建物などの位置・属性情報を有する3D都市モデルを整備し、多彩なユースケースでの活用を推進する国土交通省の「Project PLATEAU(プラトー、以下PLATEAU)」。デジタルツインやSociety5.0の実現につながる重要施策であり、データドリブンかつ官民連携の取り組みによって幅広いソリューションを創出し、まちづくりのDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指す。
2022年5月に開催されたアヴネット株式会社のオンラインイベント「Avnet Tech Days 2022」にも基調講演者として登壇した国土交通省 都市局 都市政策課 課長補佐の内山 裕弥氏に、PLATEAUの現状と可能性について話を聞いた。
――まずはPLATEAUの概要を教えてください。
PLATEAUを推進する都市局は、区画整理や再開発などのハード整備や、都市計画のゾーニング、エリアマネジメント等のソフト対策など、幅広くまちづくりを担うセクションです。近年、デジタル技術を活用してまちづくりを変革し、都市における価値創出・課題解決を図る“まちづくりDX”が、都市政策の一環に位置づけられています。PLATEAUは、その“まちづくりDX”にダイレクトにつながるプロジェクトです。
PLATEAUのプロジェクトは2020年度にスタートし、3つのスコープを掲げています。1つは3D都市モデルの整備とオープンデータ化。まずは全国の都市の3D都市モデルを整備し、データを増やすことに取り組んでいます。3D都市モデルは国だけでなく自治体が作ることもあり、そのためのデータモデル標準化を実施しています。2021年度までに約60都市で3D都市モデルが整備され、2022年度はさらに約60都市が追加される予定です。
2つ目は、3D都市モデルのユースケース開発です。3D都市モデルのデータを実際に活かす活動の推進ですね。データがあっても使われなければ意味がないので、具体的なソリューションを生み出す取り組みを進めています。これも国や各自治体と民間企業との連携で多様なアプリケーションを作り出し、その成果を公開して、課題解決やビジネス化のヒントを示しています。
そして3つ目は、3D都市モデルを活用するムーブメントの惹起です。官民さまざまなプレイヤーを巻き込むため、まずはPLATEAUに関心を持ってもらい、具体的な開発に参加してもらう活動を展開しています。これら3つを実行することで“まちづくりDX”を達成し、持続可能で人間中心・市民参加型、そしてアジャイルな新しいまちづくりを実現していこうというのが、PLATEAUの目指すところです。
――PLATEAUにおいてすべてのベースとなる3D都市モデルですが、3Dマップはこれまでにも多様なサービスが存在しています。PLATEAUならではの独自性・優位性はどこにあるのでしょうか。
実は、PLATEAUの3D都市モデルには「セマンティクス」という唯一無二の特徴があります。セマンティクスは訳すのが難しい英語ですが、ごく簡単にいうなら、地図上のデータが“意味”を持っているということ。一般的な3D地図では3次元の点を取得し、それをつなぎ合わせて建物や地面を再現しています。こうした地図の場合、3Dオブジェクトの情報を保持していないので、地図上の物体が何であるかをコンピュータが理解することができないのです。
その点、PLATEAUのデータは、これはビルであるとか、ここは道路でここは橋、この建物のこの部分は壁でここは屋根といった情報を、3Dオブジェクト自体が持っています。さらには、建物が駅なのか商業施設なのかといった用途、建築年、階数、構造などのデータも含まれています。このため、都市空間に存在する情報をそのままコンピュータが読むことができ、様々な解析に用いることができます。
活かし方は、まさにアイデア次第。行政が地域の課題解決に用いたり、民間企業が新たなサービスを生み出したりと、様々分野で活用することが可能となります。
――自治体での活用の具体的事例を教えてください。
PLATEAUのデータが整備され、ビューアーで閲覧できるだけでも、たとえば災害リスクの庁内検討や住民への説明に活用できるなど多くのメリットがあります。自治体の取り組みでよく知られているのは東京都の事例で、デジタルツインにPLATEAUのデータを活用しています。
ユニークな例として、北海道札幌市はゲームにPLATEAUのデータをインポートし、ゲーム内で札幌市の様子を再現して、子どもたちにまちづくりを体験させるなど地域コミュニティ醸成に活かしています。また猛暑で知られる埼玉県熊谷市では、宅地開発に際し、風の通り道を確保して暑さを避けるシミュレーションをPLATEAUのデータで行っています。このように、自治体では多様な分野で実装が進みつつあります。
――民間企業との連携プロジェクトも数多く進行していますね。こちらについてもいくつかご紹介ください。
大規模施設や街中における人流カウント・可視化、バーチャルな都市空間での体験の提供など本当に多種多様な事例があります。たとえば香川県高松市は、IoTで収集したデータをスマートシティ実現に活かす基盤となるプラットフォームを導入し、河川の水位や護岸の潮位などをリアルタイムに把握する取り組みを実施しているのですが、このプラットフォームにAPIを通じてPLATEAUのデータと連携させ、災害リスクのシミュレーションなどを行う予定です。
神奈川県横浜市では、ローカル5Gの基地局をどこに設置すれば最も効果的か、そのシミュレーションにPLATEAUを活用しています。横浜市は5Gを使ったアプリケーション創出の実証実験を積極的に展開しており、5Gを円滑に使える環境が必須であることから、PLATEAUのデータを基にビルによる反射・減衰などを計算し、最適な配置計画に役立てています。
自動運転に応用する事例もあります。自動運転では自己位置の推定が必須ですが、既存の技術ではコストが高いです。そこで、安価な光学カメラとPLATEAUのデータを組み合わせたVPSという自己位置推定技術を開発し、自動運転に用いることができるか実証をしています。
このように、様々なアイデアとともにPLATEAUのデータは有効活用されています。
――PLATEAUの今後の展望を教えてください。
ユースケースとしてはバラエティにあふれる事例を数多く掘り起こしており、すでに地域や民間企業に実装してもらうフェーズに入りつつあると感じています。この実装をさらに進めていくのが今後のテーマです。都市のカバー率については、全国約1700の市町村のうち今年度で120程度と、数としてはまだ多くありませんが、政令市はほぼすべてカバーし、中規模の都市も増えてきているので、人口のカバー率はかなり上がっているのではないかと考えています。
――エレクトロニクス系企業の事例が紹介されましたが、デバイスメーカーとの連携は現時点でいかがでしょうか。
正直、まだそれほど多くはありません。デバイスを組み合わせたソリューション開発はデバイス開発から始めなければならないケースが多く、単純にハードルが高いのがひとつの理由だと思います。加えて、私たちも地図関連の取り組みからスタートしているため、デバイスメーカーとのコネクションがまだあまりできていないことも理由の一つでしょう。
ですので、今後は「うちにはこういうデバイスがあるのでこういう使い方をしてみたらどうか」といったアイデアを積極的に提案していただければと思います。国土交通省としてもデバイスメーカーの方々にPLATEAUをもっと知っていただき、協業につなげることを期待しています。
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