「企業は今、3つの“分断”の危機に直面しています」
マーケティングや営業、カスタマーサービスなどビジネスを幅広くサポートするCRM(顧客関係管理)プラットフォームを提供する、「HubSpot」の自社イベント「INBOUND 2022」にて、同社CEOのヤミニ・ランガン氏はそう語った。
分断が生まれた背景にあるのは、テクノロジーの進化によるビジネススタイルの変化、そしてコロナ禍という未曾有の事態だ。ヤミニ氏が登壇した「INBOUND 2022」は米国で2022年9月7日〜10日に開催されたイベントだが、そこで語られた内容は米国企業に限定されるものではない。分断は世界中で進行しており、日本企業においても例外ではないのだ。
今どんな分断が起きているのか。これから先、日本企業はどのように分断を乗り越えていくべきなのか。
HubSpot Japanシニア マーケティング ディレクター 伊佐 裕也 氏に、「INBOUND 2022」で語られた内容と、日本企業がどのような対策を講じるべきなのかという点について伺った。
日本企業も直面している「3つの分断」とは
ヤミニ氏が「INBOUND 2022」で挙げた3つの分断とは、「システムの分断」「人と人との分断」「企業と顧客の分断」である。1つずつ見ていこう。
まず、「システムの分断」だ。
データドリブンが声高に叫ばれる昨今、多くの企業がデータを収集し、活用に取り組んでいる。しかし、データとはただ集めればいいわけではない。重要なのは、データ同士を連携させ、効果的に活用することだ。そのためには、システムの連携が不可欠である。
ところが、多くの企業ではこのシステムの連携がうまくいっていない。ヤミニ氏によると、コロナ禍によって企業は多くの部分最適化を実現するツールを導入することとなり、その結果、米国企業が利用するSaaSは平均で242にも達しているという。 (※1)しかし、これらのツールが乱立することで、結果的にデータの活用を困難にしている。これが「システムの分断」だ。
この課題は日本企業にも当てはまると伊佐氏は言う。
「日本でもコロナ禍をきっかけにDXが急速に進みました。導入しているツールの平均数は米国ほど多くはないかもしれませんが、それでも多くの企業が様々なツールを導入しています。その結果、ツールを入れすぎて使いこなせなかったり、システムの連携がうまくいかなかったりするケースが見受けられます」(伊佐氏)
米国よりも導入ツールの平均数が少ないであろうにも関わらず、システムの分断が起きてしまう原因は日本企業の特性にもある。
伊佐氏によると、米国企業は「導入するツールに合わせてオペレーションを変える」傾向があるが、日本企業は「自社のオペレーションに合わせてツールを選ぶ」傾向が強いのだという。
つまり、ツール同士の連携性よりも「ビジネスプロセスのオペレーションに適したツールを都度選ぶ」というわけだ。その結果、営業は営業、マーケティングはマーケティングのように各部署の都合でツールを導入するケースが多く、結果としてシステムの分断が起きやすくなってしまうのだ。
「オペレーションに合わせてツールを選ぶという考え方が間違っているわけではありませんが、その場合もツール同士の連携を見据えて選ぶことが重要ではないでしょうか」(伊佐氏)
次に、「人と人との分断」だ。
この分断が起きた大きな原因は、言うまでもなくコロナ禍である。オフィスに出勤できない状況で、人々は画面越しにコミュニケーションをとるようになった。その結果、オフィスやランチでの雑談、ちょっとした声かけといったカジュアルなコミュニケーションが激減した。
この状況は当然、日本にも当てはまる。
「コロナ禍で人と人との分断を経験したことにより、私たちは“つながり”の大切さをより一層実感したのではないでしょうか」(伊佐氏)
ヤミニ氏によると、働く人々の45%が「仕事でやり取りする相手が減った」と回答し、57%が「社会活動への参加が減った」と回答しているという(※2)。リモートワークはビジネスの効率を上げるメリットがあるが、一方でコミュニケーションにおいてはどうしても対面に及ばない部分がある。コロナ禍を通じて、その事実を痛感した人は少なくないだろう。
最後に「企業と顧客の分断」だ。
多くの企業は、あらゆる方法を用いて顧客との接点を維持しようとしている。にも関わらず、以前と比べて明らかに顧客とのつながりが薄れているとヤミニ氏は指摘する。たとえば、企業ブログを更新してもアクセス数が伸びなかったり、メールで顧客にアプローチをしても良好な反応が得られなかったりすることが増えているという。
原因は2つある。まず、人々の「デジタル疲れ」だ。SNSやメール、コミュニケーションアプリなどを通じて、現代人は膨大な量の情報に日々さらされており、情報の受け手側の情報処理の負荷が高まっている。ビジネスにおいても同様のことがいえる。コロナ禍でデジタルツールを駆使したアプローチが増加したこともあり、顧客の反応は以前よりもよりシビアになっている。HubSpotの調査によると、営業メールに対する顧客の反応率はコロナ禍以前と比べて40%も下落しているという(※3)。
もう1つの原因は「人々のプライバシー意識の高まり」だ。Cookieやトラッキングなどプライバシーに関わるビジネス手法は規制される流れにあり、企業が顧客の情報を取得・活用することは容易ではなくなっている。「たとえば、Appleの最近の広告でプライバシー保護機能が強く打ち出されていることからも、この傾向は見て取れる」とヤミニ氏は講演で述べている。 プライバシー意識の高まりによって企業と顧客のコミュニケーション方法が変化を迫られていることもまた、多くの日本企業が実感するところだろう。
以上が、企業に今起きている3つの分断である。システムの乱立によりデータ連携がうまくいかず、コロナ禍によって人と人との交流が失われ、企業と顧客のつながりが薄れている。米国だけでなく、日本においても多くの企業が同様の課題に苦しんでいるのだ。
では、どうすればこれらの課題を解決できるのだろうか。
課題解決の鍵を握るのは「つながり」の力
ここまでに挙げた3つの課題に共通するキーワードといえば「分断」である。ということは、分断の反対――すなわち「つながり」こそが、3つの課題を解決し得る鍵となる。
たとえば、「システムの分断」については、自社のオペレーションに合わせてばらばらにツールを導入するのではなく、最初からつながり――すなわち連携を意識したシステム導入を進めることが重要だ。
もっとも簡単な方法は、デジタルマーケティングから営業支援、カスタマーサービスまでビジネスプロセスのすべてを1つのプラットフォームでカバーする システムを導入することだろう。
HubSpotは最近のアップデートでデータ管理機能を強化しており、システムとデータの連携をより高めている。
システムとデータの連携は、カスタマージャーニー最適化の土台となる。やみくもに営業メールを送るのではなく、カスタマージャーニーに沿った適切なアプローチにより顧客の信頼を得ることができるはずだ。もしかすると、これまで当たり前に行っていた営業手法が実は適切ではなかったことに気づくかもしれない。
それを示唆するデータがある。
「HubSpotの調査によると、2019年は『非訪問型営業よりも訪問型営業の方が好ましい』と考える買い手企業が圧倒的に多かったのですが、2020年は逆に『訪問型企業よりも非訪問型営業の方が好ましい』と考える企業が多くなりました。興味深いことに、さらに翌年の2021年調査では『訪問・非訪問どちらでもよい』がそれまでと比較して1.5倍に伸びているのです」(伊佐氏)
訪問型営業と非訪問型営業に対する意識が短期間でこれだけ大きく変動した理由は、むろんコロナ禍である。コロナ禍以前は顧客を直接訪問することが適切なアプローチだったが、コロナ禍では逆にリモートによる営業スタイルが顧客に好まれるようになったわけだ。
おもしろいのは2021年の回答で、「どちらでもよい」が急増したことだ。これは、言い換えると「状況に合わせて訪問と非訪問を適切に選んでほしい」顧客が増えていることを意味している。
コロナ禍の影響があったとはいえ、たった3年で「適切なアプローチ」はこれだけ変化しているのだ。「常に今までのやり方が正しいと思い込むのではなく、しっかりとデータやカスタマージャーニーを踏まえた上でベストな営業手法を選択することが、『企業と顧客の分断』の解決につながるのではないでしょうか」と伊佐氏。
これからのビジネスにおいてコミュニティーが果たす役割
最後に「人と人とのつながり」については、オンライン/オフラインを問わず人々が交流するための場――コミュニティーを用意することが重要となる。
たとえば、HubSpotの自社イベント「INBOUND 2022」もまさにコミュニティーだ。昨年まではコロナ禍のためオンライン限定で開催されたが、今回はオンライン/オンラインでのハイブリッド開催となった。会場には約2万人のHubSpotユーザーやパートナーが集まり、久しぶりのリアルイベントに来場者は“熱狂”していた。会場ではHubSpotとユーザー企業の交流もちろん、ユーザー企業同士の交流も生まれていたという。現地で熱気を目の当たりにした伊佐氏は、「コミュニティーの力」を肌で感じたと話す。
もちろん、オンラインを活用したコミュニティーも重要だ。以前から展開するHubSpotのユーザー同士がつながる「日本語版HubSpotコミュニティー」やHubSpotのユーザーの学びと成長を支援するEラーニングコンテンツ「HubSpotアカデミー」のほか、「INBOUND 2022」ではユーザー企業のための新コミュニティー「Connect.com(現在は英語のみで運営)」の設立も発表された。
こうしたコミュニティーは、人と人との分断を解消するだけでなく、ビジネスにおいても重要な役割を果たすと伊佐氏は言う。
「かつてビジネスの成功を牽引したのは営業の力でした。その後、マーケティングの重要度が増し、続いて製品のUX・ユーザー体験の重要度が高まりました。そして現在、それらに加えてコミュニティーこそがビジネスの成功を牽引するようになっているのです」(伊佐氏)
ヤミニ氏が指摘する「3つの分断」は、米国だけでなく日本企業にも当てはまる課題である。解決するためには、システムとデータの連携強化、顧客に対する適切なアプローチ、コミュニティーによる交流促進が必要だ。
一見するとばらばらにも思える3つの解決策だが、実は「つながり」というキーワードに集約される。課題を解消してビジネスを加速するために、日本企業には今後「つながり」を重視した戦略が求められるだろう。
[PR]提供:HubSpot Japan