デジタル化の波は医療・健康の世界にも押し寄せ、健康データの利活用に注目が集まっている。そうした中、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」では、「環境共生」、「健康長寿」、「新産業創造」の3つをテーマに、公・民・学が連携してさまざまな課題解決に取り組んでいる。国立がん研究センター東病院の敷地内に7月にオープンした「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」では、がん患者向けにデジタル技術を活用した新たな取り組みがスタートした。取り組みの概要と、そこで目指す新しい医療の可能性について、各参加機関の担当者に話を聞いた。
公・民・学が連携する街づくり
2000年代に開発がスタートした「柏の葉スマートシティ」には、つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス」駅を中心に、住宅、商業施設、オフィス、病院、大学などが集積している。この街では、公・民・学の連携組織である「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」によって数々の先進的な試みが行われており、各方面から注目を集めている。「公」は千葉県と柏市、「民」は柏の葉で生活する住民、街づくりに参画する民間企業、「学」は東京大学、千葉大学、国立がん研究センター東病院(以下、NCC東病院)や産業技術総合研究所などの柏の葉に立地するアカデミアで構成される。「課題解決の街」を目指す柏の葉スマートシティでは、街づくりのテーマとして、「新産業創造」、「健康長寿」、「環境共生」の3つを掲げており、それぞれテーマの最適解を求め続けながら、「世界の未来像」を具現化していくことを目指している。
「病院連携ホテル」で新しい診療モデルの創出を目指す
「健康長寿」は柏の葉スマートシティにおける街づくりテーマの1つ。 “すべての世代が健やかに、安心して暮らせる街”をめざし、自治体とアカデミア、民間企業が協力しながらさまざまな取り組みを展開している。なかでも注目を集めているのが、NCC東病院の敷地内に2022年7月1日にオープンした「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」をフィールドとした試みだ。
三井不動産 柏の葉街づくり推進部 主事の竹川励氏はこう語る。
「ホテルでは、がん患者さんと家族を24時間サポートする滞在環境を提供しています。そしてNCC東病院様と共同で、ここをフィールドとして新しい診療モデルの創出を目指しているのです。例えば、24時間常駐するケアスタッフが、緊急時には病院と連携し、速やかに対応します。また、デジタル技術を用いた健康データ管理サービスなどを用意することで、データ利活用も推進していきます。また、医療ツーリズムへの対応やがん患者さんに配慮した食事メニュー、ロボットを用いた食事配送の実証実験により、他ホテルとは一線を画す、独自のおもてなしサービスを提供します」
患者自身が「健康データ」と「食事」を管理できるサービスを提供
デジタル技術によるデータ利活用の事業としては、NTTデータと三井不動産、オムロン ヘルスケア、リンクアンドコミュニケーションの連携により、ホテルに滞在するがん患者向けに提供する健康データ管理サービス「Health Data Bank for Medical」と、同じく食事管理サービス「カロママ プラス」の2つのサービスが挙げられる。
これらは、柏の葉スマートシティのポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」を通じて提供されている。そこでは、ホテル内で宿泊者にウエアラブルデバイスやオムロン ヘルスケアの体温計、血圧計、パルスオキシメーターを貸与する。デバイスのデータはNTTデータの健康データ管理サービス「Health Data Bank for Medical」に記録することができ、宿泊者自身がデータを参照できる。
本人同意のもとで、記録したデータをNCC東病院の医療従事者やホテルのケアスタッフが閲覧できるのも大きな特徴だ。この仕組みを活用し、患者 に寄り添ったサービスをNCC東病院と協力しながら継続的に開発していく。自身のデータをケアスタッフや医療従事者と共有しながら相談することで安心感を高めること等が考えられる。「カロママ プラス」(リンクアンドコミュニケーション提供)では、NCC東病院、三井不動産と共同でがん患者向けの「食事療養コース」を開発し、食事のアドバイスを提供できるようになった。さらに、ホテルの宿泊者専用ラウンジにITコンシェルジュが常駐し、各サービスやスマートフォンの操作方法などの相談を受けられるコミュニティー機能も備えている。
ITコンシェルジュを務める、アドービジネスコンサルタント ICTサービス事業部 ICT4部 課長代理 山根 良氏は次のように話す。
「健康データ管理サービスや食事管理サービスの使い方は、スマートライフパス柏の葉のポータルサイトをはじめ、サービス提供各社のWebサイトやアプリ内に掲載されています。しかし、スマートフォンの操作が苦手な患者さんにとっては、そのページを探せなかったり、掲載されている操作説明を難しいと感じたりすることが非常に多いようです。我々ITコンシュルジュの重要な役割は、Webサイト上の情報を患者さんのITリテラシーに合わせて“通訳”すること。さまざまなサポートによって、誰も置き去りにされないようにすることこそが我々の使命なのです」
健康データの可能性を切り拓いていく
Health Data Bankは、NTTデータが2002年から運用している、企業の従業員健康管理を支援するクラウド型サービスだ。サービス開始から20周年を迎える今年は3000団体、400万人の 健康データを管理する。また、健康データ利活用ビジネスに取り組むさまざまな業種の企業に対し、健康データを安心・安全に収集・管理するバックヤードの仕組みとして同サービスを提供している。柏の葉スマートシティもその対象の一つだ。 本人同意管理やID連携・管理等、パーソナルデータを取扱うために必要な基本機能を実装している「柏の葉データプラットフォーム」と連携してHealth Data Bankを 提供することで、柏の葉スマートシティにおける健康データ利活用のハブとして利用されている。
NTTデータ 第二公共事業本部 デジタルウェルフェア事業部 課長の湊 章枝氏はこう語る。
「Health Data Bankは、患者さん本人の同意のもとで健康データを集約するとともに、企業や行政、医療機関等へ連携する役割を担っています。将来的には、患者さんの同意のもと、得られたデータやノウハウを、「柏の葉データプラットフォーム」 と連携しながら新たな患者さん向けのサービス開発に活用することで、連続的な価値創造をめざします。 さまざまなサービスをつないでいくことで、「健康データが豊かな暮らしに活かされる」ことについて生活者の理解も深めていきたいですね。“企業が医療機関と協力して、がん患者さんを支える”という今回のモデル構築はそのひとつだと思います」
病院と患者の距離を縮めるための橋渡しに
現在、NCCでは、国内におけるがん治療薬の治験の9割以上を担う。このため、最新の治療を受けたい患者は、NCCのある東京もしくは柏市まで来る必要があるのが現状だ。今回の実証事業に参加しているNCC東病院先端医療科長の土井 俊彦氏は、次のように期待を示す。
「患者さんの同意のもと、医療機関と民間企業が自由に健康データのやり取りをできるようになれば、将来的には患者さんが時間や場所を選ばずに、最新の医療にアクセスできるようになる可能性があります。私自身、病院が患者さんとの距離を縮めるためにも、「Health Data Bank」をはじめ、事業者間でのデータ連携のベースとなる「柏の葉データプラットフォーム」 のような仕組みがあればと思っていました。今後はHealth Data Bankを通じて患者さんのより機微な情報をつかみ、医療サービスの質の向上につなげていきたいと考えています」
今後、柏の葉スマートシティでは、公民学の価値をより高めるべく、「新産業創造」、「健康長寿」、「環境共生」の3つのテーマに基づいた各種の取り組みを強化していく構えだ。そうした中で、今回の健康データの利活用事業についても、NCC東病院に入院もしくは通院する患者に加えて、オンライン診療を受診する患者からも健康データを集約するなど、更なる展開も見据えている。最後に竹川氏は、「まずはこの街をフィールドとして新たな価値を創出し、その後にその価値を全国に展開していきたい」と力強く語った。
[PR]提供:NTTデータ