沖縄では2050年度のカーボンニュートラル実現を目指し、再生可能エネルギーを活用する取り組みが進んでいる。その一つ、日本とアジアを結ぶ架け橋として整備されたIT産業集積エリア「沖縄IT津梁パーク」(沖縄県うるま市)において、NTTデータグループが施設のカーボンニュートラル化を働きかけ、地元エネルギー企業と共同で推進していくことで合意した。沖縄の脱炭素に向けた動きの象徴となるべく始まった本プロジェクト。その概要とNTTデータが果たす役割に迫った。
沖縄県ならではの脱炭素社会実現に向けた取り組み
沖縄県と沖縄電力は2020年12月、「2050年脱炭素社会の実現に向けた連携協定」(以下、連携協定)を締結した(※1)。県及び2050年CO2排出ネットゼロを掲げる沖縄電力が、脱炭素に向けた機運の醸成とSDGs(持続可能な開発目標)推進のため、緊密に連携・協力していくことを表明した形だ。連携協定の目的としては「再生可能エネルギーの導入拡大」「CO2を排出しない、もしくは排出量の少ない発電への転換促進」などを挙げている。
沖縄県には県のエネルギー計画である「沖縄県クリーンエネルギー・イニシアティブ」(2022年3月改定)がある。このイニシアティブでは、2050年度の脱炭素社会の実現に向け、エネルギーの低炭素化・自立分散化・地産地消化の3つの基本目標を定め、2030年度の将来像として掲げる「低炭素で災害に強い、沖縄らしい島しょ型エネルギー社会」の実現を目指している。この“沖縄らしさ”とは何か。沖縄県 商工労働部 産業政策課の外間 章一氏が解説する。
「広大な海域に160の島々が点在する沖縄県の電力系統は、本土と連系がない小規模な単独系統です。また、地理的・地形的な制約から本土のように地熱発電や大規模な水力発電を見込むことも困難です。このような構造的不利性がある中、県では沖縄に適した再生可能エネルギーの導入促進に取り組み始めています」
この脱炭素に向けた再生可能エネルギーの活用において、注目のプロジェクトがスタートした。沖縄IT津梁パークの一部施設で、建設時から再生可能エネルギーの導入を提案したのはNTTデータだ。
沖縄IT津梁パークは国内外の情報通信関連産業の一大拠点とすべく整備されたエリアで、12の建物があり、IT企業など約40社が利用している。その企業集積施設2号棟・7号棟は、沖縄電力のグループ会社(以下、おきでんグループ)である沖電開発が建物を建設・所有し、沖縄県にリース。沖縄県はそれを公の施設として位置づけ、行政財産使用許可を受けたNTTデータグループが入居し、BPO事業を展開している。
※1 沖縄県と沖縄電力株式会社との2050年脱炭素社会の実現に向けた連携協定について
施設の電力を県産エネルギーでカーボンニュートラル化
この両棟で使用する全電力を2022年12月からカーボンニュートラル化することで、沖縄電力及びおきでんグループの沖縄新エネ開発、NTTデータが同年4月に合意した。NTTデータが「NTT DATA Carbon-neutral Vision 2050」(※2)で掲げるカーボンニュートラル実現とともに、連携協定及びクリーンエネルギー・イニシアティブを推進して、沖縄のカーボンニュートラル化への貢献を目指す取り組みと位置づけている。
再生可能エネルギーとしては、沖縄新エネ開発が提供する太陽光発電の第三者所有モデル(PPA)のサービス「かりーるーふ」と、県産資源由来の非化石証書を活用してCO2排出量を実質ゼロとする沖縄電力の電気料金メニュー「うちな~CO2フリーメニュー」を利用する。
「かりーるーふ」は、沖縄新エネ開発がサービス利用者施設の屋根に太陽光発電設備と蓄電池を無償設置し、事業者に電気を供給するサービス。土地が少なくメガソーラーなど大規模設備の設置が難しい沖縄にとって有効なソリューションだ。ユニークな名称だが、その由来は「文字通り建物の“屋根を借りる”という意味に、沖縄の言葉でめでたいことを表す“カリー(嘉例)”をかけた名前になっています」と、同社電力販売グループ 下地 春市郎氏。設備については「沖縄特有の台風や塩害に対応するため通常より低い位置に設置しているほか、曇りが多く日射量不足になりがちな沖縄で効率的に発電するため、設置方向も工夫しています」と説明する。
ただ、「かりーるーふ」による太陽光発電のみでは100%カーボンニュートラル化を達成できない。そのため、残りの部分は「うちな~CO2フリーメニュー」で賄う形になっている。同メニューには太陽光や風力発電だけでなく、県内で発生した建築廃材を活用する木質バイオマスの混焼発電が含まれているのも特徴。建築廃材から製品化される木質ペレットの製造工場(株式会社バイオマス再資源化センター)もIT津梁パークのすぐそばにあり、まさに“地産地消”が追求されている。
沖縄電力 販売本部 法人営業部 神里 誠氏は、今回のプロジェクトの意義を次のように語る。
「沖縄電力にとってカーボンニュートラルはきわめてチャレンジング。今回、官民連携で取り組めたことは、今後のクリーンエネルギー拡大につながるモデルケースになると考えています。また、沖縄県は東アジアの中心という地理的優位性に加えて災害リスクも低いため、データセンターやBPOセンターには有利な立地環境です。これに加え「再生可能エネルギーの調達のしやすさ」も企業や産業を誘致する際の競争力に影響すると考えており、沖縄県のエネルギー事業者として、今後もその役割を果たしていきたいと考えています」
※2 ニュースリリース:気候変動対応新ビジョンで2050年までに温室効果ガス排出量を「ネットゼロ」へ
NTTデータのファシリティ専門集団による提案から動き始めたプロジェクト
NTTデータでこのプロジェクトを担うのがファシリティマネジメント(FM)事業部だ。同部の堀口茂美氏が、NTTデータがこのプロジェクトを提案した経緯を説明する。
「IT津梁パーク企業集積施設は入居企業の意向に沿って建設する形態で、当社所有ではないもののイチから作り込みができるため、建設段階から深く関わっています。施設の広い屋上部分を有効活用する可能性に着眼し、おきでんグループに働きかけました。背景には、沖縄の脱炭素化に貢献したいという熱い想いがあります。加えて、当社グループとしても2050年のカーボンニュートラル実現に向かって、自社ビルに限らずお客さまへサービスを提供する拠点の脱炭素化を進めていくことが重要だと考えました」
スキームが複雑で、関係者も多数いる今回のプロジェクト。事業推進にはハードルがあったかと思いきや、沖縄電力の神里氏は「建物所有者の沖電開発がグループ会社ですし、当社と沖縄県で連携協定を結んでいることもあって、各事業者の理解が得られていたため、スピーディーに進められました。NTTデータにも県との調整をサポートしてもらい、大変助かりました」と振り返る。
FM事業部は一級建築士が約30名在籍するほか、施工管理技士や電気技術者などの資格をもった人財が集まるファシリティの専門部隊だ。同部の羽村大輔氏は「我々は、NTTデータが運用するデータセンターの計画・設計・構築・運用の一連のプロセスに携わっており、エネルギー調達やGHG(温室効果ガス)削減のミッションも担っています。このことから、今回のようなケースでも建設段階から関わることで強みを発揮できました。」と強調する。
多様なエネルギーの活用で次なる一歩へ
沖縄県 商工労働部 情報産業振興課の上間浩氏は、今後について「県有施設の新設・改修時に再生可能エネルギー導入を検討するのはもちろん、改修のタイミングで例えば照明を省エネタイプに替えるなど、電気使用量そのものを下げる取り組みも併せて行っていきたいと考えています」と話す。
さいごに、今回のプロジェクトを機にNTTデータが見据える今後について堀口氏はこう語った。
「当社は首都圏を中心にデータセンターを抱えており、まずはあらゆる手段を講じて電力の効率利用を進め、環境負荷の絶対量を低減していきます。しかし、カーボンニュートラル実現のためには、再生可能エネルギーを多様な方法で活用する必要があり、経験値を積んでいかなければなりません。今回のプロジェクトはオンサイトPPA(※3)やエネルギー地産地消の意義ある経験であり、FM事業部としてこれからのNTTデータの共通IT基盤を、エネルギーの多様性やレジリエンスも含め考えていくうえで重要な契機になりました。
また、沖縄県、おきでんグループと官民連携で沖縄県のカーボンニュートラルに貢献できたことは、今後のNTTデータグループのサステナブル社会実現に向けた好事例になったと思います。自社データセンターでのGHG排出量の削減だけでなく、今回のようなBPOセンター構築における現地に適した設計・構築の知見がお客さまへの提供価値に繋がっていくと考えています。」
※3 自社敷地内の屋根や遊休地に太陽光発電設備を設置し、発電した再生可能エネルギーを自家消費するモデル
関連リンク
・NTTデータのカーボンニュートラル実現に向けた方針と取り組み
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