有田焼の産地、自然豊かな小さな町
佐賀県有田町は、県西部・西松浦郡に属し、森林・山岳に囲まれた自然豊かな町だ。東部には九州百名山に数えられる黒髪連山を望み、美しい田園地帯が広がる。中央に流れるのは、伊万里港につながる有田川。けっして大きくはないが、水と空気に恵まれた気候の穏やかな町である。
有田町は、日本を代表する伝統工芸品「有田焼」の産地としてもよく知られている。17世紀初頭、有田東部の泉山で原料となる陶石が発見され、日本で最初の磁器が焼かれた。以後、さまざまな様式の有田焼が作られ、江戸時代には私たちがよく知る艶やかな金襴手様式が欧州でも人気を博した。当時は積み出し港の名を取った「伊万里焼」や肥前国の名を取った「肥前焼」などとも呼ばれていた。
泉山磁器場から西側の有田内山地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されており、江戸・明治・大正・昭和初期の建造物が建ち並ぶ。窯業・陶磁器にまつわる文化施設も多く、人気の観光地である。また、有田町は農業や畜産業も盛んで、岳地区の棚田は特に美しく、日本の棚田百選に選ばれるほど。近年はキンカンも特産品として注力しており、甘酸っぱい完熟の果実が人気だ。
「有田町は小さな町ですが、畜産業が盛んです。佐賀牛は著名なブランドですし、豚も美味しくおすすめです。特に鶏は、佐賀県産ブランドの『骨太有明鶏』や『ありたどり』などで全国的にも知られるようになってきました。養鶏業は町にとっても主力の産業ですから、全国へ美味しい食肉を安定的に供給できるように、町役場も事業者を積極的にサポートしていきたいと考えています」と、有田町長を務める松尾 佳昭氏は述べている。
日本を震撼させる鳥インフルエンザ、映像解析AIで積極的な対策強化
近年、有田町のみならず日本の養鶏業を脅かす存在として「鳥インフルエンザ」が問題視されている。2005年ごろには東南アジアをはじめ世界的に広がり、日本も甚大な被害を受けた。それ以降も、毎年のように感染被害が報告されている。2015年には有田町でも県内で初めてウイルスが確認され、7万羽を超える鶏の殺処分という厳しい決断を下すことになった。
「養鶏農家は大きなストレスを抱えながら鶏を飼育しています。この8年、町役場としてもどうにか彼らをサポートしたかったのですが、消毒石灰の供給など実施できる施策に限界がありました。おそらく同じ悩みを持つ自治体・養鶏農家は数多いと思います。民間企業のDXのように積極的なアプローチを採りたいと考えていました」(松尾氏)
現在、有田町の養鶏農家では鶏舎への人の出入りをできるだけ制限し、入舎の際には手足(靴)を消毒するように心がけている。農場に立ち入るトラックなども、入り口に設置した消毒液の噴霧器で洗浄するという徹底ぶりだ。また、農場周辺の野生動物(小動物や渡り鳥など)が感染経路の1つとして考えられており、柵や網で鶏舎への侵入を防ぐ対策もとられている。
「各農家はさまざまな対策に取り組んでいますが、目に見えないウイルスが相手では手探り状態であることは否めません。消毒を徹底するとともに、衛生管理を記録することも求められていますが、この作業は農家にとって大きな負担です。また、人や車両の立ち入り、野生動物の侵入をすべて把握することは困難です。新しい対策を講じるためには、情報が不足していたのです。まずは現在の対策状況や周辺環境を可視化する必要がありました」と、有田町役場 農林課 主事 清水 康雅氏は振り返る。
課題ははっきりしていたものの有効な施策を打てずにいた松尾氏らは、EDGEMATRIXが提供する「映像解析AIプラットフォーム」を知り、新たな一手として活用できるのではと考えた。このソリューションを利用すれば、消毒の実施状況を自動で管理したり、鶏舎周辺の野生動物を記録したりすることができる。
「EDGEMATRIXから細かな提案を受け、カメラとAIを使った監視システムで衛生管理を自動化することは、“鳥インフルエンザ対策のDX”だと感じました」(松尾氏)
消毒の徹底と記録を“手のひら”で
有田町では、ある養鶏農家の協力を得て、EDGEMATRIXサービスを活用した鳥インフルエンザ対策の実証実験を行った。農場の入り口、鶏舎の入り口、鶏舎外部の3カ所に広角カメラを設置し、それぞれEDGEMATRIXの「Edge AI Box」に接続する。前者の2基は主に人と車両の動きを監視しており、指定したエリアに対象が入るとAIが検知、状況を録画して、担当者へLINEで通知するという仕組みである。
農場の入り口には、消毒液の噴霧器が設置されており、農場に進入するトラックなどを消毒している。また鶏舎入り口には長靴を消毒するための消毒槽が設置されている。EDGEMATRIXで消毒作業状況を確認し、映像として記録できるというわけだ。
「協力農家に聞いてみると、多くの通知が来ると言っていました。農場には人や車両が頻繁に出入りしており、それらを確実に検知できているということです。新しいデバイスやソフトを使うのではなく、手持ちのスマートフォンと使い慣れたLINEを利用でき、対策状況を映像で記録できるという点も評価されています」(清水氏)
鶏舎外部のカメラは、周辺の鳥・小動物の生態を把握するためのものだ。網や柵などで野生動物の侵入を防止する必要があるが、まずどのような生物が生息しているかを把握することが重要だ。これにより最も効率のよい侵入防止・駆除対策を講じることができる。将来的には、動物を検知したらパトライトや拡声器で威嚇して、侵入を未然に防ぐことも可能になる。
「EDGEMATRIXは不審な侵入者を検知して、防犯に役立てることも可能です。小さなカメラとエッジデバイス、スマートフォンさえあれば導入できるという手軽さも魅力です。鶏舎内部にも取り付けて、鶏の飼育にも役立てたいという話も聞いています。農家の負担を軽減しながら、養鶏業を支援できる効果が期待できます」(清水氏)
町長の松尾氏も、「私はスマートフォンを活用した“手のひら役場”の実現を目指しています。EDGEMATRIXは、同じような“手のひら養鶏”が実現できる可能性を感じます。安心・安全な食肉を安定的に供給できるというエビデンスを提供し、有田町の鶏のブランドを高めてくれるでしょう」と高く評価している。
有田町から強化施策を発信。行政で活躍する映像解析AIへ
有田町では、EDGEMATRIXを活用した鳥インフルエンザ対策の実証実験をさらに進め、その有効性や情報を積極的に発信し、町内だけでなく県・国にも啓蒙活動を進めていきたいとしている。今回の取り組みを通してEDGEMATRIXの可能性を感じ、さらにほかの行政施策にも積極的に検討・活用していきたい意向だ。
「EDGEMATRIXは、私たちの悩みへ真摯に取り組み、熱意を持って応えてくれるベンダーとして信頼しています。サービスの適用範囲は広く、私たちのニーズにマッチするような仕組みをどんどん提案してほしいと思います」(松尾氏)
映像解析に使用したEdge AI Box
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