自治体における働き方改革、およびDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、コロナ禍を含む社会情勢の変化から対応が急務となっている。しかし、これを実行へと移せている自治体というのは、残念ながら多くはないのが現実である。そうしたなか、最先端のICT基盤の刷新という大胆な取り組みにより、市職員の働き方改革を遂行し、DXの実現へと邁進しているのが埼玉県北本市だ。同市のプロジェクトに携わる担当者と、取り組みに伴走した内田洋行に、これまでの取り組みと成果、その推進力について語っていただいた。
変遷するシステム課題の解消を目指して
埼玉県のほぼ中央に位置する北本市は、“緑にかこまれた健康な文化都市”を標ぼうし、都心へのアクセスの良さと豊かな自然とを併せ持つ“暮らしやすさ”を打ち出している。近年では、市制施行50周年を機に行われたプロモーション活動が、2021(令和3)年度の全国広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞したほか、ふるさと納税の納税額が県内第1位になるなど、各方面での注目が集まる自治体でもある。
同市では、国からの自治体情報セキュリティ強化の要請を受け、2017(平成29)年度にいわゆる三層分離(※1)を「αモデル(※2)」により実施。併せてインターネット接続系の仮想化や、埼玉県が構築した県セキュリティクラウドとの接続による安全なインターネット回線の敷設など、情報システムの強靭化を積極的に行ってきた。
しかし、強靭化から5年、システムを運用していく中でさまざまな課題が生じてきたと、IT関連の企画・導入・運用・サポートを担う行政経営課 情報政策担当の神山 涼 氏は語る。
「強靭化を経て、いくつかの課題が顕在化してきました。例えば、三層のセグメント間におけるファイル転送に手間が掛かってしまう、外部との大容量ファイルの受け渡し方法を確立する必要がある、保育所・学校といった出先機関のネットワークがひっ迫し、帯域が限界にきているなどです」(神山氏)
これらに加え、コロナ禍に端を発した新しい働き方やDXを模索する中にも、対応を必要とする課題が生じてきたと神山氏は話す。
「市役所内でコロナ感染防止のために、分散勤務を行う際、従来は会議室等に分散勤務職員分のLANケーブルやハブを設置しなければならず、三密回避や業務効率化の観点から無線化は急務といえる状況でした。また、コロナ禍でWeb会議が増えてきたことでインターネット系の帯域に負荷が掛かっていたことも課題でした」(神山氏)
そのほかにも、自宅にPCを所有していない職員のテレワーク対応、LGWAN系でMicrosoft 365を運用するための準備、一般職員がPCを使いこなすためのITリテラシー向上、市民が庁舎内で利用できる公衆無線LANネットワークの構築など、強靭化からコロナ対策へとつづく社会課題の移り変わりとともに、システム上の課題も変遷していったという。
内田洋行とのタッグで挑んだICT基盤の刷新
同市では、強靭化したシステムが更新を迎える2021(令和3)年の運用開始を目指し、情報系(LGWAN系・インターネット系)ネットワークの大胆な再構築プロジェクトを始動した。この取り組みは内田洋行グループがプロジェクト全体の推進をサポートする伴走役となり、強靭化により構築したシステムのリプレイス、αモデルの三層分離とクラウド活用の両立、コロナ対策にもつながる働く環境の改善まで、広範にわたり同市のICT基盤を見直すものであった。
まず強靭化によって生じた課題に対し、ファイル転送問題については、データ交換システムを再構築し、三層をしっかり分離して高いセキュリティを維持しながらネットワーク上での受け渡しを実現した。次に、頻繁にやり取りが発生する外部との大容量ファイル受け渡しにはクラウドストレージを導入し、メール添付時は無害化ソリューションを併用するかたちをとった。安全性及び人事異動時の処理効率化を図るため、クラウドストレージ・インターネット系サーバー・Microsoft Azureを連携し、管理・認証の一元化で対応することとした。
また、LGWAN系・インターネット系の庁内ネットワークは無線化を行い、会議室・窓口など自席以外でも業務用端末を使って柔軟に働ける環境を整備した。庁舎内の40カ所にLGWAN系とインターネット系を分離しながら共用できるアクセスポイントを設置したほか、出先機関ネットワークに関してはIPv6方式を採用し、通信の高速安定化を実現。このほか、LGWAN系・インターネット系サーバーの完全仮想化でメンテナンスの省力化と業務の継続性を確保している。
加えて、LGWAN系とインターネット系、それぞれでローカルブレイクアウトを行い、インターネット系端末から庁内ネットワーク帯域を圧迫せずWeb会議をスムーズに行えるようにしただけでなく、LGWAN系端末からの直接接続によるMicrosoftのライセンス認証も可能にしている点も着目すべき点といえる。
働き方においては庁内外でWeb会議を実施する職員や、自宅PCを持たない職員のテレワーク用として、貸し出し端末を用意。持ち運びやすさと拡張性に加えて操作性を重視し、令和2年は第10世代Intel Core i5を搭載した「Microsoft Surface Pro 7」を30台導入し、令和3年は第11世代Intel Core i5「Microsoft Surface Pro 7+」を20台導入、テレワークやBCPの危機対応に備えた。さらには公衆無線LANの導入で窓口等での市民の待ち時間対応や利便性向上を図り、職員のITリテラシー向上のためMicrosoft Office研修も実施するなど、IT人材育成に向けても2021年度以降、実に多彩な取り組みを展開してきた。
北本市はなぜ、これほど大規模なICT基盤の刷新をスムーズに行えたのか。神山氏が語る。
「予算面では、全部長級が集まるDX推進委員会で情報系ネットワーク再構築の必要性を説明し、上層部の承認をいただきました。加えて、いわゆるコロナ交付金(新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金)を活かし、市から出す費用を大幅削減できたことも大きな理由です」(神山氏)
また、プロジェクトの伴走役に内田洋行を選定した理由については「当市で作成した仕様書を提示したところ、様々な面から適切な提案を出してくれた会社は内田洋行しかありませんでした。内田洋行は前回の情報システム強靭化の構築・運用にも携わっていたので当市のネットワークに詳しく、北本市の課題をしっかりと理解したうえで、今後の運用支援まで視野に入れた有意義な提案をいただきました」と神山氏は納得のわけを話してくれた。
対して、内田洋行 システムズエンジニアリング事業部の永山 達也 氏は、今回のプロジェクトで発揮した内田洋行の強みを次のように説明する。
「北本市様が実施した今回のプロジェクト範囲は、とにかく規模が大きく、ローカルブレイクアウトやクラウド連携など自治体として最先端な取り組みが多くあります。かつ、ネットワーク基盤の構築もあり、テレワーク環境の新規開拓もあり、ITリテラシー研修もあり……、と職員の方たちの働き方を変革する幅の広いプロジェクトです。技術力はもちろんですが、当社が持つグループリソースがあってこそ実現できた提案だと思います。従来から自治体・公共事業で多くの案件を手掛け、自治体の業務やネットワークにもともと深い理解があったこともプラスに機能しました」(永山氏)
得られた成果を足掛かりに、より多様な働き方を模索する
刷新したICT基盤が本格稼働して半年ほど、すでに多くの効果が表れている。三層間のファイル交換は自席で行うことができるようになり業務の効率化を生んだ。大容量ファイルのやり取りもDVDやUSBメモリでわざわざ接触して手渡しすることがなくなり、こちらも職員の作業時間や移動時間が大きく削減された。こうした成果は働き方改革というに相応しい改善であり、神山氏も手ごたえを次のように話す。
「IPv6の採用で出先との通信が高速安定化し、業務効率が上がったのはもちろん、従来のLGWAN系に加えてインターネット系でも通信できる仕組みを作ったことで、保育所や区画整理事務所でインターネットを活用できるようになりました。保育所や学校の先生たちのWeb会議やリモート研修などさらなる活用も見込めます。また端末自体のリモート管理が実現し、わざわざ出先に出向いてメンテナンスをする手間がなく、迅速にサポートできるようになったのも大きいですね」(神山氏)
庁内における情報系ネットワークの無線化では、業務やWeb会議に場所を問わなくなり、多彩なワークスタイルに対応したことでペーパーレス化も進んでいるという。「どこでも“つながる仕事”ができますし、資料を印刷する必要もありません。職員からの評判も良く、メリットしかありません」と神山氏は手ごたえを口にする。
市民向け公衆無線LANは、運用開始した2022年1月からの約半年で想定を上回る約2600回の利用があったとのこと。この公衆無線LANは来庁者の利便性向上だけでなく、災害時の緊急ネットワークとしての活用も考えている。
ローカルブレイクアウトの採用においては、LGWAN系端末におけるライセンス認証・設定作業に大きく寄与することになった。従来は一時的にインターネット接続する必要があり、手間はもちろん作業時間も1台につき5分、合計で数百時間かかっていたというが、ローカルブレイクアウト実装後は全台を約5分で完了できるようになった。またインターネット系では、Web会議をローカルブレイクアウトすることでスムーズな会議進行が実現された。
そして、大きな成果がITリテラシー向上による人材育成だ。Microsoft Office研修を初級者・中級者に分けて実施。スキルアップがなされたのはもちろん、わからないことがあっても自分たちで解決しようという意識、ITで業務を効率化できるというDXへの理解が芽生えたと神山氏。「参加者からは来年度も開催してほしいという熱い声がほとんどでした」という。
実はこの研修、以前はExcelの行挿入など初歩的な操作もわからない職員がいた……、という声から内田洋行の発案で、内田洋行グループのウチダ人材開発センタによる研修で行われたものだ。永山氏は「初級者のITスキルを少しでも底上げする研修を心がけるとともに、中級者のスキルをさらに伸ばす研修も開始しました。また、情報システム部門のセキュリティ強化に向けた体制作りとその浸透の支援として、セキュリティマネジメント講習も実施しました。」と振り返る。
今後については、LGWAN系でのMicrosoft 365運用をローカルブレイクアウトによるライセンス認証で実現していく予定だという。内田洋行のサポートで、2023年1月からの本格運用を視野に入れている。その先には、庁舎内だけでなく自宅や出張先も含め、一層充実したテレワーク環境の構築にチャレンジしたいと神山氏。「今回の刷新は、より多様な働き方実現のきっかけになると思います」と期待を膨らませる。 神山氏と同じ行政経営課 情報政策担当の主幹を務める小林 洋介 氏は、先進的な取り組みにトライする際のヒントとして、次のようなアドバイスをくれた。
「情報担当者が常に情報収集を行い、気になるものを取り入れていくことが大事です。情報に関する仕事は、自分自身でやってみなければなかなか理解できません。失敗もありますが、情報担当は失敗から学ぶことも多いので、恐れずに挑戦していくことが必要だと思います」(小林氏)
内田洋行の永山氏も「当社としても、多様な課題を抱えながら働き方改革、DX推進に壁を感じている自治体の皆さまに対し、高い技術と豊富なグループリソース、北本市様をはじめとする多くの自治体で培った構築・運用のノウハウを以て、取り組みを支援していきます」と意気込みを語ってくれた。
最後に、神山氏から取り組みを推進するうえで自身が心掛けていることを教えていただいた。
「日頃から庁内をくまなく歩いて職員からニーズを引き出し、既存システムを最大限に活用・応用した解決方法を考えその場で実践してみせる『庁内システム営業行為』や、必要に応じて新規システム導入による改善提案等を実施しています。自分の知識で解決できないときは、新たなソリューションを探すことも続けています。ニーズとアイデアの収集、これを怠らないことが大切です。アイデアを発現させるための最適な努力を続けていけば、ひとつの取り組みが多彩に広がり、それが働き方改革やDXへとつながっていくと信じています」(神山氏)
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(※1)住民の個人情報を扱うマイナンバー利用事務系、自治体業務に利用するLGWAN(総合行政ネットワーク)系、外部へのアクセスを行うインターネット接続系の3つにネットワークを分離し、自治体におけるセキュリティ強化を図る仕組み。
(※2)総務省が提示した従来の三層分離を強化したモデル。
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