クラウドエース主催の「OPEN DX 2022 Winter」が2022年12月8日に開催された。午後のトークセッションではディップ株式会社から田所佑基氏と実平翔太氏、株式会社N2iから吉野宏樹氏が登壇。飲食店や小売業の採用現場における課題を解決すべく「面接コボット」を2社共同で開発した。開発の経緯や共同開発の苦労など、たくさんの秘話をお届けする。
応募者の面接設定を自動でできる面接コボット
クラウドエース 杉山氏:
本日のセッションではディップ株式会社と株式会社N2iが2社共同で構築した国内トップレベルの採用管理システムについてお話をしていただきます。まずは自己紹介をお願いします。
ディップ 田所氏
私は今日お話させていただく面接コボット課の課長をしております。プロダクトマネージャーも兼務しておりますので、さまざまな立場からのお話ができると思います。
ディップ 実平氏
私はDX事業本部で商品企画部の部長をしております。元々弊社には15年前ぐらいに入社し、求人メディアのバイトルやはたらこねっとの販売営業を経て、DX事業部で商品開発をしています。
N2i 吉野氏
私は面接コボット開発チームの責任者をやっております。立ち上げからずっと関わっておりますので、これまでの開発の流れもお話できると思います。
クラウドエース 杉山氏:
では本題の面接コボットのお話を伺っていきたいと思います。面接コボットはどういうもので、どんなユーザーのどんな課題解決になるのでしょうか?
ディップ 実平氏
一言で言うと応募者の面接設定を自動でできるようなサービスです。弊社のお客様は飲食店や小売のお客様が多いんですが、求職者から応募が来てもすぐに応募者対応ができなかったり、応募者対応に対する工数をなかなかかけられないという課題がありました。
クラウドエース 杉山氏:
つまりエンドユーザーのDXを実現するサービスということですね。誰でも使えるような手軽なものですか。
ディップ 実平氏
はい。パソコンも不要で、極論スマホ1台あれば簡単に完結できるようなサービスになっています。
面接設定率に大きな変化が見られます。店長さんからよくお声をいただくケースで、応募後に面接設定をするために電話をしても求職者になかなか繋がらないところに課題感を持っていらっしゃいます。面接コボットを使うことで面接設定が自動化されるので、面接設定率が格段に上がるという効果が出ています。
クラウドエース 杉山氏:
応募者と企業が同じ時間帯で連絡を取り合うのは難しいですよね。そういった課題を解決するために面接コボットを開発するという話になったんですか。
ディップ 実平氏
いや、最初から面接コボットを開発したわけではなく、まず面接コボットの前身である応募対応コボットというRPAをリリースをしました。しかし、飲食店さんだとパソコンも持っていなかったりするので、そもそも導入ができないケースが非常に多く普及しませんでした。そこで得た教訓をもとにもっと簡単に利用できるツールを考えていたところ、N2iさんのノリスケというサービスを見つけて、ご相談させていただいたのが面接コボットの始まりです。
2社の解決したい課題が合致した
クラウドエース 杉山氏:
ここからは2社がどのように出会い面接コボットを開発したのか、開発秘話を深堀りしていきたいと思います。
まずなぜパートナーとしてN2iさんが開発することになったのでしょうか。ノリスケというサービスを既にお持ちだったのが大きいかなと思いますが、何かそれ以外で理由はありましたか。
ディップ 田所氏
何社かに共同開発のご相談をさせていただいたときに、N2iさんの対応スピードが非常に早かったんです。お声がけをした翌日に具体的なご提案をいただいてすごいなと。僕らがやろうとしてる思想にもすごく共感をしていただけたので、同じ思いで事業を進められるだろうというのが理由です。
N2i 吉野氏
弊社としてはノリスケの展開がなかなかうまくいってないような状況がありました。とはいえ、ノリスケが採用まわりのDXを推し進める上で最適なものだという自信はあったんです。そこでディップさんにお声掛けいただいて、これは絶対一緒にやりたいと思い、すぐに情報をまとめてお出ししたという流れになります。
ディップさんから「お客様のこういう課題を解決したい」という要望を解像度高い状態で出していただいていました。それが自分たちがノリスケを使って解決したい課題と本当に似通っていたのでそのスピードで出すことができました。
クラウドエース 杉山氏:
仕様も固まっていたんですか。
ディップ 田所氏
仕様までは固まっていなかったです。ただ、僕らがターゲットとするお客様のニーズは、面接設定に特化したところでした。いろんな機能を取り払ってここだけ尖らせようというコンセプトは決めていたので、そういう意味ではゴールが決まっていました。
N2iの開発力とディップのドメイン知識で生まれたシナジー効果
クラウドエース 杉山氏:
実際にパートナーとしてどうだったかも聞いていきたいと思います。ディップさん、N2iさんってどんな会社ですか?
ディップ 実平氏
非常に熱い会社だと感じています。吉野さんはコボットに対しての思いが特に強くて、僕らの希望に対して「いやそれは違います」みたいな感じでいろいろご提案くださったりするので。
本当にいいものを一緒に作るためのパートナーシップがしっかり築けていると思ってますし、信頼できるというのが僕から見た印象です。
クラウドエース 杉山氏:
目的の共有や共感がうまくいっているということですね。逆に全然考え方が違うと難しいかもしれませんね。
ディップ 田所氏
お互い忖度しすぎないというか、思っていることを共有しているのがいいのかと思います。喧嘩するわけではなくて「もっとこうした方が良いよね」みたいな考え方をしましょうと。
N2i 吉野氏
ディップさんは求人事業に対する圧倒的なドメイン知識をお持ちなので、現場から求められているものを明確に提示してもらえるのが自分の中でとても新鮮でした。お客様の要望を明確に回答してくれるので我々もやりやすかったし楽しかったです。
クラウドエース 杉山氏:
お互いの長所を活かせる形でうまくマッチングしたんですね。N2iさんは既にノリスケを開発されてるのでプロダクト開発の知識や経験は既に有していて、一方ディップさんはしっかりとしたドメイン知識があるので面接管理のシステムをつくる上ですごくいいタッグが組めたと。
リリースのタイミングでコロナ禍は追い風になりましたか。
N2i 吉野氏
はい。面接コボットのリリース前、最後の仕様追加がWeb面談機能でした。滑り込みで追加されたので、我々も「これ今やるのか」みたいな部分が正直あったんですが、コロナが追い風となりすごく使われたので良かったなと。いろんなタイミングが合いましたね。
スピーディーなリリースを経てぶつかった壁
クラウドエース 杉山氏:
ここからは2社間の調整事であったりとか、共同で進める難しさをお伺いしていきます。時系列でどう開発を進めていったのかご説明いただけますか。
N2i 吉野氏
キックオフは2019年10月です。初めは当社が開発チーム4、5名でディップさんも少ない人数でのスタートでした。全体的に非常に小さいチームで進めていきました。
ノリスケがベースにはあったとはいえ、面接コボット専用にいろいろと変える必要もあります。全ての機能に対して、ディスカッションして要件定義して設計してというふうに進めていきました。リリースが半年後の2020年4月です。 スムーズというわけではなかったんですが、スピーディーではありました。アジャイルのスプリントを1週間で回して成果を出していく開発スタイルをとっていたんです。期間も短いですし熱意を持ってやっていましたが、1週間で機能を追加するのは大変でしたね。
毎週私が名古屋から東京に来て、ディップさんとできた機能についてお話して、1週間後にまた来てと。立ち上げまではそういうサイクルでした。
クラウドエース 杉山氏:
リリース後の反響はどうだったんでしょうか。
ディップ 実平氏
当初はそこまで一気に広がらないという見通しでしたが、リリース後すぐに数百社から引き合いをいただき、想定外のスピードで拡大していきました。僕らからすると嬉しい悲鳴ではありましたが…。
N2i 吉野氏
我々としては未知のゾーンに入っていくわけです。N2iとしてはリリースまで一気にスピード開発してがっと立ち上げることに関しては社内知見もあり慣れていました。しかし、ここまで急速に広がったユーザーに安定的に使ってもらうという部分での苦労はリリース後にありましたね。
徐々にスケールさせていこうと考えていた部分に、ニーズが一気にきてしまってじゃあどうすると。そのときにシステム面でいろいろと問題が発生したので、かなりディップさんにはご負担かけたと思っています。
バグがなくならずタスクが溜まっていった
クラウドエース 杉山氏:
体制としては初期に行っていたアジャイル開発でのスプリントを回して解決することを継続されたんですか。
N2i 吉野氏
継続していました。「どんどん解決解消していけばいつかバグがなくなる」と考えひたすらやっていましたが、一向に無くならないんですね。
当時は我々開発メンバーも5名から10名程度まで増やしてはいたんですが、QAチームもないような状況でした。開発メンバーだけで品質の担保をするのが限界に来ていたので、その辺りでディップさんと相談して、障害を収めることに集中することになったんです。そこで一旦開発体制が大きく変わりました。
クラウドエース 杉山氏:
バグや改善要求はディップさんから来るような仕組みでしたか。
N2i 吉野氏
そこは明確な仕組み化はされていなかったです。ディップさんから来るものもあれば我々の方で見つけた問題もあり、とにかくいろんな所から来る状態でした。
情報が来るのは本当に大事ですし、来ないことの方が問題だと思うのでその点では良かったです。ただ、カオスな状況でした。
例えばディップさんは営業チームが非常に大規模なんですが、初期においてCSは存在しませんでした。その理由として当時一緒にチームを立ち上げた方から言われたのが「営業がCSなんだ」という話で。だから営業メンバーがサポートも兼務しているところがあって、各メンバーから整理されていない要望が全部来るみたいな状況になっていました。
ディップ 田所氏
カオスでしたね。営業はお客様のリアルな悩みや解決してほしいといった声を、温度感高く伝えてくれる良さがあります。しかし、要望と改修のサイクルが回らなくなり交通渋滞が起きているような状況でした。
N2i 吉野氏
それでCS体制を立ち上げるんですが、最初のやり方としてはそれぞれのCSメンバーが自立してしっかりとディップさんから話を聞いて開発に落とし込んでいく、つまりそれぞれのメンバーに責任を持たせてやるみたいな動きにしていたんです。
そうすると、徐々に認識の齟齬みたいなのが発生してですね。バグは収まっていくんですが、今度は作ったものがこれじゃないみたい、もう1回作り直そうよみたいな問題が増えていきました。
パートナーからいつの間にか受発注の関係になり不穏な空気に
クラウドエース 杉山氏:
なぜそういった混乱が起こるのでしょうか。優先順位づけがうまくいっていなかったのか、改善したときに何らかの依存関係があって他に影響してしまうという話なのか。
N2i 吉野氏
両方発生していましたが、一番大きかったのは優先順位によるものだと思います。「この機能が欲しい」という要望が営業チームの声が大きい人から上がってくるのは影響しました。
だから、面接コボットとして今作るべき機能がどれなのか我々もよくわからない状況になっていましたし、ディップさんに「これ何で作るんだっけ」と聞いたときに、明確な回答が出ない状況でしたね。
ディップ 実平氏
「この順番で行こうと思ってるんでお願いします」としか言えないといいますか。僕らの中でも消化ができてない、順番付けできてないところがあって、N2iさんに苦しい思いをさせてしまったと思います。
N2i 吉野氏
初期においてはディップさんと密なコミュニケーションをして開発を進めていたのが、このフェーズにおいてはそれがなくなっていまして。開発チームとしては「何か質問してもどうせ答えは返ってこない」と思い始めてしまい、その結果「言われたままにやってしまう」みたいな、いわゆる受発注の関係になってしまった。今までパートナーとしてやってきたのに、何かうまくいかないみたいな状況が生まれていました。
クラウドエース 杉山氏:
何が原因ですか。タスクの多さなのか、あるいは人が増えたことによるものなのか。
N2i 吉野氏
タスクの多さですね。タスクはチケット管理をしているんですが、その数がもう数百になってきてどれから着手すればいいのかがわからない。また、時系列で並べてみても、切った方がいいタスクかもしれないけどやはり重要そうだからどうしようみたいなのがずっと滞留してしまい、手がつけられない状況でした。
ディップ 田所氏
この状況の原因として、PMがうまく機能してなかったのがあるかなと。熱量を持って一緒に作っていく架け橋になるのがPMだと思うのですが、吉野さんがおっしゃった通り受発注の関係になっていました。これで作ってください、上がってきました、出しますみたいな状況にちょっとずつ傾いてしまっていたかなと。
N2i 吉野氏
徐々になんとなく不穏な空気が生まれ、お互いを信じられないみたいな状況になっていったと感じています。
開発チームからしたら、言われた通り作ったのに結局使われないとか、そうじゃないと言われたりするのに不信感を覚える。一方でディップさんからしたらあいつら何やってんだみたいなのがあったのではないでしょうか。
ディップ 田所氏
ありましたね。弊社はシステム開発をずっとしてる会社ではないので、なんでこんなに時間かかるのかとか、できるって言ったのになんで今更難しいというのかみたいな声が出て来ていました。特にビジネスサイドはシステム開発に関してわからないのでそういう不満は強かったですね。
N2i 吉野氏
「なぜそうなのか」というところのコミュニケーションが完全に欠落していて、結論のみをお互い伝え合うみたいな形になっていました。例えばいきなり「これ1ヶ月以上かかります」とズバッと伝えて終わりとか。
お互いにすごく不信感が高まっていて、開発にもプロダクトにもそれが影響していました。スピードも遅くなりましたし開発の精度も下がったりとか。
この辺りでこのままではまずいと。会社は分かれているけれども「会社の垣根をこえた面接コボットというチーム」で開発しているという体制、ワンチームにしていこうという話になり動き始めました。
ディップ 田所氏
ちょうど去年の今頃、N2iさんとお話する場を設けさせていただきました。お互いに見られて恥ずかしいところや見せたくないところはいっぱいあると思うけど、それを踏まえて一緒に進んでいこうというところと、ワンチームで課題解決した方がいいよねってところで認識が合致したんです。
そこから少しずつですがコミュニケーションをとったり、お互いの会議に出るようになりました。
ワンチームになり意思決定の経緯を透明化
クラウドエース 杉山氏:
ワンチームの体制を上手に構成する要素が何かヒントを伺いたいです。お互いの会議に出るというお話が今ありましたが、結局は情報開示がキーになるんですか。
N2i 吉野氏
なりますね。意思決定がされていく経緯が見えることで、開発チームとしてはそれだけ熱量を乗せることができますし納得して進められます。
ディップ 実平氏
スピーディーだった開発初期はディスカッションして共有していましたよね。苦しい時期は結果の部分だけしか共有できなかったり、受発注の関係になってしまっていましたが…。
クラウドエース 杉山氏:
やはりなぜやるのかといったコンテキストが共有されているからワンチームが成立するということですね。他には何か具体的な取り組みはありますか。
N2i 吉野氏
今までタスク管理ツールはN2iの開発とディップさんで別に分かれていたんですが、今はお互いに見ることができるようになっています。これは状況の見える化にかなり寄与したと実感しています。
ディップ 田所氏
N2iのエンジニアが話しているSlackのハドルに我々も入っていけるようになって、会話をする機会が多く生まれています。やはり開発を進める上で会話したことがある関係かどうかって結構大きくて。お互いの考えを理解できたからスムーズに運ぶようになったというのはありますね。
ディップ 実平氏
これまではN2iさんのエンジニアからの質問は上長を通して迂回して弊社に質問が届いていたのが、現在は直接届くようになったのも良かったです。
N2i 吉野氏
報告会でまとめて情報交換するだけだったのが、直接繋がるようになってスピード感も正確性も上がりました。
ポイントは縦割りではなくフラットに密にコミュニケーションをとっていくこと
クラウドエース 杉山氏:
最後に視聴者の方へのメッセージということで、2社共同開発のポイントをまとめていただけますでしょうか。
ディップ 田所氏
ここまで紆余曲折ありましたが、今ワンチームでやれているのはやはり最初に同じ思いを共有していたから原点に立ち返れるわけです。今回の成功の原動力はやはり最初の熱量にあったかなと思っています。もっといいサービスを一緒に作っていきたいので、これからもよろしくお願いします。
ディップ 実平氏
私は2社間で調整をしながらプロダクトを推進していく立場でずっと見ていたんですが、ポイントは縦割りではなくフラットに密にコミュニケーションをとっていくことだと思います。
当たり前に感じるかもしれませんが、実際やってみるとすごく難しいんです。なかなか細かいニュアンスや背景が伝わらなかったり、伝わらないことでちょっとした負の連鎖が積み重なりどこかで爆発することを経験しました。
今後はもっともっとオープンになって、お互いの業務や会社の垣根を越えて面接コボットを良くするため、事業を大きくするために共通認識を持ってやっていけたらなと。
N2i 吉野氏
面接コボットはDXを小さく実現できるところが素晴らしいですよね。人事領域の中でも応募対応を自動化するというのは明確な課題解決になりますし、すごく良いプロダクトだなと自負しています。
今までいろいろと苦労話をしましたが、この成り立ちがあってディップさんとパートナーとして密にやっていく体制を整えることができたと思っています。ここからはさらに進化して機能補強やお客様に価値を届けることにフォーカスしたいです。
クラウドエース 杉山氏:
開発スタッフも募集中なんですよね。
N2i 吉野氏
はい、絶賛募集中です。開発の負債が貯まっている反面、お客様からの要望も増えていますので一緒に解決してさらなる価値を届けることができる仲間を募集していますので、ぜひご興味がある方ご応募お願いします。
クラウドエース 杉山氏:
本日はまるでドラマのようなお話を聞かせていただきました。共同開発は全てに適用できるベストな方法ではないかもしれませんが、変化の激しい時代ですし「これを作りたい」と思ったときに必ずしも自社のリソースだけでできるとも限らないですよね。可能性を限定せずにいろんなところとの取り組みを経てサービスを実現するという一つのモデルケースとして、今回のトークセッションをご参考にしていただければと思います。
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