企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が叫ばれる中、関心を集めているのが「DX推進指標」です。DXに関する“健康診断”という感覚で、毎年活用する企業が増加。 株式会社モスフードサービスもそんな企業のひとつです。同社のDX推進のキーパーソンに、指標導入の経緯や活用のメリットなどをうかがいました。
活用の主なメリットと拡充する制度連携
「DX 推進指標」とは、企業の経営者や関係者が自社のDX推進状況を自己診断し、その結果をもとにIPAがベンチマークや分析データをフィードバックするものです。IPA 社会基盤センター DX推進部の佐々木崇晃氏は、指標活用の利点として次の3点を挙げます。
①認識共有・啓発:「DXのための経営の仕組み」と「その基盤としてのITシステムの構築」について、経営幹部や事業部門、IT部門などの関係者が集まって議論しながら認識の共有を図り、今後の方向性の議論を活性化します。
②アクションにつなげる:自社の現状や課題の認識を共有した上で、あるべき姿を目指すための対応策を議論し、実際のアクションにつなげていきます。
③進捗管理:毎年の継続的な評価で、DX推進の経年変化の把握や進捗管理をスムーズにします。
こうしたメリットを受け利用企業は年々拡大。指標創設初年の2019年は248社、2020年は307社、2021年は486社となっています。 また、今年度からはものづくり補助金や地域新成長産業創出促進事業費補助金の申請要件の一部に含まれるなど、制度連携も拡充しています。
指標を用いて役員層へDXの重要性をプレゼン
ハンバーガーチェーン「モスバーガー」のフランチャイズ展開などを手掛ける株式会社モスフードサービスは、2020年・2021年と指標を活用しています。同社の取締役上席執行役員の笠井洸氏は、「定点観測することで広い視野で自社の立ち位置が把握でき、会社の目線が上がります。経営層や事業部門との共通の対話のツールになる点も魅力です」と語り、今年度の指標活用も明言します。モスバーガー事業におけるDXの役割は「CX(顧客の体験価値)とEX(社員や店舗スタッフの働きがい)の双方を向上すること」と笠井氏。“食を通じて人を幸せにする”という同社の経営ビジョンを実現する手段のひとつに、デジタル技術を位置付けているのです。
とはいえ、経営とDXを融合したこうした戦略が確立したのはここ数年のこと。かつてIT部門はバックオフィス部門の管轄にあり、できるだけローコストでシステムを現状維持するという守りの姿勢が強かったそうです。また、社内では部門ごとに外部パートナーに委託してシステムを開発するなど、システムの部分最適や投資の重複も課題だったといいます。
そんな状況を仕切り直すべく2017年に同社に入社したのが、SIer出身でITストラテジスト試験合格などの経歴を持つ森永龍文氏です。現在の肩書は経営企画本部 デジタル化推進部長代行兼マーケティング本部付CRM担当で、笠井氏と二人三脚で同社のDX推進を担っています。森永氏は「業務用スマートフォンの更新・整備、ホームページやアプリの管理業務のIT部門への集約といった施策を段階的に実施し、守りから攻めへ、また部分最適から全体最適へとIT部門の改革を進めてきました」と振り返ります。
その道のりは同社のDX推進と軌を一にしています。2018年には店舗にAIレジを試験導入し、翌年には業界に先駆けてセルフレジの自社開発を果たしました。以降も中期経営計画でデジタル推進を掲げるなど意欲的にDX推進に取り組み、2020年にはIT部門を経営企画部門の管轄へと改組。さらにマーケティングや営業などの部門間に森永氏のような兼務者を置き、部門間で強力な連携を実現する現在の体制へと至ります。「新しい仕組みが現場に浸透するには丁寧な働きかけが不可欠。マニュアル整備や説明会開催なども我々の仕事と自任しています」と森永氏は力を込めます。
抜本的な組織改編に加えて、役員層のデジタル理解の深さもDX推進のエンジンといえそうです。「DX推進指標を用いた森永のプレゼンテーションも奏功し、DXの重要性や取るべき対策は役員層と共有できています。役員からデジタル施策のアイデアが次々飛び出しますし、ボトムアップの提案も柔軟に受け入れられる土壌があります」と笠井氏。「風通しのよい社風はDXを進める上で大きなメリット」と森永氏も言うように、経営層、IT部門、事業部門が一体となってDX推進が加速。指標のスコアも年々向上しているそうで、IPAの佐々木氏は「まさに模範的な使い方」と述べます。
指標の継続的な活用で社内の対話を活性化し、企業価値の創造へ
定期的な活用で得られるDX改善の拠り所
同社がDX推進指標を導入した狙いは、自社のDXの実力値や先進企業とのギャップを把握し、対策を講じることにありました。それに加え、指標の定期的な活用で改善の拠り所が得られると笠井・森永両氏は指摘します。同じ項目の評価なので進捗状況がトレースしやすいですね。課題であったベンダマネジメントについても、IT部門のパートナー向け説明会を行うなどして改善を図っています」と森永氏。笠井氏は「経済産業省やIPAが監督・運用する客観的な指標ということで活用しやすいです。今年度のデジタル化推進部の重点KPIのひとつにもDX推進指標を盛り込みました」と明かします。
同社ではさらなるDX推進に向け、①ネット注文や予約販売、CRMシステムなど「デジタル接点の強化」、②フルセルフレジやドライブスルー形式の販売による「店舗体験価値の向上」、③新POSシステムや発注予測システムによる「店舗業務の負荷軽減」を図っています。「引き続きDX推進指標を活用し、社内の対話の一層の活性化、企業価値の創造に取り組んでいきます」と森永氏は今後の展望を語ってくれました。
IPAの佐々木氏は、最後にこう訴えます。「DXを進めたいと考えている企業の皆さんはぜひ継続的に活用し、DX推進の加速に役立てていただきたいと思います」
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