ECサイトや店舗をはじめ、あらゆるチャネルで顧客体験の向上が意識されるようになった。その目的は「カスタマーエンゲージメント」の形成にある。しかしこの概念はどこまで正しく伝わっているだろうか?
かつては漫才コンビ「ジャリズム」や放送作家、ピン芸人「世界のナベアツ」として、そして「平成30年度 NHK新人落語大賞」を獲得し現在は落語家として活躍する桂三度氏。ファンと目の前で向き合い続けてきた三度氏は、カスタマーエンゲージメントの概念をいかに読み解くのか。「お客様の声を拾う専門集団」であるベリントシステムズ (本社:米国ニューヨーク州メルビル、NASDAQ上場:VRNT、ベリント)の日本法人で代表取締役を務める古賀剛氏との特別対談をお届けする。
何がカスタマーエンゲージメントをもたらすのか
古賀 剛 氏(以下、古賀氏):三度さんの、古典落語をぎゅっと縮めた「最短噺」ですが、とても楽しく拝見いたしました。あれはどうやって思いついたのですか?
桂 三度 氏(以下、三度氏):大阪に天満天神繁昌亭という寄席小屋があって、コロナ禍前は、噺家全員が終演後にお客様のお見送りをしていたんです。ある時、おばちゃん方がやって来て「落語ってなんか長くない?」って言われたんですよ。いや、僕に言われても……と思いましたけど、その気持ちはわかる。それなら「短すぎる落語」をネタにしてみようと。
古賀氏:まさしくそれは、顧客の意見を業務に反映させる「カスタマーフィードバック」の実例ですね。我々ベリントシステムズは「カスタマーエンゲージメントカンパニー」を標榜しているのですが……三度さん、ピンときます?
三度氏:カスタマー……エンゲージメント……? いやあ、ちょっとよく分からない言葉ですね。
古賀氏:製品やサービスを、ただ買って終わりではなく、選んで・買って・体験する、そのすべてを好きになってもらうことがカスタマーエンゲージメントです。 世の中に知らせるところから、製品体験までのすべてに満足感がなければ、カスタマーエンゲージメントにはなりません。たとえば私にはAppleが大好きな友人がいまして、新型のiPhoneどころかTシャツまで集めている。三度さんはそういう、どハマりするようなご経験はおありですか?
三度氏:実は、なかなかわかってくれる人がいないんですけど、世界最強のバイクレーサー、バレンティーノ・ロッシ選手の、すごいファンなんです、僕。そういえば、帽子もキーホルダーもTシャツも買ってるな……バイクも155ccスクーターなんですけど、ロッシ選手が所属していたチームカラーにしています。
古賀氏:MotoGPでずっと活躍してましたよね。なぜロッシ選手をそこまで好きになったのでしょうか?
三度氏:まずはビジュアルですね、細身で背が高い。そしてとにかく速い。他の選手と違うのは、ロッシ選手のレースはわくわくするんです。抜きつ抜かれつが本当に面白い。
古賀氏:「わくわくをくれる」とはいい表現ですね!そういった、心を動かしてくれることを提供するのが、まさにカスタマーエンゲージメントなんです。
三度氏:ほんま、そういうことなんですね。なんとなくわかってきました。
顧客コミュニケーションに大切なこと
古賀氏:三度さんは、お客様との交流をどのようにされているのでしょうか?
三度氏:10年前とはやり方がまったく違いますね。我々の世界でいちばん影響があるのはSNSです。僕の場合、吉本に許可をもらって、大阪で小さなライブスペースを運営しているんですが、Twitterに「こんなことやります」と告知を投稿するだけで来てもらえるんですよ。しかも一週間前というスピード感で。
あと、そこは小さなスペースですから、距離感が近いんですよね。一方的に話すだけじゃなく、こちらから質問することもあります。趣味の話とか、最近観た映画の話をするなかで、世間の感性とか、お客様の気持ちとか、求められているものを知ろうとしています。
古賀氏:TwitterやYouTubeのコメントって、結構見られてます?
三度氏:いや、それが、お客様のおっしゃることに、あんまり振り回されてもいけないと思っているんです。それよりも、ライブ本番の反応を参考にしています。
芸人が何を大事にするか、人それぞれだとは思いますけど、いちばん大事にせなアカンのは「お客様の笑いをうながせるかどうか」でしょう。そして、そこから先が味付けです。
古賀氏:お客様の反応を肌で感じる場があるからこそですね。我々企業には、単純なアンケートでは拾えないことも多くあります。最終的には売上げに繋がるんですけど、その手前のコミュニケーションの成功/失敗をどう分析するかが大事です。
たとえば、テレビショッピングをやられている企業が、新製品を紹介したとします。すると我々がリアルタイムでその反応を探って、「サイズ感がわかりづらい」という傾向が見つかれば、次の番組では隣にリンゴを置いておくなど、即座に改善に役立ててもらえます。
三度氏:そういう本音を言ってくださる方こそ、味方につけて、ファンになってもらいたいですよね。
芸人のコアコンピタンス
古賀氏:三度さんはコンビ・放送作家・ピン芸人・上方落語と、いろいろな活動をしてらっしゃいますが、その中でお客様との関わりに変化はあるのでしょうか?
三度氏:正直に言ってしまうと、古賀さんたちと違って、僕は自分のことばっかり考えています。自分が本当にやりたいことをやっています。お客様には「どうかついてきてください」という気持ちです。もちろん、自分がやりたいことと、お客様が欲することが交わらないとダメだとは思っていますけど。
古賀氏:自分が本当にやりたいこと、それは企業で言えば「コアコンピタンス」です。儲かることがわかっていても、自分たちがやるべきじゃないからと、そのビジネスをしない企業はたくさんあります。
三度氏:それは、その企業のイメージを保つことで、のちのち大きな利益になるという考え方ですか?
古賀氏:芸事と同じだと思いますが、企業活動にも芯があって、広告から製品・サービス、事業展開にまで統一感があるからこそ、お客様が好きになってくれるんです。
三度氏:ものすごくよくわかります。お客様は自分たちが思っている以上に、私たちのことをよく見てますもんね。お客様を舐めたらいけません。
デジタル技術が広げる可能性
三度氏:なんでお客様が自分を見に来てくださるかというと、本質的なところは、「非日常」にあると思ってます。安心しながら非日常を体験できることが、大切なのかなと。
古賀氏:企業に置き変えると「非日常」とは、ユニークであること、ここにしかない価値であること、でしょうね。その価値をいかにして伝えていくかが、好きになってもらうために必要なことだと思います。弊社が扱っている製品の中には「このタイミングでTwitterにこんな投稿をすると良い」といったことをAIにアドバイスさせるものがあり、主に海外のユーザーにご利用いただいています。
三度氏:ええっ!? そんなことまでAIがやってくれるんですか。
古賀氏:はい、AIといっても技術の大元は人間の行動や考えですからね。
三度氏:いや、すごい大事なことだと思いますよ。たとえば、このネタがウケるのはどの地域なのか、なんて分析は落語界にもどんどん入ってきて欲しいですね。さすがにAIにネタを審査されるのは勘弁して欲しいですが(笑)。さっきも言いましたが、落語ってお客様とともに発展してきた芸ですから、新しい技術によって、幅広い可能性が生まれて欲しいと思います。
古賀氏:落語家もスポーツ選手も企業家も手を取り合って、AIとの付き合い方を見つけて新しい時代を創っていきましょう。
三度氏:それで、この対談のオチですが、「成功するためにはアイデアが必要で、アイデアのためにはファンの声がいる。そしてファンをつくるためにはカスタマーエンゲージメントが必要」ってところですかね。お、意外と上手くまとまったんじゃないですか。
古賀氏:カスタマーエンゲージメントの概念を、実に見事に噛み砕いていただきました。ありがとうございます。
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