Texas Instruments Inc.(以下、TI)のSitaraシリーズは産業用EthernetプロトコルEtherCATをいち早くサポートした汎用プロセッサだ。Sitara MPUは強力なArm® Cortex-Aプロセッサを搭載しているが、もう少し安価で手ごろな用途でも使いたいというニーズから生まれたのが2021年に発表されたSitara MCU+シリーズであり、その第一弾としてAM243xの中の3モデルが9月末に量産リリースされた。その他のAM243xやAM263xは現在サンプル提供中となっている。製品の狙いやアピールポイントを日本テキサス・インスツルメンツ合同会社(以下、日本TI)インダストリアル・エリアの松本英昭氏にお伺いした。
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日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
営業・技術本部 インダストリアル・エリア
松本英昭氏
Sitara MCU+ AM243xは最大クアッドコアのArm Cortec-R5Fマイコンで上位製品とピンコンパチ
AM243xシリーズが生まれた背景とSitaraシリーズについて
Sitaraシリーズは2011年のSitara AM335xから始まった。産業オートメーション製品機器開発に役立つよう、業界で初めて汎用プロセッサによるEtherCATなどの産業用通信プロトコルをサポートし、価格競争力に優れており現在でもシリーズで最も需要が高いという。Sitara MPUシリーズのメイン・コアは世代ともにArm Cortex-A8/A9/A53と進化しており、様々なアクセラレーターが含まれている製品もある。
より高い演算性能が求められる市場向けのJacinto™シリーズもあるが、今回紹介するSitara MCU+シリーズは従来の組み込み用マイコンよりも高速なCPUでリアルタイム処理に優れた新しいシリーズだ。マイコン設計並みのシンプルさでありつつ、従来のマイコン製品にはないプロセッシングパワーとネットワーク能力を持つ “良いとこ取り” となっているのがSitara MCU+シリーズの特徴である。現在AM243xとAM246xを発表済で、今後もシリーズ拡張が行われる予定だ。
TIはその他マイコンもラインナップしているが、これまでのArmコアを使用した製品はArm Cortex-M4FやCortex-R4Fだった。今回紹介する製品はどちらもArm Cortex-R5Fを使用しており、プロセッシングパフォーマンスに優れた製品となる。
Sitara AM243xは2種類のパッケージが用意されているが、上位バージョンの17x17mmパッケージ製品はSitara AM64xシリーズとピンコンパチブルなだけでなく、内部構成もArm Cortex-A53コアがない以外は同じというユニークな構成となっている。また、よりコストセンシティブな用途に応えた11x11mmパッケージも用意されており、1,000個受注時の単価(参考価格)は6.81ドルからとなっている。
Sitaraシリーズの幅を広げるAM243xの特色
AM243xのメイン・コアはリアルタイム処理向けのArm Cortex-R5Fを採用しており、オプションによって異なるが最大クロックが400/800Mhzとなり、1/2/4コアの製品が用意されている。 AM243xの最大の特徴は、PRU-ICSS-Gbが2システム含まれており、ギガビットTSNをシステム当たり2ポート対応する点だ。TSNに関しては後で詳しく説明する。PRU-ICSS-Gbはソフトウェアベースで構築されているため、プログラマブルで将来の拡張にも対応している他、リアルタイムコプロセッサ的にも使える。AM243xはネットワーキングに強いというのが特徴だ。
さらに、組み込み系マイコンとして不可欠な、豊富なインターフェース群を持っている。CPSWと呼ばれるハードウェア標準Ethernetもあり、PRU-ICSS-Gbと合わせ最大6ポートのGb Ethernetが構成可能だ。 通常のマイコンチップではフラッシュメモリを内蔵しているケースが多いが、AM243xではパフォーマンスが高いためフラッシュメモリでは帯域が不足するので、ECC付共有SRAMを最大2MB内蔵し、ブートアップ時に外部OSPIフラッシュROM等からロードする構成になっている。また、SoCと独立して動作する400MhzのCortex-M4FのセカンダリMCUがあり、機能安全に役立てる
ここまでの機能が不要な場合は、11x11mmバージョンの用意もある。17x17mmバージョンでは独立した機能安全機能が含まれていたが、11x11mm版ではセカンダリMCUとなっているほか、DDR4メモリコントローラー、PCI Express、インターフェース群等が若干削られている分、安価になっている。
産業用マイコンでPCI Expressを使うのかという疑問について、顧客の中にはバックプレーンボードとしてPCI Expressを使用しているケースがあるとのこと。他にFPGAなどのアクセラレーターとの接続用として使われているという事例もあるという。ちなみに、AM243xのPCI ExpressはGen.2の1レーンだ。
Cortex-R5Fをロックステップ動作で利用可能。アナログリッチなAM263x
Sitara AM263xの概要について
AM243xが演算能力とネットワークに注視した製品なのに対し、AM263xはリアルタイム制御とアナログ入出力に注視した製品となっている。 アナログに関してはADコンバーターとして12bit精度のものが5x6チャネル、同じく12bitのDAコンバーター、40チャネルのコンパレーターを持っている。 またAM243xに用意されていたシステム監視のサブシステムがない代わりに、AM263xの最大400MhzのCortex-R5Fコアは2つのコアで同じ処理を行い、何らかの理由で動作に齟齬があれば検知するロックステップ機構がオプションとしてあり、これによりIEC61508 SIL3/ISO26262 AISL-Dなどの高い安全要求レベルに対応できる。 一方、PRU-ICSS-Mは1システムで2ポートの10/100M Ethernet対応となり、AM243xのような外部メモリコントローラーも含まれていない。
Sitara AM243x/263xの評価ボードと参考価格
評価ボードはSitara AM243x/263x共に2種類の用意がある。1つは汎用的な開発に適した評価基板でAM243x(TMDS243GPEVM:参考価格$299)とAM263x(TMDSCNCD263:参考価格$199)。もう1つは低価格な開発ボードLaunchPad 開発キットと言い、開発用に2つまでのブースタパック・プラグイン・モジュールとの接続をサポートし、実装に沿った構成が行える。こちらもAM243x LaunchPad(LP-AM243:参考価格$89)、AM263x LaunchPad(LP-AM263:参考価格$109)が用意されている。
複数の産業用通信プロトコルをサポート。ライセンスはTIとサードパーティの2本立て
産業用通信プロトコルサポート、現在と今後の余地
産業用マイコンには、産業用のEthernetプロトコルのサポートが必須だが、AM243x/AM263x共に2種類のEthernetを持っている。1つはハードウェアベースのCPSW Gigabit 標準Ethernetで2ポート用意されている。ハードウェアベースでのIEEE1588対応がされている他、サードパーティより各種産業用イーサネット・ソリューションが提供されている。
PRU-ICSSは「Programmable Real-time Unit-Industrial Communication SubSytem」の略で、サブシステム内のRISCプロセッサのプログラムによって柔軟な拡張が行えるものだ。AM243xはPRU-ICSS-GbでGigabit対応となり、6つのリアルタイムコアを持つ、2ポート対応のサブシステムが2つ、AM263xはPRU-ICSS-Mで10/100Mまでの対応となり、2つのコアを持つ、2ポート対応のサブシステムが1つとなっている。
現在EtherNet/IPアダプタ、EtherCATスレーブ、PROFINETデバイス、IO Linkマスタをサポートしており、今後PROFINET over TSN、CC-Link IE TSNの追加サポートを予定している。さらに、サードパーティからも各種プロトコルのサポートがある。サブシステムはRISCプロセッサなので、新たなプロトコルをサポートする場合でもハードウェアの再設計を行なわずに対応する。
TIのライセンスはデバイス価格以外のライセンス費用が掛からずサポート窓口が一本化されるメリットがあり、サードパーティの場合はTIが持っていないMECHATROLINK-IIIなどのプロトコルもサポートしており、日本語ドキュメントの用意もあるのでそれぞれのメリットを生かして選択するといいだろう。
TSNソリューションについて
前述した、今後の産業用利用が期待されているTSN(Time Sensitive Networking) に関して掘り下げていきたい。従来のEthernetを拡張して時間の同期性が保証されており、リアルタイム性を担保できるネットワーク規格だが、TSNは規格群の総称なため構成する仕様が多くある。
世界中の顧客からヒアリングした結果、802.1AS, 802.1Qbu, 802.1Qbvをサポートすれば多く顧客のご要望に応えられると考え、CPSWではこれらをサポートしたハードウェアを提供している。 TIのSitara AM64xは市場で初めてGb TSNに対応しており、そこからCortex-A53のないSitara MCU+ AM243xも同様にGb TSNに対応している。
最近半導体不足の話題が多く、あちこちで「必要なLSIが手に入らない」という報道があるが、Sitaraシリーズはどうだろうか。Sitara MCU+発表後に多くの引き合いがあり、一時的に評価キットやサンプルの在庫がなくなったことはあるが、現在サンプル供給中の製品に関しては供給不足でお客様にご迷惑をかけるような事態には至ってないとのこと。 TIは自社FABや外部FABを使用したマルチサイトFAB戦略を取っており、高い供給能力と有事に対応できる体制、そして製造への長期戦略的投資を行っており、長期的な安定供給を行っているという。
日本TIのサプライヤを経由する手段もあるが、TI.comではオンラインストアが用意されており、アカウント登録をすればすぐにパーツ一点からでも注文できるようになっている。また在庫切れの場合でもメールアドレスを登録しておくことで、製品が入手可能になった時点でメール通知を受け取れる。この機会にぜひ活用してみてほしい。
[PR]提供:日本テキサス・インスツルメンツ