自社の組織体制や事業内容に合ったソリューションを選定することが、DXを成功に導く鍵となるのは言うまでもない。しかし、全社展開したソリューションの用途に関する問い合わせが、現場からIT部門やDX推進部門にひっきりなしに寄せられるようでは、むしろ全体的な生産性の低下にもつながりかねない。このような事態に陥らないようにするため、アドビ株式会社では従来のカスタマーサポートに加え「アドビサポートプラン」を提供し、操作方法のみならず、実務での活用にまで踏み込んだ支援を行っている。
よりプロアクティブなサポートを展開
アドビと言えばグラフィック・デザインや動画編集、PDFなどをイメージされる読者も多いだろうが、現在ではAIやマーケティング・オートメーションなど、多岐にわたるソリューションの提供を行う企業として知られるようになっている。同社製品の導入事例が増える中、より踏み込んだ支援を行うために生まれたのがアドビサポートプランだ。アドビSr. Technical Account Manager 森川未香氏・小笠原敬氏は次のように説明する。
「当社製品の使い方に関するお問い合わせに回答するのはもちろん、現場活用の具体的方法を念頭に置いたトレーニングの設計を行ったり、お客様との定例会を通して課題への対応策を一緒に検討したり、従来のカスタマーサポートよりもプロアクティブに支援を差し上げるのがアドビサポートプランの特長です」
デジタルマーケティングの内製化を目指して
2022年4月からアドビサポートプランを導入しているANA X株式会社を例に、実際の支援内容やそのメリットを紹介しよう。ANAグループに属するANA Xは2016年に設立され、現在は航空券のデジタル販売をはじめ、グループが提供する多様なサービスのプラットフォーム事業を担う会社である。
ANAグループとアドビとのつながりは、2010年にまで遡る。当時、ANAグループではデジタルシフトへの足がかりとしてWebサイトのデジタルマーケティングに着手することを決め、そのプラットフォームとしてAdobe Experience Cloud※1を採用した。現在はANA Xがアドビとの契約窓口となっており、同社内にはExperience Cloudの各ソリューションに関してグループ社員から寄せられる業務利用上の質問や、困りごとの解決を支援するWebサポートデスクも設置されている。しかし以前は人手不足から課題も生じていたと、ANA X デジタルマーケティング部の南雲浩二氏は言う。
「Webデータサポートデスクには、月に約40件の問い合わせがあり、手一杯の感じがありました。そのためグループ各社から『こういう分析をしたいのでANA Xでやってもらえないか』と依頼されても、外部のマーケティング会社に発注することを勧めざるを得ない状況でした。こうした外注コストを抑えるためにも、グループ社員自らがデジタルマーケティング業務を推進し、Experience Cloudを使いこなせるようにできないかと考えていた時に、アドビサポートプランの提案を受けました」(南雲氏)
※1 Adobe Experience Cloudには、Adobe Analytics, Adobe Target, Adobe Audience Manager, Adobe Experience Managerなどのソリューションが用意されており、ユーザーは必要なものを選択して契約利用できる
Webサポート連携、オフィス・アワーで疑問解決までの工数を短縮
「グループ社員自身によるデジタルマーケティングの推進」という目標に向け、アドビではまずANA XのWebデータサポートデスクに寄せられる質問に、スピーディで正確な回答を返せるよう技術者(TAM・NSE ※2)を置き、グループ社員と直接やり取りできるようにした。以前は高度に技術的な質問やソリューションの仕様に関わるトラブルについては、ANA XのWebデータサポートデスク担当者がアドビに説明を受け、それを質問者に返すという工程を踏んでいたが、アドビがサポートデスクと連携することによって大幅な時間短縮が図れるようになった。
※2 TAM: Technical Account Manager / NSE: Named Support Engineer 両役職とも専任のサポートエンジニアリソースを指す。
それでも文面でのやり取りでは細かいニュアンスが伝わらず、何往復も会話が続くケースがあったため、南雲氏の発案によって2022年からは「オフィス・アワー」による対面型サポートが設けられた。これは毎週火曜日、質問や課題を抱えるグループ社員が、オンライン・ミーティングの要領でアドビのサポート担当者と個別に対話できる制度だ。1回15分の枠内なら、ちょっとした疑問から複雑な操作方法、自分が行った分析の手法が正しいかどうかの確認まで、何でも気軽に尋ねることができる。直接対話なので疑問の解決も早く、画面を共有しながら操作方法を教わることもできるので、業務スピードの改善にもつながっているようだ。
Webサポートやオフィス・アワーが、アドビの各種ソリューションやデジタルマーケティング・ツールを「取っ付きにくいもの」から「身近なもの」へと変えつつあることを実感しているとANA X デジタルマーケティング部 橋本大起氏は言う。「外注していた分析業務を『自分でやってみよう』というグループ社員が出てきました。こうしてソリューションへの理解が深まり、社員のリテラシーが高まっていけば、マーケティング業務は外注から内製化にシフトしていくはずです」(橋本氏)
すぐに使える、実務に沿ったトレーニング
ANA Xにおけるアドビサポートプランでは、ここまでに紹介したWebサポート連携、オフィス・アワーに、大規模トレーニングを加えた3つの柱を中心にPDCAが展開されている。この1年の間に6回開催されたトレーニングにはANAグループ社員やパートナー企業から毎回50人以上の参加希望者があり、大きな関心を集めていることが分かる。トレーニングの内容について、ANA X デジタルマーケティング部 小河原秀氏は次のように語る。
「トレーニングは一般的・汎用的な内容だけではなく、ANAのデジタルマーケティング環境をベースに、ANAの業務に合わせたプログラムも組んでもらっています。現業にフォーカスして実施されるため、理解しやすく実用的なものになっています。たとえばトレーナーと画面を共有しながら、実務に沿ったソリューションの操作方法や分析結果の出し方などを手取り足取り学べるハンズオンは、覚えたことをそのまま業務で使えるため、参会者から好評です」(小河原氏)
親身なサポートへの安心感、ノウハウ蓄積への期待感
アドビサポートプランを活用して展開するサポート、トレーニングの内容は、ANA XとAdobeのサポートチームが毎週行う定例会の中で吟味されている。ANAグループの課題を理解するANA Xからの意見や現場から上がってくるニーズ、ソリューションのアップグレード状況などに合わせて改善・追加が行われ、その質の高さはANAグループ社員からも評価されている。ANA Xとしてもアドビの積極的な支援には大きなメリットを感じていると、デジタルマーケティング部の各氏は語る。
「ツールがあっても使い手に知識がなければ活用できませんが、アドビサポートプランでは単なる使い方だけでなく『こう使えば日頃の業務に役立つ』というのを理解するところまでレールを敷いてくれるので、とても頼りになっています」(小河原氏)
「最終的にはアドビに頼らず、社員の力でデジタルマーケティングを行っていくのが理想です。そこに行き着くまでには時間がかかるでしょうが、トレーニングやオフィス・アワーなどを通してノウハウを蓄積できればと思っています」(橋本氏)
「どんなことにも親身に寄り添って対応してもらえるので、非常に安心感があります。こちらが『やってみたい』というと、それに前向きに聞いてもらえる。決してドライな対応ではないのが嬉しいですね。アドビサポートプランを契約してまだ1年ほどですが、グループ内での分析品質の向上や、能力の底上げには確実につながっていると感じています」(南雲氏)
TAMによる包括的運用支援
ANA Xでの事例からも分かるとおり、アドビサポートプランの特徴は、DX製品活用のスペシャリストであるTAMがユーザーの製品活用に伴走し、製品・業務上の課題をタイムリーに解決しながら、ユーザー自身で活用を推進するための運用体制の構築を支援する点にある。TAMは製品の深い知識に加え、多くのユーザー企業の運用に伴走する中で培われた課題認識や製品活用に対する豊富な知見を有している。ユーザーの日々の課題に寄り添いながら、業務を踏まえた細やかな機能利用方法をアドバイスすることもあれば、より高度な分析・計測の手法や、技術環境の変化の対応に関する技術支援を提供するなど、企業の成功に向けて活動するパートナーとして、最大限のサポートを行うと、アドビの森川氏は言う。
全国的にIT人材の不足が課題となる中、実務に寄り添ったサポートを通して社員のITリテラシー強化、ノウハウの蓄積が図れるアドビサポートプランのようなサービスは、企業がDX進めていく上で、いっそう重要度を増していくことになりそうだ。
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