、こうした司令塔になれる人材が1人いるだけで、インサイドセールスは機能しやすいと感じています。

  • 株式会社ユーザベース  FORCAS事業 執行役員CEO 田口 槙吾氏

    株式会社ユーザベース  FORCAS事業 執行役員CEO 田口 槙吾氏

田口氏:よくインサイドセールスには「板挟みになり大変」という問題がありますが、その場合は、セールスやマーケティングがバラバラに動いているケースが多い。たとえば、セールスメンバーは「食品メーカーのお客様が最近よく買ってくれてるので、そういった企業にアプローチしたい」と言う。ところがマーケティング部門では、過去狙っていたターゲットと同じようにFacebook広告を出しているが、食品メーカーの担当者はSNSをほとんど見ない。セールスはどういった企業に売れやすいのかを知っているのに、マーケティングはまったく関係ないところで動いているのです。

冨田氏:大変共感できます。私自身、サービスベンダーとして現場に入ってサービスの設計・運用を行っているのですが、最初にやるのは事業理解と顧客理解といったところで、特に組織の状況を理解することが大切だと考えています。営業責任者の方、営業現場の方からインサイドセールスの責任者と現場の方、マーケティングの責任者と現場の方まで、個別にマンツーマンかつ対面でヒアリングしています。その前には、営業現場に同席したり、商談の録画を見たりといったVOC活動を行い、関係者全員にインタビューしていくことで、“掛け違えている”部分を明確化していきます。このズレを、先に述べた「どんな顧客に」「どのような価値を提供できるのか」という視点で修正していくと、オペレーションが一気に流れるようになるのです。あとは何の情報をどう管理するのかといった仕組みを、ITを用いて構築すれば、業務オペレーションが回るようになり、商談は飛躍的に増加していきます。

田口氏:そのような視点が抜けているケースは結構ありますよね。チームを分けてリード・商談・受注といったKPI管理から始めるといったアプローチでは、インサイドセールスがうまくいかないケースが多いです。

冨田氏:今の日本におけるインサイドセールスの認識は「部門」や「組織」がほとんどですが、1つの「役割」として捉えていくべきだと感じています。なので、インサイドセールスという組織を作るのではなく、セールス部門、またはマーケティング部門でインサイドセールスの役割を持った人材を育てるといったアプローチで進めていくのも有効だと思います。

顧客解像度を高めて関連部署の共通認識とし、時間をかけてインサイドセールスを定着させる

ーインサイドセールスの立ち上げを検討している企業からは「人材やノウハウが足りない」「データ収集の仕方や活用方法がわからない」といった声が聞こえてきます。こうした課題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。

田口氏:僕自身は、SALES ROBOTICSが提供を開始した立ち上げ構築支援のようなサービスを利用することが、解決策そのものだと思っています。先ほどから話しているように、人材不足で確保するのも難しい状況ではコンサルティングしてもらうのが最適解だと思うからです。

冨田氏:ありがとうございます。その通りです、と言いたいところではありますが、これからインサイドセールスを立ち上げたい企業においては「お互いの業務を尊敬して理解し合う」、相互理解がファーストステップとして重要だと思います。実際に我々が支援する際にも、まずはコミュニケーションを取り、お互いを理解し合うことが大切ですと説明して、相互理解を浸透させています。

田口氏:もう1つの切り口で語ると、「顧客理解」、すなわち顧客解像度を合わせていくことが大事だと思います。KPIを数値で、しかも商談数などに置いてしまうと、顧客のことが見えなくなります。たとえば、ある企業に営業定例会議資料を見せてもらうと、商談何件取れましたとか、何件受注して目標に対して何%達成しました、ということは書いてあるのですが、顧客属性のことは何1つ書いていなかったりします。先ほど冨田さんが話した、誰に、どんな価値をという組み合わせ、つまり戦略を共有できないとズレが生じてくる。僕らが提供するサービスの概念でもありますが、顧客解像度を合わせていくソリューションが必要と考えています。

冨田氏:FORCAS事業を統括する田口さんから見て、インサイドセールスに取り組まれているエンタープライズ企業の実態はどのような状況でしょうか。

田口氏:大変苦労していると思います。ある企業では、1年間に100回以上、インサイドセールスを何のために作っているのかを関連部門に説明しに行っているそうです。

冨田氏:私も企業のインサイドセールスを支援する際には、同じことを行います。上から横までコンセンサスを得るために、「何故この組織がいるのか」という説明をとにかく繰り返し行っています。

田口氏:それとインサイドセールスは、いきなり成果が出るものではなく、さらにスモールスタートで始める企業も多いため、小さな成果しか得られないところで苦しんでいるケースも多い印象です。生々しい話ですが、短期間で成果が出ないと、意思決定者の理解が得られないこともあります。

冨田氏:2-3年をかけてインサイドセールスを運用して、ようやく光が見えてきたという企業の事例が多いにも関わらず、実際の現場では「3ヵ月で」「6ヵ月で」と短期の結果を求められることが多いのは実感としてあります。そうしたケースでは、1年は最低腰を据えて取り組んでいきましょう、と説明しています。

「顧客にとって、自分たちがどういう存在であるべきか」を追求するのがインサイドセールスの役割

ーマーケティングやセールスなど組織間の「相互理解」と、顧客解像度を高めて組織内で目線を合わせる「顧客理解」など、インサイドセールスで重視すべきポイントが見えてきました。最後に、インサイドセールスでビジネスを強化したい企業に向けてメッセージをお願いします。

田口氏:これからインサイドセールスの立ち上げを検討している企業は、何故インサイドセールスを立ち上げるのかという目的をもう一度考え、明確すぎるほどクリアにすべきだと考えています。それと繰り返しになりますが、顧客解像度を高めることが大切です。「どんな顧客に」「どのような価値を提供できるのか」というのは、営業戦略、マーケティング戦略そのものなので、しっかりと見直していくことで、成果が得られるようになると思います。

冨田氏:先ほども話しましたが、インサイドセールスを組織として捉えるのではなく、どのような「役割」「機能」であるのかを整理して進めていくことが大切だと思っています。そういった視点で、田口さんが話された顧客解像度の向上に結び付けていくと、インサイドセールスに対する企業それぞれの最適解が見えてくるのではないでしょうか。ここまで話してきたように、インサイドセールスの取り組みで課題を抱えている企業は多く、今後も増加していくと考えています。SALES ROBOTICSのインサイドセールス支援サービスでは、そうした企業に対して「こうするべき」と上から目線でコンサルするのではなく、ひたすらに“Why”を投げかけていくことで、顧客の考えを言語化し、顧客目線でインサイドセールスを設計していきたいと考えています。

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