2022年12月8日に開催されたクラウドエース主催の大型イベント「OPENDX 2022 Winter」。「大変革時代に価値を生める組織構造を問う!」というコンセプトのもと、多くの企業経営とITの有識者が登壇し、DXの推進やイノベーションの創出に向けたアプローチについて話が展開された。
本稿では、パーソルキャリア株式会社 テクノロジー本部 デジタルテクノロジー統括部 ゼネラルマネジャー斉藤 孝章氏と、クラウドエース株式会社 マーケティング部 部長 杉山 裕亮氏、同社 執行役員 事業推進本部長 松本 健治氏によるトークセッションの内容をレポートする。
データ活用を担う組織を発足させDXに取り組む
杉山氏:
まずはパーソルキャリアさんのデータ・システム関連の組織変遷をお聞かせください。
斉藤氏:
私の入社時(2016年)、データやシステムに関わる部署としては、情報システム部門のみが存在する状況でした。数十人の部隊で、要件をまとめ外部ベンダーに依頼するというやり方でした。データ活用の需要が増して、弊社にもデータ部門が必要となり、私はその立ち上げに参画しました。現在では情報システム部門とデータ部門を合わせて約300人規模の組織部隊になっています。また、デザイン専任の組織も立ち上げ、サービス全体を通した顧客体験を設計する体制を整えています。
松本氏:
我々も5年ほど関わってパーソルキャリアさんの変化を見ておりますが、テクノロジーのみに集中するのではなく、事業会社として事業を主眼としてデータ・システム関連の組織が組成されて活動している点が印象的でした。
しっかりとステップを踏んでDXを進めていく
杉山氏:
組織拡大に伴い、ミッションはどのように変化していきましたか?
斉藤氏:
まずは営業組織を中心として、テクノロジーを知ってもらうことが必要でした。事業会社として営業組織が最も大きく中心となる組織であるためです。その次はデータ・テクノロジーを活用して改善を積み重ねていきました。小さな成功体験を積み重ねることで、テクノロジーがどう役立つかを実感してもらっています。現在はデータとテクノロジーによって、ビジネスの在り方を考える段階に入ってきました。
杉山氏:
DXと聞くと派手な変革を想像する方もいますが、主だった組織で小さな成功体験を得るステップから進めたことが成功ポイントですよね。
斉藤氏:
そうですね。成功体験により一体感を生むと同時に、成功・失敗の経験をもとに会社としてリテラシー向上にも繋がります。経営陣としてはDXと聞くと経営効率化によってすぐに売上があがったり、結果がでることを想起する方もいるかもしれません。実際はすぐに結果につなげるのは難しいと思います。DXはステップを踏んで確実に進めながら、長い目で見る必要があります。
教育や啓蒙を積み重ねて進めていく
松本氏:
パーソルキャリアさんではテクノロジーを分かりやすく表現することに注力しているように感じます。
斉藤氏:
もともとは「エンジニアは他部署と共通言語が違う」と社内で言われていました。専門用語をそのまま発しても伝わらない場合もありますので、社内外問わず共通言語を活用するように意識しています。それは私だけでなく、エンジニア自身が気付き改善していることでもあります。
松本氏:
弊社と協業するプロジェクトでも、お互いの役割分担を上手く決められる印象があります。
斉藤氏:
我々も意識していまして、自分たちで担当する範囲をしっかりこなせるように、もちろん知識・技術の習得は常に高めるように取り組んでいます。それに加えて説明能力を養うためにも、外部への発信にも力を入れています。
松本氏:
内向きに閉じないのが良いところですね。
斉藤氏:
内向きになってしまうと組織として成長が止まってしまいます。常に外を向いて情報収集しつつ自分たちを高めていく、それができるメンバーが集まっていますね。HR企業ということもあり、採用が上手くできているということかもしれません。
杉山氏:
多くの企業でもIT人材以外の方々を巻き込んで体制を作りたいと考えると思いますが、斉藤さんは体制構築の面で難しかった点はありますか?
斉藤氏:
もちろんITについて説明し、理解いただくということに相応の時間をかけています。それでも、我々がチャレンジする上で良かった点は、経営陣や現場の方々に理解があり、変化を許容する姿勢を持ってくださっていたことです。こちらの話を聞いてくださるというベースがあり、その点でスムーズだったと思います。苦労した点は、課題に対するアプローチの摺合せです。営業現場などでは直面している足元の課題を解決する視点があります。一方でIT組織はもう少し中長期的に見て価値を生み出す仕組みや構成などの視点もありますので、その摺合せに時間をかけています。
人事データを活用する基盤を構築する
杉山氏:
DXの話の中でも、人事データを活用するための基盤を構築するプロジェクトが立ち上げたと伺っています。立ち上げた経緯を教えてください。
斉藤氏:
弊社は社員に対する人事業務においても非常にきめ細かなサポートがあります。その部分を何かテクノロジーでサポートできないかと思ったことがきっかけです。また、弊社のHR企業としての人事知識や、活用しているHRテックのノウハウを共有すれば皆さんに活用いただける点があるのではないかと考えています。色々な企業様における社内業務のリードタイムが短縮されていくことが、IT人材不足など社会課題の解決につながると考えています。
もちろん、社員の活性化もスコープに入っていまして、個人的には「重要な役割を担っているにも関わらず十分な評価が得られていない社員」を評価できる仕組みができると思っています。一般的にはハイパフォーマンスを出している社員が評価されやすいですよね。しかし、そのハイパフォーマーを周りで支えている社員がいるはずで、その社員たちも評価されるべきだと考えています。そのような考えや社会を、データの側面から変えていきたいですね。
杉山氏:
効率化することだけでなく、今までできていなかったことをできるようにするということですね。
斉藤氏:
そうですね。ただ、活用の点においてはまだまだこれからです。Excelなど表形式で属人的に管理しているファイルが存在していました。現在はそのようなデータを会社の資産として一元管理できるように集約している段階です。入社してから現在までの社員データを一気通貫で見られるようになり、その方のパフォーマンスを上げていくための土台を整えています。
松本氏:
人事データが散らばっていることは問題かもしれませんが、ある意味で宝の山が存在しているということでもありますよね?
斉藤氏:
まさにその通りです。価値あるデータが随所にあります。そのため、事業会社として考えたときには、営業組織に関わる事業データを集約できる基盤だけでなく、人事などバックオフィス系の組織においてもデータ・知識を蓄積できる基盤が必要と考えています。
松本氏:
攻めか守りかで考えたときには、どうしても人事組織は守りの役割が多くなると思うのですが、ただそこにも競争優位の源泉が眠っているということですね。また、人事情報という機密性の高い情報でもあるので、しっかりと基盤を整備するべきことも理解しました。
人事データをベネフィットとして社員に還元する
杉山氏:
プロジェクトはどのようなステップで進めましたか?
斉藤氏:
まずは現状の把握です。把握した上で課題を解決するための方針を整理しています。
また社員の個人情報に当たる機密性の高いデータを扱うため、情報セキュリティ部門との調整が最初の壁でした。その点においては丁寧に進めています。
杉山氏:
個人情報の扱いについては規制が強くなっている風潮がありますが、有用なデータの活用をあきらめたくないですよね。
斉藤氏:
社員や会社にどのようなベネフィットを返すかがポイントだと思っています。どのような技術であり、社員自身にどのような利点があるか理解いただくために、組織全体としてリテラシーをあげていくことも必要と思っています。私の部署では数名の協力者がFitbitというウェアラブルデバイスを着用しています。自分の調子と、睡眠の質などの健康に関するデータを掛け合わせることで体調を管理することが容易になります。その技術を説明できるように自身でも活用しています。
杉山氏:
人事データは幅が広く、評価やキャリアに関するデータだけではないのですね。
斉藤氏:
そうですね。例えば、休職する方についてもデータとしてサポートできる部分があるかもしれません。「はたらいて、笑おう。」という弊社のビジョンにも繋がりますが、そういった面でもより良くはたらくことができる世界観を目指しています。
人事データ活用で社員に光を当てる
斉藤氏:
重要な役割を担っているにも関わらず十分な評価が得られていない社員は、もちろん仕事ができないわけではないと考えています。人手不足もありプレイングマネジャーなどの管理職も増えているため、管理職から見えていないだけの場合もあるはずです。そういった点でもデータやテクノロジーが価値を提供できるかもしれません。現在は管理職の目のみで評価しているかもしれないが、そこへデータが示唆を提供するイメージです。
松本氏:
適正や能力が見えたときに、そこに会社として投資する・サポートしていくことが必要ですよね。ただそれはデータが蓄積されてきて分かるようになることなので、非連続なポイントを生むためにも、まず着実な蓄積が必要ですね。
斉藤氏:
意味のあるデータを蓄積することが重要だと考えています。そして、何を実現したいかによって、どのようなデータが意味を持つかは変わってくるはずです。会社として実現したいことや仮説が変われば必要なデータも変わりますよね。そのため、実現したい答えや仮説を持っている事業や戦略を立てる経営と会話をして、PDCAとして回し続けていくことが必要と考えています。
松本氏:
この先、このプロジェクトを中心にどのように進んでいく構想でしょうか?
斉藤氏:
この取り組みの先として1つ考えているのは、人事関連サービスを皆さんにも提供していきたいというものです。HR企業という人事を生業にする会社、その会社における”人事”を経験されていたり、その人事領域でエンジニアを経験されてきたり、そういったプロフェッショナルがいます。そういった社員が外向きに価値提供できるような仕組みを作り、サービス提供していきたいと考えています。
データは遠い世界ではなく、実は自分たちの身近にある
杉山氏:
人事データを活用する企業が増えていくかと思いますが、企業ごとに状況は異なりますよね?
斉藤氏:
おっしゃる通り企業ごとに状況は異なりますが、少子化などの社会課題を含めて、共通している部分もあるかと思います。社員がどのようにすれば活性化してくれるかをさまざまな企業が考えると思います。弊社における事例をこれからも共有して参りますので、ぜひ活用していただきたいと考えています。
杉山氏:
多国籍の方々とはたらく環境が増えていくことを考えると、ますます人事データの重要性が高まっていきそうですね。
松本氏:
確かに人事という一見守りに思える領域に、競争優位の源泉になるデータ資産があるということが改めてわかりました。画一的な人材を作るのではなく、一人ひとりにフォーカスしたサポートをしていくことが重要であり、結果として企業成長に繋がる。
斉藤氏:
データというと遠い世界のように思われるかもしれませんが、実は自分たちの間近にあるということを知ってもらえたら嬉しいと思います。DXというと花形のように聞こえますが、皆さんの生活やパフォーマンスを高めるためのものだと考えています。DXは近いものだと知ってもらいたいですね。我々が進めている人事データ基盤構築・活用プロジェクトの施策も、皆さんとシェアすることで多様なはたらき方を支えることに繋がればと思います。
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