データセンターやサーバールームなど、企業にとって重要な設備を守るUPS(無停電電源装置)。デジタル化やIT化が進むなか、災害などで停電が発生した際にもビジネスを止めずに適切な対処を行うためには必須の装置といえる。現在UPSは鉛蓄電池を使用したものが主流となっているが、これから先、サステナビリティの確保やTCO(総保有コスト)の削減を目指すのであれば、リチウムイオン電池への切り替えを考えていかなければならない。
2000年代初頭からサステナビリティを意識したビジネスに取り組み、カナダの調査会社が発表する「Global 100:世界で最も持続可能な100社」のランキングでも上位を獲得しているシュナイダーエレクトリックでは、リチウムイオン電池を利用したUPSの提供に力を入れる。なぜ今、リチウムイオン電池なのか。リチウムイオン電池に切り替えることでUPSとしてどのようなメリットがあるのか。シュナイダーエレクトリック ストラテジック マーケティング マネージャー 木口 弘代氏、CS&Q本部長 蛭田 貴子氏、事業開発本部 プロダクトマネージャー 今野 良昭氏に聞いた。
デジタル化の進行によりエッジ環境でのエネルギー消費量は年々高まる
―サステナビリティに関するITインフラの課題はどのようなものでしょうか。
木口氏:近年ではデジタル化が進むことでデータセンターの利用が拡大し、データセンターで使う電力は増える一方です。特に企業内のデータセンターならびに、オフィスや店舗といったユーザーに近い場所へ置かれるサーバーなどの「エッジ」環境はますます増加しています。
当社の調査によると、エッジ(オンプレミスのITと中小規模のデータセンター)の電力使用量は、現在は大規模データセンターの70%程度ですが、2040年には逆転して150%になると予想しています。エッジや中小規模のデータセンターまで含めた広義の意味でのデータセンターは今後、事業やサービスの継続性まで含めたサステナビリティを考えていかなければなりません。
―貴社では先行してサステナブルなソリューションを提供されていますね。
木口氏:当社ではお客様に対して、CO2を削減し環境への悪影響を最小限にするためのご提案をしてきました。また、IT機器に必須となる電源ソリューションも長年提供しています。ITインフラのサステナビリティを高め、環境負荷を減らすための取り組みの一環として、リチウムイオン電池を採用したUPSの開発にも力を入れています。
UPSにリチウムイオン電池を採用するメリットとは?
―UPSにリチウムイオン電池を採用することのメリットについて、現在主流となっている鉛蓄電池との比較から教えてください。
蛭田氏:リチウムイオン電池の一番の利点は、重量が軽く、体積が小さいことです。そのためサーバーの搭載を増やすことができ、データセンターの高密度化に寄与します。また、鉛蓄電池は体積が大きく重いために設置の際には複数人体制で取り付ける必要があることが多いですが、リチウムイオン電池であれば小さく軽いので1人でも作業可能な製品もあります。価格は初期費用でみると鉛蓄電池のほうが安いですが、リチウムイオン電池は寿命が長く、交換が不要なのでTCOではメリットがあります。鉛電池よりも使用済み品が少なくなるため、環境へのインパクトが低減できるという調査報告もあります。こうした背景から、2018年の調査では、ハイパースケールのデータセンター向けUPS市場におけるリチウムイオン電池の割合は、2025年までに全体の40%に拡大すると予想されています。
―リチウムイオン電池へ切り替える際にハードルとなる部分はどこにありますか。
蛭田氏:初期投資に掛かる費用は鉛蓄電池のほうが安く、お客さまがハードルを感じてしまう大きな理由の1つになっています。ただ、鉛蓄電池に比べリチウムイオン電池の製品寿命は2倍以上長く、さらに鉛は途中で電池を買い換える必要もあります。バッテリー交換に掛かる作業費用なども考えると、TCOはリチウムイオン電池のほうが安くなります。
―リチウムイオン電池に対しては安全性を不安視する声もあるようです。
蛭田氏:確かに安全性への懸念はありますが、産業用UPSとしてはすでにさまざまな対策がなされています。リチウムイオン電池の危険性は、高温がさらなる高温を招くという「熱逸走」と呼ばれる状態になってしまうことにあります。ただ、電池メーカー各社が熱逸走状態になりにくい材料の開発を進めた結果、近年こうした危険性は解消してきています。
当社では、単相UPSではニッケル・マンガン・コバルトを正極に使用する三元系と呼ばれる安全性の高いリチウムイオン電池を採用しています。また三相のUPSは、モジュール・ラック・システムの3つの階層それぞれでバッテリーの状態を監視して異常を検知できるようにしているので安心です。
「Smart-UPS Ultra」は小型・軽量・長寿命
―リチウムイオン電池を採用したUPS「Smart-UPS Ultra」について教えてください。
今野氏:エッジ環境での利用を想定したUPSで、5kVA容量帯のUPSとしては当社調べで最小・最軽量です。次世代パワー半導体とリチウムイオン電池を採用したことにより、設置スペースと重量の削減を実現しました。鉛蓄電池を採用した前機種と比べて、無償保証期間は2年から5年に、バッテリー期待寿命は5年から10年に延長されています。
エッジ環境では、専任のIT管理者がいなかったり、1人の担当者が何拠点も担当していたり……という状況が多いのではないでしょうか。そうした環境においては、長期間に渡ってバッテリー切れのリスクを排除し、交換の煩わしさがないSmart-UPS Ultraのメリットは特に大きいといえます。管理者が現地に不在という環境も想定し、クラウド監視サービス「EcoSturuxre IT」にも対応しています。買い替えや使用済み品の処分の頻度が減るだけでなく、消費電力や発熱量も削減されているため、エッジ環境ではこれまでなかなか対応できてこなかった企業でも、地球環境にやさしく、サステナビリティにつながる取り組みを実現できる製品であるともいえます。
―現在どのような企業が「Smart-UPS Ultra」を採用しているのでしょうか。
今野氏:とある研究機関では、研究用サーバー電源のバックアップとしてご利用いただいています。サーバーが設置されている場所はデータセンター専用の建築物ではなく、床荷重や面積の制限があるなか、小型で軽いSmart-UPS Ultraの採用に至りました。
また、DXを進める大手物流会社でも採用されています。人材不足でIT化・自動化に取り組むなか、同社ではそれらを管理するシステムの重要度が高まっていました。システムがダウンしてしまうと、ピッキングなどの作業ができず、事業に大きな影響が出てしまいます。物流倉庫はスペースが広く、各地点でアクセスポイントをはじめとした機器の電源保護が必要となります。UPSも含めたメンテナンスの負担軽減は必須であるため、長寿命で交換の煩わしさを減らせるSmart-UPS Ultraのメリットを感じていただいています。
―今後のSmart-UPS Ultraの製品戦略についてお聞かせください。
今野氏:日本モデルとしては現在400VAと5kVAを提供していますが、北米ではすでに各容量のラインアップが充実してきています。また、米国では2022年秋にモジュラー型のUPS「Smart-UPS Modular Ultra」をリリースしています。日本も米国同様、ラインアップを拡大させていければと考えています。
Smart-UPS Modular Ultraは、モジュラー型UPSで初めてリチウムイオン電池を利用した製品で、スケーラビリティに強みがあります。4kVA-18kVAまで対応しており、組織の成長に応じてUPSの容量を増やしていくことが可能です。なるべく初期投資を抑えたい場合や、信頼性や冗長性を高めたい場合にご利用いただくことを想定しています。プラスチック系樹脂の使用量を削減し、リサイクル可能な材料を積極的に利用しており、サステナビリティ推進にもつながる製品です。日本は米国に次いで2番目に発売することを予定しています。
サステナビリティを確保しつつ、高性能化を実現した製品
―最後に改めて読者へのメッセージをお願いします。
木口氏:電気自動車をはじめ電池の利用が拡大しているところですが、当社は電源の領域で常にトップを走ってきました。サステナビリティへの注目が高まるなか、当社としてはあらゆる観点からの取り組みを進めています。
蛭田氏:特にSmart-UPS Ultraは、電池交換不要で環境負荷も少ないということで、トータルのコスト削減でもサステナビリティにも大きく貢献できる製品です。企業としてもサステナビリティを意識した製品を選択することは重要だと思います。
今野氏:当社としてはリチウムイオン電池への置き換えを目的としているのではなく、サステナビリティのほか、サイズや重量、管理性というお客さまにとってのメリットを実現する手段がリチウムイオン電池であると考えています。ぜひ、製品の優位性という観点からもSmart-UPS Ultraを検討していただきたいです。
[PR]提供:シュナイダーエレクトリック