物流におけるドローン活用が注目を集めている。2022年12月5日に有人地帯の目視外飛行を認める「レベル4飛行」が解禁されたなか、同年11月に「鹿児島県地域課題解決型ドローン実証実験」が行われた。森建設と瀬戸内町、石川エナジーリサーチ、エアリアルワークス、ANAホールディングスおよび双日九州の6社がコンソーシアム「ID(いつでもどこでも)プロジェクト」を発足し、採択された。本記事では、ANAホールディングスと双日九州の担当者にプロジェクトの詳細と実証実験の様子についてお話を伺ったので、その内容をお届けする。
離島住民へ温かいお惣菜を空輸。鹿児島県でドローン配送実験
「ID(いつでもどこでも)プロジェクト」は、二次離島である、加計呂麻島、与路島の住民が奄美群島の瀬戸内町にあるスーパーマーケットへお惣菜やお菓子を電話注文すると、ドローンが島まで届けてくれるというサービスである。二次離島である、加計呂麻島、与路島は、小売店はあるものの高齢化が進んで需要が減少しており、また島の各地へ商品を配送するドライバーの不足といった課題も抱えていた。島民が瀬戸内町に買い出しに行くにも船移動のため、長期保存・冷凍保存できるものが中心になり、台風などで海上交通が停止すれば、生活に大きなダメージを負ってしまう。また、実証実験前のアンケートでも「温かいお惣菜がほしい」との要望が寄せられていたという。
ドローンの運航は石川エナジーリサーチとANAホールディングスが担当。ANAホールディングス 未来創造室 デジタル・デザイン・ラボ ドローンプロジェクト ディレクターを務める信田光寿氏は、「ANAはドローン運航を担当したほか、2社のオペレーションを支援する運航管理ツールやコミュニケーションツールを提供しました。注文から受け取りまでの業務フローの確認、住民のニーズや適正な料金の調査など、ドローン配送の市場形成に向けて幅広い結果を得られたと感じています」と本実証実験の手応えを見せている。
離発着ポートの安全確保、島民から「誰が監視するの?」という声も
ドローン配送は一般的な航空機と同様に離発着ポートを必要とする。ANAホールディングスは、早くからドローン配送に着目し、全国でさまざまな取り組みをしてきたなかで、ポートの運用に課題を抱えていたという。
「従来、ドローンの離発着ポートには監視者を設置して、第三者の立ち入りなどに注意していました。ドローン物流の分野では、この人件費が課題となっていました。人手不足の地域に負担をかけるわけにもいかず、実際に今回の事前アンケートでも『誰がポートを監視するのか』という声もありました。そのため、ポート運用をできるだけ無人化する手法が必要でした」と、同社の未来創造室 デジタル・デザイン・ラボ ドローンプロジェクト オペレーションチーム リーダーの山口千遥氏は述べている。
ドローンの運航はあらかじめプログラミングされており、離発着は自動化されている。オペレーターがドローンのカメラ映像を常に監視しているが、ドローンのカメラ映像だけではポートの安全性を十分に確保できないため、ポートに監視者を設置する必要があった。ポートに遠隔カメラを設置することも可能だが、夜間など画面が見づらく人物を確認できないこともあり、通信が不安定なときはリアルタイムな監視が難しいシーンも考えられる。ポートに立ち入ってしまった人物を自律的に検知して、スピーカー音声や警告灯で注意をうながすなどの施策が必要だった。
映像解析AIで安全を確保。人の立ち入りをリアルタイム検知
こうした課題に対して双日九州は、EDGEMATRIXの「映像解析AIプラットフォーム」を活用した「ドローンポートAI監視」を提案した。ポートにカメラと小さな「Edge AI Box」を設置すれば、ネットワーク遅延などの影響を受けることなく、AIによる自動検出とリアルタイム監視を実施できる。たとえば、ポート内に人が立ち入った場合にLINEで通知するなどのアプリ連携も可能だ。
「離島などでは、ネットワーク環境の整備が不十分な場合もあります。今回はLTE回線を用いましたが、通信状況が悪化することもあります。EDGEMATRIXのエッジコンピューティング技術であれば、ネットワーク状況に影響されることなく現地でリアルタイムAI処理を行って、人の立ち入りを自動的に検知できます。高性能なカメラとAI技術を組み合わせれば、真っ暗な夜間でも確実に人物を検出できます」と、双日九州 経営戦略室 DX(デジタルトランスフォーメーション)推進担当の鹿毛健広氏は述べている。
オペレーターがドローンカメラの映像とポートカメラの映像を見て、もし異常があればドローンの着陸を一時停止させるという運用になるが、本実験で用いたドローンは毎秒2メートルほどの速度で下降するため、映像が数秒遅延するだけでコマンドが遅れるためリアルタイムはかなり重要である。
「ポートのカメラ映像は、EDGEMATRIXのデータ伝送技術によって低遅延でオペレーターへ届けられます。オペレーターは、リアルタイムな映像でポートの状況を確認し、運航の安全性をより高めることができるのです」(鹿毛氏)
今回の実証実験では、加計呂麻島と与路島および瀬戸内町古仁屋のポートにカメラを設置し、3つのAI監視を同時に稼働させることになった。オペレーターは1つの画面に3つの映像を表示してドローンを運航させたが、映像は遅延やカクつきもなく確実に制御できたという。またEdge AI Boxは小型で省電力性が高く、電力の確保が難しい場所でも設置しやすい。本実験でも、小型の蓄電池で対応することができた。
「島側のポートで荷を切り離してドローンが離陸したあと、EDGEMATRIXの映像で商品を受け取る住民の姿をリアルタイムに確認できました。リモート運航ですから、配送の確認という点でもメリットがあります。また、商品の到着に喜ぶ方々の顔が見られたのが、なによりうれしかったことです」(山口氏)
より安全なドローン配送を目指して──。EDGEMATRIX技術の革新に期待
今回の鹿児島県地域課題解決型ドローン実証実験は、電話注文から商品の準備、ドローンの運航や離発着ポートの運用監視、商品の引き渡しまで、ドローン配送にかかるひととおりのフローを実施し、計7フライトを順調に運航できたという。本格的なドローン活用に向けて、新たな課題も浮上してきたが、各社は解決・改善に努めていくとしている。
「ドローンポートAI監視は日本初の試みでしたが、EDGEMATRIXのAI技術は確実に人物を検出できることがわかり、安全性を確保できました。ドローン運航の品質をいっそう高めるため、今後も製品や技術の革新に期待しています。当社としても、これまで航空機で培ってきたノウハウを生かして、安全性の高いドローン運航で地域課題や住民の不安を解消し、市場をけん引していきたいと考えています」と信田氏は展望を語り、インタビューを締めくくった。
※所属はインタビュー当時のものとなります
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映像解析に使用したEdge AI Box
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