総合住宅設備機器商社のナカガワは、2021年10月、創業100周年を記念して新事業拠点「ナカガワセンチュリ記念館」をオープンした。記念館は最新のITを活用した設備を整え、自然環境との調和にも配慮。快適な働き方をサポートする多彩な要素が随所にちりばめられているほか、社員間・取引先・近隣住民とのコミュニケーションを促進する空間も有した複合施設となっている。この記念館でナカガワはどのような価値を追求し、新たな働き方を実現しようとしているのか。代表取締役社長の中川基成氏に話を伺った。
時代に適応し、発展を続けるための多彩な仕掛け
――まずは御社の事業概要をお話しください。
当社はもともと機械工具を販売する「中川機械店」という個人商店からスタートしました。1921(大正10)年のことです。取引相手は大阪の町工場が中心でしたが、その後、地元・奈良県で住宅施工が急速に増え、当社も住宅の水回り設備に関わる部門を作りました。この部門が大きく伸び、現在ではユニットバスや洗面台、キッチン、給湯機器をはじめとした住宅設備機器の販売が売上の約半分を占め、加えて上下水道のパイプやポンプといった配管資材が約4割に達しています。お客様の多くは水道工事店や工務店で、地元密着型のビジネスを展開しています。
――2021年に創業100周年を迎え、次の100年に向けた一歩を踏み出しました。
100周年を節目に何か全く新しいことを始めるのではなく、これまで続けてきた事業をいかにしてこれからの時代に適応させ、次の世代につないでいくかという視点で事業に取り組んでいます。たとえば100周年記念事業として、会社の歴史を私たちがより深く知るとともに、取引先をはじめ社外の方々にもナカガワはこういう会社だと知っていただくため、記念館を2年がかりで設立しました。
仕事に直接関わる部分では、当社のベースとなっているさまざまな業務にITを導入し、新たなアプリケーション開発によりITを活用した提案に力を入れていこうと考え、2021年秋からIT人材を採用して取り組みをスタートしています。そしてその拠点となるのが、今回設立したナカガワセンチュリ記念館です。
――この記念館に込めた社長の思いを教えてください。
まさにいまお話した通り、これまでの100年にわたるナカガワの事業をこれからの時代に適応できるようにしていくことが目指すところです。そのために、ITをもっと積極的に使いつつ、社員だけでなくお客様にとっても学びを深められる場をつくりたいと思っています。この「IT」と「学び」はきわめて大切なキーワードで、私は10年以上も前からその思いを温めてきました。それがたまたま創業100周年のタイミングで本社のすぐそばの土地を入手できることとなり、その思いを建物の形で具現化してくれる建築の先生もいらしたので、記念館設立に動き出したわけです。
――いろいろな巡り合わせが、創業100周年のタイミングで社長の目指すところに集約されてきたのですね。ナカガワセンチュリ記念館は具体的にどのような施設なのか、まずは全体のコンセプトから教えてください。
記念館内は太陽の光と自然の緑、水の流れ、そして働く場所が共存する作りにしています。いわゆる“3密”を避ける開放的で余裕のある空間づくりを意識し、設備も最新技術を駆使して接触を極力減らしました。たとえば入館時は顔認証デバイスを採用し、非接触の衛生的な環境とともに高いセキュリティを実現しています。またエレベーターもボタンに触れることなく、手をかざすだけで操作可能な非接触ボタンを導入しています。照明・空調も個人のデバイスから制御できます。
建物のこうした基本設計は先ほどお話しした建築の先生にお願いしました。いざ実施設計に進もうという段階で新型コロナウイルス感染症が発生したことで若干の手直しは加えましたが、基本部分はここまでお話しした私の思いがそのまま盛り込まれています。
コロナ禍のニーズを先取りしたスマートな環境
――3密回避、非接触などまさにコロナ禍への対応で出てきたキーワードですが、社長は以前から働く場所に必要な要素として意識していたのですね。
私としては、記念館の基本構造はシンプルかつ質素なものでいいと考えていました。実際に、床も壁も実用を過不足なく満たすという視点で選んでいます。ただし、天井を高めにして開放的な空間にする、最新の空調を取り入れ自然な空気の流れを常につくるといった点は重視し、最新技術を取り入れています。
これはコロナ前からの私の思いでして、それがたまたまコロナの時代にクローズアップされ、私の考え方は間違っていなかったと確信しました。こうした取り組みがモデルケースとなり、コロナ後のお客様への提案にも活かせると考えています。
――次世代への事業継承に加え、顧客や社会に対するショーケースとしての意味合いもあると。
はい。企業には社会的責任がありますから、その一環としての投資という意味もやはりあります。
――続いて、施設の具体的な中身をご紹介ください。
mic 研修センター、mic ITセンター、mic Garden Cafeや庭園を設置し、事業部門として企画本部やITチームも入っています。
まず研修センターでは、当社の社員研修はもちろん、お客様向けの研修も積極的に開催しています。当社のお客様は中小企業が多く、自社で研修を行うのは難しいため、私たちが研修やセミナーなどをご提案し、お客様にレベルアップを図っていただくことを目的にしています。大・中の研修室に加え、動画配信機器など最新IT設備を導入したWeb配信室も備えました。各研修室を仕切るパーティションを移動すれば最大200席のホールとしても利用でき、社員や外部の参加者が快適に通信できるWi-Fi(無線LAN)も完備しています。
ITセンターは、100周年の節目として始めたITの開発とお客様への提案に関わる事業を行っていくベースとなる施設で、社員が最大のパフォーマンスを発揮できる環境を整えています。全体をワンルームとしていますが、レイアウトはフレキシブルに変更でき、コミュニケーションとイノベーションが生まれる空間を意識して設計しました。テーブルには地元・奈良県の吉野杉を利用し、やすらぎをもたらしています。
ちなみに、企画本部が入っている部屋もテーブルや木製の棚に吉野杉を用いています。
カフェは社員食堂として利用しますが、それだけでなく取引先や関係者、さらには近隣に住んでいる方にも一緒に食事をとっていただける場として開放しています。これはまさに、さまざまな方とのコミュニケーションを生み、活性化するための場所として意識しました。庭園の緑や水の流れを望みながら、地域の食材を中心とした食事を楽しむことができます。
ITを駆使した快適空間で働き方をアップグレードする
――mic 研修センター、mic ITセンター、mic Garden Cafeというように、各施設の名称に「mic」という言葉が付いていますね。この「mic」が意味するものは何ですか。
これは私の造語でして、motivate(目的に向かってやる気を高める)、inspire(人の心に息吹を吹き込む)、challenge(果敢に行動・挑戦する)の頭文字から取っています。経営者の立場から、社員にこの3つを大切にしてほしいとの思いを込め、名前に付けました。
――記念館には、その社員の働き方改革における効果も期待しているのでしょうか。
私たちの業界はかつて女性が非常に少なかったのですが、現在は大きなウエートを占めています。営業担当は依然として男性が多いものの、その仕事を補佐する営業アシスタントは女性の比率が高まり、男性と女性が概ね1対1で案件に取り組んでいます。記念館に入っている企画本部でも、多くの女性が活躍しています。今後は男女問わず、自分自身の持つ能力を存分に活かせる仕事がさらに増えていくでしょう。
一方、当業界はこれまで残業が多かったので、社員から申請された残業が必要であるかどうかを上司が判断し、過重残業をできるだけ減らす取り組みを進め、実際に減ってきています。有給休暇もなかなか消化されないのが課題でしたが、リフレッシュ休暇という名のもとに休暇をしっかり取れる仕組みづくりを進めています。
こうした取り組みはいずれも以前から実施しているものですが、ナカガワセンチュリ記念館ではここまでお話ししたように、働きやすさやスムーズなコミュニケーションを意識した空間づくりと設備導入を行っています。Wi-Fiも整備し、アクセスポイントを全館に設置して、どこでも快適に利用できるようにしています。今後は、働き方改革はもちろん、業務やコミュニケーションでさらにWi-Fiを活かせる仕組みづくりを進めていきます。
――御社のキャッチフレーズは「より豊かな人間環境を目指して」。まさに記念館は、人間が働き、交流するための豊かな環境がこれでもかというほどに整備されています。今後、この記念館を活かしてどのように発展していきたいと考えていますか。
私はもともと長期計画を立てるのが好きではありません。いまは5年10年どころか1年先もわからない時代ですから、計画を立て、その数字に縛られてしまったら、何もできなくなるでしょう。
とはいえ、方向性は大事です。どのように変化していくかはウォッチが必要ですが、ITが今後ますます使われていくことは間違いありません。同時に、環境問題が深刻化し、自然環境にフォーカスした取り組みの重要性も増していくはずです。事業を発展させるには、この「IT」と「環境」にうまく適応していかなければなりません。ナカガワセンチュリ記念館が、まさにこれからの当社の活動拠点になることを期待しています。
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