三菱UFJファクター株式会社(以下、MUF)は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)で、商流・決済ビジネスを専門に手がける企業だ。経済活動においては、企業間、あるいは企業と消費者との間で、何らかの価値がやり取りされる。一般的なものとして、サービスや商品の対価としての「代金」の支払いが挙げられる。MUFではこうした商流を、与信管理や債権保全、売上代金回収、支払事務の合理化といった形でサポートしている。MUFの主力事業には「ファクタリング」「代金回収」「電子債権」などがあるが、中でも多くの人になじみのあるサービスのひとつが「口座振替」や「コンビニ決済」のような「代金回収」だろう。企業は、こうした代金回収サービスを利用することで、顧客からの代金回収業務を効率化し、ビジネス機会を拡大することが可能になる。

MUFでは、代金回収サービスの利用を希望する事業者の「査定事務」に関わるワークフローを、Salesforce Sales Cloudで電子化した。システム構築のパートナーにはテラスカイを選定した。

査定事務プロセスの「効率化」「自動化」が急務に

三菱UFJファクター株式会社 決済事業本部 決済事務企画部 副部長 前田 義人氏

三菱UFJファクター株式会社 決済事業本部 決済事務企画部 副部長 前田 義人氏

「決済事業本部では、口座振替サービスの『ワイドネット』、コンビニ決済の『コンビニネット』といった主力サービスに加え、口座振替をネットやキャッシュカードを利用してペーパーレスで受け付ける『ネット口座振替受付サービス』、『ペイジー口座振替受付サービス』など、お客様の決済に関わる業務のネット対応、デジタル化に寄与するサービスを広くご提案しています。その一方で、MUF自身がこれらのサービスを利用したい事業者様から申し込みを受け付け、契約完了に至るまでの社内の事務プロセスには、まだアナログな部分や手作業が多く残されています。業務の効率化や電子化をお客様にご提案するだけでなく、われわれ自身も業務のデジタル化を早急に進めていこうというBPRプロジェクトが、2019年よりスタートしました」(前田氏)

そう話すのは、MUFで決済事業本部 決済事務企画部の副部長を務める前田義人氏だ。このBPRプロジェクトは社内で「SWITCH」と名付けられた。代金回収(決済代行)においては、サービス利用の可否や手数料率、利用条件などを決定するまでに、いくつかのステップがある。本交渉前の条件確認や、最終的な見積・条件の提示などにあたっては、決裁権者による承認が必要となっており、ワークフローが重要な業務プロセスの一部になっている。

「査定事務のワークフローでは、従来、WordやExcelなどのファイル、メール、さらにはプリンタで出力した紙と印鑑、必要資料の手作業による添付などが行われていました。また、MUFには、名古屋、大阪、福岡に営業拠点があるのですが、従来のプロセスでは紙の書類を社内便で本社とやりとりする必要がありました」(前田氏)

一つの査定を通すために、複数書面を準備し、社内便に載せるための手続きなど、スムーズな場合でもそれなりに時間がかかる。決裁者が外出や出張の場合や、差し戻しなどがあった場合には当然ながら関わる時間が増大し、早く提案を出したい営業担当者を悩ませ、機会ロスにもつながってくる。

また、業務上も大きな課題があったという。

「契約書を作成する際の課題としては、情報の二重入力がありました。事務担当は査定書類に基づき契約書を作成しますが、査定情報が紙ベースの為、同じ情報をあらためて手入力する必要があったのです」(前田氏)

2020年のコロナ禍で、リモートワークが推奨される中、当然のことながら営業担当者は査定書を回付する為に出社し、書類を印刷・捺印をしに出社していたという。

BPRプロジェクトは2019年にスタートしていたが、コロナ禍の影響で、システムを活用して効率化、迅速化することの必要性が急速に増した。同社では、特に「事務処理速度の向上」「顧客データの有効活用」「社内における業務プロセスデジタル化の利益実感と、デジタル活用への意識改革」の3点を目標に据え、「査定事務の電子化」へ本格的に着手した。

社内で利用が進んでいたSalesforceを最大限に活用

査定事務のワークフローを電子化するにあたり、同社では複数のワークフローシステムを比較検討した。その中で最終的に「Salesforce Sales Cloud」の活用を決定したのには、いくつかの理由があった。

まず、MUFでも既にSalesforceを営業活動などで活用していたこと。加えて、2018年より、MUF社内でテラスカイ製のSalesforceをベースとしたグループウェア「mitoco」を導入しており、そのワークフローエンジンを、新たなワークフローシステムにも活用できることが決め手となった。

三菱UFJファクター株式会社 決済事業本部 決済事務企画部 主任 髙橋 瞳氏

三菱UFJファクター株式会社 決済事業本部 決済事務企画部 主任 髙橋 瞳氏

Salesforce基盤のセキュリティレベルは既にグループや社内で担保されている。新たな基盤を別途導入した場合にかかる、個別の運用コストも不要だ。また、既に他の業務で利用されている「mitoco」と同じワークフローエンジンを利用することで、現場に対して新システムを導入する際のハードルを下げる効果も期待できる。

さらに、営業活動などで蓄積されている顧客情報などのデータを、新たなワークフローシステムと連携させることも容易になると考えた。決済事務企画部で主任を務める髙橋瞳氏は「旧来の業務フローでは、紙の回付書類の一部にSalesforce上の情報を印刷した書類が含まれていました。そこで、回付書類の情報を全てSalesforce上へ入力し、ワークフロー回付することで、作成・回付の手間が大きく削減できると考えました」と話す。

テラスカイと協議しながらユーザーの要望を反映

MUFでは、従来の査定事務の業務プロセスを洗い出し、整理を行いつつ、並行してテラスカイとともにワークフローのシステム化を進めていった。これまでのプロセスを、そのままWebフォームに置き換えるのではなく、Salesforceやmitocoの使い勝手を生かした、より良いユーザー体験を提供できるデジタル化を意識して作業を進めたという。

三菱UFJファクター株式会社 決済事業本部 決済事務企画部 堀川 昌美氏

三菱UFJファクター株式会社 決済事業本部 決済事務企画部 堀川 昌美氏

同プロジェクトに携わった決済事務企画部の堀川昌美氏は「コロナ禍ということもあり、テラスカイとのやり取りは基本的にリモートだったのですが、細かい仕様に関わる部分や、微妙なニュアンスなどを正確に伝えたい場合、対面でのミーティングなども交えながら開発を進めました。柔軟に対応してくれたテラスカイには感謝しています」と話す。

共同で開発作業を進める中で、MUFが心強く感じたのは、テラスカイの同社業務に対する理解力の高さと、Salesforceに対する技術的な知識の深さだったという。

「われわれが『こういうことがしたい』と要望を伝えると、それをSalesforceではどのように実現できるのかを的確に説明してくれたため、非常に安心感がありました。また、われわれのサービスや業務についても深く理解しており、こちらの要求をそのまま受け入れるだけではなく、場合によっては、われわれが見落としているような部分も指摘しながら、デジタル化のメリットを高められるような、複数の選択肢を提示してくれる姿勢に感銘を受けました」(堀川氏)

今回のプロジェクトでは、開発作業と並行しながら、現場で実際にワークフローシステムを利用することになるユーザーにも協力してもらい、テストを実施した。

「大きな不具合は見つかりませんでしたが、テストに参加したユーザーからは、ありがたいことに『もっとこうしたい』『こんなことはできないか』といったフィードバックが多数寄せられました。内容については、都度テラスカイと協議し、可能な部分については反映しながら、リリースに向けて最終チェックを進めていきました。難しい要望でも、テラスカイより代替案を示してもらい、開発はおおむね順調に進みました」(髙橋氏)

査定事務の電子化プロジェクトは、大きく2つのフェーズで進められた。2021年3月までの「フェーズ1」では、主力商品の新規事前伺いおよび査定の申請・承認、見積書・契約書類の作成機能を実装。2022年3月までの「フェーズ2」では、フェーズ1で開発した機能のオプションサービスへの適用、変更査定への対応、自動採番機能の実装などを実施。いずれもスケジュールどおりにリリースされた。

1件あたりの処理時間を約70%削減、完了日数も大幅に短縮。担当者から届く「便利になった」の声

Salesforceによる、新しいワークフローシステムの稼働で、同社の査定事務プロセスは大きく効率化された。稼働開始後、査定事務1件あたりの処理時間は、それまでの平均「115分」から「35分」に短縮された。1件あたり「約80分」の時短効果だ。また、処理完了までの日数は、本社の場合「1日」に短縮。支社の場合は、社内便による紙資料回付が不要になったことが大きく、以前には「3~5日」かかっていたものが、「1~2日」程度で完了するようになったという。

実際にシステムを使っている営業担当者からは「移動中や在宅勤務中に査定が申請でき、回付状況も一目で分かるため便利になった」、事務担当者からは「以前は契約書類を一つ一つ手作業で作成していたが、システムで自動作成が可能になり手間が減った」と、前向きなフィードバックが得られている。また、このプロジェクトは同社で長年の課題となっていた「査定事務の完全ペーパーレス化、印鑑レス化」を実現したことで、経営側からも高く評価されている。

「どんな業務であっても、これまでのやり方を変えるというのは、現場にとって負荷がかかるものです。今回の新しいワークフローシステムについても『最初は慣れないかもしれないが、1年続けて使ってくれれば効果が出る』と訴え、現場の協力を得ながら使ってきました。現場の要望を反映した改善なども行い、結果として、ユーザー自身が『このシステムがなければ仕事にならない』と感じられるものになってきていると思います。プロジェクトの目標としていた成果は十分に得られていると感じます」(前田氏)

全社的なDX推進の基盤として適用範囲を拡大

前田氏によれば、今回のプロジェクトで構築した「査定事務」のワークフローシステムは、今後、決済事業で提供しているサービスの、申し込みからサービス提供までの、プロセス全体をデジタル化していくための、重要な基盤となっていくという。

具体的には、Webサイトでのサービス申し込み機能、簡易な自動査定機能、ワークフローシステムへのデータ自動投入、契約完了後の基幹システムへのデータ投入、サービス開始案内の送付状出力機能など、サービス提供に関連するシステムを、周辺に拡張する形で作り込んでいく計画だという。

決済事業本部では、今回の査定事務ワークフローの電子化から得られた成果を、社内で積極的に紹介、横展開することで、MUF全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進にも寄与していきたいとしている。

「今回、テラスカイはシステム開発の受託先というより、MUFの業務をより良くしていくためのBPRプロジェクトチームの一員のような意識で、親身になって支援をしてくれました。テラスカイには、これまでのビジネスの中で培った、Salesforce活用のためのナレッジや、ユーザー企業でのDX人材育成のノウハウ、金融業界のITトレンドについての情報が多くあると思います。それらを生かし、今後も、われわれのニーズを常に先読みしながら、提案や情報提供をしてもらいたいと思っています」(前田氏)

  • 左から、三菱UFJファクター株式会社堀川氏、髙橋氏、前田氏

[PR]提供:テラスカイ